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幼女、賊討伐する

 ――その日、ぼくは運命と出会った。


 ――目の前にはぷりっぷりの桃。否、あれはもはや仙桃、いや桃と呼ぶのもおこがましい神々の遺産。


 ――その実態はお尻である。それを見たその瞬間、ぼくは言葉を紡いでいた。


「君のお尻に乾杯」


 ぷぅ――


 ――返事はおならだった。だけど、どんな楽器よりも


 パタン――





「何ですかコレ」

「早いわよ、プロローグすら終わってないわ。せめて数ページは読むべきよ」

「いえ、あまりにも予想外だったのでつい」

「でしょうね。これまでにない恋愛物語を書いてみたものだし」


 馬車の旅と言うのは暇なものである。何処ででも見られる風景ならば眺める必要もない。

 じゃあ暇な時間をどうしようかと考えて書いてみたのがこれだ。


「前に私の即席で作った話を妙に褒めてくれたから今回は本気で作ってみた」

「劣化してどうするんですか」

「お姉ちゃん……この、お尻ヒロインのモデルって、誰ですか?」

「マオ」

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」


 何故かマオが号泣した。

 この私が書く物語のヒロインのモデルになったというのに何故泣くのか……なるほど、嬉し泣きか。


「たった一度のおならでここまでネタにされるとは……」

「マオっちって屁こき悪魔なのね」

「ちがいますっ!!」

「まあいいわ。これはキキョウに頼んで我が国で本として販売しましょう」

「やめてくださいっ!?」

「マオさんのそういう反応が面白いからからかわれるのですよ」


 確かに弄りがいがある。ルリやマリアも面白い反応するがやはりマオだな。


「わ、わかりました。もう反応しないですっ」

「じゃあこれ売っていい?」

「ど、どうぞぉ?」

「よし、言質はとったし目指せ売り上げ百冊よ」

「…………あれ?サヨさん?」

「お姉様の御心は私には計り知れませんね」

「裏切ったっ!?」


 いずれはこの物語を世界中に広めてくれよう。お金がっぽがっぽだ。


「お母さん」

「え?ユキも読みたいですって?」

「いやで……いえ、そろそろ賊が現れる地域に入ったようです」

「いま嫌って言ったでしょ」


 読まず嫌いとは許しがたし。

 まぁいい、賊がそろそろ出るって事だし失言は聞かなかった事にしてやろう。


「主殿、外に燃やされた馬車と思しき残骸があるのじゃ」

「賊に襲われたやつ?」

「恐らくの」


 馬車の窓から外を見れば確かに焦げて黒くなった木材が見える。車輪っぽいのが見えるし確かに馬車なのだろう。

 そう言えばこの辺りは魔物の数が少ない。その辺も賊が潜みやすい原因か。


「賊が襲いやすい様に堂々と外で休憩しましょうか」

「何と賊に優しい冒険者でしょうか」

「女だらけのパーティとか狙わない手はないでしょうね」






 あえて山の近く、木で視界が悪そうな場所で休憩をとる。

 場所を知らせる為に火を使う料理をしてのろし代わりにするのを忘れない。


「ここまでやって疑いもなく出てきたら笑いますけど」

「誇り高い賊なら必ず来るわ」

「賊を誇ってどうするんですか」


 火を使うといってもバーベキューではなく今日はシチューである。寒い日にはもってこいだ。

 賊が来ないなぁと思ってる内に食べ終わってしまった。

 もう今日は現れないかもしれないと思っていたらサヨが反応した。


「来たようです。数はおよそ20人」

「食事を終えるまで待っててくれるなんて良い賊だこと」


 ガサガサと草を掻き分ける音がした方を見れば如何にも山賊ですって格好をしたゴロツキ共が現れた。

 ただ数が少ない。出てきたのは15人ほど、残りの賊は隠れているのか。


「へっへっへ……死にたくなかったら金目の物を置いていきな」

「よく見たら上玉ばかりじゃねぇか、これは高く売れるぜ」

「売る前にたっぷり可愛がってやるよ」


「へっへっへ……死にたくっ、てめぇらっ!よくも俺達のセリフを奪いやがったなっ!」

「このお約束なセリフは賊にとって大事な誇りなんだぞっ!」

「よくも俺達の誇りを汚しやがったな!!」

「知らん」


 賊の言いそうなセリフを上から順に私、ユキ、サヨで言ってみたが見事に当たっていたようだ。

 セリフを奪われた賊たちはお冠な様子。


「くぅ、何てこった……このセリフでしか出番がないリュケイオンが不憫でならねぇ……!」

「いいんだファルシオンの旦那……」

「賊のくせに名前カッコいいな!」

「勇者みたいです」

「誰が勇者だ垂れ目っ娘っ!あんなもんと一緒にすんなっ!」


 垂れ目っ娘という新しい呼び名をされたマオは若干落ち込んだ。

 賊に襲われてるというのにこの和みよう……


「私、賊とは仲良くやれそう」

「そういう事を言うのはリーダーくらいなもんよ」


 残念だなぁ、依頼を受けてる以上こいつらは皆殺しにしなければならない。

 ふむ、どこかでゴロツキを集めて旅人を襲いながら山暮らしをするのも楽しいかもしれない。


 賊生活を考えていると賊が襲ってくる気配を察したのでやるとしようか。


「さあ、あんたらやっちまえっ」

「おう、おめぇらやっちまえっってまたパクリやがった!?」


 号令はふざけていたが戦闘は真面目に開始された。

 しかし全員その場から動かずある者は遠距離対応の武器、ある者は魔法でそれぞれ迎撃する。

 接近戦しか出来ない哀れな賊達はこちらに攻撃を仕掛ける前に次々と沈んでいった。


 私は当然ながら椅子に座って紅茶を飲みつつ観戦してる。

 訂正、全く真面目に戦闘してなかった。


 隠れていた賊の仲間の仕業だろう矢が数本降ってきたがカンっと軽い音をたてて結界に弾かれる。落ちた矢をちらりと見たが何か先っちょに緑の液体が付いてるっぽいから毒矢かな。


 紅茶を二口飲む間にすでに状況はあちらさんが逃走するという驚きの敗退っぷりを見せているが、ユキの鞭は自在に伸びる鬼畜仕様なので背中を見せた賊はあっさり首チョンパされていた。


 護衛担当なのか私の隣にいるサヨは珍しく魔法で対処しており、属性の分からん謎ビームで賊に風穴を開けていた。やはりビームは良い……


「何の手応えもなく穴が開きますね。当たっても痣が出来る程度のダメージで済ませるユキが如何に変態ボディであるか良く分かります」

「あの娘そんな防御力あったのか」

「私を変態とか言う暇があるのなら戦ってくださいませ」

「3人は殺したのでノルマは達成してます」


 ノルマ制だったようだ。この場にいないマリアは隠れていた賊を始末しているのだろう。

 この瞬殺という仕事の早さは褒めてもいいが、例によってダメなのが一人。


「この尻っ娘、賊なんぞ情けをかけずにさっさと殺しなさいな」

「いたっ!?……で、でもでも」

「まあまあ、丁度いいのでこのワイヤーで縛られてる情けない賊達にアジトの場所を聞きましょうか」


 それもそうだ。賊の宝なんぞ大したもんはないと思うが他に仲間が居る可能性はある。


「とっとと聞いてちょうだい」

「了解です」

「くっ……殺せっ!」

「はい」


 捕まってる賊の3人の内の1人がそう言うとユキがあっさりと鞭を振り下ろしゴロリと賊の頭が地に落ちた。

 下手な事は言わない方がいいという教訓である。


「ドラッツェンっ!?……この、殺せと言われたら殺さないのが賊に対しての礼儀ってもんだろっ!」

「知らん」

「ぬぐぐぐぐっ……てめぇ、このままでは済まさんぞっ……」

「こいつ喋りそうにないから殺していいわよ」


 このまま生かしておいても罵倒しか口にしそうにない賊は今度はサヨの手によって胸に風穴を開けられて黙った。

 残りは一人になった訳だが、ちらっと見てやると


「くっ……生かせっ!」

「いいでしょう……ってなるかっ。生きたければ情報を吐きなさいな、気が変わるかもしれないわ」

「けっ、誰が言うか」

「宜しい。物語に出てくる賊は何故かアジトの場所は中々吐かないからね、理想通りで結構」

「どうせ吐いた所で殺すつもりだろうが」

「ええ、まぁどうせマリアがワザと逃がした賊を追ってアジトを見つけるだろうし黙っててもいいけど」

「……おい、一つだけ頼みが」

「殺していいわ」


 何か言いかけたがユキの手によって二度と口を利けない生首にされた。

 どうせ他の仲間は見逃せ的な頼みだろうから聞く必要はない。依頼の通り賊は皆殺しだ。


「マリアが帰ってきたら殲滅に行きましょう」

「では死体を片付けますか、首だけあれば証明になるでしょう」

「て事はギルドは賊の顔を把握してるわけだ」

「事前に調べてるんでしょうね」


 ならいいか。

 にしても楽な依頼だこと、賊を殲滅するだけで500万ポッケだ。冒険者様々だわ。普通の冒険者からすれば数十人の賊が脅威なんだろうけど。



☆☆☆☆☆☆



 尾行から戻ってきたマリアがアジトを見つけたらから攻め入ろうとやや興奮ぎみに言ってきた。

 山の中腹にある洞窟がそうらしい。恐らく魔物が掘った洞窟を乗っ取ってそのまま使っているのだろう。

 しかし魔物がいる山に堂々とアジトを構えるとは何とも自信のある事で。


 のんびりと向かおうと思ったが逃げられるといけないので場所を知ってるマリアに転移もどきで連れていってもらった。

 で、そのアジトの入り口に居るわけだが。


「賊相手ですしちゃっちゃと真正面から行きましょう」

「えー、ここはチート主人公みたいにまず内部の戦力を把握する場面でしょー?」

「私達はチート主人公のくせに様子見るほど臆病じゃないので」

「ほら、実は捕まってる村娘とかいるかも?」

「捕まってるなら殺す気がないんでしょうし問題ありません。人質にされても転移で後ろを取って殺せば解決です」

「このパーティにはセオリーって言葉が辞書にないのね」


 ブーたれてるマリアは放っておいてユキとサヨを先頭に洞窟内に侵入した。

 ユキが先頭という事で今の抱っこ係りはマオである。どうせ人殺し出来ずに役立たずと化すだろうって事で決まった。


 洞窟は一本道で罠もなくサクサクと進める。サヨが生体反応があると言ってるので賊が潜んでいるのは間違いない。

 数は5人、逃した賊以外にも残っていた奴が居たようだ。

 曲がり角を曲がった所で漸く反応があった。


「ファイアーストームっ!」


 目に飛び込んできたのは迫ってくる炎、賊のくせに魔法使いがいたのか。声からして何と女。よくまぁむさ苦しい連中の中に居れたもんだ。

 道にあった燃えた馬車の残骸はコイツの仕業かもしれない。

 放たれた魔法だがこちらには優秀な結界があるので当然無傷で気にせずそのまま進む。


「おっっらああぁぁぁっっ!」

「邪魔です」


 魔法使いの魔法が無効化されるや否や、こちらに向かって賊にしては装備のよい男が二人襲ってきたがユキの一振りによって胴体を切断される。

 狭い洞窟だというのに何の問題もなく鞭を振れるとは優秀な娘だこと。


 これで残るは3人、真ん中にいる女が例の魔法使いだろう。


「魔法を使えるという事は元は貴族でしょうか、賊に身を落とすとは嘆かわしいですね」

「……こっちにも事情があるのです。貴女方に勝てないのは分かりました……見逃しては頂けないでしょうか?」

「やだ。死ね」

「ま、まぁまぁお姉ちゃんっ、ここは一つ話を聞いてからっ」


 フィーリア一家のお人好しであるマオから待ったがかかった。

 身の上話を聞いても長そうだからすこぶる面倒くさい。


 話はこうだ。

 女はフィフス王国の元侯爵令嬢でコイツの実家を良く思ってなかった他の貴族に嵌められて没落したと。

 領地を奪われ両親も処刑されたがコイツだけは両親の指示で私兵に助けられて逃げ出したという。

 追っ手から逃れる為にこうして山に潜伏して今に至ると。あの賊達は元冒険者だったが素行の悪さで資格を剥奪されたのを雇ったそうだ。

 ガラは悪かったがこの女には意外と忠誠を誓っていたと思う。


「私は両親の無念を晴らす為に力を蓄え、いずれ両親を嵌めたあの下衆な貴族に反旗を翻します。ですのでここで死ぬ訳にはいかないのです」

「くく、どうよマリア、貴女が好きそうな話じゃない?」

「そうだねー、悪人に嵌められて没落した貴族の令嬢が仲間を集めながら領地を取り戻す物語ねー」

「ご理解頂けてなによりです。もし……良ければ手を貸して頂けると助かるのですが」


 言われるとは思っていたが私達に手を貸せとは面白い事を言う。

 魔法で殺そうとしといてその態度はどうなんだ。


「あのねぇ、あんましウチのリーダーを怒らせないでくれる?キレると怖いのよリーダーって」

「え……私、何か不快な事を言いましたか?」

「あなた前に商人の馬車を襲ったでしょう」

「……はい。あの貴族が王族に献上する荷物を運んでいるという情報を得たので」

「その荷物を運んでいた商人がお前達の討伐を依頼した人物よ」


 まるで何故と言ってるかの様に驚いた顔をしている。

 馬鹿じゃなかろうか、復讐にばかり気をとられて周りの事など考えちゃいない。


「その人物は小さいながらも一代で商会を築きあげた中々の手腕の持ち主みたい。並々ならぬ努力で信頼を勝ち取り、王族への献上品の仕入れと運搬を任されるという商会の命運を賭けた大仕事を任されたのだけど、賊の襲撃で献上品は奪われ取引相手だった貴族に謂れの無い罪を着せられ信頼を失い全ては水の泡となったそうよ」

「……それは」

「商人は代償金を支払えず全てを取り上げられた。家を奪われ妻と娘は奴隷落ち、信頼を失った商会は二代続く事なく潰えた」

「それでも依頼人は頑張ってねー、何とか妻か娘どちらかを買い戻せるお金を貯めたんだよ。正確には依頼人を助ける為に援助してくれた人達のお陰でもあるけど」


 ご令嬢さんも漸くお似合いの表情になってきた。やっと自分が何をしたか分かった様だ。


「だけど家族はすでに買われた後だったのよ。全てを失くした商人が願ったのは手元に残った500万の報酬で賊を一人残らず討伐って事ね」

「それが、私達ですか」

「そういう事。何の力も無いくせに自分の手で復讐しようと思う馬鹿な令嬢と違って依頼人は確実に殺してくれるまで冒険者を送り込める方法を選らんだの」


 貴族というのは現実を見れない頭の悪い奴が多いのだろうか?

 よりにもよって賊に身を落とすとか両親の想いを踏みにじりすぎだ。どこか他国にでも亡命すれば良かったものを。


「そういえば私達を襲ってきた賊共はちゃんと死を覚悟してたわね。軽口叩きながら殺されていったわよ」

「それに比べて貴女は命乞いですか……」

「真面目な顔して今まで貴女の元で働いてくれてた仲間を殺した私達に手を貸せとか言った時は唖然としましたね。お姉様じゃなくても呆れますよ」

「貴女にとっては仲間じゃなくて手駒だったのですね」

「ち、ちがっ」


 顔色が悪くなり震え声になってきた。自分の馬鹿さ加減に気付いたのか良い表情になっている。


「元はといえば下衆な貴族のせいでしょうけど、これは自分から賊になる道を選んだお前の浅はかさが招いた事態よ。死んだ両親と仲間達に詫びながら死になさい」

「……っ!」


 ヒュッと鞭が振るわれると側にいた仲間諸共首を刎ねられた。

 ゴトリと首から上が地に落ちると続けて身体がドサっと倒れる。

 つまらなそうな顔でマリアが令嬢の首を拾って持ってきてくれた。身体は不要なのでサヨが燃やして処理する。


「ふむ、絶望と後悔が浮かんでるって表情ね。これなら依頼人も喜ぶでしょう」

「あーあ、途中までちゃんとした賊討伐だったのに」

「いいじゃない。世の中には自分から20万ちょっとの価値しかない命に成り下がる馬鹿な貴族が居るって事が分かったし」

「確かに一人頭それくらいになります。奴隷の方がマシですね」

「どうですかマオさん、こいつ等は生かす価値がありましたか?」

「わ、わかんないです……」

「彼女だって悪い訳ではありません。が、生かしておけば今後争いが起こり更に無駄に命が散る事になったでしょうから殺して正解です。ああいう中途半端に人望がある奴が厄介なんですよ」


 まあ終わった事はもういい。後はここにお宝が無いか調べよう。

 奥にまだ通路が続いているし隠してあるならそこな筈。



★★★★★★★★★★



 ワンス王国のある宿屋に居る依頼人の元に戻ってきたので報告する。また馬車で戻るのも何なので転移で戻ってきた。

 賊討伐はギルドでの確認だけでいいので本来なら依頼人に報告は不要だが今回は特別にわざわざ戻ってきた。


「終わったわよ。一応首を持ってきてるけど見る?」

「……いや、結構だよ。お疲れ様、そしてありがとう」


 何だ見ないのか、折角良い表情で死んでくれたのに。


 報告はしたのでもう用はないけどお土産があったのでユキに亜空間から出してもらう。

 テーブルの上に出てきたのは一目見て高額なモノと判断出来る大きなルビーがはめられたネックレスだったりこれまた大きなダイヤの指輪だったり、合計で5点ある献上品らしき宝石類だ。


「これ、は……」

「賊のアジトにあったの。あなたのでしょう?」

「……今となっては僕には不要なモノだよ。そうだね、御礼として」

「私達の報酬は500万だけ。そんなの要らん」

「……」

「一代で商会を築き上げた商人ならそれを元にもう一度商会を立ち上げたら?それにあなたぐらいの商人なら情報収集能力も高そうだし買われた家族を探して買い戻すくらい出来るでしょうし」


 痩せこけた商人の目に力が戻った様に見える。

 年だってまだ30代後半くらいだろうし再起可能だろう。こういう奴等は復讐が終わると虚しくなって死にそうになるから困る。


「そうだね、また一からやればいい」

「そうそう。まあ頑張って」

「本当にありがとう、また家族が揃ったら……必ず君達の国に恩を返しに行くから」

「流石は敏腕商人、私達の事も分かってるのね。期待して待ってるわ」


 頭を下げたままの商人に見送られて部屋を後にする。

 今の商人、名前はオーランドだっけか。

 あの様子じゃ家族が揃えば一家揃ってウチに来てくれるかもしれない。優秀な一家が手に入ればキキョウも喜ぶ事だろう。


「では今度こそ真っ直ぐにフィフス王国に向かいましょう」

「そうね」

「いやー、有能そうな商人を立ち直らせるとか良い事したねー」

「そうですね。結果的にウチにも益が有りそうですし」

「わたしは罪悪感でいっぱいです……」

「気にしないでいいわよ。どうせあの貴族は放っておいても死んでただろうし」


 依頼を受けたのがたまたま私達だった。ただそれだけだ。

 普通の冒険者だったら洞窟内で魔法を打たれて死んでただろうし余計な被害を出さなかっただけマシだ。


 しかし今回の件で改めて貴族連中には関わりたくないと思った。

 あんな馬鹿みたいなのを相手にする事になりそうなキキョウは大変だろうなぁ……今度帰ったら労ってやる事にしよう。

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