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幼女と星堕とし

 神殿の広間に緊張が走る――


 ただの飾りだった剣は世界を危機に及ぼす存在を解き放った――らしい。


 封印されていた者は案外あっさりと出てきた。

 ただ出て来いと言ったらしばらくして出てきた。


 何故か皆はソイツが出てきた瞬間即座に離れて警戒している。見渡して見てみるが皆して顔に冷や汗を隠しきれていないほど動揺している。


 私も動揺している。






「ほらっ!出てきてやったらこれなのですっ!」


 ソイツは何故か四つん這いになってお怒りのご様子。

 神官、ではなくシスターが着ている修道服を着た変な女が吠えている。ベールは被ってない様だが。

 性別は不明だが修道服を着てるし髪が長いから女と思う。茶色の髪をポニーテールにして纏めている。見た感じ二十代だけど封印されていたし中身はババアだろう。


「ふしゃーっ!ふしゃーっです!」


 獣かお前は。

 ババアのくせに中身が幼い、まさにマリア。キャラが被ってしまっているじゃないか。


「あちらさんはやる気満々ですね……やるしかありません」

「え?」


 あれやる気になってんの?

 どちらかと言えば怯えて威嚇してる様に見えるが……てかいい加減四つん這いをやめろ。


 好戦的な人外達も戦いたがる気配はない。そもそもコイツは何者なんだろうか。そこまで恐ろしい奴なのか……あの剣から放たれていた力を考えるとそりゃ恐ろしい力を持っているのは分かるのだが。


「あなた何て名前なの?」

「我ですか?我は正確な名前はないのですがホシオトシって呼ばれてるのです」


 ホシオトシ。何かカッコいい。

 くっくっく、我こそはホシオトシと呼ばれたペド・フィーリアよ……途端にカッコ悪くなったわ。


「星堕とし――災厄の象徴とも言える存在です。まさかあの剣に封印されていたとは」

「こんなのが災厄の象徴なのか」

「こんな言うなですっ!」

「お姉様、流石に相手が相手なのであまり煽らない方が懸命です」


 何だろう……この私と皆で噛み合ってない感は。

 この四つん這いのシスターっぽい女の何処が恐ろしいのだ。逆に笑う所じゃないのか?


 ただまぁ、戦う為に剣から出てきてもらった訳じゃないしここは私が説得するとしよう。他の奴じゃ無理そうだし。




★★★★★★★★★★




 上手く魔力変換出来ないと言う事で神殿の広間に飾られ、この国の象徴として飾られていた剣の元までやってきました。

 盗品を堂々と国の象徴にしていいのかと思いますがバレなきゃいいでしょう。


 中の者を出そうにもどうやって出そうかと悩んでいるとお姉様はただ一言「出て来い」と仰いました。


 直後に襲ってくる重苦しい気配。

 絶対的存在を思わせる強い力。


 誰もが一瞬で相手の力量を悟りその場から離れます。

 しばらくすると剣から黒い霧状の靄が現れました。それは徐々に獣の様な姿に形を変え、こちらを悠然と見据えています。


 まず考えたのはどうやってこの場から逃げるか――


 あれは戦って倒せる相手ではありません。いやお姉様ならやれそうですがかなり無理を強いる事になるので却下です。


「呼び声に応えてやったというのにこれか……塵芥共はこれだからつまらぬ」


 低く思わずゾッとしてしまう声……


 そして直後に雄叫びをあげられ私達は身を竦ませます。

 ドラゴンの雄叫びとはワケが違う、こいつの叫びは恐怖を植え付けてきます。


「あちらさんはやる気満々ですね……やるしかありません」

「え?」


 愚妹もあいつが如何にヤバイ奴か分かっているのにやる気みたいです。

 ここは私達の国、やらなきゃ滅ぼされますからね……ただ戦うだけでもかなりの被害が出ると思いますし、下手すれば全滅も有り得ます。


 どうやってあいつを倒す、いや倒せないなら再び封印?

 無理ですね、簡単に封印を破って出てきたのだからそれは無意味。


「…………我に明確な名前などない。ただ星堕とし、と我は称されておるみたいだな?」


 考えていたらお姉様とアイツ――星堕としが会話してました。


 星堕とし、その名の通り星一つをあっさり堕とす、いや破壊する災厄の象徴。

 確たる証拠はありませんが、目の前の存在から判断するに本当なのでしょう。こいつはこの世界を破壊出来る力を持っている。


「星堕とし――災厄の象徴とも言える存在です。まさかあの剣に封印されていたとは」

「こんなのが災厄の象徴なのか」

「我を前にしてその言い様、不遜な小娘であるな」

「お姉様、流石に相手が相手なのであまり煽らない方が懸命です」


 そうお姉様に注意すると何言ってんだコイツって顔を向けられました。

 目の前の脅威が分かっておられないのでしょうか?

 いや、あのお姉様がこんなヤバイ存在の事をお分かりにならない筈がありません。


「……こいつと交渉出来るのは私だけみたいだから任せなさい」


 私達の様子を見、一言告げて愚妹の腕から飛び下り私達が警戒して近付けなかった間合いにお姉様はあっさりと歩いていかれました。



★★★★★★★★★★



 見れば見るほど笑える奴である。

 私が近づくにつれてふしゃーふしゃーと更に威嚇してくる。


「お前、我が怖くないのですか?」

「怖がる要素がどこにあるの?」

「おかしいのです。我を見た奴はみんな怯える筈なのです。お前の仲間はちゃんと怯えてるのです」


 そうなのだが……剣に封じられていた時の重苦しい空気も無くなったし、四つん這いだし。この姿を見てどう怖がれと言うのだろうか、四つん這いだし。


「とりあえず四つん這いを卒業したら?」

「四つん這いですか?」

「そう。まるでワンコみたいじゃない」

「…………お前、我の姿がどう見えてるのですか?」


 四つん這いの女だ。

 修道服を着た四つん這いの女だ。もうそれしか言い様がないのでそう伝えてみた。


「我が人間に見える……有り得ないのですっ!」

「だって見えてるし。てか他の奴には違う姿に見えるの?」

「……我に決まった姿はないのです。我は災厄の象徴、生ける者全てに恐怖を与える存在。我を見る者を恐怖に陥れる姿を取る、筈なのです」

「じゃあ私は四つん這いの女が怖いのね。よく考えてみれば夜中に四つん這いの女が這いずって来たら怖いわ」

「我はお化けじゃないのですっ!」


 見る者によって姿を変えるとか面白いな。他の皆にはどう見えているのだろう?

 やっぱりドラゴンみたいな奴かな、でもドラゴンがふしゃーふしゃー言ってるとか和む。


「女に見えるけど性別も違って見えるの?」

「そうなのです。我に性別なんてないのですが、我が女に見えるですか?お前は同性愛者ですか」

「おっぱいは好き」

「断言したです。いっそ清々しいのです!」


 四つん這いで服がダボってるから分からないが、服の下には見事なおっぱいが隠れているかもしれない。願望通りならだけど。

 願望と言えばコイツの顔、くりくりした目のロリ顔。これ私好みなんだろうか?

 確かに可愛いと言えば可愛いが……あ、分かった。いじめた時に私好みになりそうな顔だ。


「おっぱいはどうでもいいのです。そんな事より重要なのはお前には我が同じ人に見えているという事なのです」

「私が凄い奴って事か」

「……残念ながらそうなのです。人間のくせに我と同じ立場にいるのです」

「四つん這いじゃないから私のが上ね」

「調子に乗るなですっ」


 ぷりぷり怒りながらとてとてと四つん這いのままハイハイで近付いて来る。外野がザワッとする気配がしたが手で制した。

 何を確認してるのか、すんすんと犬の様に私の匂いを嗅ぐホシオトシ……これはワンコだわ。


「む、お前自身はカスですが持ってる力が我に匹敵……それ以上、です?」

「カス言うな」

「これで分かったのです。お前は我と同じで星を破壊できる力を持っている。だから我と同じ立場で居られるのです。人間のくせにホシオトシとは何者ですか」

「同じと言う割にはあんた私に滅法低姿勢よね」

「馬鹿言うなです」

「語尾にですです言ってるじゃない。そして四つん這い」


 うんうん唸って何やら考え込んでいるが、再び私に近付きすんすん匂いを嗅ぐとそこでハッとした表情になった。その目は驚愕してますと言わんばかりだ。


「……お前、今まで何か創造したです?」

「うーん、奇跡人なら生み出した。他にも何か創ったような?」

「奇跡人?……生命体、です?……お、おおお前っ、その気になれば星を創る事も出来る、のですか?」

「んー……何となく出来そう」

「そんな、我、以上なのです……ってただの人間がそんな力持てる訳ないのですっ!?」

「ちゃんと使ったら代償として気絶するわよ」

「安い代償なのですっ!この世界はどんだけお前に甘いのですかっ!?」


 加護をポンとくれるぐらいには甘いわ。

 しかし奇跡ぱわーってのは災厄の象徴すら驚く力だったか。流石何でもぱわーだ。


「今度はこっちから聞くけど、何であんた剣の中に入ってたのよ」

「この世界を破壊出来なくなったのでどうしよう、と思ってたら丁度いい奴が我を封印しに来たので剣に入ってからまた世界が我を呼ぶまで待ってたのです」

「あんたこの世界破壊する気だったの?」

「この世界がそう望んだから我が来たのです。だと言うのにこの世界は結局破壊を望まなかったのです。だったら呼ぶなと言ってやりたいです!!」


 世界が自ら破壊を望むのか……やっぱりやーめたと思った理由は定かではないが心変わりしてくれて助かったと言える。律儀に待ってるコイツもコイツだけど。


「この世界に来てから散々なのです」

「まるで色々な世界を回ってきたみたいね」

「まるでじゃないのです。要望あればひとっとびで破壊するのですっ!」

「でもここでは無理なんでしょ」

「ぐ……」

「どうにも出来ずに暇なら私達に力を貸しなさい」

「嫌なのです。ただの人のくせに図々しいのです」

「でも私の方が上なんでしょ。今やあんたはホシオトシとしては二番目よ」

「ふ、ふざけんなですっ!」


 ちっ、チョロくない奴は面倒で困る。


「破壊するだけの存在とか飽きたでしょ?今度はその力を私達を守る為に使えばいい」

「なに私良い事言ったって顔してますか」

「私達にはあなたが必要なのよニボシ」

「ひ、必……って誰がニボシですかっ!?」

「二番目のホシオトシ、略してニボシ。今日からあなたの名前はニボシよ。我はニボシです、はい言って」

「我はニボシ……ってあ、ああああああぁぁぁぁぁぁっ!!?っお、おまっ、お前っ、我に、名前を……!」


 何かわーわー焦っている。名前を付けるのはダメだったらしい……決してニボシという名前が悪い訳ではない。それに最終的には自分で我はニボシと言ったのだから私は悪くない。


「なんてことするですっ、なんてことするですっ!?」

「どうなったの?」

「お前が我に名前なんか付けるからっ……我はもう、ホシオトシという災厄の象徴ではなくニボシというただの一生命体になったのですよっ!」

「やったぜ」

「喜ぶなですっ!」

「てか名前付けた程度で変化する方が悪い」

「お前が我より格下ならこうならなかったのですっ!この理不尽っ!」


 なら奇跡ぱわーのせいだな、奇跡ぱわーは格が違うから仕方ない。

 使ってないんだけどなっちゃったもんは仕方ない。


「お前ぇ……名前を付けるというのがどれほど影響力を持つのか分かってないのです。我の様に存在自体を改変させられる者だっているのですっ!」

「身をもって知ってるからこの姿なんだけど」

「だったらせめてニボシ以外を付けろですっ!」

「リーダー!その女って誰!?」


 おや、どうやら他の皆にも私が見てるのと同じ姿が見える様になったみたいだ。ニボシになったお陰だなっ


「皆にも四つん這いの女が見えてるみたいね」

「我の存在がお前が思った姿に書き換えられているのです」


 願望通りになるのか……


「ロリ巨乳ロリ巨乳ロリ巨乳ロリ巨乳」

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!?やめろですやめろですっ!!?」


 縮んだっ!これぞ生命の神秘っ!

 四つん這いの女から四つん這いの少女へと変貌していく。年は11,2歳くらいか。

 何てこった、成長ではなく退化が見れるのは今だけっ


「ババアババアババア」

「我で遊ぶなですっ!」

「変わんないじゃない」

「もう書き換えが終わったのです」

「えー……じゃあロリ巨乳で決定なの?」

「ガッカリしたいのは我なのですっ!」


 修道服も何故か一緒に縮んだらしく体型にぴったりなサイズになっている。しかし流石はロリ巨乳、今では修道服越しでも分かる大きさだ。と言ってもメルフィと同程度の大きさだけど。


「なんですかこの邪魔な塊はっ!うぎぎっ」

「落ち着きなさいニボシ」

「ニボシ言うなですっ」

「落ち着きなさいカルシウム」

「完全に煮干し扱いなのですっ!?」


 このおもちゃっぷりを見ると星を破壊する凶暴な奴には見えんな。実際今はホシオトシではなくなったのだけど。

 皆も今のニボシなら簡単に受け入れられるだろう。


「まぁ何にせよこうなっちゃったんだしウチの住民兼キキョウの用心棒として宜しくニボシ。引き篭もりから脱出出来て良かったじゃない」

「……ふ」


 これは逃げる気配。

 いち早く察知した私は後方で成り行きを見守っていた皆に目で合図を出す。


「ふざけるなですっ!付き合ってられるかですっ!」

「逃がすんじゃないわよっ!」

「あたしに任せなさいっ」


 何と四つん這いだけではなく二足歩行も可能だった様で立ち上がって一瞬で私の脇をすり抜けていく。


 目の前から一瞬で消えたニボシだが、マリアは反応出来たようで結界らしき空間にニボシを閉じ込めた。

 ニボシはほんの僅か動きを鈍らせたがマリアの結界を力任せに壊し始める。


「我に、こんなもの、通用するかああぁぁぁぁっ!」

「げっ、破られるっ」

「ニボシは歯と骨を丈夫にするし骨粗鬆症だって防ぐのよっ!並の結界では壊されるわっ!」

「うそっ、ニボシ凄いっ!」

「変な解説するなですうううぅぅぅぅぅっ!!」


 ガラスが粉々に砕けたような音が響きマリアの張った結界が破壊された。

 ユキとマオが二人掛かりでそれぞれ鞭とワイヤーで捕らえようとするがあっさりと弾かれる。マオが巻きつけたワイヤーに至っては無理やり引き千切られた。

 すぐさまサヨが符術で式紙だったか自在に動く符を放つがそれも腕を一振りするだけで全て吹き飛ばされる。


 四人で戦ってこの有様なのだからやはりホシオトシとやらはとんでもない奴だった模様。


「ぬおっ!?」

「たかが精霊風情が我を止めるなど許されないのですっ」


 ルリもニボシの足に精霊魔法なのか水を纏わりつかせて足止めを狙ったが蹴り一つで無効化する。

 そのまま外へ逃走するが、神殿の入り口にはキキョウとメルフィの姿がある。

 だが特に何する事もなく二人の間をニボシは抜けて外へ出て行った。うーむ、逃げられたか。


「逃げられましたね」

「ええ、でも逃走はしたけど私達には一切攻撃しなかったわね」

「確かに」

「追うにしてもすでに探知出来ない位置まで逃げた様です。流石はホシオトシと言うか、いや元ホシオトシですか」

「まぁ呼ぼうと思えば何時でも呼べるし」


 呼ばずとも帰ってきそうだし、放っておくとしよう。

 それよりも皆にはニボシがどういう姿に見えていたのか気になる。


 聞いた所ほとんどの者には黒い霧状で獣の形をした異形だったらしい。明確な姿が分からないというのが思ったより怖いのかも。

 中にはルリの様に黒い霧状ではあるが人の形に見えた者もいた。ルリ曰くあれはフィーリアだったと……未だにトラウマになってるようだ。


「失敗に終わりましたが用心棒の件はどうします?」

「まぁ……数日遅れるくらいならいいでしょう。戻ってくるまで待つわ」

「戻ってきますかねぇ」

「戻って来なかったらまた考えるとしましょう」

「ニボシって名前になったら急に威圧感が消えましたね、何故でしょう?」

「ホシオトシとしての能力を失ったのかもしれませんね」


 それであの強さなら申し分ない。

 他国に行かれても困るので戻ってくる事を願おう。いややっぱり数日待って帰って来なかったら奇跡ぱわーで強制的に呼ぼう。


 とりあえず……ニボシニボシ言ってたら食べたくなったので今日は煮干しを食べよう。

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