幼女、帰省する
学園に行った翌日、早速ユキがメイド用の奴隷達を買ってきた。
メイド以外にも農業用の奴隷を購入したのだが、そちらはキキョウが選別して買ってきた模様。
「前にお話してた激安の奴隷達ですが、ほぼ売れてしまってたので買えたのは余っていた一人だけでした」
「まぁ、安けりゃ売れるでしょうよ」
「ですがご安心ください。安い奴隷など居る所には居ますので」
「ふーん。それが神殿の前に立ってる奴隷達ね、見たらすぐ分かる奴隷の中の奴隷って感じ」
ハッキリ言ってフィフス王国で買ったキキョウとはレベルが違いすぎる。私が購入した欠損奴隷と同レベルかそれ以上のゴミ奴隷だった。
しかも何を考えて買ってきたのか全て子供という有様。立っている事すら出来ないのかどいつもこいつも座り込んでいる。てかくっさ、好奇心旺盛な妖精達ですら敬遠する臭いだ。
「何というか、ギリギリ生きてるだけじゃないですか。役に立たないでしょうに。多少高くても働ける成人奴隷を買えば良かったんです」
「一人いくらだったの?」
「中継都市で購入した身売りの奴隷は50万です。正式な奴隷として手続きしたので少し値段が上がりました。そしてこの子供の奴隷達ですが……まとめて30万でした」
「やっすっ!?」
「人数的に一人たったの1万……?」
「奴隷用の首輪も無いのでその分引いて一万です。首輪に関してはこちらで用意します」
「いやいや、瀕死の奴隷など1万でも高いです。こんなのを売る奴隷商人など信用出来ませんね……どこで買ってきたのですか?」
「サード帝国、に一番近い中継都市です」
サード帝国……あそこに近い中継都市って事はサード帝国の商人が売買してるのだろう。てかそんな安く人が買えるのか。
流石は極悪国家、瀕死の子供ですら金で売るとは。このガキ達以外にも似たような奴隷がごろごろ居る事だろう。
しかしよりによってそんな所で買ってくる事はないだろうが。
「さっさと回復魔法なりユニクスの血なり与えて使える様にする事ね」
「ユニクスの血まで使用してよろしいのですか?」
「このまま放置して生き残った奴だけ使いたいところだけど、これでも誕生日プレゼントだしね。特別よ」
「ありがとうございます。責任を持って使える人材に育てあげます」
「精々頑張りなさいな」
奴隷を確認した所で私はリビングへと戻る。
ユキとキキョウは残って説明なり回復なりするようなので他の面子だけで戻る。
ソファに腰掛けたマオに向かってジャンピングヒップアタックで飛び乗った。体重が軽いのでトスっと音がしただけでダメージは与えられなかったが。
「短期間しか無いってのに何で子供かな」
「馬鹿だねリーダー、子供の方が洗脳しやすいからだよ」
「一理ある」
「ユキさんは優しいのです。きっと可哀想な子供達を助けたかったんですっ」
「マオはお花畑よねぇ」
あのガキ共は何処に住むのだろうか。奴隷用の宿舎なのは分かるが、あんなガキ達が個室を持つとか広さ的に勿体無いと思うが。
そうだな、奴隷兵一人とガキの混合で住まわせるか。それならあの宿舎だけで部屋の数も足りるだろうし。
宿舎で思い出したが、国内には宿舎以外にも勿論建物がある。ただ詳しく聞いてないのでどれがどんな用途であるのかは分からない。忘れない内にサヨに聞いてみようか。
「建物の用途ですか?」
「そう、ホイホイ設置してったのは知ってるけど使い道なんてサヨにしか分かんないでしょ?」
「ふ、ふふふ、よくぞ……というかやっと聞いて下さいましたねお姉様」
「なんかごめん」
「謝る必要はありません。では説明する前に建設した時点で作成しており今まで日の目を見なかった見取り図を配ります」
中途半端に嫌味を言ってくるなコイツ。全く興味を持たなかったのは悪かったが、自分達が住む所以外は足を運ぶ事なんてほぼ無いんだからその辺を察して欲しいわ。
「新しく加わった方も居るのでもう一度言っておきますが、まずは国の半分を占めている緑の部分ですが、これはお姉様が湖を転移させた時に一緒に飛ばされた森です」
「国内に森を入れるって事は魔物が居ない安全な森ってこと?」
「居ますよ。Bランクほどの魔物も居ればその魔物に匹敵する動物も居ます」
「そんなもん放って大丈夫なの?」
「大丈夫です。どうやら元々クゥさん達水竜をボスとして従っていたらしく、クゥさん達の飼い主である私達には危害を加える事はありません。外から来た冒険者などには容赦しなくて良いとは言いましたが」
言って伝わるもんなのか。もっきゅん達はちゃんと訓練されたのでBランク以上の魔物なら人間の言葉を理解出来る知能があるのかもしれない。
「しかし半分も森とはのぅ、まぁ人口が少ないからそんなもんか」
「魔物が勝手に防衛してくれるんなら別にいいんじゃない?」
「燃やされるのが心配だけどね」
「大丈夫です。ここにウジャウジャいる妖精達をお忘れですか?仮に火事になろうが妖精達がすぐに消化しますよ」
コストの全くかからない防衛体制に素直に賞賛を送る。
大量の妖精が精霊魔法をバンバン撃ってくるとか侵入者にとっては悪夢になりそう。侵入者がいればの話だけど。
「防壁が目立つので当然この国の事はバレています。ただまぁ内部の事は辿り着けた者が居ないので不明のままでしょうが」
「森を突破出来る者がおらんかったか、じゃが腕のたつ冒険者が来たら森を突破する事は容易じゃろうな」
「問題ありません。ここは冒険者にとって敵地ではなく小国の一つに過ぎませんから、到達出来たら宿屋なり道具屋なりでお金を落としていってもらいましょう」
「そういえば小国じゃったな」
森を出てすぐ近くにある他のより大きな建物が宿屋らしい。当然誰も居ないので営業はしてないが、内装だけは完了しているらしい。
今後奴隷兵と新たな奴隷達で営業するそうだ。奴隷だからってなめられなきゃいいのだが。
宿屋から数十メートル離れた位置にあるのが道具屋、なのだが売る物なんてあったっけ?
聞けば薬草の類を主に取り扱うらしい。森を無傷で突破出来るのは難しいのできっとギルドに売るよりはお金になるとの事。
後は家畜用の飼育施設に宿に近い場所にある奴隷用の宿舎、大衆食堂に大衆浴場と建物だけはあらかた出来ているらしい。民家もかなりの数があるが、これは奴隷達が功績を上げたら褒美として一戸建てを譲渡する事になってるそうだ。
「良くも悪くも素人が考えた国って感じね」
「一度経験があるとはいえ素人ですし。これを完成に持っていくのはキキョウさんの役目です。長年繁栄すれば大国の様に秩序を重んじる国になるでしょう」
「まぁ国という墓なんだけどね。いいわ、料理出来る奴や商売出来そうな奴がまだ必要みたいだけど、それも含めてキキョウに任せるとしましょう」
話は終わり、それぞれ自由に行動しだした。私はマリアに盗んできて貰った異世界の料理本を読むことにする。調味料は一通りパクった。この本に載ってる料理も再現出来るだろう、しかしすげぇな……相変わらず現物そのままを見てる様な絵だ。見た目で美味そうな料理が分かるから評価出来る。
椅子のお腹からグゥーって音が聞こえたけど気付かなかったフリをしてやろう。
日にちは経ち神殿生活に慣れてしまった頃、視界の片隅にミニマムメイドを見かける事が多くなった。
当然ユキが買ってきた子供の奴隷達な訳だが、動ける様にはなったがガリガリな事に変わりは無い。奇跡ぱわー無しだと肉付きが良くなるのがこうも遅いのか。
「……はぁ」
そしてリビングでため息をつく鬱陶しいメイドが一人。誰かと言えばユキなのだが、奴隷達と上手くいってないそうだ。顔に出るほど悩むユキは珍しい。
「さっきから鬱陶しいんですけど」
「姉さんはいいですよね……建物を調達しただけで馬鹿みたいに有頂天になれるのですから」
「…………」
「待つのよサヨっち!気持ちは分かるけど暴れちゃいけないっ!」
重症だ。まぁミニマムメイドの顔を見れば相変わらず死人の様な表情をしてるもんなぁ、ユキとしてはせめて生きる気力が見られるくらい元気にしたいのだろう。
頬杖をつきうじうじ悩むユキを見てマリアに押さえつけられてたサヨも怒りが呆れに変わったのか溜め息をついてソファに座り直す。
「お母さんは凄いです……連れてきた奴隷達は皆お母さんに忠誠を誓ってますし、何より活気がありますから。私は……結局上手くいってるのは50万の娘だけです」
「まんじゅうのおかげだけど」
「私もあの子達おまんじゅうを食べさせたら上手く出来ますか?」
「無理じゃない?」
「…………はぁ」
ふむ。弱っていた所を助けたし、食事だって買われる前よりは遥かに美味しいものを食べている。労働だって過酷な訳ではない。だが子供達がユキに対し心を開かないか……
ちょうどミニマムメイドが一人部屋の前を通り過ぎようとしたので呼んでみる。
「そこのミニマムメイドワン、ちょっと来なさい」
「はい」
「その名前どうにか出来なかったの?」
奴隷の名前はまともに覚えないのは知ってるだろうが。
ちょこちょこと近付いてくるその姿は案外ほっこりする。ガリガリで死んだ目じゃなければだが。
「あそこに居るルリって言うちっこい奴から紅茶を貰ってきて」
「はい」
言われた通りルリの側までいき紅茶を淹れてくれる様にお願いし、カップを落とさない様に恐る恐るこちらに持ってくる。
途中で落としてしまうなんて事もなく無事に私の所まで持ってきてくれた。
それを優雅に口にする。うむ、他人を扱き使って飲む紅茶は美味い。
「ふぅ、相変わらず美味しいわ。ありがとう」
「はい」
私が作り笑顔で感謝の言葉を伝えると若干変化が見られた。死んだ目をしていたが、その目に驚きが見られたのだ。
だがやはりすぐに忠誠を誓うほど甘くはないようだ。死人に感情が少し戻っただけ良しとしよう。
「また何かあったら頼むからよろしくね」
「は、い」
とことこと再びほっこりする歩き方で部屋から出て行った。
後はユキが上手く扱えばそう遠くないうちに死人の様な奴隷じゃなくなるだろう。
「ほー、やりますねお姉様。死人の様な奴隷でしたが、今のやり取りだけで若干感情が見られましたよ」
「お、お母さん。いえお母様っ!どうか私に奴隷の心を開くご教授をっ!!」
「卑屈じゃの」
「バカ娘、相手はゴミの様にというか正にゴミとして生きてきたガキの奴隷よ。でもガキなだけあって結局はチョロいはず、感謝の言葉とそいつを必要としてると分かる言葉を与えてやればその内心を開くでしょうよ。まずはガキ共に自分達はゴミではなくフィーリア家に必要なメイドである事を頭にも心にも植え付けなさい」
「お、おおぉぉ……ありがとうございますお母さん。あなたこそがペド神様です」
「しばくぞ。てか貴女どんな扱いしてたのよ」
「お母さんには逆らわないこと。お母さんの不快に思う行動はしないこと。お母さんが購入された奴隷の様に与えられた仕事をきっちりしてくれれば後は好きにしていい、と」
「ほぼお姉様関係の命令ばっかじゃないですか」
ああ、私が奴隷兵達に言った様にすれば大丈夫と思ったのか。
それなのに上手く懐かなかったので焦っていたと。
きっとちゃんと命令は聞くが、人形が働いてるみたいでユキとしては我慢ならなかったのだろう。
「バカですね貴女も。フィフス王国とサード帝国の奴隷の扱いの違いをまず考えなさいな」
「そうね、感情の残ってる奴隷と感情を失ってるガキの奴隷を同じ様に扱って上手くいくと思った所は驚きだわ」
「も、申し訳ありません」
「扱いはともかく教育は大丈夫でしょ。あれならメイドとして使えるくらいに成長するでしょう」
やる気が戻ったユキは早速ミニマムメイド達の所に向かって実践するようだ。次は極端に褒めちぎって調子に乗らせなきゃいいけど。
☆☆☆☆☆☆
「うー寒い寒い」
「おはようございます!」
「おはようディーセット。寒いわね、貴女のせいなら殺すけど?」
「ち、違いますっ!?」
雪女のディーセット含め奴隷兵の三人はこの神殿に住んでいる訳なのだが……何でディーセットまでメイド服を着てるのだろうか。
「何そのメイド服。私があげた軍服が気に入らなかったっての?」
「滅相もありません。ユキ様に汚れてもいい服がないか尋ねたらこちらを支給されたのです」
「掃除でもすんの?」
「はい。訓練が終われば暇ですから、それに小さい子達が働いてるのをみたらやりたくなったのです」
「ふーん……トレーズにはやらせないでよ。絶対に何か割るから」
「あ、はは……はい」
しかし真面目な奴よのう。やる事やったら部屋で寝転がって本でも読むのが常識だろうが。
わざわざメイド服まで用意して掃除するとは……死人の様に白い肌をしたディーセットがメイド服を着ると更に白く見えるわ。
「屍メイドと名付けましょう」
「え、あの……はぃ」
「冗談だってば。やっぱり奴隷だと口ごたえしないからダメね」
「ご、ごめんなさい」
いつ見ても気の弱い雪女である。キャトルなんてほぼタメ口に聞こえるなんちゃって敬語だぞ。あれで今までの主に罰されなかったのだから驚きだ。
「でも掃除ったってガキ共の仕事を奪うのは関心しないわね。やるなら自分の部屋だけにしときなさい」
「あぅ……ごめんなさい」
「あなた謝りすぎよ。マオだってそんなに謝罪連呼しないわ。まぁいいや、貴女もたまには一緒に茶でも飲みなさいな。溶けるかもしれないけど」
「お、お供致します」
私の後ろを歩幅を小さくして私に合わせながらついてくる。抱っこされた方が早いのだがこやつは冬だと冷たすぎるので拒否する。やはり真の価値が出るのは夏だな。
リビングに行く途中にミニマムメイドを数人見かけたが、良い方向に向かっているのか目にも声にも感情が見える様になってきていた。
しかしすれ違う度に深々と頭を下げられて歩くのは何とも……その内慣れるとは思うが。
リビングに到着するといつもダラダラしてる面々がいつも通りダラダラしていた。
「おはよう。私が言うのも何だけどダラけてるわね」
「おはようございます。まぁやる事はやってますので」
「おはようリーダー。休む時は休むもんだよ」
ユキとキキョウ、それにアン以外は集まっているみたいだ。コイツら本当に自分の部屋を使わないな、いつもここに居る気がする。
マオが座っているソファに近づくと慣れたもんで何も言わずとも私を持ち上げて太腿に乗せてくれた。
「……そのリーダーを乗っける役目をマオっちからあたしが奪ったらどうなる?」
「わたしが泣きますやめてください」
「あ、そう……ごめん、言ってみただけ」
「今日はディーセットさんも一緒ですか?」
「暇そうだったから誘った」
ジロジロ見られるのが恥ずかしいのか怖いのか、ディーセットは私とマオが座ってるソファの後ろで縮こまっている。
「明日はクリスマスじゃないですか。ディーセットさんに雪を降らせてもらうのも一興かもしれませんね」
「24日じゃなかったっけ?」
「それはイヴです」
「ホワイトクリスマスだっけか、ディーセットちゃんが活躍する日が来たね」
「が、がんばります」
「薬売ってた人も楽しみですよね?」
「忘れてくださいっ!」
そういや言われたな。ギャグじゃなくてマジボケだったから何とも……
しかしクリスマスって事は今年もあと一週間ほどか、早かったけど濃い一年だった。旅を再開したらまず何処に行こうか、やはりフィフス王国とその周辺かな。
「そう言えばフォース王国とペロ帝国がついに停戦したそうですよ。主な理由はライチさんが宣戦布告なんてしたからじゃないでしょうか」
「へー、結局ボテ腹は落としきれなかったか。マリオネットが居なくなって弱体化しそうね」
「でしょうね。あの尻ババアが私達の事をちゃんと黙っていれば良いのですが」
「大丈夫でしょうよ。あのババアは何だかんだ言って私達を相手にする方がフォース王国を相手にするよりマズイって分かってるからね」
「それ聞くと自信過剰に聞こえるけど……面子を見て納得」
しかし私達に妨害されたくせによくフォース王国も粘れたものだ。やはり隠し玉がいくつかあったのだろう。お互い大きな被害が出ただろうに結局停戦とは死んだ兵士が報われないな、特にペロ帝国は。
まぁ他所の事なんて知った事じゃないんだけど。
「一年経たずに建国までもってったパーティは私達ぐらいなもん?」
「いんや、過去におったぞ?……まぁそれは異世界の冒険者じゃったが」
「何だ、やれる奴はやれるのね」
「じゃが完成までには数年かかったかの。異世界の者は妙に正義感が強いから滅びた国の建物を盗むなんて発想はなかったからな」
「タダで使える物を使わないでどうするのですか」
いや、異世界人に限らず建物を盗むなんて発想出来る奴はそうは居ないと思うが。
建物はともかく、人材に関しては実力を除けば異世界人の国の方が充実してたそうだ。そりゃまぁウチは奴隷ばっかだしねぇ。
その後それぞれのんびりしていると不意に何処からか声が聞こえた。
『あーあー、えぇっとこれでいいのか、聞こえるかい?』
「何か聞こえるわよ」
「通話符ですね。これはお姉様のご実家に渡していたやつです」
それを聞いてついにきたと悟った。
『ペドちゃん聞こえるかい?』
「聞こえてるわ。父さんが連絡してきたって事は」
『生まれそうだよ、ペドちゃんの弟か妹が。今日中には出産を終えると思うから帰ってこれるなら帰ってきなさい』
「……すぐ帰るわ」
アリスめ、クリスマスイヴが誕生日だったのか。
あまり大勢で押しかけても何なので今回帰るのは私とユキだけだ。落ち着いたら他の皆にも紹介してやるとしよう。
ユキを呼び、支度をして皆に見送られながら実家に転移で帰った。




