幼女、学園に行く
「はぁ……妖精様がこんなにたくさん」
「こんな悪戯妖精に様付けとか不要でしょうよ」
人の頭部で羽根休めする不届き者をつまみ上げて空へ放り投げる。キャーキャー言いながら楽しそうに飛んでいった。クルル並の乳を持っていたら揉んでやったものを。
『おめめがひとつー』
『だれー?』
「は、ははーっ!わ、私は今日からこちらでお世話になる一つ目小娘でございますっ!」
『ははー』
『ははーでございますー』
「ギャーー!?あ、頭をお上げくださいいいぃぃぃっ!」
妖精を敬う一つ目ちゃんに対し、何も分かってない妖精達は真似して遊んでいる。何やってんだコイツら。
でもまぁ一つ目ちゃんが早速馴染んだようで何よりだ。
「び、びっくりしました。まさか妖精様に頭を下げられるなんて……私呪われたりしませんよね?」
「妖精をなんだと思ってるのよ」
「でも本当に凄いですっ、フィーリア様はいつごろ加護を授かったのですか?」
「いつ頃?……ご先祖様が持ってた加護を継承したんだと思うけど?」
「それはないですよ、世界が与える加護はあくまで個人のみであって例え子孫だろうと受け継がれる事はありませんから」
詳しいな一つ目ちゃん。その説でいくと私の持つ加護は貰い物ではなく自力で入手したという事になる。だが私には加護をもらう様な事をした覚えはないのだが?
「つまりお姉様個人が世界にいたく気に入られているという事ですね。いや世界も見る目がありますねぇ」
「世界から愛されてる証明となる加護を持つ者は数がかなり少ないのじゃ。ワシとてどういう者が加護を授かれるかなぞ知らん」
「つまり隠しクエストなのねっ!」
「マリアさんは少々黙っててくださいね」
加護の取得条件か、そもそも私はいつから加護を持っていたのだろうか。クルルに会ってから発覚したのでそれ以前という事になるが……勘というか推測ではあるが学生時代までに持ってたとは思えない。
という事は授かったのはニート時代か冒険者となって旅に出てからである。家で引き篭もって授かれる代物ではないだろうし旅に出た後か。
「旅に出てからだとは思うけど……お世辞にも褒められる様な行いをしたとは思えない」
「では人柄……あ、何でもありません」
「言いたい事はきちんと言いなさい」
言われずとも性根が腐ってる事は自覚しとるわい。
うーむ、全く思いつかん。
「難しく考えすぎですよ、恐らく答えは簡単なものだと思います」
「自信有り気ですねユキさん。ならば貴女の答えとやらをお聞かせ願いましょうか」
「そうですね。まずお母さんが加護を授かったのはマオさんを助けた時だと思います」
「わたし?」
何でマオを助けたら加護が貰えるというのか。マオは世界の宝だとでも言うのだろうか……あの尻は秘宝とも呼べるが。
「正確には悪魔を、ですね。悪魔と知って尚マオさんを助けたお母さんに世界は何かを見たのではないでしょうか」
「もっとズバっと直球で申してください」
「では言い換えましょう。人も悪魔も獣人も亜人も、全てが等しく暮らしていた過去の情景を見たのだと思います。現にこの国の有り様は太古の世界に半分は近付いているのではないですか?」
「ふむ、言われてみれば種族関係なく暮らしてますね。身分に差はありますけど」
「悪魔と知れば目の前で死を迎えてようが普通の人間なら助けないじゃろうな。なるほどなるほど」
果たしてそうなのだろうか……こんだけ広い世界だ。種族を気にせず手を差し伸べる根っからのお人好しなど探せばいくらでも居るだろう。
「それならユキだって加護を貰ってそうじゃない」
「残念ながら私はお母さんに命令されるか、もしくは利にならない者を助ける事などありません」
私がマオを助けた時は何を考えていたっけ、確か椅子代わりになる者が欲しかった。
違うか、私がマオを気に入ったからだ。
全てを愛し、許し、受け入れると言っても過言ではないこの娘の生き方は私には眩しかった。本来ならマオが加護を持っててもおかしくないくらいに。
だけどマオに加護は授けられなかった。世界は私にどうしろと言ってるのだ。
……何この思春期を迎えた痛い学生みたいな思考。
「やめやめ、結論としては加護って便利でいいや」
「投げやりじゃのう」
「太古の世界の再生。姉さんがやろうとしていること」
話を終わらせようとした所でメルフィから横槍が入った。
私がやろうとしてることか。
「……最終目標の島一つを以前の世界にすること?」
「そう。姉さんはただ自分の目標の為に頑張ればいいと思う。それがきっと世界がやって欲しいこと。たぶん」
たぶんかよ。きっとなのかたぶんなのかどっちなんだと。
でもまぁたぶんとは言うが旅が終わり、余生を静かに過ごすための島作りを世界が望んでるってのは合ってるかもしれない。しかしその程度で喜ぶとは
「簡単ね」
「そう、簡単」
「メルフィは太古の世界の姿を見た事がある?」
「ない。だから、姉さんに見せて欲しい」
「オーケー任せなさい。規模としては小さいだろうけど感動する世界を見せてあげる」
「メルフィさんが美味しい所を持っていきましたね」
加護、勝手に与えられたものではあるがこれまでに大分役立った。過去の光景を再現するのが借りを返す事になるのならのんびりとだがやってやろうか。
「こうしてお姉様は決意を新たに旅立つのであった」
「そういうのいいので」
「そう言えばユキに預けた太古の植物とやらはあるの?」
「保管しております」
「亜空間に?……亜空間ならもうその植物死んでない?」
「さあ?」
おい。
「冗談です。薬草もそうですが植物は亜空間に入れていようが問題ありません」
「ご都合主義」
「その辺が謎なんですよねぇ……仕舞っていた種を蒔いても普通に育ちますし」
「まあ生物と植物は全然違いますから」
面白い話だ。心臓の有る無しが関係してるのだろうか。例えば生命活動は停止するが細胞は生きているので大丈夫とか。
「試してみたいわね。人間を突っ込んで死んでるけど細胞自体は生きてるか」
「良い線いってるかもしれませんね。植物は細胞が生きてれば問題ないですが、生物は細胞が生きていようが心臓が止まれば死にますからね」
「うん。それ私が考えてた事だけど」
「頭痛くなるから違う話題にしてくんない?」
マリア含む数名が何言ってんだコイツ等って顔をしてるので亜空間考察はここまでにしとこう。
ダンジョンで骨に貰った植物達は一つ目ちゃんに任せて育ててもらおうかな。
「という事で大昔の植物を育てるのは一つ目ちゃんに一任するわ」
「わ、わわ、わたしがですかっ!?」
「メロンと平行して育てればいいじゃないですか」
「私はみかんが食べたい」
「じゃあまずはみかんとお野菜を育ててみますっ、植物は……良く調べてからですね」
みかんって木から育てるのは数年はかかりそうだけど、精霊や妖精達が何とかしてくれる気がする。
一人メロンを却下されて絶望しているが自国で栽培する食料に皆期待してるようだ。
★★★★★★★★★★
早い事に一つ目ちゃんを仲間に迎えて二日目、マオが言い出した学園に行きたいという願いがあっさり叶って今日行く事になった。
渋る様なら水竜で脅していたとはユキの弁。意外な事にすんなりと交渉はまとまったらしい。ただまぁ私の名前を聞いた瞬間しかめっ面をした教師はいたとの事。
「ついに来たねマオっち!」
「はいっ」
「行くメンバーはお母さんにマオさん、姉さん、メルフィさん、マリアさん、そして私です」
「ルリさんもキキョウさんもお留守番ですか?」
「私は色々やる事がありますので」
「ワシも行かぬ」
「アンさんもですか」
「人間の学園とか興味無いので」
という事で六人で行くわけだ。
気合が入ってるのはマオとマリアのみ、メルフィが行くのは何となく意外だったがこれまで呪い関連ばかり勉強してたので普通の学生がする勉強とやらに興味が出たとのこと。
「ちなみに許可を得るにあたり交換条件を出されております」
「む」
「冒険者として講師をして欲しいそうですよ」
「講師ですか、私達の冒険者生活とか何の参考にもならないと思いますが」
全くである。一般人に冒険者と言うのを教えたいなら普通の冒険者を呼ぶべきだ。
「まぁ学園側も私達を通して冒険者は底辺の職業とは言えないという事を伝えたいのかもしれません」
「楽にお金稼げて幼女でもハーレム築けるのに底辺とか変なの」
「実力無ければ死にますから」
「マオがうずうずしてるからそういう話は道中か帰ってからにしましょう」
すでに準備を済ませたマオはいつでも出撃オーケーと構えている。名前を呼ばれてソファに平然とした様子で座っているが、足がソワソワしておりそれを皆で生暖かい目で見た後で話を切り上げ学園に向かう事にした。
「遠いですね。転移じゃないとかなり時間かかりますよ」
「遠いのでお母さんの学生時代は寮生活でした」
「でしょうね」
現在は校門の前に立っている。顔を上げれば懐かしの学び舎の姿を確認出来た。
およそ二年ぶりだが、冒険者になってから濃い日々が続いたので年数以上に久しぶりに感じる。
校門で駄弁っていても仕方ないので中に入り職員室へ向かう。
職員室のドアを開けるとこれまた懐かしい教師達が……って思ったけど大体覚えてなかった。
ただ一人だけ確実に覚えている先生が居た。
「アイラ先生がいるわ。未だ婚期を逃し続けてるみたい」
「やめてっ!?……んんっ、久しぶりねペドちゃん。卒業してあなたの事は心配してたけど、元気にやってるみたいで良かったわ」
「魔法の授業の時はお世話になった」
「ああ、懐かしいわね。あの魔法一発で気絶してたペドちゃんが今や五丁目の英雄だなんて不思議ね」
何の事かと思ったら亜人の時の事らしい。もはや五丁目の住民達のほとんどが亜人達を撃退したのは私達だと認識しているそうだ。
「間違ってはいませんね。わた、天狗と亜人のボスを倒したのはユキさんとお姉様ですし」
「他の冒険者達が哀れね」
「もちろん他の冒険者達にも感謝はしてるわよ。ただまぁ調子に乗るので皆さん口には出さないみたいだけど」
「そうね。早速だけどウチの娘達に学園生活ってのを体験させてちょーだい」
「ええ、今日は私が付き添いする事になってるから」
知ってる先生が付き添いの方がこちらとしても有難い。
昔と違って職員室に居た教師陣に快く見送られて今回お世話になる事になったクラスへと向かう。態度が変わりすぎてて気色悪かった。
「卒業生としてペドちゃんからお仲間さんに何かアドバイスとかしたら?」
「そうね、学園の階段は側面が柵じゃなくて壁になってて反対側の階段が見えなくなってるの。死角になってる内側だけに階段の色と同じ灰色の紐を張っておけば高確率で転倒を狙えるわ。追われている時も有効よ」
「なるほど」
「何教えてるのっ!?」
「私が学生時代に覚えた事よ」
そう言えば悪戯っ子だったと呟き以降は黙ってクラスへ向かった。
ただの廊下だってのにマオとマリアは興味津々で見回している。
お、この壁に掛かっているボードは見覚えあるぞ。ここには誰かは忘れたが私に対して生意気な態度を取った奴が書いた恋文を張り出してやった所だ。いつのまにか姿を見なくなったが。
世話になるクラスについたのか一つのドアの前にアイラ先生が立ち止まる。
プレートに書かれているのは3-1。三年生なら私の事を知ってる奴も多いだろう。
「じゃあ私が呼んだら入ってきてね」
「分かったわ」
分かったと言いながらアイラ先生と一緒に私達は入室する。
一見すると何の集団か分からない私達を見て生徒たちはまず驚いたがこの女子率に次第に興奮していった。
「分かってないじゃんっ!?って皆静かにっ!」
「フィーリア先輩だっ」
「ちっちぇえええぇぇぇぇ!!」
「おい黙れ」
意外に素直なのか生徒達は黙った。アイラ先生は自分の言う事は聞かなかった生徒達に対し若干おかんむりである。
「本日は特別講師として冒険者として活躍中のフィーリアさんに来て頂きました。と言っても一時限だけで残りは皆と同じく生徒側に回るそうです。ではフィーリアさん、ご挨拶をどうぞ」
「三年生なら知ってる奴も居るでしょう。私がこの学園で数々の生徒を再起不能にしてきたフィーリアよ」
「事実だから質が悪いわ」
「今日は私の仲間達が学園に行ってみたいという事で一日生徒としてお世話になるわ」
短い挨拶を終えると拍手と歓声が沸きあがった。うーむ、二年の間に私に対する恐怖は大分薄れてしまったか。
その後他の皆も挨拶していくが、特に歓声が上がったのはメルフィだった。やはり巨乳美人は格が違った。
早速私達が講師側に回り冒険者とはなんぞやという授業を始める事になり、まず生徒連中は冒険者をどんな職業なのだと聞いたら言いづらそうに最底辺の職業と答えた。
やはり冒険者の認識が早々変わる事はないか、でもそれは仕方ない。駆け出し冒険者は実力的に大きく稼げないし収入より出費の方が多い。更に死が身近にあるのだからそりゃ嬉々としてなりたい奴は小数だろう。
「冒険者で成功するのは確かに難しいわ。でも冒険者にだって良い所は沢山あるの」
「……例えばなんですか?」
「まず冒険者は決闘をすれば合法的に殺人が出来る」
「はいフィーリアさんでしたありがとうございました次はお仲間の皆さんに聞いてみましょうねっ!!」
私を抱えてたユキごとアイラ先生にグイグイ追い出された。ダメな部類の話だったのか生徒達も顔が引き攣ってる。
そうか、私達と違って一般人な生徒達は決闘で殺される側になるかもしれないのか、そりゃ恐ろしくなるわ。
二番手はいつの間にか勝手に壇上に立っていたマリアみたいだ。この時点でもうロクな事は言わない気がする。
生徒達は見た目は良いマリアの登場に歓声を送っていた。
「声援ありがとう。次はあたしから冒険者とは何かを教えてあげる。まず、ギルドで受付をする事になるんだけど、ここでベテラン冒険者に絡まれなかったらもう素敵な冒険者人生は送れないわ」
「……」
たった数秒でこの人はダメなやつと生徒達は気付いたらしく目から輝きを失っている。
「だけど、絡まれたらこっちのもんよっ、サクッと返り討ちにすれば只者ではないと冒険者達に一目置かれる存在になるでしょう。その後新手が現れると思うけど大丈夫、そいつは実はギルドマスターで」
「はいマリアさんありがとうございましたー」
「ちょっと、まだ全然序盤の序盤でっ!?」
「ギルドマスターなんて偉い人が五丁目に居るわけないでしょうに」
ギルドマスターは各王都にしか居ない。常識であるがマリアは本で得た知識しか持ってないので知らなかったようだ。
そろそろアイラ先生が爆発しそうになってきたのでユキに頼んで無難に講師をしてもらう事にする。
マオとメルフィとサヨはちゃっかり一番後ろに机と椅子を用意して貰って生徒側に回っていた。出番は終わったので私とマリアも後ろの席に座り黙っておくとしよう。
「次は私からの話になります。皆さんにとって冒険者は最底辺という認識だと先ほど聞きました。別にそれを咎める事はありません、事実冒険者のほとんどの方は今日明日を生きるのに精一杯だからです。ですが、その代わり自由を得られます。
私達は五丁目で働いて過ごそうと思えば過ごせます。ですがあえて冒険者になりました。何故なら外の世界に出て旅をしながら知らない景色を見たいからです。
旅の途中で仲間と食事をするのも楽しい事です。行く先々で出会う人達との繋がりも財産となるでしょう。時には傷つく事も仲間との別れに悲しむ事もあるでしょう、辛い事も含め冒険者として得た経験は皆さんを大きく成長させてくれると思います。
知っての通りこの町の冒険者達は特に悪く言われていますが、この国が亜人に襲われた時に皆さんを守ってくれたのは彼等です。彼等の中にも依頼に失敗し、仲間の命を失った冒険者も居ると思います。ですが彼等は笑って過ごしてますよ、仲間の命を背負って。五丁目の冒険者も決して弱い者ばかりではない事を覚えておいて下さい。実力ばかりが強さではありません。
最後に一つ、もし皆さんの中に冒険者になりたい方がいらっしゃいましたら同業として歓迎致しますが、生半可な覚悟で望まれないよう注意しておきます。私からは以上ですね、後はギルドにでも言って勉強して下さい」
ユキが一礼すると生徒達から今日一番の拍手が送られた。君の母親は生半可な覚悟以下で冒険者になったと覚えているのだろうか。
「ふ……ワザとボケてユキりんの話に重みを持たせる作戦が成功したようだね」
「見苦しいから止めて下さい」
「すごいですっ、ユキさんが先生みたいです!」
「普段からマオの先生じゃない」
「そうでしたっ!恐れ多いです!」
「今の話だけでどんだけユキは神格化されたのよ」
まだ時間は大分余っているので残り時間は質問タイムとなった。
流石というか冒険者に全く関係ない好みのタイプの質問などある意味お約束な質問の方が多い。人見知りなマオもあたふたしながら何とか質問に対して答えてはいるが、変な質問には律儀に返す必要はないぞ。
「何であたし達には誰一人として質問しに来ないのかな?」
「顔が良いからってちやほやされる訳じゃないと実証出来たわね」
「く、あたしの知ってる学園モノと違うっ」
納得出来ないマリアはぷりぷり怒っているが願望垂れ流しな話をさせられたら誰だって敬遠するわ。
メルフィとサヨが心底面倒くさそうに生徒の相手をしてるのが見えるが、楽して観客側に回った罰だな。
「次はマオの得意分野である計算みたいね」
「はいっ」
「得意って言い切っちゃったよこの娘」
気合を入れてアイラ先生とは違う教師が黒板に書いていく式を眺めている。xとかyとか意味不明な文字に数字が付き、更に+や-が付いている。
何だこれと思っていると地震が起こったのかガタガタと震えだした。
というか椅子になっていたマオが震えていた。
顔を見れば未知との遭遇を果たしたのか青くなって冷や汗を流している。
「落ち着くのよマオ」
「ば、ばつを足して、あ、小さい2がばつについてるからバツイチじゃなくてバツニ……」
「それは結婚相手を見る目がないわね。じゃなくてあれは教えてないから分からなくて当たり前よ、無理に解く必要ないわ」
「は、はい……」
マオ以外にも頭の良さそうなサヨも何の事やら分かってない様子。唯一分かっているのはユキだけみたいだ。いつの間にそんな勉強をしていたのだろうか。
「じゃあ、折角だから卒業生であるフィーリア。これを因数分解してみなさい」
「まずそんな計算が必要な職業を述べなさい」
「素直に分からないと言いなさい。思えばお前は授業を全く聞いてなかったな、忘れてたよ」
結局全く分からない数式を見せられただけの授業は寝て終わった。椅子がガタガタ震えて快眠は出来なかったけど……一体この娘は何をそんなに怯えているのか。
更に授業は続くが特に面白いものは無かった。一度卒業してるのだから当然と言えば当然なのだが、唯一楽しめたのは世界史の授業だな。借りた教科書をパラパラ捲っていたら旅の途中で行った場所が載っており思わず笑みを浮かべた。
ずっと教科書見てたから教師の話とか聞いてなかったけど。
たった一日なので終わるのは早い。私は半分は寝てたので更にあっとういう間だった。
すぐに帰るのもなんなので五丁目内を適当にぶらつきながら見て回っている。夕方だけあって夕飯の買い物をしてる主婦層が目立つ。
「あー、終わりましたか、まぁ学園のレベルは分かりましたね」
「フィーリア一家は脳筋よりだと分かった」
「マオさんも最後の方はかなり馴染めてましたね」
「楽しかったですっ」
「貴族のボンボンがやってきて俺の嫁になれ、って展開が無かったしあたしはつまんなかった」
「姉さんの悪名が広まってなければ可能性はあったかも」
「貴族の生徒なんてほんの僅かなので無いでしょう」
私の悪名とか関係ないだろ……ドラゴンを狩ってくる様な冒険者相手に不埒な真似を出来る生徒なんてそうそう居ないわ。
「では帰りますか」
「そうですね、ではそこの建物の陰で転移しましょう」
学園も行ったし、後はユキの希望である奴隷を買ってくるだけだ。キキョウ達の世話をするメイドとして鍛えると言っていたが、果たして短い期間でモノになるのやら。
一つ目ちゃんの手伝いにも必要だろうし多めに登用してきてもらうか。




