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幼女、農家を勧誘する

「お姉ちゃん、薬売ります」

「なん、だと……」


 馬車より一回り広い神殿のリビングで寛いでいた私にマオがトコトコと近付いてきて発した言葉がこれである。

 薬、クスリ……言い方を変えるとヤクだヤク。この場合の薬とは人をダメにしてしまう禁断の薬の事だろう。もちろん見つかったら即牢屋行きである。


「ちょっとそこに座りなさい。正座で」

「はい」


 素直にマオは私の座るソファの前に正座で座った。

 そう……素直なのだ。薬物中毒なくせに良い娘なのだ。本来なら聖人の如き清らかさを持っていたに違いない。

 今思えば妄想駄々漏れだった事は薬の影響だったのかも。普段は気にしなかった垂れがちな目も依存症患者の目に見えてくるから不思議だ。


 こんな悪魔とは思えない素直で良い娘が薬に手を出していたとはっ!

 それに気付けなかった私も情けない。

 何時から薬漬けだったかを考えれば恐らく鬼の里に住んでいた時だと思う。おのれクソ鬼共……もっと苦しめてから殺すべきだったわ。


 こうなったら無関係だが腹いせに他の鬼の里を見つけて襲撃するしかない。連帯責任だ、甘んじて死ぬがよい。


「お母さん。マオさんはクリスマスと言いたいのだと思います」

「紛らわしい。もう少しで見ず知らずの鬼達を根絶やしにするところだったわ」

「お姉様の思考回路も大概だと思います」


 クリスマスか、あと一週間もすればクリスマスだな。

 美味いもの食べてワイワイ過ごす日だっけか?いつもと変わらないじゃないか。


「クリスマスはともかく、結局貴女達の誕生日プレゼントをあげてなかったわ」

「私の奴隷購入は姉の散財のせいで保留になりましたが、他の皆さんには今からでも望むものをあげては?」

「そうね……何だったっけ?」


 散財した張本人であるサヨはプレゼントは不要だと。その代わり前言ってた農家を迎え入れたいとの事だ。この国も出来上がりつつあるしいいんじゃないか?


「私も要らない」

「別に遠慮しなくていいのに。金ぐらい何とかなるでしょ」

「ううん、もう一番欲しかったものを貰ったから」


 胸に手をおき微笑みながらそう言うメルフィ。どうやら私が解いた呪いの事は気付いてたみたいだ。そりゃ長年の付き合いだった呪いが消えたら気付くか。


「マオは何だっけ?クスリ?」

「違いますっ!?……えと、わたしは、学園に行ってみたいですっ!」

「学園。通おうものなら数年は拘束されるから旅には置いてくわよ?」

「あ、通うんじゃなくて一日体験みたいな?」


 体験入学か。体験入学って勉強とかあったっけ?学園を見て回りたいだけなら可能だと思うが。

 まぁいい、母校に行ってちょっと脅せばいけるだろう。


「わかったわ。何とかしてみましょう、ユキが」

「息を吸う様に人任せに出来るお母さんが私は好きです。お任せ下さい」

「あ、ありがとうございますっ」

「そういう事ならあたしも行きたいっ!」


 関係ないマリアまで行きたいと言い出した。というか学園に無縁だった面子が一様に乗り気になっている。行ってどうするつもりなんだろうか。


「突然現れた美少女達を見に群がる学生達ってのを生で見て見たい」

「マリアってほんとマリアよね」

「どういう意味?」

「気にしなくていいわよ。何となくマリアのキャラが分かってきただけ」


 結局ほとんどの面子が行くという話になった。

 プレゼントとしてはどうかと思うが皆して乗り気になってるならいいか。だが私以外に学園卒業者が居ないのは何とも常識知らずのパーティらしい。


「皆様へのプレゼントについて話が終わったところで私から報告する事があります」

「なに?」

「先日奴隷達を冒険者登録させて早速依頼を受けさせたのですが、周辺地域に住む魔物の討伐で得た金額は一日およそ22000ポッケ。養う奴隷達の人数的に些か心許ない金額です」

「依頼とか受けてないのにお金はあったし何とかなるわよ」

「それは冒険者としてどうかと。ではなく、せめて70000は稼ぎたいのですが何か良い知恵はないでしょうか?」


 稼ぐだけならドラゴンでも狩ればいいと思うのだが。

 奴隷一人では厳しいかもしれないが集団なら大丈夫じゃないか?


「手っ取り早いのは高ランクの魔物狩りですが、ワンス王国では優秀な成績を収めると厄介なお姫様に目をつけられるのでなるべく目立たない依頼で稼ぎたいのです」

「そういう事ですか」

「でしたら低ランクの魔物を狩るついでに薬草採取でもすれば宜しいかと」

「なるほど、薬草でしたら依頼に関係なく買取してましたね。ありがとうございます。その様に伝えておきます」


 早速キキョウも代理として頑張っているようだ。と言ってもまだ奴隷兵士しか居ないので主に冒険者活動での資金稼ぎだけど。

 農奴として新しく奴隷を購入すれば自給自足で生活出来るし出費も減るだろう。最終的には孤島に転移する予定なので必要な者は全て国内で入手出来る様に繁栄してもらわないと。


「そうだ。黒竜とかブラックドラゴンとか結構狩ったじゃない。当面の資金はそれを売ればいいと思うわ」

「宜しいのですか?あれが市場に出回り仮に敵対する者が装備してたら厄介だと思いますが」

「所詮は人の手で加工出来る代物じゃない。あんたらが強くなれば問題ないわ」

「では売りに出しますが、モノがモノなだけに飛竜の時以上に目立ちますよ」

「また勧誘が鬱陶しくなりそうですね」

「問題ないわ。今なら小国を盾に簡単に断れるでしょう」

「なら奴隷達も高ランクの依頼を受けてもよいのでは?」

「いえ、奴隷達はこのまま低ランクの依頼で細々と稼いでもらいましょう。売買出来る身分ですからね、金で交渉してくるウザい輩が現れそうです」


 これで資金も何とかなるだろう。黒竜とか名前からして一財産になるはずだ。

 後はサヨに渡さずユキとキキョウで保管しとけば大丈夫。







「本日は強化魔法についてです」

「はいっ」


 久しぶりにマオのお勉強を覗いてみる事にする。

 今日はユキ先生が教えるらしい。どうやら身体強化の魔法を覚えるみたいだが、今まで使ってなかったのか。


「身体強化とは文字通り身体を強化する訳なのですが、具体的にはどう強化するかわかりますか?」

「え、と……や、やあああぁ!ってぱわーあっぷします?」

「ぐはぁ……ちょっとリーダーなにこの可愛い生物!?」

「黙って愛でろ」


 マリアはマオの天然ぶりに撃沈したようだ。だが今のは確かに良かった。両手を胸の前でグッと握って頑張るのポーズ、脳内保存待ったなしである。


「こほん、正解は身体を頑丈にする魔法ですね。腕力や脚力を強化するというのは間違いなので注意です」

「はい。でもユキさん達が使うと早くなったり強くなったりしますよね?」

「そうです。人というのは普段は潜在能力の数%しか力を発揮出来てないらしく、これは身体が耐えきれないので無意識に力をセーブしている、と言われています。私達奇跡人や悪魔であるマオさんも恐らく同様です」

「そうなんですかぁ」

「そうみたいですよ。つまり身体を頑丈に強化すれば潜在能力を引き出しても耐えきれる。引き出すというよりも勝手に引き出された状態になるが正しいでしょうか。何にせよ力、速さも上がる、という事ですね」


 ふーん。でも結局力と速さも上昇するなら強化魔法は全ての能力が上昇するでいいじゃないかややこしい。


「ちなみにお母さんが亜人達をボコボコにした時しばらく動けない程身体がボロボロになりましたが、身体を強化せずに力と速さを限界以上引き出すとあんな風になりますので強化魔法はきちんと覚えた方がいいですよ」

「わかりましたっ」


 そうだったのかっ!

 つまり身体も頑丈にしつつ強くなれば筋肉痛もないという事ではないか。さっさと教えといてくれればいいものを……!


「ではいよいよ使って頂きますが、強化魔法は人それぞれなのでコツを教えるのは難しいです。まずは魔力を全身に纏う様に流してください、ここは共通ですので。その後は自分なりに纏った魔力で強化するイメージをしてください」

「は、はい」


 目を閉じ、さっきの頑張ってますポーズをしつつ中腰で前かがみの格好でフルフル震えながら唸るマオ。ユキが普通に立ったままやってたのできっとそんな格好する必要はない。でも何か可愛いからこのままにしとこう。


「うはぁ、可愛いよマオちんっ!狙ってやってる訳じゃないのが凄いっ」

「天然モノはいいわね」


 しばらく微笑ましく眺めていたが成功する気配はない。そんな簡単に出来るわけないが、段々とトイレに篭って頑張ってる様に見えてくるから困る。


「ぷはぁっ……で、出来ないです」

「まぁそんな簡単には出来ないでしょうね。微笑ましく見てたお母さん達は何かアドバイスはありませんか?」

「あたしは魔法とか使えないから無理ー」

「使ってないのにあの身体能力なのか」

「まあ天使だし?」


 ああ、異世界人補正と同じ様に強化されるんだっけ。ナキリと比べると数倍は上なのはババアだからだろうか。

 マリアがダメとなるとこの私の出番な訳だが、マオの性格を考えると――


「じゃあまず魔力を纏うとか言うのをやってちょーだい」

「……やりましたっ」

「目の前で私が魔物に襲われています。助けられるのはマオだけ、相手は身体強化しないと勝てません。じゃあどうする?」

「っ!…………あれ、出来、ました?」

「おめでとう」

「早っ!?」


 妄想力逞しいマオは今言った光景を完璧に脳内に浮かべた事だろう。

 マオのイメージとしては仲間を助ける為に強くなりたい、それだけで良かったみたいだ。


「何とまぁ、流石はお母さんと言いますか。とにかくおめでとうございます」

「あ、ありがとうございますっ!触手の魔物に襲われているお姉ちゃんが無事でよかったですっ」

「マオの脳内で私はそんなのに襲われていたのか」

「良かったね、助けられなくてエロい目に遭わずに済んで」


 ふっ……マオがエロい妄想出来るとは思わないだろ。汚れたマリアとは違うのだよ。


「ところで強化出来る様になったならキキョウぐらいならワイヤー無しで勝てるの?」

「どうでしょうか、互角ぐらいじゃないですか?」

「ほぅ、仮にも竜人を倒したマオと互角とはキキョウってそんな強かったのか」

「キキョウさんは正攻法では戦わないタイプですので」


 そう言われるとそんな感じに見える。私と一緒で心理戦だったり罠を仕掛けるのが好きなタイプだな。マオはアホの娘だからあっさり引っかかるだろう。


「今日はここまでですね」

「はい、ありがとうございましたっ」

「では私は黒竜とブラックドラゴンを売ってきますので」

「よろしくー。私達は……何しようか」


 何しようかと言った所で小さい影が文字通り飛んできた。

 この神殿内で私以外で小さい奴と言えばサヨかルリな訳だが今回はサヨだった。


「暇と聞いて。今から私の知り合いの農家の所に行って勧誘しましょう」

「必死ね」

「早く国内でメロンを作って欲しいので」


 しれっと自分の為だとのたまった。

 その農家とやらが住んでいるのはフィフス王国から90キロほど離れた小国とも言えない集落らしい。ウチの奴隷にいる妖怪娘と同じく妖怪なのだと。


「あそこに住むのは失敗作と称され捨てられた者達です。とはいえ奴隷にされるよりは捨てられて自由に暮らす方が幸せなのかもしれませんが」

「ならそっとしとけば?」

「いずれは見つかり殺されるか奴隷として売られますよ」


 まぁいい。だったら保護という名目でウチに住まわせて働いてもらうか。

 集落に向かうメンバーは私、サヨ、抱っこ係りとしてマオだ。マリアは本の続きを読むと言って私の部屋に戻った。自分の部屋に行けよと言いたい。


「あまり大人数だと怖がりますからね。この三人、とリンさんとマイさんで向かいます」


 サヨはやたら張り切っている。旅を再開して途中で寄った時ではダメのようだ。

 という事で準備が終わり次第今回も転移でさっさと向かうことになった。



☆☆☆☆☆☆



 着いた場所は森の中にひっそりと存在する集落だった。

 認識阻害の結界が張ってあるらしく、外から見ただけではただの森にしか見えず、また中に入ろうとしても気付かぬ内に素通りして森から出るという都合の良い結界となってるようだ。


「いかにも隠れて住んでますって感じね」

「実際そうですので」


 決して大きな集落ではない。人数にして十人も住んでれば多い方ってくらい小さな場所だ。農家と言うだけあって畑があり、更には果物がなる樹も複数あった。


「よくこんな日当たりの悪い場所で農作物が育つわね」

「腕が良いのですね」

「美味しそうです」


 堂々と歩いていれば見つかるのも当然、住民らしき男と女が警戒した様に近付いてきた。

 着物、というには華やかさのないが暗い色をした着物を着用している。

 男は気弱なのかビクビクしており、女の方は逆に威嚇している。


「とうとう見つかったようだね。まぁ見つかった所で全員始末すればいいんだけど」

「久しぶりですね」

「おっと、知り合いのフリしたって騙されないよ」

「天狗です。仮面をしてなきゃ分かりませんか?」


 威嚇していた女がきょとんとした顔になった。次にジロジロとサヨを観察し始める。

 しばらく観察して漸く納得言ったのか警戒をわずかに解く、完全に解かないのは私とマオが居るからだろう。


「確かに背丈と格好は天狗だぁね。しっかしまぁ、あんたそんな顔だったのか。可愛いもんじゃない」

「どうも。この方は私の姉であるペド・フィーリア様です。お守りしてる方がマオさんです。私の仲間ですので警戒は解いてください」

「姉って……いやいい、私達に危害を加えないなら何でもいいさ。ただまぁ天狗の知り合いでもここを害そうってんなら容赦しないよ」

「随分自信がある様ね」

「彼女は口裂け女の失敗作である口だけ女という妖怪です。実力は一般人並です」


 なんだその情けない妖怪は。

 全く威圧感が無かったから大した事無い奴だとは思ってたけど。


「あ、すいません……どうも」

「彼は一旦御免。一反木綿という妖怪の失敗作です」

「失敗というかふざけて造ったとしか思えないんだけど?」

「でしょうね。恐らく戯れに造られたのでしょう。彼に至っては木綿ですらありませんし」


 なんと惨い。生まれたらギャグみたいな存在だったとか私なら耐えられん。


「今日は私達の造った国に農家担当として勧誘にきたのです」

「ふぅん、分かってると思うけど私達はここを出る気はないよ」

「ええ、ですから勧誘するのは彼女だけです」

「そ……居なくなってもらっちゃ困るけど、こんな所に住まわせるよりはあんたらの所に居た方が安全か」


 事情は知らないが、ギャグ女達はここから離れる気はないらしい。この隠された集落に何かあるのだろうか……

 そこまで考えて別に気にする事でもないと気付いたので考えるのを止めた。

 ただいずれ見つかると言ってたし強引に連行しなくていいのか?と聞いたら奴等にはここに残らないといけない事情があるそうだ、それが何なのかは聞かない事にした。


 二人と別れて向かったのは集落の中でも特に小さい家。と言ってもマオが住んでたボロ小屋に比べれば立派なものである。

 サヨがノックをすると中から「はーい」という若い女の声がした。


「どうも、天狗です」

「……」

「おい、黙ったわよ」

「ふむ、久しぶりで忘れてしまったのですかね」


 サヨに会いたくないんじゃないかと言うのが私の意見だ。嫌われてるんじゃねぇか。


「どうしました?貴女の畑からメロンを頂いた天狗ですよー」

「やっぱりあなただったんですかっ!!」


 ドカンとドアを破壊する勢いで現れたのは茶色い髪を腰まで伸ばした少女。年としてはメルフィくらいか。

 しかし私の目が釘付けになっているのは一点のみ。


 この娘、大きな目が一つしかないのである。


「やっと出てきましたね。紹介します、彼女は一つ目小僧の娘である一つ目小娘です」

「語呂が悪い」

「で、こちらの方が」

「に、人間っっ!!」


 バタン、と今度もドアを破壊しそうな勢いで閉められた。

 ガチャガチャという音と何か重い物を引きずる音が聞こえるので必死にドアが開かない様にしてるのだと思われる。


「おやまぁ、恥ずかしがりやですね」

「どう見ても人間恐怖症だったじゃない」

「むむ、なんかわたしに似てます」

「性格的にはマオさんに似てるかもしれませんね。とりあえずドアを壊して中に入りましょう」


 何と言う押し入り強盗。どう見ても暴君と無力な村娘である。

 ドアを破壊して入ると目の前に箪笥の裏と思われる物体が現れた。箪笥と言っても小さい家相応に高さの低い小さい物だけど。箪笥の向こうには一つ目小娘が大きな目を涙目にしながらガクガクしている。


 やだ……いじめたい……


「あの娘、結構私好みかもしれない」

「気に入られました?」

「ええ、あの大きな目にぱんちしたい」

「ひいぃぃぃあああぁぁぁぁぁぁっ!!?」


 聞こえたみたいだ。だけど気に入ったのは事実。あの娘は一つ目ちゃんと呼ぶ事にしよう。あの娘はちゃん付けが良く似合う。


「早く一つ目ちゃん拉致るわよ」

「それは人聞きが悪いです。ちゃんと交渉して連れていきますよ」

「聞く耳もたないじゃない」

「そこは私に任せて下さい」


 妙に自信有り気なサヨにとりあえず任せてみる。

 任せてみたがまずやったのは箪笥を蹴りで破壊してビビらせる事だった。判断を誤ったかもしれない。


「今日は貴女を私達の国に勧誘しに参りました」

「か、勧誘……?」

「そうです。貴女には私達の国で農家としてその実力を発揮して欲しいのです」

「や、やだ」

「お願いします。私はこれまで貴女の作ったメロンしか盗んだ事がありません。それくらい貴女の腕を買っているのです」

「ぬ、盗まないで!?」


 なぜ印象を更に悪くするのか。サヨにとってはあれが褒め言葉なのか?

 昔の頭の良さそうだったサヨよカムバック。


「それに、貴女にとって悪い話でもありませんよ」

「……?」

「私達の国は小国なれど守りは堅固です。ここより安心して過ごす事が出来るでしょう」

「そ、それでも」

「更にっ、このお姉様は世界に愛されるという加護をお持ちです。おかげで我が国は妖精と精霊が溢れかえってます。農業するには最高の環境だと思いますが?」

「か、加護ですかっ!?」


 おお、食いついたぞ。前半は全く無関心で意味無かったけど、世界の加護とやらは興味を引く対象だったようだ。

 一つ目ちゃんはサヨを押しのけると私の前まで興奮気味でやってきた。哀れサヨ……


「あ、ああ、あの、加護っ……お持ちですか?」

「持ってるみたいね」

「す、すごいですっ尊敬しますっ!」

「そ、そう。グイグイ来るわね」

「ご、ごめんなさい」


 興奮したりしょんぼりしたりと忙しい娘だこと。

 抱っこされてるとちょうどいい位置に一つ目ちゃんの頭があるのでそっと撫でてやる。驚いた様だが手を振り払う事はない。


「一緒に来ない?」

「え……あの、はいっ!」


 よし、一つ目ちゃんゲットだぜ。難航しそうだったが案外チョロい娘でよかった。世界の加護にどんな思い入れがあるかは知らないが、持ってて良かった世界の加護である。


「…………計画通りです」

「嘘付け」

「サヨさん……」

「やめてください。何でマオさんに哀れんだ目で見られなきゃならないのですかっ!」


 ともあれ一つ目ちゃんは連れていける事になった。他の住民達を置いて自分だけ安全な場所に行くのを申し訳なさそうにしていたが、口だけは男前な口だけ女を筆頭に快く送り出した事で本人も笑顔で旅立つ事にしたようだ。


 これで新たに人材が増えた。一つ目ちゃんにはサヨが絶賛する腕を存分に奮ってもらうとしよう。今から収穫が楽しみだ。

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