幼女、お別れをする
奴隷共を連れて戻ると自称魔王とウチの最初に買った奴隷が熱いバトルを繰り広げていた。と言っても戦ってる訳ではないが。
「うぬぬぬっ!こ、ここ、こやつっ客に向かって何様なのだ!?」
「客?急に来て私達の主様に喧嘩を吹っかける者が客ぅ?……はっ、馬鹿というか常識のないだけではないですか?」
「ほ、ほぅ、如何にフィーリアの部下とは言え妾をこれ以上侮辱すると容赦はせぬぞ?」
「おやまぁ今度は弱い者いじめですか。そうですね、私程度ではあなたにあっさりと殺されるでしょうね。それもいいでしょう、その変わりあなたには主様にやられた腹いせに弱者である奴隷をいたぶるゲス野郎の汚名を被って頂きますが」
「お、ぉぉぉおぅ」
顔真っ赤なライチと何処から用意したのか扇子で口元を隠しながら余裕の表情を浮かべるキキョウ。何か生き生きしてるよなぁ
「ふぃ、ふぃーりあっ!?何だこやつは何なのだっ!?」
「ウチの奴隷だけど?」
「ぐぬ……ふ、ふっ。おいフィーリアよ、妾から見ればこやつの持つ野心は相当なものぞ?いずれそなたに反旗を翻し危害を加えるやもしれぬ。即刻追放するのがお勧めだ」
野心家なのは知ってる。
「ふふふ、所詮は自称フィーリア様の友、と言った所ですね。何も分かっておられない」
「く、何なのだこの余裕!?こんなの置いておいてよいのかフィーリア!?」
「キキョウはこんなだからいいんじゃない。従順で大人しいキキョウとか興味無いわ」
「馬鹿なっ!?」
「ふん、そもそも私がフィーリア様に反旗を翻すなど有り得ません。そして野心など誰しもが持ってておかしくは無いもの、野心以上に主に惹かれ忠誠を誓っておれば反逆などまずないでしょう……しかしまぁ何処ぞの魔王様は部下の離反が濃厚だとか?ぷふー」
「く、か、かか、帰るっ!妾は帰るぞアムリタっ!!」
「はいはい」
完全敗北したようだ。口だけで異世界の最強を追い返すとはキキョウもやる奴よ。どこでライチの兵達の離反を知ったんだとツッコミたいくらい情報収集能力も素晴らしい。
ぷんすかとキキョウを恨めしそうに睨みながらライチは帰っていった。アムリタはそんなライチを見て恍惚とした表情だった。奴はユキと同類かもしれん。
「やれやれ、どうやら招かれざる客はちゃんと追い返せましたね」
「よくまぁアイツ相手に無茶したわね」
「あの手の力馬鹿は持ち上げられるばかりで中傷には慣れてないでしょうからね。馬鹿という言葉を除いてですが。そしてプライドが高い、ただの弱い者苛めと称すれば手は出さないだろうと思いました」
「そのようね。私はアイツの扱いに困ったけど見事だわ」
「本日はお別れ会ですからね。騒がしいのは似合わないのでキキョウさんの行動は結果的に良かったかと」
それもそうだ。
お別れ会について一つ言いたい事があるが、部屋に飾り付けてあるのは花と黒白の幕……これ葬式じゃね?
この中だと妙に格好が似合っているサヨが恭しく包丁を手渡してきた。これで何をしろと言うのだろうか。
「では開会式という事でその包丁でぺけぴーに止めを」
『くるっくーーー!!』
「うん。何でよ」
「ぺけぴーのこの世とのお別れ会ではないのですか?」
違うだろ。誰もぺけぴーのお別れ会と言ってないだろ。どうしてそうなったのか知らんがあっさりぺけぴーを処分しようとするとかすげぇなコイツら。
「話が違うではないですかユキさん」
「そのようで、まさかぺけぴーではなくマイさんだったとは」
「オイヤメロ」
「ああ、分かったわ。確かに誰のとは言ってなかったっけ」
どうするか、あんたらの記憶には無いと思うけど今日一人フィーリア一家から去りましたとか言っても意味不明だろうし。
何にせよ主役は居ないので代わりであるアリス人形を奇跡ぱわーで召喚してテーブルの上に置いた。
「実は今日は私の人形遊びからの卒業って意味のお別れ会なのよ」
「何と嘘くさい。お姉様がお人形遊びしてる姿など見た事ありません」
「この人形も見た事ない」
「人形というか小さい人間にしか見えませんけど」
「可愛いですっ」
取ってつけた様な理由だがそういう事にしとこうと言う流れでお別れ会から人形遊び卒業式となった。もう名称とかどうでもいいや……
テーブルの上にはアリス人形の隣に同じポーズをしてるリンが居たりする。可愛い。
「では改めて。ぺけぴー存命記念祭を始めましょう」
「違うでしょ」
「ついでに新たな奴隷という名の仲間が増えた事を記念して」
「何でもいいからかんぱーい」
「いや乾杯って……お祝い事ではないのですが」
お別れ会が良く分からない宴会になってしまったが、これはこれでいいか。騒がしいのを好む娘だったし。
各々が好きな飲みものをグイっと飲んだところで奴隷達の紹介になる。
名前がそれぞれ数字になってる事に気付いた者が若干呆れた目でこちらを見るが無視。こういうのは分かりやすいのがいいんだ。
「あんたら、こいつがキキョウ。実力的にはあなた達の方が上かもしれないけど上司は上司、ちゃんとこいつの指示の元動くよーに」
「キキョウです。宜しくお願いします」
「「「「よ、宜しくお願いしますっ!」」」」
「……何か私は恐れられてませんか?」
口だけで自称魔王を追い払ったからじゃなかろうか。
強化した事でライチがどんだけ理不尽な存在かは感覚で分かってるはず。そのライチを泣かせて追い払ったのだから怖い上司認定されても変ではない。
紹介が終わった所で宿舎で何とも勿体無い使い方をしていた事をキキョウに告げると分かりましたと奴隷達に宿舎の使い方を教えだした。
「まず言っておきましょう。フィーリア様が求めるのは使える奴隷です。ちゃんと働いていれば他所と違って何をしようと寛容な方です。ろくな食事もせずに途中で倒れる様な奴隷など必要としてません。好きに使っていいと仰ったなら各自自分の部屋を選んで使いなさい」
「と、と言われましても」
「奴隷が個室って、贅沢な様な」
「サヨ様が折角ご用意してくださったのを使わないと?……それこそお怒りになりそうですけど」
チラッとサヨの方を伺いながら少しボリュームを落として言う。サヨはいきなりデザートであるメロンに夢中で聞いてないようだけど。
「まぁ、あなた達は奴隷の中でも底辺な扱いだったでしょうしすぐには無理でしょうが、慣れてくださいとしか言いようがありませんね」
「あの……」
こいつは確か、ディーだな。リスの獣人である……何だ、案外私も覚えていられるな。そのディーは私に何か用なのかチラチラ不安そうに伺ってくる。
「ああ、フィーリア様がそんな贅沢をお許しになるか気になるのですか……と、失礼します。この様に私達の主であるフィーリア様を抱っこしようが特にお怒りにはなりませんよ、ハァハァしたら殺されるかもしれませんが」
「おい。いやいい……そいつの言いたい事は別の事じゃない?」
「おや」
「は、はい。私達はご主人様のお陰で健康で強い身体を頂けました。その上普通の食事に自分達の部屋、一般人には普通でも奴隷には破格の待遇である暮らしをさせて頂けるのです、不満などありません。けど、その大恩をお返しするにはどうすれば良いのでしょう?」
「目的通り外部の敵からここを守ってくれればいいけど?」
その為に買ったし強化したのだ。私は決してコイツらを奴隷という身分から救った訳じゃない。やる事はやってくれないと困るぞ。
「全力で、お守り致します」
「うん。じゃあキキョウこのままあの茸料理のとこまでお願い」
「かしこまりました。では皆さん後ほど」
「「「「「はいっ」」」」」
「あ、最後に貰ったオマケ、確かキャトルね?貴女はちょっと一緒に来なさい」
「……はぃ」
★★★★★★★★★★
我等がご主人様とキキョウ様は奥の方に向かわれました。キャトルを連れていかれたが、性根の腐った貴族の様な仕打ちはされないでしょう。
「何か、私達って幸運だったのかな」
「そうですね……」
「俺は、あ、いや……自分は鼠の獣人なんだ、ですが、ちゃんと戦う事が出来るか不安です」
「別に同じ奴隷同士なら普段通りの口調でいいと思いますよ」
「大丈夫です。何でおまんじゅう一つ食べたらこうなったかわかりませんが、ご主人様から頂いた力があればきっとお守り出来ますよ」
おまんじゅう。ご主人様は何も無い場所からおまんじゅうをお出しになられました。
数少ない空間魔法の使い手という可能性も有りますが、後から頂いたこの軍服……明らかに私達用になっています。サイズもぴったり、獣人には尻尾が出る穴が、そして胸の所に各自の名前が入ってます。
つまりその場でお作りになられたもの。ならばあれは創造魔法……?
詳しくはわかりませんが、今は私達のご主人様はもの凄い方だと思っておけばいいでしょう。仕える主の詮索など無用ですね。
それよりもいつの間にか私達の目の前でメロンをもぐもぐ食べながら見つめてくる少女、確かサヨ様と呼ばれておりましたか……
見た目は子供ですが、ご主人様のお仲間と考えれば実力者であると予想出来ます。私達の宿舎を用意したのもこのサヨ様みたいですし。
無言、というかもぐもぐしながらじーっと見られるとこちらとしても段々動揺してしまいます。何か粗相をしたでしょうか?
「……ん、ああ失礼。少しメロンに夢中になりすぎました。改めまして、私はサヨと申します」
「こちらこそ改めまして、私はトロワと申します」
紹介は済みましたが、名乗られたからには名乗らなければなりません。私に続き一人ずつ挨拶していきます。皆さん緊張気味ですね、まぁこの場に居るのは私達より身分が上の方ばかりなので仕方ないのですが。
中には頂いた名前ではなく実の名を言いかけた者も居ました。
「もう知ってるかもしれませんが、貴女達の宿舎を用意したのは私です。しかし今日言われて今日用意した宿舎ですので内装はまだ未完成となっております。各自の部屋も家具が用意出来てない状態ですが、明日購入するので今日一日は我慢して下さいな」
「そ、そんなっ!自分達の宿舎があるだけ有り難いですっ!」
「そ、そうだ、ですよ?」
一部言葉遣いが危なっかしい者が居ますね。宿舎に戻ったらちゃんと言葉遣いのお勉強をさせましょう。
「ふむふむ、なるほど。まぁ何はともあれ今後とも宜しくお願いします」
「こちらこそっ!?」
「宜しくお願いしゅ!」
「あぁ、貴女達の名前をお姉様が勝手に変えた事で不満がある者が居るかもしれませんので言っておきますが、お姉様は他人の名前を覚えるのが割と苦手な方なのです。数字で呼ばれて嫌な気もするかもしれませんが、あれはあれでお姉様が一人一人覚える為の努力なのです。なので悪く思わないで下さい」
「とんでもありません。むしろ私達の為に努力して頂けた事に感謝致します!」
そうだったんですね、ですが名前を呼ばれない奴隷など普通の事です。例え数字だろうと私達個人を指し示す名前がある事に不満などありません。
私達の言葉に満足気な様子でサヨ様は宴へとお戻りになられました。
ただ、満足気でしたが少々訝しげにこちらを見ていたのはちょっと気になりました。ちょっとですけど。
☆☆☆☆☆☆
「洗脳でもしたのですか?」
「いきなり失礼ね。あの娘達の事ならちょっと忠誠心上げただけよ」
「ほう、まぁあの様子ではわざわざ上げずとも十分な忠誠を誓っていたでしょうけど」
たまには椎茸でも食べようと思ってたところでサヨが現れた。
しかしサヨの目から見ても十分な忠誠を得られているってのは良い事である。
おっと、ちょうどサヨが来たので例の訳ありの奴隷を見てもらって異常がないか調べて貰おうか。
「このキャトルは訳ありって事でタダで貰った、というか押し付けられたのだけど何かわかる?」
「分かるも何も、この娘は呪いをかけられておりますが?」
「一目見ただけでお分かりになるのですか?サヨ様は凄いですね」
「呪いというか、周囲に災いを振り撒く悪霊の類を憑けられていると言った方が正しいですがね」
周囲に災いか、あの店が早く手放したくなる訳である。だったら最初から引き取るなと言いたいが恐らく売りに来たのが貴族で拒否出来なかったのだろう。
事実話を聞けばある貴族を没落させる為に献上され、その貴族を没落させた後は奴隷となり主人を変える度に不幸にしてきたそうだ。このまま放っておけばウチも何かしらの災いが降りかかるのかもしれない。
「なかなかに悪趣味な術者な様で、魂に刻まれてるのか悪霊を無理矢理引き離すにはこの娘が死ぬ事になりかねませんね」
「普通ならね」
普通じゃない私はキャトルの頭に手をかざしその悪霊とやらを引っ張り出す様に念じる。
するとぬるーっと黒いもやがキャトルから出てきた。もちろんキャトルが死んでしまった何て事はない。
消えうせろ――
念じるだけでいいのだが、何となくカッコいいので握り潰すような仕草をして悪霊を消し去った。しかし魂に刻むか、ウチにもそんな娘が一人居る。誰かと言えばもちろんメルフィな訳だが……主人とやらの封印をといてそのままメルフィが死ぬとか困る。
キャトルの事が無ければ気付かないまま封印を解いていたに違いない。
「……ありが、とうございます」
「別にいいわ。貴女のおかげで私としてもまた仲間を失う羽目にならずに済んだかもしれないし」
「また、ですか?」
この質問をしたのはサヨである。またと言ってもこの娘達は分かるまい。適当に誤魔化しておくか
「気にする必要はないわよ」
「まぁ、分かりました」
「じゃ、キャトルは戻っていいわよ」
用事は済んだので戻れと言ったがこちらを見たまま動く気配がない。今までの扱いから物静かな性格になってしまったのは分かるが、何と言うか、こう……言いたい事があるなら早く言えって感じ。
「ご主人様は、すごい」
「そりゃどうも」
「……頑張ります」
「ええ、頑張りなさい」
何を頑張るのか知らんけど、良く分からないが決意した様でその目には強い意思が見えた。ぺこりと頭を下げてから奴隷達の方へ戻っていくキャトルを見送っていると
「あれはお姉様を裏切る事はないですね」
「それはようございますね」
「悪霊を消しただけなのに、チョロいわ」
「お姉様は自分のした事をもう少し評価すべきですね」
さて、次はメルフィだな。封印を解かずして解放する事になったけど、今はこっちに代償がない以上やらなきゃ損だ。
今日メルフィを自由にしようが封印を解く事に変わりは無い。ソイツは封印されたまま未だ生きている気がするのボコボコにした後でできちんと止めを刺すとしよう。
という事でどうやって呪いを解くか、っていつも通りなんだけど。
「メルフィを蝕む呪いよ消え去れっと」
メルフィに向かって奇跡ぱわーを使用する。別に何かが起こった訳ではないのだがパキっと何かが割れた様な気がした。
同時に私の手にもズキッという痛みと共にナイフで切られた様な傷が出来た。
「む、呪いの分際で奇跡ぱわー相手に抵抗したか」
「何をしたか分かりませんが治癒するので動かないでください」
「はいはい」
呪いのせいで傷が治らないなんて事はなくきちんと治った。
抵抗はされたが呪いは消えたはず。だが奇跡ぱわーに抵抗してきたのはあれが初めてだ。メルフィの元主とやらは聞いた以上にヤバイ奴かもしれない。
今の騒動に目ざとく気付いたユキがスタスタと寄ってきた。
「大丈夫ですか?生意気にもキキョウさんが抱っこしている状態のお母さん」
「……そ、そろそろ手が疲れたのでユキ様に交代して頂いて宜しいですか?」
「ええもちろんです」
珍しく口が悪いユキである。何か嫌な事でもあったか?
「いえ、すいません。ただの八つ当たりです。今日を振り返ってましたら自分では敵わない様な相手が一気に現れたのを思い出したので自分の不甲斐なさを痛感していたのです」
「……まんじゅう食べる?」
「何でおまんじゅうかは分かりませんがお母さんの作ったものなら喜んで食べましょう」
奴隷達に食べさせたものと同じまんじゅうをユキに創ってやった。ぶっちゃけ奇跡人に効果があるかは分からないが、機嫌は直ったみたいなので良しとしよう。
「ユキさんばかりずるいです。私にも下さい」
「宜しければ私も……」
まぁいいか。
サヨとキキョウにも渡し、どうせだから全員にまんじゅうを食べさせる事にしよう。より人外度が増そうが知った事じゃない。
さあ食うがいい、何も知らずに強くなりたまえ。
「じゃ、私はマオ達にまんじゅうを届けてくるわ」
ユキから降りてもの凄く幸せそうに料理を口にしてるマオともの凄く早い速度で胃に料理を突っ込んでいるメルフィ達の所に向かった。
☆☆☆☆☆☆
フィーリア様に頂いたおまんじゅう、美味しそうだとは思いましたが実際はかなり美味しいです。これは是非とも緑茶と一緒に頂きたいですね。
「にしてもお姉様がここまで奴隷を気にかけるとは思いませんでした。お姉様の内面も変わりつつあるのかもしれませんね」
「私としましてはこれまでのフィーリア様で一向に構いませんけど」
ユキ様がルリ様に頼んでお茶を用意してくださいました。やはりお茶ですね……ふぅ。
ほっと一息ついた所でユキ様が何かを話し始められたようなのでサヨ様共々聞くことにします。
「お母さんは、学生の頃からセティ様に買って頂いた筆記用具、服、リュック、何でも大事になさる方です」
「……」
何とも聞きたくない話が始まりそうなのですが、ここは大人しく聞いておきましょう。
「これまでの旅で破れた服だって私が縫って今も着用されてます」
「こほん……あー、つまり?」
「お母さんは、ご自身のモノは非常に大事になさいます。つまりはそう言う事です」
最後の一言を言うユキ様の表情は無表情でした。
「お母さんはきっと何も変わっておられませんよ?」
その次の言葉を放つ時は何とも綺麗な笑みを浮かべられておりました。
はっきり言ってこのユキ様はとても怖いです。サヨ様も何とも言えないしかめっ面になってます。
「キキョウさん」
「は、はいっ!?」
びっくりしました。びっくりしやがりましたともっ!!
「この先キキョウさんも自分の部下として奴隷を購入される事もあるでしょう……その時はきちんと教育なさって下さい。仮に購入なさった奴隷がお母さんの機嫌を損ねたら他人の奴隷なぞ即処刑されるかもしれません」
「肝に銘じておきます……」
だったら今後もフィーリア様に奴隷を購入する様に言ってくださいよっ!
などと言えるわけねーです……
というか……フィーリア様が手を出す前にユキ様が始末しそうなんですけど?
★★★★★★★★★★
うむ、食べ過ぎた。茸料理の種類が多いからいけないのだ。
もちろんガッツリ肉も食べたけど……普段の倍は食べた気がする。
食後の運動という訳ではないが神殿から出てその辺を散歩している。神殿から数キロ以内は結界を張ってあるとの事なのでその範囲でだが。というかそこまで歩けないけど。
現在は夜、代償がない無敵タイムもあと僅かか……やり残した事ないかなぁ、無いんだよなぁ。
「こんな所で歩き回ってると取り憑いちゃうぞ?」
「出来もしない事は言うもんじゃないわよ」
「うへへ、それはどうかなお嬢さん」
背中に軽い衝撃。鬱陶しいのが抱きついてきたのだろう。
同時に手を首に回されるが、その手は限りなく薄く今にも消えそうだ。
「主役のくせに遅い登場ね」
「いやー、私ってばもう身体が消えてたからねっ。ただ……皆の事は何となく見てたよ」
「もういくの?」
「うん、帰るよ」
そうか、まぁ仕方ない。思い返せばアリスと共に過ごした日々は……もの凄くウザったかったな。
「失礼な事考えてるでしょ!?」
「自覚があるのね」
「ちょっと……って、時間無いんだからっ。変な会話の途中でお別れとかいやだよ?」
「ならさっさと言いたい事を言えばいい」
「楽しかった、ちい姉達との旅は楽しかったっ!」
私もそうだな……やかましかったけど。
「ってそれだけ?」
「それだけ。時間無いって言ったじゃん」
「あ、そう」
「ちい姉、こっちの私をよろしくね」
「ええ」
すっとアリスは私から離れる。もう行くのだろう。最後に再び会えただけでも僥倖ってもんだ。
「じゃあね、ちい姉。皆は忘れちゃったけど、私の事をたまーにでも思い出してね」
「キャラが濃いから忘れないわよ」
「くふふ、バイバイちい姉っ!」
振り向けばもうそこにアリスは居なかった。
まだあったな、やり残した事が……無茶をした妹への贈り物が。
「貰いっぱなしとか性に合わないのよね」
向こうの私は眠りっぱなしと言っていたな。それが過去に来た切欠でもある。目覚めさせる事はアリスへの贈り物としてはベストだと思う。
だけど向こうの私よ、私はお前の為に力など使わんぞ?
「私の可愛い妹に祝福を、あの娘の未来が常に笑顔であらんことを」
神殿の前でこんなセリフとかおあつらえ向きだわ。世界は違えど、ちゃんと叶えろよ奇跡ぱわー。
それに応えたかの様に奇跡すてっきが一瞬光った気がした。




