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幼女、危険視される

 一難去ってまた一難。聞くはするが体験するのは珍しい。

 剣を抜いてこちらに歩み寄るって事は友好ではないといったアピールか。


「装備からしてそこらの雑魚軍隊とは違うみたいですが」

「何か得体の知れない感じがしますし、装備を抜きにしても辛そうな相手に見えますが?」

「まぁ争いに来た訳じゃないかもしれないじゃない」

「どう見ても一触即発ですが」


 鎧に兜と全身の素肌を隠すスタイルだが、目の部分だけはちゃんと空いている。そこから覗く目はこれでもかってくらい赤い。私の明るめの紅と違い限りなく濃い赤だ。

 目だけとはいえ急所は狙えるのは有り難い。戦闘になったらマオのワイヤーが役に立ってくれる事だろう。


 そのままこちらに来るのかと思いきや20メートルほど離れた位置でそいつらは止まった。

 そして剣をそのまま地面に突き刺す。敵対しませんという合図か何かだろうか?


「ここにいた巨大な魔物はどうした?」


 隊長格と思われる先頭に立っていた一人だけマントを羽織った人物が話しかけてきた。高めの声で男か女かは分からない。

 どうも奴等の狙いはアトロノモスだったらしい。


「あの化け物なら地底に送り帰しましたが」

「一足遅かったか。とはいえ、如何に我々でもアレを相手にするのは少々骨が折れただろう。素材を逃したのは惜しいが、無駄に負傷者を出さなかったと思えばよし……だがアレを送還するとな、見た目によらず大した者達よ」


 安定の上から目線である。

 こう偉そうな奴等って事は後ろ盾が結構大きな所だと思うが、ここら辺で言えばサード帝国とかな。


「肩にある刻印を御覧下さい。あれはサード帝国のものです」

「予想通りね。場所が場所だから出くわす可能性もあったでしょうけど、まさか本当に会うとはね」

「しかし昔見た時はサード帝国の兵士にこんな奴等いませんでしたが……最近出来た騎士団でしょうか?」

「いや、あいつら……人間じゃない。俺は知らない種族だけどドグマというらしい」


 そう呟いたのはナキリだ。こいつも鑑定とかいう便利な能力を持っていたっけ。

 しかし人間じゃないか、皆が等しく同じ様に赤い目を持っていたから変だとは思っていたが。私としてもドグマなんて聞いた事ない。


 ナキリの呟きは驚く事に離れた位置にいる奴等にも聞こえたらしく、愉快そうに語りかけてくる。


「外部に情報は流さなかったが、まさか知っている者が居ようとは……いや、何かしらの方法で我々の事を今知ったか?」

「こいつら全て始末しますか?」

「いや、もう隠す必要もなかろう。すでに国内は支配下においた」


 支配下?

 サード帝国を支配したのか?


 それを肯定するかの様に肩に付いていた刻印をベリっと剥がすと新たな刻印が現れた。

 何の紋章なのかは分からない。ただ何か牙を持った生き物の様に見える。


「サード帝国だったか?愚かにも我々を召喚し、使役しようとした奴等は例外なく皆殺しにした。中々に骨のある奴等だったので楽しかったぞ」

「あのサード帝国を侵略?……中々に厄介ですね」

「それよりも召喚という事は異世界の者達という可能性が高いですね」


 じゃあ何か、あいつらはヨーコやナキリみたいに一人一人えげつない能力を持ってたりするのか?

 それが軍隊単位、いや国単位でこちらに来たのならとんでもなくめんどくさい奴等だ。


「サード帝国にいた民達はどうしたの!」

「前と変わらず暮らしておるぞ、何も変わらず、な」

「……元々サード帝国の民の扱いは奴隷か家畜みたいなものです。変わらないという事はそういう事なのでしょう」

「支配者が変わろうが変わるまいが民達の暮らしは変わらないのですね」


 問題はそこじゃない。こいつらはこの世界に来てこれからどうするかだ。

 私が気になる事は代わりにユキが聞いてくれた。


「あなた方はこの世界でこれからどうするつもりなのでしょう」

「この世界はまるで楽園だ。我々のいた世界と違ってな……少なくとも閣下はこの世界の全てを手中に収めるつもりであらせられる。この黒竜とかいうデカいトカゲの装備も中々のものだ、この世界の資源を奪い尽くした後は元の世に戻りこの地で得た武器を使い暴れる事になろうな」


 うわー……お約束な展開だった。サード帝国もアホな事をしてくれたもんだ、異世界人を大人数呼ぶとかアホ以外言い様がない。

 どうしようか、今の内に国ごと消し去ってやれば解決するのだが。


「無関係の民がいるんだからやめてねドンちゃん」

「なぜ分かった。そういうけど今の内にどうにかしないと後々面倒よ、私だって常に無双出来る訳じゃないの」

「その通りですね。他国の民を想うのも結構ですが、後々戦争にでもなったら自国の兵士達が多数犠牲になりますよ?自分の国の民もですが」

「うっ……」


 自分の国が一番サード帝国に近いって事を忘れてるんじゃなかろうかと。

 だがただの冒険者である私達が口を出す場面ではないとも思うからここは各国のお偉いさん達に任せるとしよう。


「それで、侵略者さん達はどうするつもりかしら?」

「先程言った通りだ。閣下の思し召しのままに……ただ、この場は退こう。正直な話、個人としてだがこの場の全ての者を相手にするのは構わんがそこの童女、今のところ君だけは敵に回したくない」

「私?……あらまぁ、随分と買われたものね」

「お姉ちゃんなら当然ですっ!」


 何故かマオが威張っていた。


 それはともかく今の私の状態がバレたか?

 違うか、アトロノモスの事と言いこの場で起こった出来事を何らかの方法で見ていたのだろう。私に気付かせないとはなかなかやる。


「サード帝国がこの大陸最強と聞いたが、所詮は国の話……たった一人の子供がそれ以上の脅威とは、恐ろしい世界よ。ワンス王国とトゥース王国だったか?そちらの国に手を出すのは今はやめておこう。この場にこうして出向いたのはあのデカブツの捕獲、そして君に敵対する意思はないと伝える為だ」

「今は、なのね」

「最終的な決断をするのは閣下なのでな、だが閣下もあれで好戦的なのがな……ん、了解した。戻ったら世界にある各国に伝えるといい、そう遠くない内に全てを頂きに参ると」

「いきなり来ていきなり宣戦布告するとかまるで本に書いてあるやられ役の様な馬鹿達ねっ!」


 念話でもしたのか、何か確認した後にそう言ってきた。受け答えしてたのはリーベなのだが、アホなのか物怖じしない奴よの。


「ああ、別に我々はこの世界を征服する訳ではない。いずれ元の世界へ戻るつもりだからな。が、言葉通り使える物は食料から武器まで全て頂く事になるだろう。素直に差し出せば死ぬ事はないぞ……ではな、敵として会わない事を祈る」


 リーベに関しては全く興味が無いのか言うだけ言って黒い集団は現れた時と同じ様に転移で去っていった。

 ユキ達と違って魔法陣も書かずに転移したって事は魔法とは違うのかもしれない。異世界から来た事で得た能力かも。


「食料全部持ってかれて民を飢えさせる訳にはいかないし、結局戦う事になるじゃないっ!」

「……ドンちゃんどうしよっか?」

「閣下とやら次第みたいだけど、攻めてきたなら好きに戦争すれば?」

「負けちゃうよ!?」

「そのセリフはここに居る兵士達が頼りないって事ね」

「そ、そこまでは言ってないけど」


 装備の面ですでに大きく負けてるもんなぁ……だが黒竜の鱗で出来た装備がそう何着もあるとは思えない。あの集団だけの装備品だろう。

 ただし、他の軍隊が別のドラゴンの鎧を付けている可能性はある。


「だから今の内に消滅させようって言ってるのに」

「だからそれはダメだって言ってるのに」

「後で後悔すんじゃないわよ」

「うぐ……」


 甘ちゃんはこれだから困る。サード帝国の民が本当に生かされている保証なんてないんだからやっちまえばいいんだ。


「誘拐された者達の救出に来たってのに出くわしたのはサード帝国を潰した異世界の軍隊。困った事になったわねミラ。私は一刻も早く城に戻って報告すべきだと思うけど?」

「でもまだ誘拐された人達を保護してないし」

「幻獣数体と兵士数人に伝令を任せればいいでしょ」

「あ、そっか」


 早速伝令を頼もうとするミラに私が待ったをかける。


「ここにまだ向かって来てる魔物がまだ居るわ。幻獣が居れば何とかなるでしょうけど、念の為サヨにでも送ってもらいなさい」

「わ、ありがとうドンちゃん」

「ではハンナにも頼むことにしましょう」

「待って、私もお願いするわ。ナキリとか言ったわね?あなたは奴等の正体が分かってるみたいだから一緒に来てもらうわよ」

「え……でもドグマって種族ぐらいしか分からないってさっき」

「いいから来なさいっ!……お仲間も一緒にね」


 あーあ、要らん事言うからリーベに捕まった。この後言いくるめられて結局手伝わされるというかリーベの私兵として組み込まれるんだろうな。

 連れの仲間達はナキリを非難、というか蹴りを浴びせながらも相手が王族なので渋々従う様子。ご愁傷様だ。


「お待ち下さい姫様、我々も一緒に戻ります!」

「あなた達は誘拐された娘達の救出っ!じゃ、とっとと飛ばしてちょうだい」

「私に命令しないで下さい。転移」

「アリーヴェデルチ姫っ!」


 え?妹もおかしな名前だったけどリーベも変な名前だったの?

 名付け親が一緒ならそうおかしな事でもない、のか?


「ちょっとミラ、あんにゃろうはアリーヴェデルチとかいう変な名前だったの?」

「う、うん」

「急に親近感が失せたわ」

「まぁリーベという渾名の方がお母さんと縁のある言葉だったですし」


 まぁミラの友達って事は私にとっては他人だからいいけど……

 それよりも置いてかれた例の監視役の兵士の不服そうな顔ったらないわ。それ以外の兵士はただただ急展開に戸惑っているが……


「止められなかったな」

「あぁ……相変わらずアプリ姫様の心労が絶えない事だ」

「騎士団の試験さえ受けずに自分の兵に組み込むとか不平不満が出るに決まっているだろうに。しかも礼儀を知らぬ冒険者が主だ」

「だが、今のこの状況だ。幸運な事に我が国は今は大丈夫なようだが、内部で争いを起こしてる場合じゃない。急いで我々も戻るとしよう」

「救助者達はどうする?」

「他に残っている者達に任せればいい。早くアプリ姫様に知らせる方が先だ」


 相談が終わると後ろに居た他の兵士達に指示を出しすぐさま戻って……いけずにミラに頼んで空を飛べる幻獣にお願いしてから去っていった。


 ワンス王国の中ではそうなっていたか。

 つまりリーベが好き勝手やるのをアプリが諌めているのだが、聞く耳もたないリーベが無視して実力のみで冒険者を騎士に取り立てている。

 アプリが貴族連中を取り込んでいるのではなく、リーベが貴族連中に嫌われており大多数がアプリ派に付いているってのが真実だろう。


 当然だ。騎士だって金がかかる。なのに腕っ節があるという理由だけで冒険者を登用するならそりゃ困るわ。王は何やってんだ、娘に甘い親父なのか?


「残念ながらミラのお友達よりアプリって妹の方が常識人だと思うわ」

「リ、リーベちゃんだって悪い娘じゃないんだよ?」

「姫様、今はワンス王国の事よりうちの事ですよー」

「フィーリア様のおかげで一番近い位置にあるトゥース王国も矛先から外された様なので一先ずは安心、なのでしょうか。良かったですね、フィーリア様と友達で」

「でしょ?」

「別にミラ様が威張る事ではありませんがね」

「何を安心してますか。お姉様を敵に回したくないというのはあくまで個人の話でしょうに……ぼそっと言っていた言葉から閣下とやらは好戦的みたいなので嬉々として攻めてくる可能性も有りますよ」

「この場で戦闘にならなかっただけでも有り難いですけどね」


 私としてはこの場で攻めてきてもらって消滅させたかった。


 まぁ年内に攻めてくるって事はないだろう。ただ戦いの準備は出来ても兵士の強さは時間的にどうしようもないとは思うが。


 とりあえずこの場に留まってジェイコブ達を待つ事にしてるのだが、そろそろ魔物の群れがやってくるんじゃなかろうか。


「ああ、魔物の反応でしたら遠ざかっていきますね。恐らく幻獣達にビビッて逃げたのかと。お姉様も元に戻ってますし」

「何と都合の良い」

「世の中そんなものなのじゃ」


 じゃあここに居る必要はもうないか。結局あんまり暴れてないなぁ……


 しばらく待っているとジェイコブ達を連れて兵士達が戻ってきた。エロで評判のシックス王国の軍とは遭遇しなくて済んだ模様。

 わざわざ私達まで待っていたのはアンがジェイコブ達のパーティを抜けるという事を伝える為だ。で、現在あれこれ説明中である。


「あ、そうだ……帰ったらお別れ会しなきゃね。という事で料理を多少豪勢によろしく」

「……かしこまりました。ちなみに、いえ何でもありません」


 何か妙に深刻そうな顔で返事をしたユキだが、何でもないというのなら気にしないでおこう。

 ふむ、帰ったら奇跡ぱわーが使い放題の内にアリスの人形でも創っておくか。



★★★★★★★★★★



『お別れ会しなきゃ』


 そう、お別れ会。確かにお母さんはそう仰った。

 問題は誰のお別れ会なのだという事。


 その辺の事を相談しようとお母さんに聞こえない位置まで離れて会議を行う。


「とりあえず料理をお任せになるという事は私ではないと思います。というかお母さんが私を捨てるなど有り得ません」

「貴女は新手の脅威よりそっちのが重要なのですか……しかも何ですかその謎の自信。ちなみに私でもない……はず、です」

「姉さんも今後の建国の事を考えて違うと思います」

「ふむ……」

「な、なんですかその目はっ!?わ、わたしだって言うんですかっ!!!?」


 いや、お気に入りであるマオさんではないと思う。

 しかしただチラっと見ただけでこの反応、よほど自分に自信がないと思われる。


 ちょっと考えてみるか……とにかくお母さんは強さより便利さと気に入ってるかの方が重要視されているからそこら辺を考えて選出するか。


 まずドリンクバーのルリさんは除外していいだろう。

 残るはメルフィさん、キキョウさん、新規参入のマリアさんとアンさん……流石に仲間にしたばかりでお別れって事はない筈だから新メンバーの二人は除外。


 メルフィさん……うーん、無いな。

 姉曰く最近調子に乗ってるキキョウさん……お母さんはあの性格を気に入ってるみたいなのでこれも違う。

 となると……マイさんとリンさん?役立たずっぷりを発揮したマイさんが少々怪しいですが、あれでお母さんの子供の頃のお友達なので違うでしょう。リンさんも考えられない、となると――




「結論としてぺけぴーのお別れ会という事になりました」

「何で急にぺけぴーを捨てる事になったか知りませんが、あの駄馬なら仕方ないですね」

「しっくりくるのじゃ」

「では今日の夜はぺけぴーの最後の晩餐という事で」

「皆さんひどいです……」


 ぺけぴーとお別れとなると新しい馬を調達しないといけませんね……今度は働き者のユニクスでも連れてこようか。


 ジェイコブさん達とのお別れが済んだのか、アンさんが戻って来たので私達はお先にお暇する事にする。

 お母さんがミラさんとジェイコブさんに何か一言仰ってからこちらに戻ってこられた所で国まで転移で帰った。

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