幼女が自称女神を一方的に殴る話
「ユキ、今よっ!そこで皇竜列斬波!!」
「そんなもの使えませんよっ、と!」
鞭を一振りするだけでブラックドラゴンの首を切断した。流石にマオよりは戦闘技術がある分首を切れる技量はあるみたい。流石は私の娘だ。
ユキとサヨは個人でブラックドラゴンを狩っていき、メルフィとルリはペアで狩っていく。
「こうして見ると君達の仲間も大概強いよね」
「悔しいけど今の私達よりは上」
「まぁね」
ほぼ人外だし。あの男もスキルとやらでユキ達の強さを判断し、大丈夫だと考えて任せたのだろう。
その判断は正しく、飛竜相手と変わらず一撃の元に屠っていく。メルフィとルリは魔法なので若干梃子摺ってはいるが。
と脳内で実況してる内にブラックドラゴンの最後の一体の首が斬られた。
ちゃんとお金に換える様であの男が倒した黒竜以外のドラゴンを亜空間に仕舞っている。
ブラックドラゴンと黒竜の差がありすぎる。
「終わった」
「ご苦労様」
「く……私達では黒竜を倒せませんでした」
「そう?時間かければ倒せたでしょうに」
「それでもです。マオさんを危ない目にもあわせてしまいましたし」
あれはマオの自業自得だと思うが。ブレスを吐くドラゴンの真正面から攻撃するとかおかしいから。真正面から戦う場合はドラゴンが立っていて、尚且つ素早く懐に潜り込める速度を持った者に限定される。
あの娘の場合は馬鹿正直な性格が出てしまったのかも。
「残念です……美味と言われてる黒竜の肉をお母さんにお召し上がりになって頂こうと思ったのですが」
「……美味いの?」
「実際には食べた事はないのですが、牛とも豚とも鳥とも違う臭みの無い極上の肉らしいですよ」
事情が変わった。
上空に待機している偉そうな黒竜は食材になってもらうことにしよう。
とりあえず落ちろ。
急に落下して驚いたのか上から咆哮が聞こえる。顔からこちらに落ちてくるが、このままだと色々と被害が出そうなので地面にぶつかる寸前で止めた。
「ひゃあああああああっ!?」
「こ、黒竜!?まだいたのですか!!」
慌ててるのはナキリという男の取り巻きだけ。
ユキ達はリベンジのチャンスとばかりに瞳がギラついている。
あの男も突然出てきた黒竜に慌てて戻って来ようとするが、その必要はない。
『こ、この我をこうもたやすく』
良くある強者が予想外の攻撃に驚くの図だ。残念ながらウチの娘達はそういうの無視するタイプなので喋ってる内に各自攻撃を仕掛けている。
そして丁度サヨが渾身の一撃ですと言いそうな薙刀に何か魔力を込めてそうな一撃を与えるタイミングで私は呟く。
「死ね」
死んだ。
ドスンとその場に倒れ付して死んだ。
別に攻撃した訳ではない。ただ死ねと念じたら死んだ。意識がハッキリしてる時に使うとなんかこう……あっけなさすぎてヤバイ。
「死んだわよ。亜空間に仕舞っといて」
「……はぃ」
サヨがとぼとぼと黒竜に近付いて亜空間に仕舞う。チャンスを潰されてガッカリした様子。当然だが私の仕業だとバレたか。
悪いな、ユキ達に任せるとまた手柄を横取りされかねないのだ。
そう言えば慌てていた女達が黙ったな。まぁ無理もないけど。
「あれ……何で今ので死ぬかな。鑑定で見たステータスではまだ余裕が有りそうだったのに」
またナキリという男が独り言を言っていた。だが今回は鑑定という言葉とステータスという言葉が気になった。
それが先程言っていたスキルという奴か。察するに他人の強さや種族が分かるという代物か……便利だな。魔法であれば覚えさせたいが、全魔法使えるユキが使ってなかったので魔法じゃ無理。
まぁ奇跡ぱわーなら何とかなるけどね。でも相手の情報が全て分かってはつまらない、やはり不要だな。
「流石ですフィーリア様」
「今回は肉の為に特別よ」
「今のなに、ですか……?」
「気にしなくていいわ。皇竜列斬波と一緒よ」
「全然違いますよっ!?どう見ても死を与える様な攻撃じゃなかったのに!!」
「私は聞こえてましたよ?貴女が死ねと言ったら死にました」
耳の良い事で。別にバレてもいいけど。
「あはは……助太刀の必要は無かったみたいだね。で、今のは君のスキル、じゃなくて能力かな」
「そんな感じよ」
「もしかして、貴女も異世界から?」
「ちゃんとこっちで生まれてるわよ失礼ね」
先祖はどうなのか知らんがな。
しかし鑑定とやらで奇跡ぱわーの事は知られてないのか。万能って訳じゃないんだな
「このハーレムっぷりにあの力、あの娘は転生者かもしれない。しかもTSかもしれない」
してねぇよ、そりゃメルフィだよ。ていうか聞こえてるんだよ。黙って心の中で呟けよ。
だがあの口ぶり、まるで転生者が当たり前みたいな感じだ。そんなに居るのかよ
「少し、聞いていいかな?」
「あの化け物はいいの?」
「いや、うん……襲ってくる様子はないし。正直こっちの方が気になる」
「まぁいいわ」
「あの、変な事聞くけど……異世界とか転生って知ってる?」
「言葉だけはね」
「そう、だよね。ず、ずばり聞くけど君は転生者かい?」
転生者とは何をもって転生者なのだろう。メルフィの様に記憶を持ったまま次の生を受ける事であるなら転生者ではない。
先代の力を受け継いだのを転生……いやこれは先祖返りか。
「定義が分からないけど転生なんてしてないわ」
「あれ、じゃあその異世界人か転生者としか思えない力は」
「これは私がご先祖様の力を受け継いで生まれてしまったってだけよ」
「なるほど……異世界人の子孫か」
違う。先代もあれはあれでこの世界の者だろう。
でも説明がめんどうなのでそういう事にしておこう。
「君の力はどういう物なのか聞いても?」
「あなたは初対面の相手に自分の手口を教えるっての?」
「そっか、すまない」
「逆に聞くわ。冒険者してるって事は国仕えじゃないんでしょ?あなたはどうやってこの世界に来たの?」
ナキリという男は仲間の女性達を見る。そして全員が首を横に振っているのをみると困った様な顔をした。自分が異世界人だと言う事を隠したかったとか?
私が知らなかったとしてもあんな質問したら自分、異世界から来ましたと思われると考えなかったのか、まだ若そうだし頭が回らなかったかも。
「知ってる様だから白状するけど、確かに俺は異世界人だよ。それで、何で冒険者かって言うと……」
「言うと?」
「えーっと、知らない内にいきなりこの世界の何処かの森に居たから?」
嘘くせぇ……いや半分嘘くさい。急に森の中に居たってのは本当だろう。
だが知らない内に?
「ギルティ。知らない内に来たとは思えない」
「いや、本当なんだ」
「なら何時からこの世界に居るの?」
「一年、かな」
一年で五人も女を囲ったか。私が言うなって感じだけど。
「一年で能力を使いこなせるのね。異世界人ってのは凄いわ」
「いやまぁ、うん」
「ふーん」
「…………わ、分かったよ、言うよ」
別に疑ってたのではなくヨーコという前例があるから納得しかけただけなのだが、疑われていると思ったのか白状してくれるらしい。
「この世界に来る前だけど……最初天界という場所に呼ばれて俺は女神様によってここに送られたんだ」
「何言ってんだコイツ」
「いや本当なんだって!?その女神様に能力を貰ってここにきたんだ」
「拉致されたのね」
「いや、そういう訳じゃないけど……まぁ今は送られて感謝してるよ」
と言いながら取り巻きの女共を見て微笑む。女性陣は顔を真っ赤にして嬉しそうだ。
それを見て五丁目の馬鹿達は号泣してるが見苦しいから止めろ。
しかし女神……ふふふ、女神か。
コイツだな。コイツこそ私がボッコボコにしたいと思う奴だな。
「この世界に神なんて居ないわ。居るとすればこの世界そのものが神よ」
「だから本当だって。まぁ信じられないのも分かるけど」
「私達も最初ナキリさんが何を言ってるんだろうって思いましたもんねー」
「確証は無いけど多分そいつは神の名を騙る偽者よ。この世界にも宗教で神を奉るって風習はあるけど、どれも架空の神か伝説を残した者を神格化したものばかり、本物の神なんかいやしないわ」
神みたいな奴か、神が居ないとすると天使……む、何か響きがしっくりくる。ソイツの事は一先ず天使と呼んでおこう。
もちろん翼人種こそ居れども天使なんてこれまた架空の存在だ。
「偽者とか……何の根拠があって」
「根拠なんて無いわ。私の勘よ。けど能力を与えたね……言っておくけど異世界人ってのはこの世界に来るだけで何かしらの強力な力を得られるの。その何ちゃって女神様が与えずともね」
「それは身体能力とかの話だろ?」
「いいえ、あなたが不躾に私達を観察してた力もそうでしょう」
「ば、バレてたんだ……その、ごめん」
別に私は怒っちゃいないが、勝手に色々と見られたユキ達は少々顔が険しくなった。
「その女神様とやらはあなたがどういう力を持っているか知っていた。それをあたかも自分が力を与えたかの様に言った、てのが真実かな」
「……悪いけど、信じられない」
「構わない。別に私は真実とかどうでもいい」
「なら、なんで」
「その女神様とやらに私は用があるの。一方的なね」
一方的な暴力だがな。
異世界から人間を拉致ってこの世界に送り込む遊びなのか知らないが、私がこの状態の時に知られるとは不運な奴。
しかしボコボコにしようにもその女神とやらの居場所は分からない。
だけど知ってる奴なら、ここに居る。
「ちょっと貴方の記憶を覗かせて貰うわよ。その女神って奴の所だけだから安心して」
「ちょ、ちょっと待ってっ!?……そんな事出来るのかはともかく、あの、覗いてどうするのかな?」
「もちろん……引きずり出して、ボコボコにする」
ナキリは絶句した。そりゃ女神をボコボコにする何て普通は考えないわな。
固まってしまったのでここぞとばかりに記憶を覗かせてもらう。
頭の中に浮かんだのは全てが白い場所に居るこの男と……件の女神とやら。
純白の羽衣にかなり整った顔、金色の髪はサラサラなロングストレートになっており確かに女神と呼ぶにふさわしい。
目は青かった。正確には片方が緑で片方が青、オッドアイという奴か。
ナキリと女神の話を聞いて要約すると、間違って殺しちゃったのでお詫びに転生させます、との事。
嘘付け、真っ白な地面に良く見るとうっすらと魔方陣があるじゃないか。消すならちゃんと消せ馬鹿。
やっぱり完全に自分で召喚してやがる……ただまぁ一人で召喚するのは見事と言うか。
そしてこの普通なら誰もが見惚れる微笑……目が新しい玩具を見つけた子供の様だ。
有罪。こいつはボコボコにしていい奴に決定。
ではまずは奴をこの場に引きずり出すとしようか……
アイツが居た場所は亜空間とも言えるこの世界とは別の場所。ただ亜空間は入ると死ぬらしいので別の場所か。
マオから降りて天を見る。天界というくらいだ、空の上に自分の住める空間を創っているハズ。
流石の私でもこの広い空からアイツの根城を探すのは難しい。
逆に考えよう。奴の根城を探すのではなく、こちらに呼び寄せるのだ。
目を瞑り、空に手を伸ばしてナキリの記憶で見た空間を頭の中に描く。それをそのままこちらに来いと更に願う。
すると手の先に何か空気の塊に触れた様な感触がした。
当たりか、思わずニヤニヤしてしまう。
そしてズブズブとその中に手を入れていく。周りからギャーギャー騒ぐ声が聞こえたが無視。
ふと、頭に描いた空間の中に人の形をした者が現れた。
そいつの襟首をむんずと引っ掴み、空間から引きずり出してそのまま地面に叩きつけた。
目を開けるとそこには顔面から地面に叩きつけられた金髪に羽衣姿のお目当ての人物が居た。
「う、そだろ……」
「こ、この人がナキリ様の仰っていた女神様でしょうか?」
「あ、ああ……」
驚きを隠せないナキリ達に対し
「痛そうですね」
「姉さんに狙われるとか可哀想」
「じゃの」
可哀想なものを見る目で見つめるフィーリア一家。この差は一体……
「い、いたた……な、なに?」
「こんにちわ女神様?」
「ここは、地上?何がどうなって」
「私が隠れていた貴女を引きずり出したのよ」
顔に土がついたまま驚いた顔でこちらを見る。間近で見るとメルフィを超える美しさだ。私が男だったらヤバかったかも。
信じられないって顔だが、現にこの場に居るので納得した様子。
気持ちの整理がついたのか徐々に表情が険しくなってきた。
「女神であるあたしに対してこの所業、ただでは済まないわよ」
「ふふ、どうよ?ユキ達はコイツに勝てる?」
「いえ、正直良い勝負が出来るとも言えません」
「女神というだけあって私達全員で戦っても倒すのは不可能でしょう」
結構。それほど強い方がボコボコにし甲斐があるというものだ。
「馬鹿なあなたと違ってお仲間さんはちゃんと分かっているようね。ここに呼ばれたのは驚いたけど、ただの幼女程度が何しようっていうの?」
「……神のくせに私の事が分かってないようね」
多分ナキリと同じく鑑定とか言うのを使ったのだろうが、こいつも奇跡ぱわーの事が分かっていない。流石先代が使用したチートぱわー、隠蔽もバッチリだ。
殺気の篭った目を向けてくるが勝てる訳無い、ユキ達にそう思わせるほどの脅威を私は感じてない。
むしろ余裕でボコボコに出来る気さえしてる。
「あの、女神様」
「……ああ、いつぞやの方ですね」
「ぷふー、間違えて殺したとか言い訳した相手をあっさり忘れるのね。飽きて観察するのを止めてたの?」
ナキリには見惚れる笑顔を向けるが、こちらには女神とは言えない形相で睨んでくる。分かりやすい奴だ。
しかし名前すら忘れるとか飽きたのバレバレだろ。
「これは一体どういう状況なのですか?……まさかあなた」
「ち、違いますっ!俺は、何にも……」
「そう、ですよね」
「私の完全な独断よ。腹が立ったのなら神の裁きとやらを与えればいいじゃない」
「ただの幼女が、少々お仕置きをしないといけません」
目の前に居るのは偉そうな一般人並の幼女が一人。それが自分をボコボコにしたら果たしてどんな顔をするのやら。
「楽しみねぇ」
「ここではお仕置きするには巻き込まれる方が居そうなので特別にあたしの空間に招待しましょう」
「空間。天界じゃなくて空間、ね」
「……行きますよ」
失言だった、と顔に出てるぞ馬鹿め。
私と女神の周りだけ空間が歪んだと思ったら周りが真っ白な空間に居た。
一瞬でやってのけるとは少しは見直した。
「全く、何なのかしらねこの生意気な小娘は」
「それが素みたいね」
「うっさいばーか。どうせあんたは生きてここから出られないからいいのよ」
どこから取り出したのかジャラジャラと邪魔そうな飾りが一杯ついた杖をこちらに向ける。
「一つ聞くけど、貴女も異世界人だったってオチ?」
「はぁ?あたしは女神ですけどー?」
「どうせ殺すんでしょ?なら本当の事を言いなさいな」
「何でこいつ上から目線なのかしらね、まぁいいわ……そうね、私は天使なのよ。能力は御覧の通り空間と鑑定」
「ふむ。その空間の能力を使って異世界からナキリを拉致ってこの世界に放り込んでニヤニヤしながら見てたのね」
「察しが良過ぎるのもあれね、寿命が縮んじゃうわよ」
「で?お前の年は?」
「さぁね、もう千年は生きてるかもねっ!」
私の立っている場所、正確には立っていた場所の空間が歪んだ。
歪んだというか黒い空間が生まれていた。あれに吸い込まれたら流石の私でも生きちゃいまい。
「ふん、ざまぁ見なさいっての」
私が後ろに回りこんだ事も分からないとは残念な奴め。
まずはその尻を思いっきり蹴らせてもらうっ
「ひぎゃんっ!?」
「はっ、蹴り応えのある尻じゃない」
「いたた、この、ガキんちょめっ!」
思いっきり蹴っただけあってズサーっと勢い良く飛んでいった。
涙目だが体勢を素早く整えるとガキみたいなセリフを吐き、今度は奴の居る周囲の他全てに先程の黒い空間を発生させてきた。
つまり奴の周囲なら安全という事だ。アイツ頭悪いな。
一瞬で目の前まできた私に驚いた表情をする。その僅かな隙をついて今度は腹をぐーぱんでめり込ませた。
集中が途切れたからか空間の消滅は止まり、当の本人はうぐうぐと蹲っている。
私の感想としては驚きの弱さ。これに尽きる。
流石は最強というか、正直こいつが物理だけで襲ってきてもユキ達は勝てないだろう。だが、それがこんなもんだ。
「ぅー、な、何者よあんたっ!」
「鑑定で見たんでしょうが」
「有り得ないっ!ただの幼女のハズなのにっ!?……そもそも何であたしがこんな目にっ!」
「余罪があるかは知らないけど、異世界から人間を拉致った上に世界に放って面白おかしく見て遊んでいたでしょうに。そのツケが回ってきたのね」
「ぅ……別に、いいじゃない。この世界の人間じゃないんだし」
「とんだカスね。勝手に他人を家族と離れ離れにしておいて良くそんな事が言えるわ」
「つーん。家族なんて知らないもん」
「ババアのくせに子供か」
「誰がババアよっ!?……仕方ないじゃない、本当に知らないんだもの。物心ついた時には変な空間に入れられて帰ってきたら神扱いだったんだから。……と言っても一日で嫌になってすぐにここに引き篭もったけど」
何だそれ……変な空間?
「一応聞きましょう」
「だから、異世界人と一緒でこの世界とは違う空間に入って生きて戻ってこれたら特別な力を貰えるんだって」
「生きて戻ってこれたら、ね。異世界人召喚の他にもゲスい行為があったものだわ」
「何言ってんのよ、あなたもそうでしょうに。天使を倒せるのは同じ天使だけ、常識でしょ」
「どこの常識か知らないけど違うわよ。私は普通の家庭に生まれて普通に育って普通じゃない学園生活を送って今に至るの」
「何で一部普通じゃないの……だけど、それが本当なら正真正銘変な奴ね」
自覚はしている。
にしても天使か……やはりしっくり来ただけあって呼び名は天使だったか。無理矢理異世界人並の力を入手させられた者。聞いた事無いな。
仮に奇跡ぱわーも同じ代物なら先代はどこぞの空間に落とされて生還した事になる。しかし代償があるとは言え奇跡ぱわーだけ桁違いの性能なので違うかも。
でも良く考えたら代償も無しに空間系の魔法もどきを使える方がいい気がするわ。
天使とやらの事は後回しにして、コイツの事だ。
「家族を知らない、か」
金髪、子供っぽい、うるさい。どこぞの妹と被るな。
まるでアリスの代わりに出会ったとでも言わんばかりの偶然がかなりムカつく。
「貴女が拉致する様な輩で助かったわ。ぶん殴れる理由が出来たからね」
「ふんっ!あたしの本気はここからだっ!」
すでに目の前まで迫っていた。本気というのも伊達ではない。
だが所詮引きこもりのぼっち。ただただ杖を振るって殴りかかってきては適当に空間を歪ませる攻撃をしてくるだけ。
とはいえ速度だけでユキ達なら圧倒されるだろう。
だけど最強である私は杖を奇跡すてっきで受け流し、鬱陶しくなってきた空間の歪みは消去する。
馬鹿な天使は一々驚いて隙を作ってくれるので当然隙をついて殴る。
「ふんっ!何だっ、この、胸はぁぁっ!」
「ごふっ!?いた、ちょ、待ってぐふー」
羽衣の上からでも分かるメルフィに匹敵する乳。柔らかさは違った。ババアだからか若干メルフィより張りが無かった気がする。垂れてはないけど。
揉んだわけではない。当然思いっきり殴ったのだ。思いっきり殴っても壊れないのは尻を蹴った時点で実証されている。
……そう考えると骨が折れない時点で恐ろしい程頑丈じゃないか?
「うっ、ひぐ……うぅー」
「泣いてる暇は無いと思うけど?」
「もう、やだっ!痛い!あほーっ!!」
まんま子供だ。千年も生きておいて精神が成長しちゃいない。
……こんな真っ白で何も無い空間に一人で生きてきたなら仕方ないのかも。良く狂わなかったと言うべきか
「こんな場所に一人で、精神は子供みたいだけど良く狂わなかったわね」
「ぐす、なに言ってるの?気が狂っちゃうのは真っ赤な部屋でしょ」
何言ってんだコイツ。まさか思い込みだけで千年も精神が無事だったってのか?
ある意味凄い奴だ。いや、もしかしたら本当に暗い部屋や赤い部屋はダメだが白い部屋なら一人で千年引きこもっても大丈夫なのかもしれない。
私も一年は余裕で引きこもってたが、千年となるとどうだろうか。
「参った。もう降参するから殴らないでよぉ」
「……」
ふむ。戦った時間は僅かに数分、これだけ強いのだから殴られ慣れてないのだろうな。完全に戦意が無くなった様だ。そりゃ自分は散々殴られて私は無傷だもんなぁ
しかし、これでアリスも満足した事だろう。これだけ強い存在をボコボコにしてやったのだから……
…………
「何だ、本当に消えちゃったのか」
「うぇ?」
実は消えてなくて照れ笑いしながら「ちい姉は凄いねっ」とか言いながら出てきたりするのかと思ったけど、これが現実だ。
本の様にハッピーエンドにはならない。あの娘は帰っていったのだ。だが生きて元の居場所に帰ったのだからそれはそれでハッピーエンドか。
「……」
「いだだだっ!?こ、降参って言ったじゃない!!」
「殴ってないじゃない」
「踏むのもダメっ!?」
こいつに八つ当たりしてもどうにもならない。
いいさ、私だけがあの娘を覚えておけばいい。
「どうしようかねコイツ」
「えぐえぐ」
「空間か……使えるかな」
「う?」
「貴女は私の為に働いて貰いましょうかね」
「……?」
空間が使えるなど言い訳に過ぎない。ただ、あの娘とダブって見えたから気が変わっただけだ。
……多少は楽しそうな奴だと感じた事もある。主にからかうと、だが。
「せいぜい自分が金髪な事に感謝しなさい。この私の仲間にしてあげる」
「……え?強制?」
「嫌ならここで更なる暴行の果てに死に絶えるだけよ」
「……」
「まだ何か?」
困った様な顔になったり顔を赤くしたりと忙しい奴だ。
言いたい事があれば言えばいいのに……
「あの、ね?あたしって、その、仲間とか友達とかと一緒にいた経験、無かったりするんだけど……?」
「そんだけ強いくせに気が小さい奴ね。安心しなさい、私の仲間、家族はほとんどぼっちだった奴ばかりよ。同じぼっち同士何とかなるでしょ」
「ぐっ……うん、わかった。どうしてもって言うんなら、仕方ないなぁもうっ」
「気が変わった。死ぬまで殴る」
「ごめんねっ!?ごめんなさいっ!仲間に入れて下さいお願いしますーーーっ!!!?」
私の誠意の篭った勧誘に乗ってくれたようだ。
……何やってんだろうな、私は。アリスの代わりなど居ないのに。
だが、大勢は大勢だ。新たに一人増えた。だったらそれでいいじゃないか
「で、貴女の名前は?私の事は鑑定とやらで知ったでしょうけど私は貴女の名前を知らないわ」
「マリアベルっ!」
「なら、マリアね」
元気な奴だ。私から受けたダメージも無さげだし……
「一応貴女は罪人よ。ナキリはともかく、他に拉致った者が死んでたりするかもしれない」
「あたしはそのナキリってのしか召喚してないよ」
それは良かった。いや良くないけど初犯の内にボコれたので再犯は防げた。
じゃあマリアを連れて元の場所に戻るとしよう。とりあえずナキリに土下座で謝罪させるか。




