幼女とアリス
「な、何だったんだろ?」
急に爆発音と思われる音がしたと思ったら天井が崩れてきた。咄嗟に精霊に頼んで風でこちらに瓦礫が降って来ないように頼んだから大丈夫だったけど。
救出した者達はあの広い場所に居た人数から考えておよそ8割ほど、残りの人達が今ので生き埋めになってたり最悪死んでなければいいんだけど……
「……もしかしたらあの化け物が暴れだしたのかもしれない。急いで他の人達を助けてここを出ましょう」
「は、はい!」
非常事態だからか、はたまた同じ捕らえられていた者のよしみかは不明だが、不吉な髪の色を持つ私を気にせず従ってくれるのは有り難い。必ず無事に連れ出してみせる。
すぐさま次の部屋へ向かうが先程の衝撃のせいか開きにくくなっている。吹き飛ばすと中に居る人が危ないためまた風の精霊に頼んで切断してもらい中に入る。
「死ねっ!ゲスめが!」
叫び声すらあげさせず外道な男の首をぶった切り中に居た女性を救助する。
残念ながらここに来るまでに助けた女性のほとんどが命以外は無事ではなかったりした。私ですらギリギリ助けられたのだ、仕方ないのかもしれない。けど、自分だけ助かったのは何とも申し訳なくなる。
慰めてる暇はないので無理矢理ではあるがシーツを羽織らせて再び他の部屋まで走る。
「あと何部屋あるんだろ……」
「残りはそう多くは無いと思いますけど」
「あの、出口ってあるんでしょうか?」
出口……考えてなかった。あの穴があった場所はまず崩壊してるだろうから別に探す必要がある。でもいざとなったら精霊魔法で地上まで穴を空ければいい。
ふと、私達以外の足音が聞こえたので皆に立ち止まる様に制する。耳をすませばやはり後方から数人走っている音が聞こえた。
怯える彼女達を守る為に私が前に出て相手を待ち構え、相手が現れるのを待った。
現れたのは……今の仲間である冒険者達と、クズでどうしようもない冒険者達だった。
★★★★★★★★★★
「きひっ、あははははははははっ!!」
「ばびっいぃがめ、ぼ」
「なにいってるかわかんないっ!」
鼻を殴り潰す。鼻の骨を折るんじゃない、平べったくなるまで殴って潰していくのだ。
頬は力任せに顎と一緒に裂いたからリュックと同じくらいに裂かれてる事だろう。おかげで手も袖も血でべったべたである。
意識も失えず痛みに狂う事も出来ずなおかつ死ねない、私がそうさせているのだが一体どれくらい辛いのだろうか……けど仕方ないね、こいつが悪いんだから。
「つぎは……目かな」
「はびゅー、ひぃ」
「おー、にげるにげる」
さっき踏んだから背骨でも折れたのか腕だけで逃げようとする。
うん、足が邪魔そうだから切ってあげよう。
「ぎっ」
今の私なら何でも出来る、手でスパっと足を切断する事もね。
もちろん両足だ。これで少しは身軽になった事だろう。
「にげないの?」
「……ぃぃぃっ!」
おお、さっきより早くなった。元気元気。この足どうしよう?
んーーーーーーー
「つっこんじゃえ」
「ぶっ!?」
突っ込んだ。何処にかと言えば口である。
さっき引き裂いたから柔らかい邪魔な肉を潰せばギリギリだけど入る……だが喉でつっかえてしまう。
そこはあれだ、無理矢理にでもねじ込む。色々な音がして喉が破壊されたみたいだけどいいか。
「くちからあしがはえてる!!あっはははははははは!!!」
☆☆☆☆☆☆
何か物凄い光景が浮かんだ。具体的には口から足が生えた生物が誕生したみたいな。……何で想像したんだ私。
いかん、お母さんの声を聞いてたら全く集中出来ない。私の周りだけ風魔法は切っておこう。
「奇跡人って口に足が入るんだねぇ」
「もう一本はどこに突き刺すのでしょうか……ああ、楽しみです」
「キキョウちゃんもイケる口だねぇ」
「こほん、別にああいうのが好きという訳ではありません」
嘘付け、目が釘付けだし頬の紅潮さが半端ないじゃないか。
幼女が血塗れになりながら嬉々として人を玩具にしていたぶるのを赤らめ顔で見る娘……人様には見られたくない光景だ。
……はっ、あんな大きな化け物が現れたんだからその内冒険者なり騎士の討伐隊なり来てもおかしくない。というか普通は来るだろう。
まだ時間はあるだろうけど、早く飽きて止めを刺してくれる事を祈っておく。奇跡人じゃなければもう死んでるが。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい。早かったですね」
「潜って探して転移して戻ってくるだけです。そりゃ早いですよ」
「そうですか。てっきり先程お母さんに褒められて張り切ってしまったのかと思いました」
「べ、べつにそんなことは」
照れる姉……こう照れてる様は可愛らしいと思う、何か胸が熱くなる。
しかし中身がババアだと思ったら萎えた。
ババアが顔を赤くして照れるとか誰が得するのか
「ぶち殺しますよ?」
「ああ、口に出てましたか……私はまだ3年ほどしか生きてない若い命なので殺さないでくれると助かります」
「み、見た目が若いならババアじゃないですっ!」
「ぐはあぁぁっ!」
ユニクスが身代わりになってくれたようだ。また血が補充出来そうだな、助かる。
そういや姉達が戻ってきたと言う事はあのエルフ達も救助されたんだっけ。
★★★★★★★★★★
ファルクスとミレーユのおかげで救助作業は割と早く済んだ。五丁目の人達は当然の如く役に立たなかった。心のケアと称してロクに身に纏ってない格好の女性達を視姦する始末。
その後あの娘の仲間の方と合流して転移で地上に送ってもらった。あの娘が助けを呼ぶなんて思ってなかったけど、どうやら独断で来たらしい。
「地上は素晴らしいな……」
「ああ、ここは平原だった気がするがな」
「これはまた、酷い荒れ具合だね」
「あのおチビが暴走したんでしょ」
平原だったらしいこの場所は大きな爆発でもあったのか焦土と化していた。
この辺りが緑で溢れていたなど信じられない……だが遠くを見れば確かに緑が茂っている。
物凄く大きい生物が離れていくのを見たが、今はあの娘をどうにかしないととばっちりで私達もヤバい。
しかし前に山の中で精霊魔法ぶっ放した私が言うのもなんなのだが、やりすぎではなかろうか……
その爆発の中心地みたいな場所であの娘はおぞましい行為を行っている真っ最中だった。
なんか……口から足の生えた生物を誕生させてるみたい。思わず寒気がした。
私ですらこんななので一緒に脱出してきた一般人な彼女達は顔を青くして視線を逸らす……当然だろう。
ファルクス、は何とか耐えてるがミレーユがもうガクガク震えてる。そういえば昔あの娘に耳を狙われてたっけ……
「今回は止めないのですか?」
「う?……んー、今回は悪い人相手なのでいいんじゃないですかぁ?」
「マオさんも変わりましたね。はっはっは」
「口裂きはえぐいが、口から足が生えてるとこう、面白い物として見れるの」
笑ってる場合じゃないしっ!?面白くもないしっ!!?
ダメだ、この人達は盲目的な信者と一緒なのであの娘がやる事成す事疑問すら抱かない人種だ。
「ではユキさん達の所に私達は戻りましょう。貴女方もここから離れる事をお勧めします」
確かに、この荒れ具合を見れば被害が無かった場所まで避難した方がいい。
ただの一般人もいることだし早めに行動を起こさないと……!
★★★★★★★★★★
くふふふふ……流石はお姉ちゃんというか、非道な行為をあっさりとやってくれる。
だけどもうお終いかな、もう十分に制裁を加えた。後はもう止めを刺して終わり……
何にも効かないし何でも出来る、そうお姉ちゃんは言ってたけどそんなまさに神みたいな力を使い続けたら後が危なすぎる。ここらが潮時だろう。
問題は原因であるリュックがまだ直ってないって所かな。
ユキちゃんが必死に直してるけど、完全に直すのは無理だろう。その事でまたぷっつんされても困るしここは私が何とかするか……
「貸してユキちゃん。私が何とかするよ」
「何とか出来るのですか?」
「うん」
今回は私のせいでも有るしね、お詫びにはならないと思うけど。
次はどう変形させるかを悩んでそうな姉のもとへ転移で送ってもらい、そろそろお開きだと告げる。
「ちい姉、そろそろ気が晴れたんじゃないかなっ?」
「ぜんぜん」
「むふー、私のあげたリュックでそこまで怒ってくれるのは嬉しいねぇ。けど、それ以上はちい姉が危ないからやめよっか」
よいしょっと、リュックを直すにはもうアレを使うっきゃない。
色々思い出したみたいだし、察しの良いお姉ちゃんなら私がどんな存在なのか十分検討がついてるはず。だったらもう隠す必要もないだろう。
「じゃーん」
「奇跡すてっき」
「そ、お揃いだね」
借り物ですけどねー。しかも目の前にいる人と同一人物のだし。
サクっと直してあんにゃろうに止めを刺して万事解決!
後の生物はまぁ誰かが何とかするさ。
「この私にお任せだよ」
「おー」
「と言ってもちい姉より凄い事は出来ないけどね」
基本的にお姉ちゃん絡みでないとこの子は言う事を聞いてくれない。
どんだけお姉ちゃん命なんだよって感じだ。
でもまぁ私も似たようなもんだけどね……
もう十年以上は使ってくれてるリュックを自然に浮かんだ笑みを崩さず見つめながら直る様に祈る。後は奇跡ぱわーが何とかしてくれる。
「使っちゃだめ」
「え?……もう使ったけど。大丈夫だって、ほら……もう直ったよっ!」
ズタボロだったリュックは以前の、それこそ最初にプレゼントした時の様に復元された。何か耳も修復されたみたいだったが、それも含めて直った様だ。
仕上がりに満足したあと、はいどうぞっ!っとお姉ちゃんにリュックを渡す。
渡したつもりだったけど、リュックはお姉ちゃんの手には渡らず私と一緒に地についていた。
あれー……
「アリス」
「あー、大丈夫。代償だからちょっとすれば治るよ」
「……アリス」
……わかってるよ。だって私の身体が消えていってるもの。
無茶、しすぎたかな。
思えばさっきの天使と戦ってる時やけに効果が切れるのが早かった。あの時までが私がこの世界に居続けられる限界だったのだろう。
私は馬鹿だから、それに気がつけなかった。ただそれだけだ。
でも、でもだ。
お姉ちゃんを庇って劇的に消えるのでもなく、世界に仇名す敵を倒す為に命をかけるのでもなく
リュックを直したら消えるってどうなのさ。
世界を救う伝説のアイテムでも何でもないただのリュックである。
こんなのに命をかけたのは私が世界初じゃなかろうか……気付かなかったとはいえ間抜けだ。
何か物語の途中で要らなくなったから消されるみたいじゃないか。
でも、私らしいっちゃ私らしい。
「ふっ……笑いたきゃ笑えばいいさちい姉よ、このリュック一つで消えるお馬鹿な私をー」
「そうね。確かに馬鹿」
「あははははっ!でもいいさ、お馬鹿な方が記憶に残るでしょ?つまり結果オーライ」
「ええ、別にお馬鹿じゃなくても忘れないけど」
「……何だよー、違うじゃん。ここは死にかけの私に対してざまぁとか言う場面じゃん」
しんみりしたのは嫌だ、まるで元の場所での毎日の生活を思い出す。
お姉ちゃんが私の側に座って膝枕しようとしてくれるけど、すでに触れる事も出来ないのでそれすら叶わない。
「そういえばさ、良く分かったね。私が次に力を使ったら危ないって」
「その子が教えてくれたわ……色々とね」
「奇跡すてっきか、私の身を案じてくれるまでに仲良しになったかー」
「ええ、良かったわね」
返事が淡白である。もう元のお姉ちゃんに戻ったみたいだ。
でも奇跡すてっきには感謝だ。こうして突然居なくならずに別れぐらい言える時間をくれたんだし。
「あのさ、私って鬱陶しかったりする?」
「物凄くウザかった。並のウザさじゃないわね」
「酷い……」
「ま、楽しかったわ」
私も楽しかった。
たった数ヶ月一緒にいただけだけど、皆と居た毎日は素晴らしい日々だった。本当の家族じゃないけど、私が夢見た光景があった。
でも、それも終わり。もう私の役目も終わったってもんだ。
まぁここに再び来たのは勝手に初代が送ったんだけど。
もうお姉ちゃんは一人じゃない。天使の脅威があるとは思うけど、皆と一緒ならどうにでもなるだろう。
「私さ、皆で食卓を囲んで一緒に食べるのって楽しかったよ。まぁ私は食べれないけどさ」
「身体が無いからね」
「そうだ、色々悪戯しちゃったから代わりに謝っておいてね」
「嫌よ」
「後はね、えーっとぉ……もっと色々あるんだよ!」
他には……ダメだ、焦って頭の中がぐちゃぐちゃだ。
もう私には時間がないんだ、今の内に言いたい事を言わないとダメなのに
「アリス」
「ちょ、ちょっと待ってねっ」
「未来をありがとう」
「……」
「今の私達があるのは貴女のおかげなのね……だから、ありがとう」
……ずっるい
この場面で、そんな言葉ずるい。嫌だ、まだ消えたくない!
私が本来居るべき世界じゃないのは分かってるけど、もっとここに居たい。
「何か、ちい姉に感謝の言葉って似合わないね……もう、どうやってもここには居られない?」
「そうね。例え奇跡ぱわーを使ったところで貴女はもうここには居られないでしょう」
「……そ、だよね。消えたら、どうなるのかな」
あの世にでも行くのかな。
あの世なんて存在しないかもしれない。永遠に続く眠りにつくのかもしれない。
それは……とても怖い事だ。
生きてる内はそんな事考えもしなかった。だけど、目の前まで迫ってる消滅が私は酷く怖い。
「貴女は死なないわ」
「え?」
「ただ、元の場所に帰るだけ」
元の場所……元の世界?
育ての親であるユキと、今なお眠り続けてるお姉ちゃんが居るあの世界に……
ああそうだ、私にはまだ……寝ぼすけな姉を起こさなきゃいけないって仕事があった。
帰らなくちゃ……こっちのお姉ちゃんはきっと大丈夫。
「アリス。私の妹、貴女がなぜここに来たのかは知らないけど、何処かの未来から来た妹と会えるなんて滅多にというか有り得ない経験させて貰ったわ」
「くふふ……そうだね」
「貴女が何でそんな身体なのか、別に死んだからではない。すでにこちらには貴女の肉体が存在してる、だから貴女は精神だけこちらに来た」
ああ、もうお母さんが妊娠してるんだっけ。そっか、だからなんだ。
て事はここに来る前に見た天使によって破壊された世界でもどこかで私は、いやきっと私達は生きてたんだろう。
「本来なら、私の妹が産まれてアリスと名付けられるまでは存在出来たでしょうけど」
「私が、無茶しちゃったからだね」
「そう、無茶させたわ。ごめんなさい」
「うわ、感謝もだけどちい姉の謝罪とか気持ち悪っ!?」
「何だとボケナス」
私の頭を叩こうとするけど当然すり抜ける。ふははは、私にはもはや物理は効かないのだよ!
流石に攻撃が効かないのでお姉ちゃんは早々に諦めた。
「……この、考えなしに突っ走る馬鹿妹め」
「ちい姉に言われたくない」
「私達だけの未来だけを変えるなんて出来る訳ないでしょう?……この世界に存在する全てが貴女の取った行動によって何かしら影響を受けてるハズよ」
あー、そうみたいだね。初代にも言ったけど、そのせいで不幸になる人が出てこようが私には関係ない。私にとって大事な人達の未来さえ良くなればそれでいい。
「……そんな貴女でもここに居られるのを許したこの酷い世界に、私は感謝している」
「うん」
「……」
それっきりお姉ちゃんは黙ってしまった。もう、終わりなのかな?
でも酷い世界に感謝ってなんだろ?
「帰ったら……ちい姉の好きな茸でも食べてみようかな、あれ美味しそうだもん」
「……そ」
さて、今どれくらい消えかかってるのかな?
何となく腰までは消えてる気がする。案外しぶとい奴だ私も
寝てるちょうど目の前には私のあげたリュックがある。
今後もお姉ちゃんの相棒として頑張りたまへと偉そうに後を託しておく。
「ねえ……何で泣いてるの?」
「……」
「いやさ、ちい姉が泣くシーンとかユキちゃんが絵にしちゃいたいほどレアだとは思うけどさ」
でも何かいいな、泣くほど好意を持たれてたって事だ。
この世界で誰も敵わない最強の姉に。この私がだ。
「私のお姉ちゃんは小さいくせに誰よりも強くて誰よりも狡賢くて誰よりも自己中で……」
「……」
「とにかくっ!……人前で泣く様な弱っちぃ存在じゃないでしょ!?泣かないでよっ!!」
「……っ」
「お、おばかっ!あほっ!最後までわ、わたしの知ってるさいきょうのちい姉じゃないといやだっ!!」
だけどとうとう両手で顔を覆ってしまうほど泣き出してしまう。
私の声なんか聞いちゃいない。
声を上げないのはプライドの為かはたまた私の言葉のせいか。
くそったれめ……こんな時でも私は消えていくばかり。
何やってんだ奇跡ぱわーは!?
「ぅぇっ……ひ、ぐっ」
「お姉ちゃん」
見た目相応に泣きじゃくるお姉ちゃんを抱きしめてあやす……
だけどそれは私じゃ無かった。
マオちゃん……お姉ちゃんが冒険に出て一番最初に仲間に引き入れた悪魔のくせに聖人かってくらい優しい娘。
思えばこの娘に会う事が一つの鍵だったのかもしれない。私の本当のお姉ちゃんはユキを創造して2年眠っていた。当然学園を卒業するのも2年遅くなる。
こっちのお姉ちゃんと同じく一年も何もせず暮らしていたなら冒険に出た時にはすでにマオちゃんは死んでいただろう。
私は未来を変えた、マオちゃんはお姉ちゃん自身を変えたのかも。
そのせいで弱くなった部分もあるだろうけど、きっと今の方がいいと思う。
にしても良いトコ取りされたみたいで悔しいなぁ……
「お姉ちゃん、どうしたんですか?……何か悲しい事がありましたか?」
「あまりの出来事にマオさんに遅れを取りましたが、泣くほどあの奇跡人にムカついたのでしょうか」
「……リュックに異常はありません。セーフです」
……
……は、まるで横で消えかけてる私の事なんか見えてませんって感じだ。
何てね、そういう事か。酷い世界ってこういう事か。
すでに私の身体どころか存在すら消えてしまったのか!優しいフリして残酷な奴だな世界ってのはっ!
その内お姉ちゃんも自分が何で泣いてるんだろうって不思議に思いそうだ。
「消したければ消せばいいっ!……だけど、私が成した事は消させないっ!この世界を、私が見てた夢で済ませると承知しないからなっ!!」
いつの間にか雨が降り出しそうなほど暗くなっていた天に向かって叫んだ。
この私に恐れをなして雲に隠れたのか愚か者め……
「……あー、初代の代償だった存在を無かった事にされるって結構くるね。甘くみてたかな」
そんな代償あっても軽々しく奇跡ぱわーを使える初代が何か異常に思えてきたわ。
と、そろそろ限界かな。何か物凄く眠くなってきた。
不思議の世界に来たアリスちゃんは元の世界に戻りましょうってね。
「じゃあね、お姉ちゃん。私を忘れたら最強な姉に戻ってね……」
ふわぁ、お休みなさ……
「さい、きょう」
何か聞こえたけどいいや、ぐぅ。
★★★★★★★★★★
急に泣き出されたお姉さまをマオさんがあやしている最中なのですが、未だに泣き止まないし泣き出した理由すら分かりません。
ここは私が代わって胸を貸す場面じゃなかろうかと思うのですが。
「……何か曇ってきてますね」
「お姉様につられて世界も泣きだすんじゃないですか?」
「あながち間違ってはおらんな」
私の冗談にルリさんが真顔で返してきました。じゃあお姉様が機嫌が良い時は洗濯日和になったりするんでしょうか。
「精霊達が一緒に泣いてる。全く言う事も聞かない」
「じゃの、かくいう大精霊であるワシも……ぅえ」
「鬱陶しいのでルリさんは我慢して下さい」
精霊が泣こうがどうでもいいのですがお姉様にはいつもの様子に戻って頂きたい。
とりあえず口から足を生やしてる奇跡人を消去すればいいのでしょうかね。
「ふぇええええええええええええええええええええええええええええっ!!」
「わぁっ!?」
「お、お母さん?」
びっくりしました……お姉様がいきなり大声を上げて泣き出した事に何か信じられません。
ですがそれは一回きり、一度大声を上げて気が済んだのか今度は不気味なほど静かになられて
「……」
そして、マオさんの胸から顔をお上げになると……
何の感情も無さそうな無表情でした。




