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幼女、乗り込む

「アリィィィィス!!」


 しかし誰も居なかった。


 見渡す限り木々ばかり、どうやらここは何処かの森の中らしい。


「またハズレですね」

「だから適当に転移するのは止めた方が良いと言ったのです」

「普通に平原目指せば良いじゃろうに」

「アリスがそこに居る保証は無いわ。ここは奇跡すてっき占いにかけるのがベストよ」


 いつもの通り奇跡すてっきが倒れた方に転移するだけのシンプルなやり方ではない。そう、今回は距離も含まれるのだ。


 居ないのは分かってるが念のため辺りを見回すと何か見た事ない星形の茶色い茸が……


「当たりね。その茸を持って帰りましょう」

「何を探しとるんじゃお主は」

「屋台巡りの途中だったからね、つい何か珍しくて美味しい茸無いかなーって雑念が入ったみたい」

「こんな怪しい茸を……」

「マオさんならイケそうですが」

「イケます!」

「何でもかんでも口にしたらいけません」

「その母と娘の様なほのぼのとした会話はやめて下さい」


 見える範囲の茸を取りつくした所で再び奇跡すてっきで行く先を決める。

 こてん、と倒れた方向は何となく北。後は距離だが……順番はバラバラで適当な数字を記入した紙を敷いてその上に再び奇跡すてっきを倒す。


 すてっきの両端が11と3に止まったので合体させて113キロか。距離に関しては足したら大した距離飛ばないので足さないで繋げている。


「北に向かって113キロ飛ぶわよ」

「適当そうでそれっぽい数字」


 む、奇跡すてっきの持ち手の方が若干浮いている。倒れた所に偶然変な虫がおり、下敷きになった事で少しだが浮いた状態になったみたいだ。


「いや、待って……真っ直ぐじゃなくほんの少し斜め下に向かって転移よ」

「それ地中に埋まって自滅しますよ」

「あの、そう何回も転移出来ないのでそろそろ真面目に行きたいのですが」

「私は至って真面目よ」


 相棒が言うんだ、間違いない。きっと地中に美味しい食材があるのだ……違うわっ

 今回はアリスの事を考えたハズなのでちゃんと飛ぶだろう。これで違う場所に飛んだら次は何とか平原に行けばいい。


「さぁ行くわよ!」

「死んだら恨みますよ」

「埋まった所ですぐに這い出れば宜しいでしょうに」


 約一名ぶつぶつ文句を言ってるがいざ突撃!

 アリスが危険な目に……遭ってる気が全くしないけど今から何かあっても遅い。気合入れて行くとしよう。



☆☆☆☆☆☆



「すげぇ……本当に怪しい場所に着いたわ」

「何で言いだしっぺが驚くのですか」

「ほへー……アリスさんは地下に来てたんですねー」

「ただでさえ寒いのにより寒いですね」


 確かに寒い。暖房ぐらい付けとけよ……

 転移で着いた場所はゴツゴツした岩の壁が一面にあり、所々に扉がある怪しい場所だ。フォース王国の研究所の地下と違って力を入れて作ったって感じはしない。


 転移したまさにその場所の目の前に一つ扉があった。

 どう考えてもここに違いない。


「おっ……?」

「わ、地震です」

「ここが崩れてきたら洒落になりませんね」


 ドスン……みたいな音がして内部が揺れる。これって地震なのか?

 何か音は上から、地上の方から聞こえた気がするし、地震にしては何か揺れが短い。ドラゴンが飛び跳ねてると言われた方がしっくりくる。


「近くに大物でも居るんですかね」

「シルフィーヤ平原にそんな大きいのは居ないと思いますが……しかしまぁここがその平原じゃない可能性もあるので何とも言えません」

「それよりも早くこのドア開けませんか?」

「そうね」


 扉には何の情報も書かれて居ないから小さい部屋だと思うけど、中に誰か居る気配はする。というか音がしている。

 ドアは開くものじゃない、蹴破るものだ。という事で今回はキキョウが蹴破り役になって扉を破壊し、中に突入する。


「そこまでよっ!」

「うひっ!?」


 そこには居たのは裸の男女、何と言うお約束……ただし男の下半身が私の視界に入る前に誰かが男の下半身を吹き飛ばした。死んだか


「馬鹿な……アリスじゃないっ!」

「いつぞやのエルフじゃないですか、ここに来るなんて何だかんだ心配してたんですね」

「え……?ああ、うん。そうそう」

「確実にしてませんでしたね」


 黒い髪にとんがった耳、真っ裸だから格好は違うけど確かにいつぞやのエルフだった。足には鎖が付いてるが、これって精霊魔法なら簡単に壊せる気がするが……


 後はぁ……ふむ、ベッドで唖然としてるエルフの周りにある血の痕を見る限り純血は散った模様。


「おめでとう、サヨみたいな腐った処女になるよりマシよ」

「私に止めを刺さないで下さい」


 ペドちゃんサヨちゃんの掛け合いにも無反応。よほどショックだったのか?

 しかし私達の目的はアリスなのでこのエルフのケアなんかしてる暇はない。ここは仕方ないから後から来るであろうジェイコブに任せるとしよう。


「この娘はしばらくそっとしておきましょう、という名目でアリスの所に行くわよ」

「正直ですねぇ。でも別にショックだったから無反応って訳ではないみたいですよ、この鎖のせいではないかと」

「というかベッドの血って姉さんが殺した男の血ですよ」

「じゃの……良かったの、茸を取ってさえ居なければ助けられたものを……みたいな展開にならんで」


 何だ、大丈夫だったって言うオチか。

 マオの凶器であるワイヤーがあっさりと鎖を切断して解放すると、大きな深呼吸と共にエルフがベッドに横たわった。


「た、助かりました」

「お久しぶりです。早速ですが精霊魔法すら通用しないとはこの鎖は何ですか?」

「分かりません……目が覚めたらこの場所に連れ去られており、それが付けられてました。動くことも喋る事も出来ず、魔力を放つ事も封じられるみたいで文字通り何も出来ない状態でした」

「全て封じる、と。聞けば厄介な鎖ですね、注意しましょう」


 当たらなければ良いんじゃね?

 と簡単に行く事は無いんだろうな、特にマオとかメルフィ辺りがあっさり捕まりそうな気がする。

 鎖が解かれると多少は動ける様になったみたいだけど、服とか要らないのかね。堂々とマッパ状態って事はメルフィと同じく裸族なのか?


「流石はメルフィの血筋よ、見事な裸族」

「む」

「あ、そう、だった……私」

「この茸を装備する?」

「しないよ!?」


 私に対してのみこの口調、そう言えば敬語じゃなかったか。

 結局メルフィの替えのローブを着た。うーむ、ついに因縁のある二人が邂逅する時が来たか。

 だが件のメルフィは自分から何か言うって事はしない、まぁ今はそんな会話してる場合じゃないから良い判断か。


「とりあえずエルフは置いていきましょう。どうせまともに動けないでしょうし」

「一人でここに居ては危険では?」

「今なら多少は精霊魔法も使えるでしょ?……もうちょっとすればジェイコブも来るわよ」

「大丈夫、何かあっても自分で何とかするから連れてって」

「そう、なら案内を頼みましょう。ここの親玉が居る場所まで連れてってちょうだい」

「わかったよ!じゃあ着いて来て、意識はあったから道は覚えてる」


 本当に大丈夫らしく、先頭にたって駆け足で進むエルフに私達は着いて行く。

 団体で走っているので当然誰か気付いた者が通路、どこかの部屋から出てくるがそこはフィーリア一家、きっちりユキとサヨがそれぞれ一撃で始末しながら先へ進む。


 だがまた地響きがし、先頭のエルフが思わずこけそうになった。

 捕まってたエルフならこの揺れを起こす存在を知ってるかな、聞いてみよう。


「この地震もどきって何?」

「貴女の言う親玉が召喚した化け物のせいだと思う」

「化け物ね、どんな奴?」

「分からない。ただ、物凄く大きかった。私達が連れて来られたのは闘技場みたいな広い場所だったんだけど……その場所が頭だけで一杯になるくらい大きかったかな」


 なにそれ面白そう。

 ドラゴンが居るこの世界でそこまで大きいと言えるならとんでもないデカブツだと思われる。

 見てぇ、めっちゃ見てぇ


 などと割と危機感の無い事を考えていると先の方に他のより明らかに大きな扉が見えた、あの先が闘技場みたいな場所か。アリスが居るとしたら多分あそこだろう。


 頑丈そうな扉だろうが奇跡人の蹴りには耐えられない。今度はユキの蹴りによって開け放たれた扉をくぐってすかさず叫ぶ。


「アリィィィィス!!」


 しかし誰も居なかった。


 何てこった。ハズレじゃないかっ!

 しかし戦闘したと思われる痕は残っている。床のボコボコ具合から察するに馬鹿力な奴が何か叩きつけたって所か。

 アリスは馬鹿力って感じがしないのでまさかとは思うが叩きつけられた側じゃなかろうな。


「居ないみたいですね、どうします?」

「うーん、キキョウは匂いで分かったりしないの?」

「私は犬ではありません」

「イヌ科じゃない。ここに居ないとなると、成仏させられたか外の化け物の所かも」

「では地上に戻りますか。ちょうど良く天井に穴が空いて出られるみたいですし」


 光が漏れてるから知ってたが、改めて上を見ると丸い穴が空いている。例のでっかい奴の仕業かな。

 しかしアリスめ、ジッとしとけばいいものを……


 全員がジャンプして出られるって訳ではないのでサヨが用意した大きくなる符に乗って地上に向かった。



★★★★★★★★★★



「あっはははっ!これは酷いっ!今時の天使ってのはこんなに弱っちぃのね、つまんないったらありゃしないっ!!」

「へっげえっ!」


 うわぁ……目覚まし代わりは初代の高笑いと天使の男のあばら骨が折れた様なベギリという音だった。

 意識を失う前と明らかに違うぼっこぼこになってる地面を見るだけで天使が悲惨な目にあったのが分かった。


「お目覚め?」

「うわぁ……」

「人の顔を見るなり失礼じゃない」


 そう思われたくないなら返り血なんて生易しいもんじゃない真っ赤になった顔をどうにかして欲しい。

 天使はもうダメっぽい。何かもう生きてるだけで精一杯みたいだ。


「物凄く余裕そうだね」

「そうね、こいつは全ての攻撃を無効化する以外は大した事ないみたいだし。海を越えられた理由はその無効化のお陰でしょうね」

「何か奥の手みたいなの持ってそうだったけど?」

「色々してきたけど全部殴って反撃出来たから記憶に残ってないわ」


 天使の最大の見せ場であっただろう攻撃は記憶にすら残らなかったようだ。ここまで差があると哀れというか……私もそんな初代に喧嘩を売ったんだなぁ

 しかしボスキャラのくせに見せ場カットされるとか可哀想な奴だこと。


「くっそぉ……何で俺の能力が通用しねぇ」

「無効化のこと?見えてるんだから当たるでしょ」

「なにその理論。ちょっと前に同じ様なこと聞いたよ」

「ま、仮にも天使殺しと呼ばれてた私に敵うわけないって事ね」


 と言い終わると天使の顔面を地面が陥没するくらい踏み付けた。これもう死んだね、でも頑丈そうな奴だししぶとく生きてそう。


「よっし、終わりー。いやー、全っ然手ごたえの無いゴミだったわ、これなら二代目でも余裕で勝てたでしょうね」

「そのゴミにやられた私は?」

「ぷふーっ!ざっこ!」

「こ、こんにゃろーっ!!」

「はいはい、てか貴女は半端者なんだから勝てなくて普通でしょ。あれに勝てるのは早々居ないわよ」


 さっきまでの狂人みたいな雰囲気はなりを潜め、今ではのほほんとしたダメ人間の様な感じに戻っていた。

 しかしいきなり天使の男の心臓部分目掛けて右手を突き刺し、何食わぬ顔でそのまま心臓を抜き出すのを見るとやっぱりどこか頭のおかしい奴なんだと思った。


「急に止め刺さないで」

「はいはい。何か頭のおかしい奴とか思ってそうだから一応説明するけど、負けた天使ってのはどんな形であれ二度と再生出来ない様にぐちゃぐちゃにされるか燃やされるかが私の居た大陸でのお約束なのよ。ベストなのは燃やす方ね」

「なら燃やせば?」

「今の私は物理しか出来ないもの、ゾンビにすらなれない様にぐちゃぐちゃにしとくわ」


 割れていた地面を両手で持つと巨大な石の塊が持ち上げられた。すっげーゴリラだよ。

 それを持ち上げると当然天使の死体に向かって振り下ろす。しかも何度も……有言実行するみたいで確実に原型をとどめないまで石の塊を振り下ろす。逆に石が壊れると違う石を持ち上げて……


 良かった、お姉ちゃん達が見てたらしばらく肉料理はお預けになる所だった。


「よし、こんなもんか。そろそろ効果が切れる頃だったし丁度いいわ」

「消えるの?」

「そりゃそうよ、元々この時代では死んでる身だし。それにそろそろ二代目達がここに来るしね」

「会っていかないの?」

「会わないわよ……もう十分この杖の中から見させてもらったから。楽しそうというか、破天荒な娘達で何より。私の創った娘達もお世話になってるみたいだし二代目には感謝してるわ」

「サヨちゃんとか多分会いたいって思うはずだけど……」

「サヨ、今はサヨって言うのよねぇ……私には出来なかった名付けをされたのはちょっと悔しいかなぁ。けどま、これで良かったのね。あの娘は二代目と共に行く運命だったんでしょ。あの人形の娘もね……ふふ、あのくそ真面目だったあの娘が今はあんなボケキャラになってたのは驚きね」


 母親だ、この顔はこの世界で見たお姉ちゃんの母親が向けてた顔と一緒だ。血で真っ赤だけど……代償さえ無ければきっと自分で創った娘達と共に生きていたんだ、その辺はちょっと不憫かな。

 だがそんな表情を浮かべたのはほんの僅かな時間だけ。すぐにさっきまでの顔に戻る。


「もう一人の方には注意しなさい。仮にも私が創った子、ちょっと厄介な奴よ」

「そう思うなら自分で何とかしてよ」

「やぁよ、もう限界だってば。とにかくあの子の鎖には注意しなさい、そんじょそこらの奴なら捕まったら最後よ。でもまぁ二代目なら大丈夫か」

「……殺して、いいの?」

「ここで死ぬならそういう運命なのよ、どうするかは今生きてる二代目達が決める事よ」


 あー眠い、と大きなあくびをすると初代の身体が透けていく……お別れ、か。


「一応、感謝してる」

「どーも。貴女も無茶すんじゃないわよ、今はそんな身体なんだから回復は遅いんだから」

「分かった」


 何だかなぁ、まるで夢の様な時間って言うか、初代が居て、お姉ちゃんが居て、二人合わせたら極悪なコンビだよ、恐ろしい。

 けど、そんな時間も終わり。この場に初代が居たのを知ってるのは私だけ、言ったら面倒そうだしこれは私だけの秘密にしとこう。


 初代はまるで休日の親父の様に腕枕して寝ながら消えていった。

 台無しだよ。


 後に残ったのは私が使っていた奇跡すてっき……この子も初代と遊べて嬉しかったかな?

 さて、身体は痛いけど、まだ私には仕事が残ってる。初代が無茶するなって言ったけど、一度決めたんだから最後までやってやろう。


 まずは、おっきいのからだねっ!

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