幼女による救出劇
「待ってくれっ!というか何で逃げるっ!?」
「むしろ何故追ってくる」
「だから、それを言うからっ」
本気で無いにしてもこの人外ズの速度に着いてくるとは……
五丁目の連中は早々に脱落して置いてかれてるので奴の必死さは中々のものであると判断出来る。
「仕方ない。止まってやりましょう」
「宜しいのですか?」
「ええ、走りながらどんどんマオの顔色が悪くなってるから」
「ああ……というかマオさんも意地を張らずにトイレ行きたいと言えば良いでしょうに」
「た、食べ過ぎただけです」
「まるで子供じゃ」
立ち止まってフーフー鼻息荒く青ざめた表情のマオに対し、追ってきて先程追いついた何とかはぜーぜーと顔を赤くしながら息を荒げている。
何だこの状況
「た、大変なんだ……はぁ、はぁ」
「確かに大変そうね」
「僕じゃなくて、あの、君達に、預けられてた娘が」
「とりあえず落ち着いたら如何でしょう」
「ああ、ありがと……げふっ!?」
サヨがコップに水を入れて差し出しそれを一気に飲むとおもいっきし噴出しやがった。
どうやら水とみせかけて料理酒を飲ませたらしい。
水と思い込んで一気に飲んだせいで盛大に咽た様で何とかは死にそうになっている。鬼か
「何やってるんですか姉さん」
「冒険者ならお酒の方が良いかと思いまして」
「料理酒は料理に使うものです」
「そこじゃないじゃろ」
話が進みそうで全く進まない。預けられていた娘とな……覚えている記憶が確かなら黒いエルフの事だろう。大変という事は死病にでもかかったか。
「そんな事より聞いてくれっ!」
「ボケをスルーするとは余程大変みたいですね」
「黙っててくれ!……あの娘が居なくなったんだっ!」
「へー、最近は家出がブームみたいだからね」
「いやそうじゃなくてっ!いや、その可能性も有るけど……少なくとも僕達は何者かに連れ去られたんじゃないかと思ってる」
「精霊魔法を使えるエルフを攫うとか、それが本当なら大胆な奴ね」
ふむ……次に会ったら仲間にしようかと思っていたが、誘拐されたなら仕方ないな、諦めるとしよう。
「誰のこと?」
「そういえばあんた等は知らないわね、前に先祖返りしてメルフィがエルフとして生活してた時みたいに黒い髪に黒い羽持ったレアなエルフに会ったのよ」
「つまり大体メルフィさんのせいですね」
「私じゃない。腐れマスターのせい」
「どっちでも良いわよ。何処か行ったなら仕方ないわ、あの娘は諦めるわよ」
「不遇者コレクターのお母さんとしてその選択で良いのですか?」
何だその異名は。ツッコミたいが、マオに始まり呪われ認定されてたキキョウまでの事を考えると間違ってはいない。
別に誰でも良いという訳ではない。少なくとも助け出さなきゃならない面倒な奴はごめんである。
「言われてみれば皆幸福な生を送ってるとは言い難いですね。ユキさんを除いて」
「だって不遇な奴等ってちょっと優しくしてやりゃ簡単に忠誠を誓ってくれるんだもの」
「今のは私達は聞いてはいけない言葉みたいなので聞かなかった事にしましょう」
「すまないけど、真面目に話してるんだからちょっとは真面目に聞いて欲しい」
「居なくなったエルフを私達にも探して欲しいって事でしょ?」
「最終的にはそうなる、ね」
「嫌よ。まだ祭りの真っ最中なんだし」
「あの娘は君達の仲間じゃないかっ!」
「そうよそうよっ!」
「何時の間に来たのよ喧しい女」
知らない間に何とかの後ろに隠れながら一緒に吠えてるオマケの女がいた。何か私に怯えてる気がするが、何かしたっけ?
それは置いといて仲間……何を勘違いしてるのか知らんが、まだ仲間認定した覚えは無い。
次に会った時にどうたらって言ってたハズだから未だ知り合いでしかない。
「仲間に加えた覚えはないわ」
「だけど、あの娘はいつか君達の仲間として共にするのを目標に頑張ってた」
「……ああ、なるほど。つまりあんた達はあの娘を仲間じゃなくて本当に私達が預けたお客さんとして扱ってたのね」
「そんな事はない」
「と、言うなら仲間としてあんたらだけで探しに行きなさいよ。あの娘はあなた達のパーティの一員でしょうが」
「わかってる……正直、彼女にはこのまま僕達と一緒に頑張っていって欲しい。彼女はともかく、僕達は本当の仲間だと思ってる……その為にも一刻も早く探しに行きたい、けど……何かある前に探しきれる自信が無いんだ」
ふむ……すでにこの場には居ないのかもしれないな。
サヨに目線で促すと、首を横に振って否定した。サヨの探知で周辺には居ないと判断されたのならもう何処かへ連れてかれたのだろう。
居なくなった時間は不明だが、一日もかからず長距離を移動するという事は馬車で運ばれたか
「や、やっと追いついたぜ……」
「お、おい……あのエルフの嬢ちゃんを探すなら俺達も手伝うぜ」
「断る。気持ちも受け取らない」
「ずいぶん邪険にするじゃねぇか」
「……ここまでの道のり、護衛として雇われたハズの君達は何をした?」
「何もしてないな」
「邪魔しなかっただけ感謝してくれ」
「俺はエルフのお嬢さんに夢中で何も出来なかったわ」
護衛とは一体……ひょっとしなくても何もしなかったクズ共も依頼料を受け取ったのだろうな。うん、これは怒ってもいい。
馬鹿共はともかく、まんまと連れ去られたという事は精霊魔法も通用しない相手だったのか?
いや、寝ている時なら攫えるか。
それよりもミラ達が言ってた魔法使いが攫われる事件と関わりがあるのやら無いのやら……うーん、めんどくさい
「今回は真剣なんだ。邪魔しないでくれ」
「俺達だって真剣だぞ」
「もしかしたらエロい目にあってるエルフの嬢ちゃんを見れるかもしれない」
「酷い目にあった所を優しくしたら彼女になってくれるかもしれない」
「なら行くしかない」
「帰れよ」
うるさくて集中して考えられんな。
こんな所でアホな事言い合ってないでさっさと探しに行けばいいのに。
と言っても何処に行けばいいのか分からないのだが……
「俺達が場所なら知ってるから急ぐぞ」
「何で知ってんのよ」
「ペドちゃん達に会う前に占い師に占ってもらったんだ、何かタダで占ってやるって急に話し掛けてきたからよ。だからエルフの嬢ちゃんのエロい姿を見るにはどうしたら良いのか、と占ってもらった」
「こいつら……」
「そしたらシルフィーヤ平原に行けって言われたから多分そこだろ」
「何でその質問でそんな場所を教えられるのよ」
「そこに行けばエロい姿が見れるって事だろ?グズグズしてる暇は無いんだから早く行こうぜっ!」
何か本当にそこに居そうで怖い。
だが占い如きで場所が分かったら苦労はせんな。てかシルフィーヤ平原って何処だよ。
「サード帝国から北、シックス王国と丁度中間地点に当たる平原です」
「凄い。サード帝国の名前が出るとまるで合ってるかの様ね」
「怪しいですね、その占い師。犯人では無さそうですが、まるで誘導してるかの様です」
誰を誘導するんだと……あの馬鹿達を誘導して何をさせたいんだ。
そんなの決まってる。ギャグにさせたいんだよ。
「とりあえず行ってきたら?私の勘でも何かそこに居そうよ」
「シルフィーヤ平原か……遠いな」
「走れば何とかなるだろ」
「なる訳ないだろ、馬鹿は黙っててくれ」
「うっさいからサヨが転移で飛ばしてあげれば?」
「その平原は私も知らないのでサード帝国付近でよければ」
あの国の近くという事で五月蝿い馬鹿達にも緊張が走った様子。
未だに何とかの後ろに隠れているうるさい女なんて明らかに震えている。そんなにヤバイ国なのだとこうして他人の様子を観察すると良く分かる。
「良ければ頼む、何処だろうが僕達は助けに行かなきゃいけない」
「他の仲間は?」
「探す時間も勿体無いから僕達だけで行く」
「俺達もな」
何と言うか、安い主人公してるよなぁ……こういう熱血漢ってかませ犬みたいな扱い受けそうなんだけど。
心底嫌そうに準備をするサヨと、これまた心底嫌そうに固まる面々。特にあのうるさい女はモブオ達に触られまいとギリギリまで離れている。
「準備出来ました」
「結構。じゃあね、ちゃんと無事に助けなさいよサンチョス」
「ああ、もちろんだ。それと、僕の名前はジェイコブだよ」
「違うでしょ!?」
「あ、あれ……」
ああ、思い出した。ジェイコブだジェイコブ。
でも本名じゃないっけ……まぁ本人が自分がジェイコブと認めたみたいだしもうジェイコブでいいや。
そのジェイコブ達は何とも締まらない最後でシルフィーヤ平原へと転移していった。
心配する事があるとすれば、五丁目のクズ共が余計な事をしなきゃいいって事だな……するんだろうなぁ
「では私達は祭り巡りを再開しますか」
「そうね。もう肉は止めて別のにしましょう」
「ところでフィーリア様」
「なぁに?」
「何時の間にかマオ様の姿が見えませんが、何処に行かれたのでしょう」
首だけを動かして見渡してみると確かに居ない。ここに走ってくるまでは一緒にいたハズなのに……
急に居なくなったって事はもしかして
あの野郎、こっそりトイレに行きやがったなっ!
「サヨ、何処のトイレに居るか探知よ」
「トイレ?……いや、この国の中には反応がありませんね」
「わざわざ国外に出てまでバレない様に用を足しに行ったっての?」
「とりあえずトイレから離れて考えましょう。もしかしたらマオさんも誘拐されたのかもしれません」
こんな白昼堂々と、しかも人外ズが一緒に居る中であっさりと誘拐したとでも言うのか
しかしあんな娘を誘拐して何か意味あるっけ?
別に意地悪で言う訳ではないが、悪魔という事を抜いたら何の変哲もないへっぽこ娘なんだけど。
「そうか……犯人はおしっこを我慢してる少女に異常なまでに興奮してしまう性癖の持ち主」
「トゥース王国とワンス王国の人達が言ってた魔法使いの誘拐事件と関係あると思いますか?」
「私達に気付かれない手際を考えるに、それだけ優秀なら私や姉さんを狙った方が納得しますけど」
「一番隙が多いマオを狙った」
「メルフィ殿の言う事ももっともじゃが、何故リスクの高そうなワシらを狙ったんじゃろうなぁ」
「最初から私達を標的にしてたのかもしれません」
「この国の方なら私達を恨んでそうなのが居そうですね」
私の推測は物凄くスルーされた。私そっちのけで話し合いしてるけど、本当に誘拐されたのか分からないのに家族会議する必要があるのだろうか。
「そうか……犯人なんておらず、マオは転移符を使ってわざわざ遠くに行って用を足しているのよ」
「エルフを攫った犯人とマオさんを攫った犯人が別という可能性は否定出来ませんね」
「今日は着物姿で見た目が豪華でしたからね……何処かの貴族令嬢と間違えられたとも考えられます」
「メルフィ殿は卑怯と言える強力な武器を持っておったしとりあえず安心じゃろ」
「いえ、食事中は手袋を汚してしまうという事で外されておりました。犯人がマオ様の両手をしばったりしてる場合は武器に頼る事は出来ないと考えられます」
「キキョウも案外良い推理をする」
どうやら今日はペドちゃんをハブる方向で行くようだ。地獄へ落ちろ
どうにも長い話になりそうなので私はリンで遊ぶ事にしよう。しかし不穏な気配を察知したのかユキの肩を伝ってキキョウの頭の上まで避難された。
「お母さんなら何故マオさんを狙うか分かりますか?」
「尻の形よ」
「……容姿を抜きに考えますと?」
「一番誘拐しやすいからよ」
「やはりそれが一番の理由かもしれませんね」
「そんなに誘拐しやすいですかね」
「あんたらみたいに転移して逃げられそうな魔力持ってる奴を狙うより少ない奴狙った方がいいでしょうが」
「確かに魔力少ない者を狙った方が後々抵抗されずに済みますね」
「だからマオ殿か」
「抱っこされてるお姉様はともかく、見た目が子供のルリさんを無視してマオさんを狙った所を見るに魔力量を探って一番弱そうなマオさんを拉致したという事でほぼ間違いないでしょう。キキョウさんは魔力を持ってないので最初から除外ですね」
もう誘拐された方向で行くらしい。
最後に姿を見てから15分くらいは経ってるか、本当に誘拐されたとして目的が婦女暴行だった場合、気が早い奴が犯人だったらそろそろマオが「身体は汚されても心までは汚されませんっ!」というセリフを言っていてもおかしくないな。
「女性を攫うという事は目的もゲスな事かもしれません。早めに救助しましょう」
「何処にですか?まさかあの男達と同じ場所へ向かうとか?」
「同じ小国で誘拐されたので同じ場所の可能性はあるかと」
「考える暇があるなら行動しろって言葉があるでしょ」
「主殿の言うとおりじゃ」
「そうでしょうそうでしょう。サヨ、転移符」
「……分かりました。そこに居る事を祈りましょう。どうぞ」
「うむ。心配しなくてもマオはすぐ救出するわ」
言葉通りな。
誰も転移符を使ってシルフィーヤ平原とやらに行くとは言ってない。
転移するのは私達ではないのだ。
「行くわよ、マオちゃんこっちらっ!」
この私がわざわざ救出する為に危険そうな場所に出向くと思ったら大違いだ。
奇跡ぱわーを発動すると、目の前に光が現れまさに誘拐されてましたと言わんばかりに縛られたマオが現れた。
涙目でひーひー言いながら必死に身をよじってる姿はまるで必死に抵抗しているかのよう、やはりせっかちな強姦魔だったか。
「おかえりなさいませ」
「……確かにすぐに救出されましたね」
「こんなに震えてお可哀想に」
「と、といれに……ごめんなさい、といれにっ!?」
「そっちですか」
どうやら必死に抵抗していたのは尿意に対してらしい。何だそれ
何とも締まらない最後だが一仕事終えたので私はトイレに猛ダッシュで向かうマオを見届けたあと、いつも通り短いだろう眠りというか気絶タイムへと意識を落とした。




