幼女とお祭り
「いいかあんたら、明日はついに祭り本番よ。気張っていきなさい」
「一人足りませんけど?」
「遊びに行った奴なんてほっときなさい」
「何も言わずに遊びに行ったんでしょうか?」
「あ奴の考える事は分からんのじゃ。ま、主殿の言う通り放っておいても問題ないじゃろ」
あれからしばらく駄弁ってるとまずユキが帰ってきた。無事用事は済んだらしい。
で、肝心のサヨだが、ユキから遅れること一時間後に戻って来やがった。リーベをおちょくるだけおちょくって帰ってきたらしい。
何やってんだこのアホ。
「王族が身分で言えば一般人の私に対して頭を下げてるので思わず弄ってしまいました」
このアホのせいでリーベ側にはさぞ印象が悪くなった事だろう。もう会う事はない事を祈る。
アホがリーベをおちょくった事で遅れていた建設に関しては後でやらせる事にした。
そんなもんより明日の祭りのが大事だろ、常識的に考えて。
「そしてユキの誕生日、あとついでにあんたらの誕生日を纏めて祝うから何かプレゼントの希望があればいいなさいな」
「まるでクリスマスと誕生日が重なって祝われる回数が減った子供の気分です」
「うっさい」
「しかしプレゼントと言われても急には思いつきませんね」
「わたしは武器をこの前貰いましたよ?」
「マオには髪飾りでもあげましょう、何か踊る時に良さげなの」
「あ、それでいいです」
物欲が無い娘達は必死こいて考えているが、欲しい物を必死に考えるってどういう事だろうな。
ユキは何か思いついたのか何故かを手を上げて指名されるのを待っていた。
「ユキは決まったの?」
「私はすでに銀細工を頂きました。が、お許しを得られるのならば欲しいものがあります」
「大げさね、一体何なの?」
「奴隷です」
DOREIときたか……ユキの奴め、奴隷をいじめて楽しむタイプだったのだろうか?どっちかと言えばマゾの気が強いと思ってたけど……いや、サヨをいじめて楽しむ所を見るにサドとも言えるか。
「てか奴隷って高いじゃん」
「いえ、この前物凄く安く身売りする変なのがいたので」
「へー」
「勿論所有権はお母さんのものなので気に食わない場合は殺して結構です。ちょっと底辺の人間がどれくらい使えるようになるか育ててみようかと」
「そ、まぁ私に不快な気持ちにさせない奴に育てるなら良いわよ」
「ありがとうございます。まぁあの安さならすでに誰かに買われてるかもしれませんが」
そこまで安かったのか……なら死んでも損はあんまり無い奴かな
「サヨとメルフィは?」
「まるで裸かと思える様な布の感触を感じさせない肌触りの下着」
「知らん」
「……本でいい」
「無難ね。アホは?」
「サヨです。私は……良ければ知り合いをここに住まわせる許可です」
「誰?」
「優秀なメロン職人です。彼女の作るメロンは至高ですよ、勿論その他にも畑仕事を任せたら天下一です」
つまり農家か。メロンが食べたいだけなんだろうけど、人材として農家が居るのも良いか。
幸いここには妖精も精霊もたんまり居るので素晴らしい農作物が育つことだろう、お腹空いた。
「プロの農家も一人は必要ね、許可しましょう。ただし、私が気に入った場合よ」
「ユキさんと違って私には許可が要るのですね」
「奴隷は気に食わなければ殺せばいいけど、そいつはダメなんでしょ?」
「納得です」
「ゲスい会話なのじゃ」
「奴隷の扱いを定着させた人間自体がゲスいのよ」
「む、そうかの」
「奴隷の身である私からすれば気に入らない奴をいたぶるよりは潔く殺される方が良いと思いますよ」
奴隷からもお墨付きが出たのでこの話題は終了だ。
後はルリとキキョウとアリスにマイちゃん、オマケのぺけぴーだが……こいつらは無しでいいか。
「じゃあ以上で終わりよ。明日に備えなさい。特にマオ、以前ちらっとアリスも言ってたけど、祭りは戦場という名の痴漢収集所よ……ちゃんと覚悟を決めておく様に」
「は、はいっ」
「まるで痴漢に遭うのが前提みたいになってますね」
「小国の治安が悪いって言ったのユキじゃない」
「そうでした。ですが痴漢というより暴漢の方が居そうですけどね」
「より悪い」
小国大国はともかく、祭りとは人ごみに紛れて痴漢を働く為の行事である、とは母の弁。子供の頃の私に向かってやたら真剣に語っていた様子を見るに被害にあったに違いない。
ともあれ明日は祭りだ。今日は早めに休んで英気を養う事にしよう。
「準備はいい?女郎共」
「まだ昼前ですよ?」
「祭りってのは昼から始まってんのよ」
「そりゃ始まってるでしょうけど……いえいいです」
「マオは久々に着物姿なのね」
「え?だって戦場じゃないんですか?」
「戦場で合ってるわ。特にマオは尻を狙われやすいから不届き物はワイヤーで切り裂きなさい」
いかん。本当に痴漢と戦いに行くみたいになっていた。母の教えのせいだな、きっと。
にしても着物というのも中々のエロさが有る気がするけど……
「着物の襟元って隙間から手を突っ込んで下さいって事よね?」
「冷たっ!?……実際に突っ込まないでくださいよ」
「試してみないとエロさが分からん。てか何枚着込んでんのよ」
「三枚ですけど?」
「肌襦袢の次に長襦袢を着てそれから着物です」
「ふーん。良く分かんないけど肌着とシャツとジャケットって事か。キキョウも同じく着物族だけあって詳しいわね」
「ありがとうございます」
しかし惜しい……五丁目の野郎共が夢見てそうな男一人に女多数でお祭りイベントが出来るのに残念ながら私は幼女である。
「ちっ……綺麗所にちやほやされる勝ち組にはなれなかったか」
「急に何言ってるのか知りませんが、ちやほやされてるじゃないですか」
「……おお、やはり勝ち組だったのか。私を讃えろお前ら」
「実は酔ってませんか?」
「幼女は酒なんか飲まん」
「飲んでないにしてもテンション高いのじゃ」
ここでテンション上げないでいつ上げるんだと逆に問いたい。
屋台が私を待っている。まだ見ぬ安っぽい料理が列をなして待っているのだ……行くしかなかろう!
実際は8割はハズレだろうが当たりを引いた時の至福さと言ったら……
「正にルリが使えないダメ精霊かと思えば役に立つ娘だった時くらいの喜びよ」
「なぜワシを引き合いに出した」
「あ、うんこって言われてふと思ったんだけど」
「誰もそんな下品な単語は口に出してません」
「着物で用を足す時ってどうやってんの?」
「私は普通に裾を持ち上げて帯に挟んでますが」
「ほぅ、マオは?」
「悪魔は排泄物なんか出しませんっ」
ほぅほぅ……悪魔は排泄物をしないだと。これまで散々トイレに行っておいて良く言うな
これは私に対する挑戦と言っても過言ではない。ならば受けてやろう
「さあルリ、へへ……腹の中がパンパンだぜ、って思わず言っちゃうくらいマオにお茶を飲ませるのよ」
「いちいちお下劣じゃな」
「の、飲みすぎは健康に悪いからやです……トイレは全然平気ですけどねっ!?」
「悪魔が健康に気を使ってるんじゃねぇ!」
基本勿体無い病を患っているマオは一度口にしたものを吐く事はほぼ無い。
という事で都合よく置いてあった、というかしれっとユキが用意した瓶に並々のお茶を入れて口に突っ込めば嫌々ながらも吐かずに飲んでくれるだろう。てかすでに飲ませてる。
「んぐむむっ!?」
「最高に冷えてて美味しいでしょう?」
「この寒い季節にそんな冷たいものを……」
「じゃあマオが飲みきった所でこのまま祭りに行くとしましょう」
「鬼じゃな」
「用意したのはルリさんでしょうに」
「入れ物を用意したのはユキ殿じゃろうが」
さぁ、祭りは決して楽しいものではないとマオに教えてやろうではないか。
トイレ以前に飲みすぎでグロッキー状態になってるけど。
「で、何で今日のお姉様はこんなに様子が変なのでしょう?」
「昨日からアリスさんが行方不明ですからね。身内に何も告げられずに家出されたのは初めてですから少々堪えてるみたいです。マオさんへの意地悪は八つ当たりですね」
「そういう事ですか。てか貴女、お姉様に関して詳しすぎて気色悪いですよ」
「逆にこの程度の事が分からない姉さんの親愛度を疑いますが?」
「このマザコンめ……」
☆☆☆☆☆☆
という訳で再びアラマ国までやってきた。門を通ろうとしたらあからさまに顔を合わせない様に対処されたのは腹立ったが、あんだけ殺しとけばそういう対応されても仕方ないと言える。
「良い決闘日和だわ」
「えふんえふんっ!……今日は我が国の祭りを存分に楽しんで下さい。祭りだけを楽しんで下さい」
「何事も無ければそうするわよ」
「今日はお姉様の機嫌が悪いみたいなので暴れないという保証はしませんが、楽しませて頂きます」
「この国終わったわ」
私を何だと思っているのだこいつらは。
この失礼な対応なのはどうも門番の兵士だけでは無い模様で、道行くこの国の住民の様な奴等がコソコソと不自然に私達から距離を取っていく。
そんなに冒険者皆殺しがいけなかったのだろうか?犯罪者だぞあいつら
「まるで腫れ物扱いね、何か腹立つわ」
「むしろこうして道を開けてくれるから好都合ですよ」
「そう言われるとそうね」
「ユキ姉は姉さんの扱いが上手い」
しかし道を譲ってくれるのはあくまでこの国の住民だけなので事情を知らない他国からの来訪者はどいてくれないのでそれなりに混んでいる。
冒険者風なのが多いという事は屋台以外にも装備の類の出店もあるのだろうか?
ただ暇だから祭りに来たって奴も居るだろうけど……あいつらみたいに
「見ろお前等、俺達の故郷が産んだ抱っこちゃんことペドちゃんが居るぞ」
「おお、本当だ。てかまた美人が増えてるな」
「どうすればホイホイ美人が増えるのか是非とも教えて欲しいな」
「久しぶりねモブ兄弟。そう言えば依頼を受けたってノエルが言ってたっけ」
「おう。稼いだ金を即効使い込むつもりで来た」
「何にも変わって無くてガッカリしたわ」
何で未だに生きてるんだろうか?
やっぱりギャグキャラだからなのだろうか……装備だって盗んだ武器や鎧があっただろうに今はゴミの様な皮の装備を身に付けている。正直臭そう
段々退化していく冒険者はこいつらぐらいな気がする。
「今回はモブサブロウにモブシロウも居るのね」
「誰の事だっけ?」
「お前らだろ」
「マジかよ、俺そんな名前だったのかよ……もしかしたら俺達って本当に兄弟だったりするのか?」
「腹違いという可能性はあるな」
「そう言われてみると俺等ってどこにでも居るような顔してるしな。有りえるわ」
マジかよ、こいつら本物の馬鹿だったのか。いや知ってたけど
目の前で兄弟の契りを交わしている馬鹿達を見ると自分と同じ出身地と考えるだけで戦慄する。
しかし他の面子はただ馬鹿を見る様な目をしてるが。
「フィーリア様、この……馬鹿達はお知り合いですか?」
「馬鹿って言わない様にしようと思って結局言ったわね。知り合いというか同じ出身地の冒険者達よ」
「初めまして狸の獣人のお嬢さんっ!俺はモブオだ、襟元から手を突っ込ませて下さいっ!」
「何も殺さなくとも良かったじゃない」
「人を狸とか言う不届き者は死んで構いません」
「あ、そっちを怒ってたんですね」
「耳を見れば狐だって分かるでしょうに」
「まぁ生きているがの」
キキョウの青い炎に焼かれてるくせに軽度の火傷で済むとか恐るべし……普通の火より温度高いはずなのだが装備すら軽く焦げた程度ですんでいる。この世の不思議だ。
妥当なのはキキョウが手加減したと言った所だが、本気でも生きてそうで不気味である。
気を取り直して向かっているのは食べ物関係の屋台が集まっている場所だ。漂ってる匂いで分かるから有りがたい。
「いやー、熱かった」
「何当然の様に付いて来てるの?」
「俺達はいつもペドちゃん達の背中を追っていたから」
「ストーカーの分際で名言みたいな事言うな」
「しかし妙なのはあれだ、ペドちゃんと一緒に居るだけなのにこいつらは何者だ?……って感じで注目を浴びる事だな」
「軽蔑の目はしょっちゅう向けられるが、只者じゃないって感じの視線は初めてだな」
「こいつら底辺慣れしてますね」
底辺しか経験した事ないんだから当然だろ。
こいつらは放っておいて、早速食べ物エリアに着いたのでまずは軽く腹の中に入れるか。
「まずは肉か」
「いきなり重いですね」
「だって肉の屋台が多いじゃない」
「安いし美味しいから一番売りやすいんでしょうね」
「その代わり牛やら豚やら鳥やら謎の肉やら多数ありますよ」
そんだけ種類が有るなら仕方ない。片っ端から食すとしよう。
まずは一番近くにある牛肉のステーキ串とか書いてある店だが、決め手はソースと言いながら肝心のソースが滴り落ちてしまうためほぼ肉の味と化しているのでボツだな。これは皿で食べるものだろう……せめてソースにとろみでも付けろ。
次は豚か、これもほぼ肉の味しかしない。てかただの肉じゃないか……素材に拘っているので余計な調味料は使ってませんとか書いてあるが、要するに手抜きだな。こんなんで屋台を出すとは恐るべし。だがお客が居ないので赤字確定だろう。
「これはマイちゃんの大好物であろうフライドチキンっ!……と言う名のただの揚げた鶏肉。衣もべちゃべちゃ味は妙に濃い、てか何故か醤油味。これはひどい、不味いなんてもんじゃない」
「店前でそんな事言うのやめてくれねっ!?」
店の親父が騒ぎ出したので退散。
やはりあれだ、片っ端から食ってもハズレが多すぎていけない。客が並んでる屋台を狙った方が良い気がするな。
だがふと気になる屋台があったので寄ってみる事にした。
「一つ頂くわ」
「あいよ」
「この国の者?」
「そうだよ」
売っているのは何処にでもありそうな唐揚げ。受け取って食べてみるとやっぱり普通の唐揚げだった。味は醤油ベースで、今までの屋台よりは無難って感じか。
「花とか仕舞ってたっけ?」
「有りますけど、何でですか?」
「いいから」
亜空間に仕舞っていただけあって綺麗なままだ。死んでる花だからすぐ枯れると思うがいいか
「はいこれ御礼」
「はは、屋台でお礼に花を貰ったのは初めてだよ」
「あんな普通の唐揚げに礼なんてする訳ないでしょ」
「これは手厳しい子だ」
「それ、妹さんの墓にでも飾ってやって。じゃ、礼はしたから」
「……ああ、ありがとう」
礼を言われる側が礼をするとはおかしな話だ。
何の事か分かっていない一同にさっさと次に行けと言いつつその屋台を後にする。
「今の方はお知り合いですか?」
「初めて会ったわ。けど牢屋でお世話になったから一応礼を言っただけよ」
「ああ、あの時の」
「おかげで牢屋生活を満喫出来なかったけどね」
☆☆☆☆☆☆
「ようこそヨゴレッタの屋台へっ!」
「そんな名前だから客が居ないのよ」
「いきなりダメ出しとか久しぶりなのに酷いです」
「いや、私もそう思うよ」
「ニーナまでっ!」
店を開くとか言ってたヨーコとクソ女ことニーナが何故か小国で屋台を出していた。
いきなり店はハードルが高いから屋台から始めたのだろうか。
「聞いてください、この世界は私の居た世界の料理が結構あって私の出店がピンチです」
「オリジナルで出そうと思わない所が潔くていいわね」
「そんなまともに料理した事無いのにオリジナルとか無理です。でも向こうで定番だった料理は多いんですけど、何か中途半端なんですよね」
「聞きましょう」
「いや焼肉、バーベキューですか?それは何か定番料理みたいなのに肝心のタレが無かったり」
「バーベキューって遠征中の冒険者が現地調達したのを焼くだけの料理ですから、基本は塩とか市販のソースが一般的です」
「そんな感じで味とか気にしない料理が多いです。焼肉と言ったらタレでしょう!!」
「そこまで言うならヨーコが作りなさいよ」
「作り方も材料も知りません」
つまり材料と作り方が不明なのは伝承されてないのだろう。前のかれーみたいに。
異世界から来る者も料理人という訳ではないので完成形は持ってこれても作り方までは分からず、在庫が無くなった現在では調味料の類は簡単に作れそうなの以外消えてしまったのだ。
仮に調理が面倒なのがこの世界に存在したとすれば、それは料理人達が気合と根性で味を再現したとも考えられる。
「ああ、でも一つだけそれっぽい味を再現出来るものがあったのでこの屋台ではそれを売ってますよ」
「へー」
「それがコレっ!」
ヨーコが右手に掲げたのは衣がついたサクサクしてそうなカツ。それを串に刺した食べ物だった。
「たまに食べる奴の串バージョンね」
「串カツです。屋台は食べ歩き出来るものじゃないとあんまり人気無いみたいなので」
「それの何を再現してるの?」
「ソースですよ。何故か普通のソースは有るのにカツ用のソースが無いので」
言っては何だが、こっちではその普通のソースがカツの定番だと思うけど……
「そのカツ用のソースを再現したと」
「再現ではなくそれっぽくです。向こうに居た時はとんかつソースの変わりに作ってましたし」
「とりあえず食べてみれば?私も食べたけど、味は保証するよ。あ、お金はちゃんと貰うから」
「一本500ポッケ。妙に強気な価格ね」
ご自慢のソースとやらがかかった串カツを受け取ってまずは観察。普通のソースが黒色でサラサラしてるのに対し、こっちは若干茶色がかっていて粘り気というかとろみが有る。
「胡麻かけたいなら勝手にかけてね」
「無料トッピングなら頂きましょう」
置いてあったを容器から胡麻を振りかけていざ試食。
カツ自体は何処でも食べれそうなカツだが、このソース……このソースの野郎は確かにカツ用と言ってもおかしくない美味しさである。
だがその内飽きそうな気がする。普通のソースもだが、味が濃いんだよなぁ……
「確かに美味しい。けど味が濃いからそう何本も無理」
「あー、確かにカツだけってのはキツイかもです。お米が有ればおにぎりでも作りましたけど」
「有ります」
「有るんですね。そりゃこの前食べてましたからね」
サヨが取り出したのはすでに炊いている状態の米。時間が止まっているのは分かるけど、亜空間から湯気が出てる食べ物が出てくるのは何か嫌だな……
その熱々の米をヨーコは手に水を付けながら全く熱そうに感じさせない手つきで固めている。
ゾンビの手で食べ物を扱っている。
物凄く食欲が失せる表現だ。あれを食べてお腹は大丈夫なのだろうか……ベレッタの身体は腐らない様にしてるらしいが、防腐剤とか付いてないだろうな?
「出来ました。どうぞっ!」
「一応心配なのでお母さんが食べる前に私が食べます」
「ゾンビですからね」
「ベレッタは綺麗だよ、失礼なっ」
「念のためですよ……おや、多少塩が付いてるとは言えほぼ無味に近い米ですが、この濃い味のカツと食べると中和されて美味しいですね」
大丈夫と判断されたので私も受け取って食べて見る。
なるほど、これが米の食べ方か……バーベキューもだが、濃い味の料理と合わせて食べれば良いのかもしれない。ベタベタなのが気に食わないが、こうして固めて食べれば良さそうだ。
「これなら美味しい」
「やったよニーナちゃんっ!」
「テンション高いよ」
「このソースはどうやって作るの?」
「ソースとケチャップを1:1で混ぜれば出来るよ」
「あらお手軽」
「秘伝でも何でも無いですね」
「でも知らない人多いから黙っててよ」
「ちょっと改良すればハンバーグソースも出来る、ハズです」
調味料を混ぜ合わせるという発想は無かったな……ソースとケチャップ自体がそれぞれ完成された物だし。
他にも改良すれば違ったソースが出来る様だが、そこはユキが色々と試してくれるから今後のご飯が楽しみである。
「ペドちゃんのお墨付きが出たみたいだから俺達も貰おう」
「うむ」
「一本1000ポッケね」
「何で値上がりするの!?」
「イケると分かったから」
文句言いながらも1000ポッケ払うとは馬鹿である。そしてサービスと言われながら串カツを二本渡されて喜んでいる馬鹿達。良いカモだな。
「確かに美味いな。濃いけど」
「俺には丁度いいわ。けどパンでもありゃ良かったかもな」
「パンツか、誰かパンツくれる女の子いないかなー」
「いねぇよ。店先でアホな事言ってると妨害と判断して殺すよ?」
「ごめんなさい」
馬鹿達が怯えた所で次の屋台を目指すとしよう。
いつもなら至福の表情で食べるマオが厳しい顔をしてるのを見るにそろそろ尿意が来たと思われる。本当の地獄はここからだ。
「お、あそこに見えるのは一緒に依頼を受けた四丁目の冒険者じゃないか」
「ホントだな。ジェイなんとかって言うのは覚えてたが、結局思い出せなかったな」
「必死に何か探してるみたいだぞ」
そのジェイ何とかって奴の方を見れば見知った顔。五丁目の馬鹿共と言い案外知り合いに出会うな。
確かに必死という言葉が似合いそうな表情で辺りをキョロキョロしながら小走りでこちらに向かってくる。
そしてこちらを向き私達を視界に入れると妙に安堵した顔で走ってきた。
その顔を見るだけで嫌な予感しかしなかったので、私は嫌そうな顔をしながら……誰だっけ?
とにかく顔だけ覚えてる奴の到着を待たずに逃走した。




