幼女、受付嬢を困らす
「私はもう働かずに生きる」
☆☆☆☆☆
昨日長かった薬草採取から帰って、再び高級宿を手配したあと、全裸事件が再来しない様にまずは服屋で服を買った。
その後早めの夕食をとり宿に戻る。途中にあった露店で売っていた紅茶を購入。宿で紅茶に白露花の蜜を入れて優雅に過ごした。
風呂は贅沢に貸し切りにして久しぶりにリフレッシュした。
ちなみにここまでに使ったお金は全てユキの貯金である
☆☆☆☆☆
「私にはお金を稼ぐ才能なんてないのー。もーこの宿でゴロゴロして過ごすしかないのー」
「そんな事はありませんよ」
駄々っ子である。白露花の売却して資金を稼ぐ話はどうなったんだと言うと……
私達三人が飲む分とお土産分以外は全て残してきたのだ。キングヒドラが気に入ってる様なので残りは全部彼女にあげる事にした。今頃は花弁ごとムシャムシャしてるかもしれない。
「ふ…気前良くあげちゃって、結局稼いだお金はまた0…6日も何してたって話よ」
「お金を稼ぐ以上に素晴らしい事を為さったではないですか」
「世の中綺麗事だけじゃ生きていけないのよ」
「重症ですね。セティ様へのドッキリくらいじゃ気が晴れませんか」
ドッキリとは、夜中に母の枕元にマイちゃんをけしかけて悲鳴を上げさせた事だ。ホントにやるか普通…と思われそうだが、普通じゃない私は有言実行する。
お土産の白露花の密を一瓶置いてきてあげたのだからチャラだ。
「何て言うかさー…私に出来そうな仕事って何も無い気がするのよねー」
「ご主人様に出来ないものなどありませんよ」
ユキと一緒ならそりゃ大概の事は出来る。だが一人だったら?何の問題もなくやれるのか?……案外その気になれば出来そうではある。その気になる事が無いだけで
「もし私が一人で魔物討伐したとしたらどうなると思う?出来そう?」
「ドラゴンだろうが奇跡ぱわーで余裕です。ただし、気絶中に別の魔物に食べられます」
「…じゃあ、安全な町中の仕事は?」
「職種選ばず全て奇跡ぱわーで余裕です。ただし、気絶中に幼女愛好家にお持ち帰りされます」
「ダメじゃん!!」
もう一生一人で生きれないじゃん!良かった…!ユキが居て良かった…!!
「こうしてベッドの上でゴロゴロして寝心地を試す仕事とかないかなー」
「そういう仕事は聞いた事ないですねぇ…」
自給500ポッケくらいでいいから有ればいいのに…ちなみに大体の国の通貨はポッケだ。独自の通貨を使う国もある事はある。
この宿は一泊35000ポッケ。贅沢の極みだ。
「ギルドにでも行ってみますか?何か良い依頼があるかもしれませんよ?依頼料はともかく」
「そうねー…手ぶらで行ったら普通嬢に6日もあって収穫0なのか?って仕返しされそうだけど…それ以上の仕打ちをしてやるのもいいか。いいわ、行きましょ」
「はい。すぐに支度致します」
☆☆☆☆☆☆
ギルドの戸を開ける。相変わらず酒くさい。前回見た奴等もちらほら居る。お前ら仕事しろ…私が言うな。
ふと思ったが、危険が伴うためか、女性の冒険者が見る限り少ない。まあ、結婚すれば養ってもらえるからかもしれない。
普通嬢は今日も普通に受付に居た。隣には初めて見るそれなりに美人の受付嬢がいる。
普通嬢はこちらの姿を確認して、実に嫌そうに顔をしかめている。残念ながら私そういう表情大好き
「…何の用ですか?」
「隣は接客中なのに貴女暇そうね。客が付かないのは質の差?」
「ふぬぬぬぬっっ!」
沸点が低い。まさにからかわれる立場の人間だ。もうちょっとからかい続けると半泣きになるだろう。
「この店は客にお茶もださないの?」
「お茶が希望なら隣の酒場のカウンターへどうぞっ!ここはギルドの受付です!」
本当にお茶を飲む訳ない。つまらない質問にまでいちいち答えるとは真面目ちゃんだ。…そういえば普通嬢の名前を聞いてない
「今さらだけど、あなた名前何て言うの?」
「…ユキ様に聞けばいいじゃないですか」
「私は貴女に聞いてるの」
普通嬢の事だからきっと普通の名前だ。そう…例えばノエルとか
「私の名前はノエルです。…どうせ普通嬢って呼ぶんでしょうけど…」
「ね?」
「見事なご考察でございます」
「何ですか…?今、馬鹿にしました?…ペド様」
「別に?」
「くっ…ダメージがないっ!」
もう身体的特徴と名前で馬鹿にされる程度じゃ私は動じない。
「ペドちゃん達が来ると何か雰囲気明るくなるな」
「だな…普通ギルドにメイドとゴスロリ幼女が来ること無いしな」
「な…五丁目ギルドはこれで繁盛しそうだわ」
前回の変態一味の…モブオとモブジロウでいいか、二人が何か私達を五丁目ギルド名物にし始めた。別に構わないけど、広告料はきっちり頂く
「もういいです…結局ここには薬草売りに来たんでしょうか?買取りは2階です…」
「薬草なんて持ってきてないわ」
「…?てっきり薬草売りに来たと思いましたが」
「採りにはいったわ。白露花って薬草」
「おー…凄いじゃないですか。その薬草貴族が買い占めるので常に品薄なんです。高額で売れますよ」
「あれだけ美味しい蜜なら納得ね」
「…ひょっとして、売る分も全部飲んだのですか?」
「そもそも売る分とか採ってきてない」
「何しに行ったんですか!?」
…何しに行ったんだろうね。大体遊んでた。猿とか勢いで殺ったけど、まともに戦った記憶がない。……初日のバーベキューは美味しかったなぁー
「ひょっとして…ペド様がユキ様の足を引っぱって収穫無かったとか?」
「否定しないわ。だってユキだけなら数時間で採ってこれる所を、私が付いていったら6日掛かった上に稼ぎ無しよ」
「いや、白露花が生えてる場所は一番近い所でも王都から更に西にある山奥なので普通は往復で3週間はかかりますが…」
そんな遠かったのか…移動中は寝てたから気づかなくても仕方ない。
「それにしても潔く認めましたね…数時間でつくというユキ様の非常識さはともかく、そこまで大幅に時間が遅れる何て絶対余計な事してユキ様の邪魔してますよ」
別に邪魔はしてない。移動速度は緩めて貰って時間が掛かったが、それ以外は…うん、問題ない。気絶してた時ぐらいしか迷惑はかけてない。
「その調子ではペド様には冒険者無理なのでは?」
「私はツーリストよ。いずれは旅行中に永住先を見つけるつもりだけど」
「あー…そうでしたね……ランクも上げないなんちゃって冒険者でしたね……」
その通り。だがその最終目標に行くためにはまず、最初の難関である『ぶらっくうるふ』をスルー出来る精神力を鍛える必要がある。
「言い方変えますと、ペド様が居てはお金を稼ぐの無理じゃないですか?」
「言ったわね?普通如きが言ったわね?」
「ふふん!私はちゃんと働いてますもの。稼げないペド様の悪口なんて痛くも痒くもないです!」
「上等よ。そこまで言われたら私だって引き下がれないわ」
少し前まで自分も同じ事を考えてたとは言わない。
「降ろしなさいユキ、私の本気を普通に見せつけてやるわ」
「頑張って下さいませ」
「何ですかー?依頼でも受けるんですかー?」
客に向かってこの態度、後で上司にクレーム入れとかないと…。
っと、丁度良い所に知らない大柄の冒険者が入ってきた。恐らく他の町の冒険者だろう
そこそこ実力がありそう…これはいける。私の実力を良く見ておきなさい普通嬢。
ターゲットに近づき、上着の裾を引っ張り、上目遣いをする。そのまままばたきせずに目を開き続ける、すると目を乾かさないように作用するのか涙で潤んでくる。これを利用するのがポイント
「あのねー?おかあさんがね?ずっとあたまのちょうしがおかしいの。ぱぱがおかねをたくさんかせいでくるんだけどね?ぜんぜんたりないのー」
「…そうか、苦労してるんだなお嬢ちゃん」
「うん…でね?わたしもはたらかなきゃいけないんだけど…はたらけるしごとがなくてこまってるの」
「子供じゃ働ける仕事はあんまりないだろうなぁ…すまねぇな、俺には紹介出来る仕事はないなぁ」
「…そっかぁ、きょうのぶんだけでもなんとかしようとおもったのに…」
「薬代か?いくら必要なんだ?」
「35000ポッケかな」
「ギルド内で犯罪行為はやめてっ!?」
ちっ!9割方成功してたのに邪魔しおって!労せず宿代を稼げたところを…っ!
「人から騙しとるのは仕事じゃありませんっ!」
「嘘は言ってないわ。母は頭悪いし、浪費が激しいからお金がない。私も仕事がない。今日の宿代35000ポッケが必要…ね?」
「ね?じゃないですっ!ただでさえ昼間から酒飲む冒険者が多すぎて質が悪いなんて言われてるのに!これ以上評判悪くしないで下さい!」
なんだ、昼間から飲んだくれが多いのは五丁目だけなのか…
「おいおいノエルちゃんよー、他の奴等はともかく俺等を飲んだくれと一緒にしないでくれよー…なあ?」
「全くだ。俺達はタダで飲める水だけで居座ってるんだ」
「尚悪いっ!!」
モブオとモブジロウは予想してた通りのダメ人間だった。
「というか、評判…ってなぁ?職につけないろくでなしが仕方なく就く冒険者に何を求めてんのかな?ノエルちゃんは」
「五丁目ギルドはせいぜい中堅止まりの冒険者ばっかだからな…褒賞金が貰えなくてカリカリしてんだろ」
「あんたら出てけっ!」
思い当たる節がありすぎる。私がツーリストという名の冒険者になったのは登録するだけでなれるから。一般人はわざわざ命の危険が伴う魔物退治なんかしないだろうし、薬草採りに行く事もないからなぁ……
「落ち着きなさい普通。そのろくでなしのお陰で町の安全の確保や貴重な薬草が市場に出回るのよ」
「緊急時以外は警備兵が町の安全を確保しています。そして五丁目の緊急時の不参加率はワンス王国一と言われてます。ちなみに貴重な薬草は他の町のギルドに所属してる冒険者が持ち込むのが主です。五丁目ではユキ様しか採りに行く方は居ません」
「わかった。五丁目はクズね」
何というか、私の生まれ育った町なだけはある。だが、そんなクズ達に私は好感がもてる。私の予想では五丁目ギルドは恐らく……
「五丁目ギルドって生存率は王国一でしょ」
「その通りです。ほとんどの方が簡単な依頼しか受けないですし、討伐依頼を受けて失敗しても生きて帰る方が多いです。ウチはそれだけが救いです……」
「身の丈にあった依頼を受けるのは良いことよ。自分の力量もわからず強い魔物に挑んで返り討ちに遭うよりはマシね」
「…ですねぇ。ここの人達は身の丈にあった依頼ばかり受けすぎて他のギルドの冒険者からは臆病者呼ばわりされたりしますが…」
「失敗した人もいるんでしょ?依頼に失敗するのは他人には簡単でも自分には難しい依頼に挑戦したからよ。笑い者になるかもしれないのに、恥を忍んで依頼失敗をあなたに伝えた冒険者は果たして臆病者なの?」
「…はぁ……いいえ、一時の恥より命を選べる勇気ある決断が出来る冒険者です。…全く、ペド様には口では勝てそうにないですね」
「今頃気付いたの?」
まあ今後も五丁目には臆病者のレッテルが貼られるだろうが、五丁目にだって優れているものはある。
「おう、アンちゃん!さっきはとんだご褒美だったな!」
「おう?この町の冒険者か?それを言うならとんだ災難…いやまぁ結局何事もなく終わったが…」
「この町一番の幼女に上目遣いされるとかご褒美だろうが!」
「全くだ。とりあえず座ってくれ……。で?感想を聞こうか…」
「そうだな…。結局芝居だったが、不安そうに上目遣いで俺を見る表情には母を救わんとする美しい想いがあり、潤んだ紅い瞳には至高の輝きがあった……」
「そうか……呑もうぜ兄弟。今日は俺の奢りだ」
「あぁ………って水じゃねぇかっ!!」
五丁目に新たなバカが誕生するかもしれない。
「他のギルドからはバカにされてると分かってても、あんな風に他所から来た冒険者とすぐにバカをやれる。こういうの嫌いじゃないわ」
「…そうですね。五丁目ギルドの一番良い所はこういう雰囲気かもしれません」
愛すべきバカ達が、互いに水を掛け合うという実に子供っぽい喧嘩をしているのを、私達は呆れた顔で見ていた
……あれ?何しにギルドに来たんだっけ?




