幼女とアイスによる惨劇
「これ凄いけど、具体的な仕組みってどうなってるの?」
「下の騒ぎを気にせずスルーするなんて、それでこそ私の友よ」
「普通じゃない事が起きれば大体騒ぐから大丈夫だよ」
「なら私も何か言いたげにしてる何処かのお姫様はスルーする事にするわ」
「ちょっとちびっ子!」
さて仕組みか……このボウガンもどき、当初の予定から外れて大分違う仕様になったんだよなぁ
ドラゴンの髭がこんなに使い物にならないとは思わなかった。勿体無いから使うけど……
「何故こんなめんどくさい仕様になったか答えてあげましょう」
「うん。その辺は別に聞いてないけど聞くよ」
「うむ。普通に弦として使ってもダメだったから仲間に改造してもらった」
「……終わり?」
「手短でいいでしょ」
「そんな謎の物体を使う勇気ないんだけど」
と言われても魔改造したのはサヨだしなぁ
大体の説明は聞き流してるから詳しくは知らんのだが
「そうねぇ、とりあえず使い方はさっき言ったわね。髭が魔力を放出すると一気に縮む仕組みは私には良く分からない。何か触手持ちの魔物が伸ばしたり縮めたりするのも同じ様な原理だとか」
「放出ってどうやるの?」
「それは専用の矢が何とかしてくれるわ。引き金を引くと矢と弦がくっついて矢が弦の魔力を吸収するわけ」
「放出じゃなくて吸収なんだね」
「魔法使いなら自分で放出出来るだろうけど、私は出来ないからね……で、矢が魔力を吸収すると先端に込められた魔法が一定時間後に発動するわ。矢自体も吸収した魔力で加速する付与魔法、だっけ?まぁかなりの速さで飛んでいくってわけ」
「それって、矢を持って魔力を込めて飛ばした方が早いじゃない。本体が不要な仕様って何なのよ」
放置してたら自国の姫も参加してきた。金髪に蒼い目に高圧的な態度と王道の様なお姫様だ。しかし能天気なミラの友達っぽいだけあって悪い奴では無さそう。
矢を直接飛ばす、言ってる事はご尤もだ。普通はそう思うだろう。
「ふ、これだから温室育ちは」
「あなたどんだけ無礼なのよ、普通なら極刑は無いにしても牢獄行きよ」
「ちゃんと言葉遣いは人を選んで使っているから心配無用よ。ミラの友達、みたいな奴がこの程度で怒るほど器量の小さい奴とは思わないわ」
「みたいじゃなくて友達よ。あなたはミラの友達とは思えないほど嫌な奴ね、ここで怒ったら私は器量の小さい奴ってことじゃない」
「さぁ?……続きね、これは元々私が使う為に作ったのよ。魔法が使えない私が弦に魔力を込めるなんて出来る訳が無い。じゃあどうするか?」
「……他所から魔力を持ってくる?」
「大体そうね。正解はボウガン自体から弦に魔力を送る、が正解よ」
「ただの木製ボウガンにしか見えないけど」
「それ神木製だから魔力を勝手に吸収するの」
勝手に魔力を吸収してくれるとか流石お高い神木だ。
「何か一気に高価な武器になったわね。見た目お子様の工作なのに」
「ふっ……大事なのは性能よ。本体から弦に魔力を送る方法は側面に魔方陣があるでしょ、そこに弦を引っ張って当てれば勝手に注入されるわ」
「へー、たぶん凄いんだね」
自分から聞いてきておいて全く興味なかったらしい。ミラとしては使い方だけ分かれば良かったみたいだ。
逆にワンス王国のお姫様の方は神妙な顔でボウガンをまじまじと見ている。
「そういえば貴女名前なんなのよ」
「あなた自分の国の姫の名前も知らないわけ?……知らなさそうね、私の名前はリーベよ、リーベ・アルレイン」
「リーベ……」
「そういうあなたは何なのよ」
「ドンちゃんはドンペリンリンだよ」
「何その変な名前……」
「いえ、姫様、前にギルドカードで確認したじゃありませんか。その方は」
「いいじゃないドンちゃんで、何か呼ばれ慣れたし」
しかしリーベねぇ……何か不思議と他人とは思えない名前だな
そのリーベは私の作品、というよりもはやサヨの作品を色々と弄っている。実際に魔方陣に弦を当てて魔力が込もるのを見て若干驚いた。
こいつ私の説明を信じてなかったのか?失礼な奴だ。
「リーベ……確かフィーリア様と同じく愛を意味する言葉でございます」
「ふーん、キキョウも案外物知りでございますね」
「やめて下さいませ」
「姉さんとお揃い」
「お揃いと呼べるのやら」
未だにリーベはボウガンに夢中だが、その表情は益々険しくなっていく。
その理由は大体想像がつく。魔力も持たない一般人でも必殺に近い一撃が放たれるんだからな……あれも一応欠点はあるんだが
神木から吸収出来る魔力は本体の大きさがそこまで大きくないだけあって精々2回分程度しかない。時間が経てば自然に魔力は貯まるけど、まぁそこは魔法使いがカバーすればいいだけだが。
やっとボウガンから興味が離れたリーベだが、今度はミラを呼んでコソコソと内緒話を始めた。
あ、これ内緒話を聞いてしまったら有耶無耶の内に手伝わされるパターンだ。
「何をコソコソしてるのでしょうね?こちらもこっそりと聞いてみますか?」
「ダメよキキョウ、内緒話と陰口はスルーするものよ」
「なら、ここは気付かれる前に帰るべき」
「分かってるわねメルフィ。そうしましょう」
「ペ、ではなくドンペリンリン様、その節はお世話になりました」
「出たわね足止めメイド。依頼も果たしたし、私達は帰るから」
「そうでした、あのおっぱいアイスなる不埒な商品を取り扱っていた店がこっそり別の場所に店を構え新作を出したとか……いつドンペリンリン様がいらっしゃってもお出し出来る様に僭越ながら一つ保管しております」
「……いえ、普通に店で買うからいいわ」
「すでに潰しましたのでもはや購入は無理かと」
くそっ……この外道メイドめっ、また手伝わせる気満々じゃねぇか!
いや、タダでさえ借金してるんだからそれを理由に断る事も出来る。
問題はリーベの方が何か面倒な事を頼みそうな事だ。
しかしアイスの新作……この寒い時期にぬくぬくな部屋で食べるのが美味いんだよなぁ
「そこの、えーっと、ドン!」
「そんな奴は居ないわ」
「ペドちゃんの事だよドンちゃん」
「急に本名使った上にドンちゃん呼ばわりかよ」
「じゃあそのペドに用があるんだけど」
「私をペド野郎みたいに呼ばないでくれる?」
「めんどくさい奴ねっ!」
ごちゃごちゃ言ってる内に転移符を使って逃げるとしよう。
いちいちリュックを降ろすのはダルいのでリンに頼んでリュックの中から転移符を持ってきてもらう事にする。ちっちゃいって便利だねっ
「あなたに頼みたい事があるのよ」
「嫌です面倒です失せろ」
「少しは王族に対する姿勢を改めなさい!……じゃなくて、私が頼みたいのはあなたじゃないわ。このボウガンと矢を作った人物よ」
なんだ、そっちか。そら初対面の一般人な幼女に深刻そうな頼みをする奴なんて居ないか。
居るわ、リーベの隣のアホな姫が。
サヨに依頼、というか頼みごとか……当の本人は現在建国に夢中だから間違いなく却下するな
「本人に代わって断るわ」
「受ける受けないは本人に頼んでから聞くから、とにかく一度会わせてちょうだい」
「機嫌悪くしたら殺されるわよ?貴女がお姫様でも」
「い、いいからっ!」
鬱陶しい奴よのう……ていうかリンはまだか?
リュックの中でもぞもぞしてるのは分かるけど、暗いから見えないのだろうか?
などと考えてる内にリンがリュックから出て肩に上って何か布切れを差し出してきた。
「誰が着替えの下着を出せと言った」
「着替えを常備してるのですか?」
「念の為よ、ていうかさっさと戻しなさい馬鹿リン」
何て役に立たないんだ。サヨのそっくりさんなだけあって徐々に変態へと移行しているのか?
「小型なのに凄い繊細に出来てるゴーレムねぇ、それも例の製作者の作品かしら。じゃなくて聞いてるの?」
「聞いてるわよ……その前にメイド一号」
「アリエです。今後は覚えておいて下さい」
「善処するわ、まずはさっき言ってたアイスを先に持ってきなさい。話はそれからよ」
「え……」
「何故躊躇する。いや、待って……まずどんなアイスなの?」
言うべきか、言わないべきかを悩むアレ。
どんだけ酷いアイスなんだよ
「こほん……えー、名前はヒップアイスと言いまして……チョコレート味です」
「やめろ馬鹿。帰る」
これは酷い。おっぱいの次はお尻でいけると何故考えた。
調子に乗ってヒット商品の第二弾を出したらこけるの法則じゃないか。あの店の場合は文字通りクソと化しやがった。
「相手が私じゃなかったら戦争は免れなかったわ」
「アイス一つで戦争に発展するとか怖い世の中になったねー」
「ミラも今度どこかの国のお偉いさんが来たらヒップアイスを出してみるといいわ」
「やだよ!?」
む、背中がもぞもぞし出した。というかリンがリュックの中でもぞもぞしている。
目的のブツが見つかったのかよじ登ってくる気配がする。そのまま待ってると再び肩まで上がってきて持ってきた符と思われる紙で頬をぺしぺししてきた。
なぜ叩く。
「ご苦労様。じゃあ帰るとしましょうか」
「いやいや待ちなさいよっ!?」
「いいや待たない。何で排泄物型のアイスを食わされそうになった上に貴女の頼みまで聞かなくちゃいけないの?馬鹿にしてるの?」
「アイスは私のせいじゃないでしょ!」
『話は聞きました。すぐに行きますのでその不届き者に今の内に遺言を書いておけと伝えて下さい』
……何故かサヨの声が聞こえた。
手にはリンが持ってきた符。魔方陣の事は良く分からないが、転移符とは違う形に見えなくも無い。
「つまりリンは間違えて転移符じゃなくて通話符を持ってきたって話か」
「間違えたというかワザとな気もしますが」
「……今の声のやつが目的の人物ってわけ?」
「そうね」
「良かったねリーベちゃん、来てくれるって。結果オーライだねっ」
「そう、なの?」
ただし殺しに来る。
殺される側の立場だったら恐ろしいことこの上ない。
「とりあえず遺言残しといたら?」
「嫌よ」
「つまり遺言は不要と言う事ですね。では死ぬがいいです」
「でたあああああぁぁぁぁっ!?」
「何でお姉様が驚くんですか」
誰も言わないからだろ。
にしてもすぐに来ると言ったが本当にすぐ来やがった。転移出来るんだからそりゃ早いんだろうけど……あ、アリエの顔が蒼白になってきた。
「で、何処のどいつですか?」
「アイスの件ならメイドね」
「私じゃないですよー?こっちの赤い方ですから」
「ハンナ!?」
隣にいたサヨが消えたかと思ったらアリエも消えていた。
しかし消えたのではなくて壁まで一瞬で吹っ飛ばされただけ、そして恐らく折れたのであろう足をぐりぐりを踏みつけるという何か見た事あるというかした事ある光景がアリエの悲痛な絶叫と共に繰り広げられていた。
これは……軽いツッコミ程度で済むと思ってたらマジで怒っててやっちまった的な話か。たかがアイスと侮っていたわ
「うわああぁぁぁっ!アリエが死んじゃうっ!?」
「見なさい、原因がヒップアイスだからか尻を重点的に蹴っているっ!」
「解説はいいからアリエを助けて!?」
「無理よ、今のサヨを止められるのは私達くらいよ」
「なら止めてよっ!」
止めろと言われても誰も止める気が無いから仕方ないじゃないか。
だがアリエの反応が鈍くなってきてるし、サヨも薙刀を取り出したから確かにヤバイのかもしれない。
ミラの護衛である例の四人組も何とか説得で止めようと試みているが聞く耳持たない様子。何で実力行使で止めないかは察してあげる事にした。
リーベは目の前の光景に現実逃避しているのか静かになっている。次はリーベかもしれないから逃げればいいのに。
「ギャグな様で実は本気で死ぬ一歩手前……これがギャップというやつね」
「フィーリア様、下から兵士達が来る気配が有りますが」
「なら止めるか」
あの爆発から大分時間が経っているが、今頃来るとはどんだけミラは後回しなんだ。
「サヨ、流石にアイスが原因で殺人を犯したら大問題よ。そろそろ止めときなさい」
「お姉様……時には殺す覚悟も必要なのです」
「ダメだこいつ」
「そろそろ兵士が来ますのでフィーリア様のお嫌いな面倒な事になってしまいますよ?」
「任せなさい、私が皆殺しにするのでお姉様の手は煩わせたりしません」
「ダメですよあの人」
アリエの腹部に薙刀をぶっ刺して高笑いしてる所を見るに大分ハイになっているな。まさかリンの失敗から殺人事件へ発展するとは思わなかった。
「アリエ達には借金を返してもらわなきゃダメでしょ。だから殺すのは許さん」
「む、確かに」
「という事で矛先はこっちのお姫様に向けなさい。元々貴女に用があったのはこいつなんだし」
「え?」
「なるほど、首謀者である不届き者はそちらでしたか」
よし、とりあえず金づるは助かった。いや大分助かってないけど生きてりゃ問題ない。
死ぬ一歩手前な様子のアリエに近付き、毎度お馴染みになってきたユニクスの血を……
「勿体無いわ、ユニクスの鼻水にしとこ」
「飲ませましょう」
「え、そんなの飲ませたら可哀想……」
「血より効果低そうだし飲まなきゃ死ぬかも」
「分かった。飲ませていいよ!」
「うわぁ……しばらくアリエには近付かないでおこーっと」
散々である。別に全部が鼻水という訳ではないが、鼻から出た液体を自分達で使う気にはならない。だったら持っておくなという話だが、そこは遊び心というものだ。
隣では情けなくも一国の姫が冒険者に向かって土下座している真っ最中だ。リーベも権力が全く通用しない相手だと気付いたのだろう。
アリエに鼻水を飲ませてホッと一息ついた所でどたどたと走る音が近付いて来た。足音のする方を見ると、庭園への入り口から兵士達が数人出てきた。
トゥース王国の兵士とは違うと思われるもっと上等な鎧を着た兵士もいるが、そちらは恐らくリーベの護衛だと思われる。
「姫様、やっぱりご無事でしたか!」
「姫様はともかく、ワンス王国のリーベ姫様を攫う為の陽動かと心配でした」
「いつもお花だけが友達と言わんばかりにここにいらっしゃるので探すのが楽で助かりますっ」
「何か馬鹿にしてない?」
やたらミラに対して遠慮の無い言い方だが、そこには親しみがあった。別に兵士には嫌われてるって訳ではないみたいだな。
しかし重傷を負い、倒れているアリエの方を見ると一転して神妙な顔つきになる。
「これは……アリエ殿が何故こんな怪我を」
「説明しましょう」
「うむ、その前に君達は誰だね?」
「私達はミラ、様に依頼を頼まれて武器を持ってきた冒険者よ」
「城内に入れた覚えのある者はいるか?」
「知りませんが、可愛い娘達ならいいんじゃないですか?」
「それもそうだな、では何があったか聞こう」
それでいいのかトゥース王国。
「刺客と思われる何者かがミラ様とリーベ様を狙ってきたのよ、それをアリエが身体を張って止めた所を私達が撃退したってわけよ」
「凄く堂々と嘘つくんだね」
「私達からも一つ尋ねたい。なぜリーベ姫様はこちらの少女に土下座をしているんだ?」
「サヨに頼みたい事があるからって頭を下げてるみたい」
「姫様……何も土下座しなくても」
「うっさいっ。こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際なのよ、黙ってて!」
すでにサヨは頭を冷やした様でどうしたもんかと悩んでいる様子。勢いでやってしまうからそうなるのだ、反省の意味も込めて自分でどうにかしてもらおう。
「しかし刺客か……一体どこの国の者だろうか」
「ミラ様は」
「いやミラでいいよドンちゃん、何か気色悪いし」
「じゃあいつも通りに。で、そのミラって案外好かれてるのね」
「そりゃそうだぜお嬢ちゃん。俺達の小遣いよりも少ない王族とか生暖かい目で見守るのが兵士の務めってもんだろ」
「庶民的と言って差し上げろ」
「絶対馬鹿にしてるよ!」
ふーん。やっぱ傲慢ちきな王族より庶民的な王族の方が親しみがもてて好かれるんだな。当然と言えば当然なんだけど。
それに比べてワンス王国側ときたら全く忠誠心の無さそうな兵士が数人ほど……いや、忠誠心以前に護衛というより監視みたいな奴等がいるな。
何で監視されてるか知らんが、恐らくリーベの身内に監視を任せた奴が居るんだろう。刺客と言うのが放たれてもおかしくないな。
件の監視達は私の言った刺客という嘘っぱちな話に何やら考えこんでいる。何か今の話は実は嘘でしたって言える雰囲気じゃない。
そういえばサヨはここに居るんだけど、建物の方はどうなってるんだろうか?ちゃんと回収してるんだろうな




