幼女とそれぞれの行動
と言う事で愚妹に国っぽく建造物を私だけで用意しろと無茶振りされたので行動開始しましょうか。
ちなみに一人で大変そうだから私を手伝う……とか言う人はお姉様のパーティには居ませんでした。流石お姉様の選んだ面々、面倒そうな事には手を貸さない。
と言っても他所から持ってくるだけの簡単なお仕事なので一人で構わないんですけどね。
問題なのは持って来る場所、比較的新しく人が住めるほど破壊されてない建物が残っている廃墟。妥協して古くても良いですが家として形が残ってるものでも可。
そんな都合の良い場所が果たしてあるのか……魔物に滅ぼされた国は例外なく滅茶苦茶になっているので無視。人間同士の戦争で滅んだ国も年月が経ちすぎていたら賊や魔物に荒らされている可能性が高いので却下。
つまりつい最近魔物以外が原因で滅んだ国から持ってこようという事になりますが……
流石にそんな都合の良い国が早々見つかるとは思えません……
いえ……都合の良く戦していて王都以外はもぬけの殻なフォース王国がありますね
ダメですかね……未だ存在してる国から拝借してバレたら面倒な事になりますし。可能性は低そうですが念の為フォース王国は候補から除外しましょう。
となると、何処かで聞いた方が早いですかね。最近は亜人の教育やら何やらで他国の事など全く興味無かったですし、知らない間に滅亡してる国の一つくらいあるでしょう。
「?」
早速転移符を使って適当なギルドに訪ねに出向こうと思ったら重なる様に手紙と思われる代物が……
はて、誰がいつの間に仕込んだのでしょうか
『建造物を拝借するならクソ女が滅ぼした中継都市がマジおすすめ』
読めば名前が無くとも誰が仕込んだかすぐ分かってしまうこの手紙……うーむ、私に気付かせずに仕込むとは流石はお姉様と言うべきか
とはいえ助言はごもっともなので素直に従いましょう。
国では無く中継都市……確かに建物や防壁を頂くだけなら十分ですね、それに気付かないとは私も頭が固いと言うか、戦い方といいもう少し柔軟性を身に付けますか
「建物に関してはまぁそこで良いとして、後は……畑?」
おお、それなら良い人材が一人居ましたね。後でお姉様を連れて拉致しに行きましょう。
とりあえず中継都市ですね。
★★★★★★★★★★
「では、これで失礼します」
「ああ、済まないね、助かったよ」
とりあえず目的達成。
数多いフォース王国からの避難民の中から依頼人を探すなどかなりの時間を費やすと思ったが、案外すんなりと見つかってくれて良かった。
どうやら町毎に固まって避難してた様なので依頼人が住んでた町さえわかれば後は人伝に探すだけ
恐らく他国の者や遠征中の家族がいち早く避難民の身内に会える様にと考えて避難したのだろう。
まあこちらとしては助かるのでその辺の詳細はどうでもいいか。
依頼の方は結局こちらが蜂蜜を買い取るという形で終わった。
避難してもタダで住居を借りれる訳ではない。宿屋暮らしがほとんどなので当然宿代はいる。
依頼人も当分宿泊するお金はあったみたいだが戦争がいつ終わるか分からないのでお金は有るだけ有る方がいい、という事で依頼品を売却する事にしたようだ。
ちなみに代金はギルドに依頼した料金と一緒、ギルドに依頼達成の報告をすれば代金は戻ってくる。
つまり私達は蜂蜜を入手する為に働いた様なものか……ついでに受けた依頼だから構わないけど。
「時間がかなり余ってしまいました」
さて、暇になった時間をどうするか……
お母さんの所に行くかたまには買い物に行くか、それとも姉さんの手伝いに行くか
選択肢をあげたはいいが実質一択だ、もうお母さんしか見えない。
……いや、一刻も早く向かいたい所ですがフォース王国の様子を見てからにしよう。
シリアナ改めマリオネットという一番の脅威がいなくなったとはいえ、ペロ帝国の首領とやらは念のため一目見ておきたいし。長女のおばさんが私達の事を喋る様には見えないので敵になる事はまあ無いでしょうが、一応念の為だ。
しかし……ここは冒険者ご用達の中継都市なのだが、今は避難民に溢れてごちゃごちゃしている。宿の部屋より人の方が多いだろうからこの寒い中通路で一夜を過ごすものも居るのだろう。
ちょうどそんな人達が通路の端にいるのが視界に入っている。必要最低限の物しか持ってきてないだろうし、長引けば長引くほど民は辛いだろうな……恐らく他国へ移住する者が今までより増える事だろう。
で、現在私を足止めしてる12歳くらいの子供が居るわけなのだが
「何か御用でしょうか?」
「買いませんか?」
「何を買えと言っているかは分かりませんが、特に必要な物はありません」
「人間」
つまり奴隷を買えと。
子供に連れられて行くと同じくらいか少し幼い子供達が固まっている。寒いから集まって暖を取っているのだろうか……服装の粗末さを見る限り貧困層の子供達か。
「女の子ばかりですね」
「男子は稼ぎ手なので」
「なるほど。しかし商人でもないのに勝手に奴隷を売ってもよいのですか?」
「ここは中継都市ですので」
確かに中継都市では法律など無縁な場所だ……しかし別にフォース王国の民では無くなったという訳ではないのだが。
「お金の為に仲間を売ると」
「力も教養も無い私達がお金を稼ぐには仕方ない事です。売られているのは同意を得た子達だけです」
この子供達は孤児院にすら入れなかった捨て子達なのだろうな。この子達より更に小さい子供達の為に身売りをしている、と言った所だろうか。
残念ながら私にはお母さんの様に面白い子を見つける目利きは出来ないので買うつもりは無い。
「見ての通り私は従者です。主人の許可なく奴隷を買うなど出来ません」
「お姉さんなら一人50万ポッケでいいです」
「聞いてませんね。しかし驚きの安さと言いますか……それだけ安ければ他の人が買ってくれますよ。では失礼します」
50万という奴隷にはあるまじき値段なら中継都市に来る冒険者でも買える値段だ。ただし養えるかは別だが。
五丁目のモテない冒険者達なら嬉々として買ってくれる……と思ったが50万すら払えない可能性が高い。
さて、フォース王国に行こうと思ったが未だにリーダーっぽい子が服を離してくれない。そろそろ蹴飛ばしていい頃だと思う。
「9人セットで何と300万ポッケ」
「買いません。叩き売りは他所でしてください」
破格の安さなんだろうが正規の売買じゃないので後々面倒になりそうだ。やっぱ買わない方がいいな。
それに、魔法でこの子達の状態を見る限り病気だったり怪我をしてたりと使えそうにない。治せば良いのだが、キキョウさんみたいにお気に入りの奴隷ならともかく、この子達の治療などお母さんが許可するとは思えない。
「それでは急ぎますので。縁があればまた会いましょう」
「あ」
子供の手を無理矢理振り払ってその場で転移した。付き合っていられない。
「これは何とも……予想外と言いますか」
結局停戦しなかった両国は未だに戦争中。
何が予想外かって、まさかペロ帝国が王都にまで攻め入ってるとは思わなかった。質では上だと思っていたフォース王国の防衛線を突破してくるとは……トゥース王国も攻め入る理由を作ろうものなら攻められて滅びていただろう。
しかし魔物やニーナさんの置き土産であるゾンビにフォース王国側が手間取った事も現状に左右したと思える。
姉さんが壊した結界はどうやら何とかなってるみたいだ。修復したのではなく近くの町から持ってきた物だろう。魔物に襲われてる町があったし。
ペロ帝国側で先陣切ってるのは筋肉が気色悪い男、側には無事に城から脱出したのかマリオネットの姉であった……誰だっけ、お尻みたいな名前の女性も居る。
まさか、あれがボテバラートなんだろうか……だとしたら酷い名前詐欺だ。別人、もしくは偽名という事も考えられるけど。
仮にあれがボテバラートだとして、一国の王が先陣を切るとか姉さん並に馬鹿だ。だがフォース王国の兵士を次々と薙ぎ払っている姿を見る限り実力に自信があるのだろう。兵士の剣を生身で防いでる所を見るにもはや人外だ。人間という枠を超える化物があっさり出てくるから困る。
「ヨーコさんもヨーコさんの兄も消えた事ですし、フォース王国もこれまででしょうか」
しかし国を強化する為に呼んだヨーコさんのせいで国が滅亡の危機に瀕されるとは……お母さん風に言えばざまぁ、って感じだ。
筋肉ゴリラを筆頭にそのまま城まで突っ込みそうな勢いのペロ帝国だったが、急に立ち止まって敵を迎え撃つ体制を取った。
はて、何を警戒しているのか……と思うのも束の間、フォース王国側から一人の兵士?……違うか、一般人というか、冒険者というか何とも見た目は普通そうな青年が前に出てきた。
「黒髪ですね……あれもヨーコさんの身体を用いた実験体か、もしくは新たに召喚された者か」
前者が濃厚だが後者だとしたらまた異世界人を呼ぶとか見境無い国だと認定できる、どっちにしろ他人頼りとか情けない国だ。滅びればいいのに。
しかしこれでヨーコさんと同等かそれ以下でも十分脅威であろうし、ペロ帝国の優勢が一気に均衡に変化した。また長引くのだろうな
ふむ、このままゴリラと青年が戦ってどのくらいの実力の持ち主か確かめたい所だが、そろそろ目の保養も兼ねてお母さんの所に行こうか
★★★★★★★★★★
「着いたわ」
「……ここは何処でしょう?」
「トゥース王国の城の中にある花畑」
「うわぁ……本当に不法侵入なんですね」
当たり前だ。いつでも遊びに来いと……言ってた様な気がするから直接ここに来てもきっと問題ない。何か偉い奴に注意されたらミラのせいにすればいい。
「ところで首輪は外してもいいんじゃない?会うのは私の知り合いなんだし」
「フィーリア様が良くても、奴隷でもない獣人が勝手に城の中に入るといい気がしない方も居るもんですよ」
「まぁいいけど。にしても居ないわね?」
「何の約束もしてないのに急に来て会える方がおかしい」
「そりゃそうだ」
居ないなら仕方ない、ここで待つとしよう。ちょっと待ってればいつもここに居そうなミラの事だ、きっとやってくるだろう。
「マイちゃん、ミラが居ない内に花畑の蜜をたらふく飲むといいわ」
「ノムゼー」
「喋った!?」
「ああ、キキョウは知らなかったか」
「は、はい……うーん、リン様といいフィーリア様の周りは不思議な方ばかりです」
確かに、不思議という言葉を変な奴と変換すれば納得。
喋れない為めっきり存在感が無くなってるリンは私の肩に普通に座っている。最近は私の肩の次にキキョウの頭の上に居る事が多い。あの狐耳がお気に入りなのだろう。
「全く気にしなかったけど、このクソ寒い時期だってのに花は普通に咲くのね」
「ここは精霊が多いから。たぶんルリが近くの森に居るせい」
「精霊が多いと花は寒かろうが育つの?」
「まあ……精霊が力を貸せば、だけど」
「ほー」
「この花畑を造った人物は精霊に好かれてると考えて良い。姉さんほどじゃないけど」
「なるほど。暇さえあれば花の世話をしてそうだしね……植物は自然の産物、ふむふむ」
ミラが来るのが先か、マイちゃんが花畑の蜜を吸い尽くすのが先か考えていると、入り口の方から数人の人影がこちらに来るのが見えた。
これでミラ以外が来たら曲者じゃー、とか言って追われる所だがやってきたのはミラとあのメイド達、あと……名前は忘れたけど護衛として連れてきた者達。
あと知らない女。
「わ、ドンちゃんだ」
「久しぶりね」
「うん、何しに来たの?遊びに来たのなら」
「いや貴女、自分で依頼した事を忘れてはいない?具体的にはドラゴンの装備とか何とかで」
「……おおっ!」
こいつ忘れていやがった。
やはり花が好きな奴は頭の中がお花畑という法則は間違っていなかった。聞いたこと無いけど。
「で、依頼品を持ってきた訳だけど……その前に聞くわ。依頼料はちゃんと有るわよね?」
「お、おいくらだったっけ?」
「破格の4000ポッケよ」
「……あ、ごめん。お菓子買ったりしたから2600ポッケしかないや」
「おい」
「姫様……情けのうございます」
「し、仕方ないんだよ……いつ来るか分からなかったし」
結局メイドの片方にお金を借りた様だ。あいつらはあいつらで私達に支払う金が有るというのに。
「ごほんっ」
「む?……そう言えば誰よこいつ」
「こ、いつ?」
「だ、だめだよドンちゃん。この人はワンス王国のお姫様なんだから!」
「へー」
「ミラ、ずいぶん親しげだけど……こちらはどちらの国の貴族かお姫様かしら?それとも女王?高貴な貴族?」
「えー、と」
「冒険者よ。聞き間違いじゃないから聞き返さないでね?冒険者よ冒険者」
途端に顔を顰めるとは無礼な姫だ。
こいつがウチの国の姫とか……
「うわー、こいつが王都を変人の巣窟にした奴?うわー」
「失礼ねっ!あれは私じゃなくて妹がやった事よっ」
「どうでもいいわ。で、これが依頼の品よっ!」
「聞きなさいよ!」
と言ったはいいが準備はして居なかったのでリュックから取り出しせかせか組み立てる。
そう、このボウガンもどきは組み立て式である。分解しないと入らないし。
何か自称姫様が後ろでやかましい。集中させろ。
「おー、最近のドラゴンの装備って木製に見えるんだねぇ」
「時代は変わったのよ」
「いやそれ木製でしょ。詐欺じゃない」
「弦はドラゴンの髭よ」
「ドラゴンの髭とか……使えるの?それ」
「案外伸びるわ」
というかもの凄く伸びる。魔力を込めればと言う前提があるけど。
ボウガンの胴体より余裕で長く……限界はまで髭とボウガンの胴体を長くするともはや手で持てないので城壁に引っ掛けて発射するのがベストかも。
「メルフィ、本体を城壁に引っ掛けて」
「んー」
「何その長い弓……じゃなくてボウガンっぽいの」
「ボウガンから固定砲台に進化した武器」
「適当ね」
「ちなみに案外飛ばなかった」
「ダメじゃん」
持ってくる前に試写くらいはしている。魔力を込めずとも少しは伸びるが、通常時だと瞬時に元の長さに戻るのではなくにゅるーんと徐々に戻っていくから全く使い物にならなかった。
しかし、前述の通り魔法使いが魔力を送ってから射ると……
「という事で鶏目掛けて撃ちなさいメルフィ」
「そんなの居ない」
「こういう時は都合よく飛んでるもんでしょ、何でいないのよ」
「それは無理だよドンちゃん……」
魔王め……私に怖気づいたか、雑魚が。
「じゃあこの際空に撃てばいいわよ」
「空に撃ったら何処いったか分からないんじゃない?」
「爆発するから分かるわ」
「もはやボウガンじゃ有りませんね」
もそもそと姫達など気にせず準備をするメルフィさん素敵。
一回しか使った事無いのに無駄なくセットするとは……人外連中に隠れているがメルフィはメルフィで優秀だな。
「出来た。矢は?」
「どんな爆発がいい?」
「ん。火で」
「よろしい」
「どんな会話?」
サヨ特性の魔法の符が込められた矢だ。ちなみに時限式である。ドラゴンの髭に魔力を込めずに放って近くに落ちれば自爆すること間違いない。
もちろん矢もボウガンに合わせて多少は長い。矢先は普通の矢と見分けつくように円くなって少し膨れている。中に丸めた符が入っている為だ。
「やっちまえ」
「ふぁいあ」
引き金を引く時の気の抜けた声と違って矢は一気に空へと放たれていった。
髭に込められた魔力が一気に放出されて髭が伸縮し、矢を飛ばすという謎の仕様となっている。どういう原理だか知らんが都合が良いので気にしない
放つ際は突風と爆音が響き渡り、もはや大砲だった。
そして数秒経ってから空に光が現れた。
その後はどれくらいか分からないが広範囲に渡って赤い炎が広がり雲を消し去っていく。
遅れて魔法のものと思われる五月蝿い爆発音が聞こえてきた。
「ふははははははっ!これがフィーリアさん家の娘さんの力よ!!」
「これ兵器だよ!?どう考えても殺戮兵器だよ!!?」
「あの……何をしたらああなるので?」
「折角なので最上級の魔法を込めておきます、って言ってたわ」
ぶっちゃけボウガンと言うより水竜の髭と矢が強力なんだが、そこは言わないでおく。
「見事な爆発よのう……」
「フィーリア様……少々やりすぎた様です」
お?
キキョウの言う通りやりすぎたのか、下の方が何やら騒がしくなってきた。他国の戦争に触発されてサード帝国が攻めてきた!……なんて声も聞こえてきた。
……別にミラの依頼品の性能を試してただけだし問題ないな、うん問題ない。




