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幼女、再び隣国に行く

 心が折れました。


 主、フィーリア様に買われてはや数時間。……たった数時間だってのにこの私の心を折らすとは。

 私を買われたのはどうやら冒険者の方々のパーティ。ちなみに我が君という呼び方はここぞという時に呼ぶ事にしました。何故ならその方がかっこいいからです。


 名前で呼ぶのは恐れ多いという事でフィーリア様とお呼びしたら物凄く嫌そうな顔をされました。かと言ってペド様などと呼ぶと惨劇が起こりそうなのでここはフィーリア様で我慢して頂きます。家名が嫌なのは家族と不仲とかでしょうか?私は出来る女なのでそういう事は聞かずにスルーしておきます。


 で、フィーリア様率いるパーティですが、冒険者という職業でありながら国を興すという事は、冒険者の中でもほんの一握りの高ランクパーティなのでしょう。流石は我が主です。


 しかし、どうせフィーリア様の功績だけでのし上がっただけで他の下っ端は大した事ない……容姿から察するに観賞用としてお仲間にしてるだけだ、片腕になるのも時間の問題だろう。




 とか思ってすみませんでした。

 むしろ化物しか居ませんでした。何なんですかこのパーティ……


 ユキ様。フィーリア様が言うには恐らく片腕の一つはこの方に固定される、との事。

 容姿もさる事ながら実力もかなりのもの。どうやら天狗様を倒したのはこの方の様です。勝てる訳がねーです。

 この方を超えるとか無理すぎるので除外。フィーリア様の言うとおり片腕の一つはユキ様で固定でいいでしょう。私は残るもう一つの座を頂けばよいのです。


 で、そんな私の野望をあっさりと砕いたのが他の面々。


 サヨ様……化物ナンバー2と言っても過言ではない御方。どうやらユキ様に敗れた天狗様その人だった様です。

 実は天狗様って実力は大した事ないんじゃないかと思いましたが、ユキ様との化物じみた模擬戦を見てやはり化物だったと納得しました。勝てる訳がねーです。


 次は謎過ぎる幽霊のアリス様。この方は何というか……フィーリア様と同じくらいヤバそうな方なのであまり関わらない様にしときます。

 ビビッてねーです、戦略的撤退なのです。


 とりあえず勝てそうな方から攻略しましょう……ちんまいルリ様なら何とか。しかしこんな子供に勝ってどう喜べと言うのでしょうか。しかし底辺にずっと居座るつもりはありません、例えフィーリア様より幼い子供だろうと下克上上等です。ですが念のためまずは相手の情報から知ることが大事ですね


 ……この御方、大精霊様でした。何で冒険者してますか?しかも水の大精霊とか相性最悪です。勝てる訳ねーです。止めておきましょう。


 そしてこの非常識なパーティの中では常識そうなメルフィ様ことメル・フィーリア様。我が君の親戚との事、その時点で嫌な予感しかしませんでした。

 でも話した感じ普通の方でした。ちょっと暗そうな印象は受けましたが……

 どうやら他の面々が優秀すぎてあまり活躍はしてなかったそうです。これならイケる、勝てる相手来ましたよ。とりあえずどんな戦い方をするのか聞いてみました。


「精霊魔法」

「もう大丈夫です。ありがとうございました」


 化物でした。しれっと化物でした。

 メルフィ様は人間ですよね?人間が精霊魔法を使えるわけないんですけど?やはり我が君の親戚……勝てる訳ねーです。


 この時点で大分心折れてましたが、まだ希望は残されています。

 明らかに凡人そうなマオ様、少し垂れた目も相まってぼーっとしてる様に見えます。


 どうやら我が君直々に勉学を教えている真っ最中らしいですね。魔法も今は水魔法しか使えない様ですし、戦闘に関しては一番弱いんじゃないか?と言われてました。


 きた、これなら勝てる。

 どうやら下から二番目には這い上がれそうですね……先が長すぎでしょう。


「何か不愉快な視線を感じます」

「あら、マオのくせに視線を感じるとか出来る様になったのね。その不愉快な視線の相手ってのは多分そこの狐っ娘でしょう」

「い、いえ……私ごときがそんな不愉快な視線を送るなど……」

「どうやら私達の実力を調べて下克上しようとか思ってたみたいよ。で、マオなら勝てるとでも思ったんでしょ」


 思いっきりバレてました。

 流石はフィーリア様……相手にしたくない方筆頭です。


 ペド・フィーリア様……先ほど言った通り名前で呼ぶと惨劇が起こりそうなので絶対に呼んではいけません。

 人物眼もさる事ながら、やる事全てが非常識。この場所も我が君がどこかの島からここに元々あった山と入れ替えたのだと、それも一瞬で。ありえねーです。


『本気で戦った場合、お姉様に3秒ほど時間を与えてしまったらその時点で負けです。まぁ……お姉様が本当の本気でやる事は無いでしょうけど』


 とは天狗様ことサヨ様の談。どうやら化物の方々にとっても化物みたいです。まぁ私の主君なので勝つ必要はねーです。

 むしろそれでこそ私の主様ですね。絶対怒らせない様にしましょう、はい。


「そうね、二人で戦ってみたら?」

「えー」

「私は構いません」

「む、だったらわたしもやってやります」


 ふ、泣かれない程度にして……何か敗北しそうな台詞なので止めときましょう。

 仮にも化物集団の中に居るのですし、油断は禁物です。


 今居る湖は国と呼べるものではなく、周りはただの森しかありません。どうやら建国するのは今からなのでしょう……来た時は拍子抜けしましたが、この方々ならここに数日で国が出来てもおかしくはありません。

 とまぁ、そんな所なので戦う場所には困りません。


「戦うのはその辺でいいわ。私が合図したら開始よ」

「「わかりました」」


 私は強者ですよと言わんばかりに薄く笑い、少し威圧感を出した気でマオ様と対峙しましたが、当のマオ様は変わらずぼーっと立っておられます。

 私程度の威圧では全く相手にならないのか、それとも気付いてない馬鹿なのか……


「準備いいわね?」

「「はい」」

「じゃあ、始め。はい終わり」


 早っ!?

 まだ一歩も動いてないんですけど!?


「あの?」

「キキョウの負けね。マオはユキに次ぐ古参としての威厳は保てたわね」

「ふふんっ」


 負け?何がでしょう?

 我が君がご自身の首をトントンと指差しておられます……まさかと思って自分の首を調べてみると

 首輪、これはまぁあって当たり前です。しかし首輪より少し上に何か細長い物が首を一周する形で巻きついていました。


 ……糸と思いましたが、どうも金属……これはワイヤー?

 ワイヤーを引っ張って出所を見ると、どうやらマオ様の手袋から伸びている様子。いつの間に……


「実戦ならキキョウの首は無かったわ」

「ま、参りました……」

「ありがとうございました……?」

「何故お礼を言う。でもすぐに終わっちゃってキキョウの実力とか全く見れなかったわね。まぁワイヤーに気付かない時点でイマイチとは分かったわ」

「うぐっ……」


 何も言い返せません……今私がこの中で一番の雑魚、下の下だと思い知らされました。

 というかあの言い分だと他の方々はマオ様のワイヤーに気付いて対処出来るという事でしょうか?そうなんでしょうね。


 折れた。折れましたよ、私の心がぽっきりと、ええ見事に。






「心が折れてそうな顔をしてるわ」

「そう見えますか?……その通りですよ」

「おやまぁ……期待外れだったか」


 む。聞き捨てなりませんね……一日どころか半日すら経っていないのに主に見限られたとあってはキキョウの名折れ、良いでしょう……何も成り上がるのに力は要りません。

 私の頭脳を持って上にのし上がってみせますよ。


 決してフィーリア様に失望されると捨てられそうだからという理由で必死になってる訳ではありません。


「そもそも私は戦闘は不得手なのです。実戦経験もそんなに有りませんし……私はここを大国に劣らぬ国に育て上げる事で成り上がってみせますよ」

「そっち方面で貴女を買ったんだし当たり前でしょ」

「……そうでした。ご期待に添える様に頑張らせて頂きます」

「はいはい」


 今日はもう何もなさらないのか、我が君は馬車の中にある自室に戻られるそうです。

 ……馬車内に自室って何のこっちゃと思うでしょうが、2階建てになってて各自の自室があるんだから仕方ないじゃないですか。

 規格外な方達は使うものも規格外なのです。


 この湖以外は森しかないこの場所を大国以上に、と豪語したはいいですが……


「まだ何にも無いんですよね」

「明日には大体形になってますよ」

「サラっと凄い事を仰いましたね、サヨ様」

「ふむ……お姉様が気に入った方というだけあって奴隷の割に物怖じしませんね」


 あ、やっべーです。フィーリア様があまりに普通に接してくるので言葉遣いがなってなかったかもです。


「気にしなくて結構。お姉様の所有物であるなら立場もそれなりに上と考えて良いでしょう、と言ってもお姉様は貴女の事を奴隷と思ってないみたいですが」

「それは何とも……有り難い、のでしょうか」

「えぇ。恩に報いるよう精進する様に」

「勿論です。私の様な半端者を拾って頂いたのです、捨てられない様に……というのも有りますが期待に応える為に頑張ります」

「宜しい。ただ、お姉様は貴女に失望しようが捨てる事はないでしょう」


 へぇ……不要となっても置いて下さるとはフィーリア様は怖そうに見えて心優しい方なのですね。


「私達の情報、特にお姉様の力に関して知った貴女は不要となれば必ず殺されるでしょう」

「……殺されるのですか?」

「殺されます。貴女を何処かへ捨てようものなら貴女を介して情報が流出して面倒が起こるでしょう。基本面倒事が嫌いなお姉様はそういう所キッチリします」

「……どんなに尽くしても、ですか?」

「はい。忠誠あろうが付き合い長かろうがあっさり殺されます」


 とんでもない所に買われてしまいました。いやいや、結果さえ出せば……出せ、るのでしょうか。


「こほん。半分冗談です」

「半分、ですか?」

「はい。今後適当に買ってくる奴隷に関しては先程申した通りです。しかし……貴女はどうやら座り心地が良かった様なので殺される事は無いでしょう」

「座り心地が良かっただけで大丈夫なのですか?」

「恐らく……お姉様は気に入った者には割と甘い御方ですので」


 助かった……!ありがとうございます、私の太ももっ……何で自分の太ももに感謝せにゃならんのですか!

 しかし、気に入られていたなら助かりますね……はて、なら普通の奴隷として買われていたら?


「ちなみに普通の奴隷ならどんな扱いだったでしょう?」

「お姉様にとって奴隷とは『人生の負け犬。人に非ず物である。ただの道具に過ぎず』だそうです。まぁ機嫌悪い時には……」

「分かりました。言わずとも結構でございます」


 どこぞの帝国の貴族みたいな考えじゃないですかっ

 あっぶねーです……機嫌悪い日とかにボコボコにされるトコでした。何かフィーリア様が急に悪魔よりも悪魔らしい方に思えてきました。


 でも……奴隷商館で会話した感じは、何か……こう、言葉にしにくいのですが、何故かあの方にお仕えしたくなるような不思議な魅力の持ち主だと思いました。


「善人……という訳ではないのでしょう。けど、何故か惹かれてしまうんですよね」

「お姉様は変な方ですからね」

「私の口からはその様な事は言えませんが、不思議な御方です」


 折れた心は大分修復されました。でも今日は買われた初日、頑張るのは明日からでいいですかね……いいですね、はい。明日から頑張る。



★★★★★★★★★★



「本日の予定を申し上げます。私が依頼人の捜索、依頼品の買取によって依頼完了まで。姉さんが適当に家を拾ってきて設置。ついでに城壁も作ってもらいます」

「やたら私を扱き使いますね」

「そもそもの言いだしっぺなので働いてもらいます」

「ユキ、私とか余った組は?」

「そうですね……お母さん達はいつも通り自由で」

「勝手にしろと。まぁ酷い。ミラのとこにでも遊びに行ってやるわ、マオはクゥの世話があるだろうしキキョウでも連れて行こうか」


 クゥ、とは言わずもがなあの水竜の名前である。誰が名付けたかはすぐに分かるだろうがマオだ。

 別にあの水竜一匹だけがあの湖に住んでる訳ではないのだが……全部泣き声がクゥだったら皆名前がクゥになってしまうな。


 ちょうどボウガンが出来たし、一応水竜の髭が使われているんだからドラゴン製の装備で間違っちゃいないはず。城の屋上から飽きるまで射た後はミラにくれてやろう。

 護衛という名のお供はキキョウと……一応メルフィも連れていくか。


 そのキキョウは現在アリスにやたら絡まれている。何かやったのだろうか?奴はしつこいぞ


「朝っぱらからアリスは何で絡んでるの?」

「聞いてよちい姉。この狐ったら私の事を避けてるんだよ?得体のしれないからって避けててムカつくからとことん絡んでやるの」

「そ、その様な事は」

「やっべーです、バレてます。って顔してるよ」

「何でそこまで詳しく分かりますかっ!?」


 図星らしい。アリスもナチュラルに心を読むようになったな……厄介な。


「貴女ってば奴隷よね?なに普通に皆と一緒に食卓囲んでるの?私の知ってる奴隷は両手を後ろに縛って床に置かれた残飯を口の周りを汚しながら食べてたと思うんだけど」

「そ、そう言われましても……」

「貴女はどう見ても底辺の生活を送ってる様に見えない。幼い少女時代を雑草で飢えを凌いできたマオちゃんを見習ったらどう?底辺なんてもんじゃないよ、家畜だよ家畜」


 奴隷いびりがやたら酷いなアリス。よほど避けられてたのが不満だった様だ。

 何故かマオがドヤ顔してるが、お前は今、泣いていい。


 というか奴隷の食事風景ってどんなだっけ?


「どうよちい姉、あんまり奴隷を甘やかすと他人から嘗められたりしないの?」

「ワンス王国は奴隷居なかったから扱いが分からないわ。公衆の面前で食事をする時だけアリスの言う通りにしたら?」

「え゛……」

「むぅ……それだけじゃ甘いよ」

「そうねぇ、じゃあ奴隷のくせに服が上等だから外では素っ裸にしましょう。追加で食事中に床を汚す度に鞭で叩く、それならいいでしょ」

「ぐっど」

「お戯れはその辺にしないとキキョウさんが舌を噛みかねませんよ」

「それなら普段は首輪外しとけば奴隷には見られないでしょ」

「一応言っておきますが、奴隷の首輪はホイホイ取れない様に呪いがかけられてますからね?普通は」


 そりゃそうだろう。奴隷が牙を剥かぬ様に付ける首輪だし。


「他所は他所、うちはうち」

「その通りですメルフィさん。別に私達がキキョウさんをどう扱おうが他人には関係ありません」

「ちっ、まるでアリスちゃんが悪者ね!」

「はいはい、お話はその辺にして各自行動に移りましょう。特に姉さんは結構忙しいでしょうし」

「留守番してるマオさんとルリさんに手伝って貰えば楽になりますが」

「それでいいわ、じゃあ私とキキョウとメルフィはトゥース王国に忍び込みましょうか」


 手続きは当然無視。どうせ城の花畑に居るだろうしあそこに転移で向かえばいい。

 久しぶりに頭もお花畑な友達の顔を拝みに行くとしよう。

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