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幼女、狐っ娘を得る

「私達が求めているのは私達が旅に出ている間の留守を任せられる様な人材。もちろん指導は致します」

「留守番、ですか?」

「留守番と言っても家ではなく国です。と言っても小国ですが」

「……それって、奴隷じゃない方が良いのでは?」


 現在狐っ娘奴隷の中でリーダー格の奴が代表して質疑応答している。ちなみにあの緑ではない。

 狐っ娘の言い分は尤もだ。どこの世界に奴隷に国を任せる奴が居るんだと。


「優秀な者なら身分は問いません。奴隷を選んだのも手っ取り早く人材確保できるからですし」

「……私達にそんな政の経験者はおりませんし」

「指導するって言ってるじゃない。別に国を繁栄させろって言ってる訳じゃないわ、というか留守番って言ったでしょ?大家族の家を留守番するって認識でいいわよ」

「お姉様が言うと簡単に聞こえますが、防衛に関してもお任せする予定です。後々に私兵として使える者を集めますのでその者達の指揮官にもなってもらいます」

「は、はぁ……」


 どう見ても怪しんでいる。

 奴隷の扱いとしてはまず有り得ない話だからなぁ……こいつらは獣人だし、買われる用途はそりゃもう酷い事だと思う。


「まぁその話は後にして、あなた達ってわん娘達に比べて数が少ないわね」

「天狐族は人気がありますからね。能力的にも容姿的にも申し分ないですし……とはいえ大体男性に買われますので用途はほぼ限定されます」

「ふむ、つまりエロい目的で買われる訳か」

「性奴隷ですか、まぁ彼女達を見る限り獣っ娘でも我慢ならないのは分からないでもないですが」


 ざっと見渡して私達の話に困惑している者がほとんどみたいだ。一部の奴等はひょっとして良い話なのではと思っているのか悩んでる様子。例の緑は一人だけ無関心みたいだ。


「魔法とは違う能力があるんだっけ?どんなの?」

「妖術、と呼ばれています。出来る事は魔法とあまり変わりません……いえ、魔法よりも万能ではないです。せいぜい火を起こし、水を降らせるなど農作の為の術になります。ただ発動が早いので唯一速度だけは魔法に勝ります」

「ふーん。まぁあなた達には戦闘方面はあまり求めてないからいいけどね」

「私からも一つ確認しておきたい事が。あなた達の値段を教えて頂きたい」


 あ、値段聞いてなかったわ。いざこいつにしようって時にお金が足りませんでしたじゃカッコ悪いし先に聞いておくべきだったな


「お客様が会話なさっている彼女、この天狐族の奴隷の中でのリーダーになります。彼女は1200万ポッケになります。他の天狐族は900万……で、えー、緑色の髪の娘……彼女は600万になります」

「どいつもこいつも安いわね。一人とびきり安いのも居るけど」

「……安い、ですか?」

「……安くないの?」


 獣人の命の価値とやらはたった数百万しかないのか。しかしこいつらは人気種族らしいので高い方なのだろう。奴隷の価値ってのは全部低いみたいだ。

 しかし数百万……一般人にしたらお高い買い物か。


「とりあえず誰だろうと買えるのはわかったわ」

「ではお姉様、一番使えそうなのを選んで下さい」


 私に選ばせるつもりか、分かってるな。

 まぁどいつにするかは決まってるようなもんなんだけど……


「なぜお主達は奴隷なんぞになったのじゃ?」

「……財政難により身を売った、良くある話でございます」

「ならば今後も身売りする天狐族が増えるじゃろうな」

「そうならぬよう、祈るばかりです」


 身売りか、賊に売られるぐらい良くある話だ。

 でも緑は他の天狐と比べて安い……価値の高い天狐族を少数売って価値の低い奴は売らずに労働力にすればいいと思うのだが……


「そこの緑、貴女を売ったって大した稼ぎにならないでしょうに何故貴女も売られたの?」

「緑、とは私の事でございますか?」

「そう。色違いのレア天狐の貴女の事よ、でもレアのくせに安いわね、売る価値あったの?」

「それは私が忌み嫌われし呪い子だからでございましょう。一番最初に売られたのは私でございます、手放すのが最初になってもおかしくはないでしょう」


 おっと、嫌われ者設定きたぞ。

 でも呪い子って言うほど禍々しい気配は全く無い。これならユキの邪な視線の方がよっぽど禍々しい。


「呪われてるって感じはしないけど?」

「過去に災いをもたらした一人の天狐族、その者は私と同じ緑の髪に紅の瞳を持っていたそうです」

「へー、災いってなに」

「さぁ……何しろ天狐族の里はその者によって一度滅びたらしいですから……当時の文献など残ってはないのです」

「ならただの口伝にしか過ぎないわね。貴女が呪われてるかなんて分からないわ」

「事実こうして身売りせねばならぬほど里は危機に瀕しておりますので」


 まるで事前に用意していた回答の様にたんたんと答える緑……自分が災いの象徴と受け入れているのか

 そんな訳無いか、こいつの目に諦めの色は無い。


「貴女あれよね、他の天狐族より何か優雅な振る舞いよね」

「ありがとうございます。私は嫌われ者故に家に篭り、ただただ作法の習い事ばかりしておりましたから、それに躾に厳しい母でしたので」

「実は天狐族の姫とかじゃない?」

「ただの忌み子にございます」

「そ、私としては貴女を買いたいと思うわ」

「手持ちに余裕がありそうですし、他の優秀な天狐族の皆様を選ぶのが無難かと思います」

「別に安いからって決めた訳ではないわ」


 何か奴隷と話している気がしない。あの従業員もお客相手に高いほう買えとか言う緑に心なしか非難の表情を浮かべている。


「あの奴隷をお買いになるのですか」

「姉さんはイロモノが好き」

「別にそういう訳じゃないけど。良さそうな狐じゃない、同じ着物を着るマオより優雅だし」

「え」

「それにどこぞの姫様よりよっぽど姫っぽいわ」

「確かに……女王代理の立ち振る舞いとしては合格でしょうか」


 更に観察する為に並んで少し低い椅子に座っている奴隷達の方に歩み寄る。

 何故奴隷のくせに座っているかと言えば、奴隷のくせに目線がお客より上なのはダメとかいう理由だそうだ。物は言い様である。


 もはや目的は緑だけなのでそいつの前に立つ。

 いきなり近寄っても涼やかな表情を崩す事はない。まるで仮面でも被っているかの様だな。何からどうするか……とりあえず


「よっこいしょ」

「……汚れてしまいます」

「汚い格好には見えないわね……ふむ、ここまで近寄っても獣臭くはないわ」


 まぁ人間に獣耳が付いてるだけだからなぁ……体臭が獣臭かったらちょっと敬遠したわ。

 相手を知るにはとりあえず太ももに座る、という訳でもない。これなら小声で秘密のお話も出来るだろう


「ほほぅ……ふかふかしてるわ。ウチの椅子係りも中々だけど、貴女も負けず劣らずって感じね」

「……」

「しかしまぁ……なかなか立派なモノをお持ちで。ユキぐらいは有りそうね、まぁ邪魔にはならないわ」

「何がしたいのでございましょう?」

「別に?何となくよ」


 しかしメルフィと同等くらいか、何とも高級感のある椅子だこと。前方から白い目でこちらを見てる悪魔とは大違いの座り心地だ。

 しばらく座り心地を堪能していると緑がぽつりと小声で呟いた。


「抱っこちゃん」

「ん?」


 抱っこちゃん……間違いなく私の事だろう。五丁目の馬鹿共が付けた格好悪い称号だ、さっぱり忘れていたが久しぶりに聞くと何とも腹の立つ


「半年ほど前、ワンス王国を亜人の大群が攻め込みました。しかし……一晩、たったの一晩で事態は終結したのです、亜人達の敗走というあっけない形で。ろくな装備は無いとは言え亜人は人間に比べ身体能力は高く、数も多い……軍事国家ではないワンス王国では負けはしなくともかなりの損害を被る、それが他国の者達の見解でございました」

「そんな事もあったわねー」

「王都を攻めていた亜人達の総指揮官が突出してしまい、騎士の一人に討たれた事により指揮官を失った亜人達は混乱し、平静さの無くなった亜人達は次々と討たれてしまいました」

「で、そのまま敗走したと」

「いいえ、どうやら捕らえられていた亜人を別働隊が救出したのでそれ以上の損害を出さぬ様に撤退した様で……とはいえ結果的には王国の圧勝、亜人達の完敗、というのが世に広まっているお話でございます」


 大体合ってる……のか?私は五丁目の事しか頭に無かったから他の町や王都の事なんて全く知らない。何かその後の亜人の話を聞いた気もするけどすでに忘れた。

 まぁそんな話が広まっているならそれで合ってるんだろう


「ですがそれが真実ではございません」

「ほぅ」

「一つの町だけ、全く違う事を語っているのです。たった3人の冒険者パーティが龍人を倒し、亜人達の王も倒し……何より亜人達の真の指導者であろう天狗様、と呼ばれる存在をも倒したと言うのです。しかし、その町はあまり評判が良くなかった様で……ただの法螺話として王都の英雄の話に埋もれてしまいました」

「実際法螺話だったんじゃないのー」

「その天狗様を倒した者は抱っこちゃんと呼ばれる小さい少女だとか」


 めんどくさい奴だな……確証あるなら抱っこちゃんってお前だろ?ってさっさと言えばいいのに。


「私達の住んでいた天狐族の里は、半年ほど前から急激に衰退していきました。時期的に理由はお分かりでしょうが。まず、天狐族に限らず人間以外の種族は天狗様の庇護下にあった、と言いますか……まぁかの御方により守られていたのでございます」

「亜人だけじゃなかったのか」

「いえ、勝手に名前をお借りして祀り上げていたに過ぎません。それでも効果は絶大でして、天狗様を恐れている人間達に脅かされる事も無く静かに暮らす事が出来たのでございます」


 あのサヨが?嘘くせぇ……ユキに次ぐ変人キャラであるあのサヨがである。

 ジト目でサヨを見ると何故か「ご褒美です」と書かれた符と思われる大き目の紙を広げてきた。あんな変態が祀り上げられる存在だと……有り得ねー。


「しかし、天狗様が討たれてからは激変しました。恐れる存在が居なくなった事によりそれまで人間と対等な取引をしていたのですが」

「あー、言わんでも分かるから手短に」

「そうですか、お察しの通り里に十分な食料が供給されなくなったのでございます」

「で、里の蓄えも足りなくなり、人間から買おうにも資金が無いからあなた達が売られたと」

「その通りでございます。つまり間接的ではありますが、私達は貴女によって今の状態に陥った、という事です」

「へー?だから私をどうするって?」


 振り向いて緑の顔を見上げながら言う。ニヤニヤしているのが自分でも分かる。

 どうせこいつは私をどうこうしようって気はない。他の天狐族に聞かれない様に小声で話しているのも理由の一つ。

 この狐っ娘は買われた後の保身の為に手を打っているだけ。残念ながら私は良心の呵責を感じる事は無いので優遇する事はない。


 しかし、良く調べたな……天狗というかサヨに関する事だったからだろうか?何にせよ情報に通じているのは良い事だ。


「なにも。そもそも天狗様を後ろ盾にし、人より自分達の立場が上だという虎の意を借る狐達に先など無かったにございましょう」

「今、貴女の本性が少し見えた気がするわ」

「本性、でございますか?」

「そ。貴女は天狐族に対して仲間意識など持ってなかったのね」


 天狗……サヨの威光に縋る天狐族の実態を知ってからきっと縁は切れて居たのだろう。緑の髪の狐っ娘が縁を切る……ややこしい。


「その上っ面の良さだけで今まで里に住む事が出来たんでしょ。忌み子であろうが貴女みたいな娘を売り飛ばすなど心苦しいでしょうし、他の天狐族の奴隷を見れば分かるわ。どいつもこいつも貴女に対して忌み嫌っている様子はない。嫌われてるから一人で作法のお勉強?違うでしょ、貴女が里の者を嫌って遠ざけてたのよ」

「……」

「天狐族がまず貴女を売ったのは良い判断だったわ。そのまま貴女を里に置いてたら何をされたやら」

「……別に、私は」

「貴女の瞳と豊かな胸に詰まってる野心は私には隠しきれなかった様ね」


 初めて、緑は涼やかな表情を変えた。と言っても瞳に警戒色が現れただけだが。


「何で私に天狗の末路の話なんてしたの?もしかして私が負い目を感じるとでも思った?残念ね……情報が足りなかったみたい、私は自分のせいで他人がどうなろうが知った事じゃないって思う様な奴なの」

「みたいですね」

「でも安心なさい、貴女はちゃんと買ってあげる。もちろん負い目からじゃない」

「危険と知って尚、私を手元に置くのですか」

「他の奴隷みたいな生きる死人に興味は無い。最底辺に落ちた今でも消えない意志を持つ貴女が気に入ったの、例えそれが野心であってもよ」

「貴女は、よく分からないお人の様です。しかし……私にとっては何よりも厄介な人物眼が優れているのは分かりました」


 私ほど分かりやすい人間も居ないと思うが、面白ければ良し、ただそれだけ。


「……私を飼いたいのならお好きにどうぞ。どの道奴隷に主人は選べませぬ」

「そうするわ。貴女を飼いならせるかは分からないけど」

「契約の首輪がある限り私は貴女の忠実な奴隷です」

「たかが首輪一つが貴女を縛るのなら、買った後にさっさと外しちゃいましょうか」

「正気ですか?……わざわざ自分からリスクを負うなど」


 リスク……たかが狐っ娘一人に私達がどれほど脅かされるというのだ。私達の事を知らないからだろうが自意識過剰である。


「他の皆はともかく、私は貴女が楽しませてくれればそれでいいの。あの娘達が言うように国をどうこうしなくてもいい。野に放たれた貴女が何を成すのか、それが見たいだけ」

「……」

「私の国を乗っ取るべく寝首を掻きたければいつでも来れば良い。外の世界に出たいのなら勝手にすればいい、首輪が無ければただの自由な狐の獣人なんだから。勝手に出て行こうがそれは私に貴女をとどめるだけの魅力が無かったって事。

 故郷に戻って支配者として君臨するも良し、それほどの美貌があればどこぞの国に取り入って傾国の美女にもなれるでしょう。私はそれを遠くから面白おかしく見れれば満足よ」

「……」

「ふむ、まぁいいわ。何を見せてくれるかはお楽しみとしておきましょう」


 悩んでるのかだんまりしたので前を向き、太ももから降りるとする。後はこの狐っ娘が勝手に考えて行動してくれるだろう。

 降りようとしたら軽く身体を捕まれ、行動を阻止されてしまった。


「今やこの身は下等な奴隷です。しかし、貴女は何の命令も下さず好きにしろと仰る」

「ええ」

「本当に、何をしてもいいのなら、私は上へのし上がろうと思います」

「へー、成り上がりの道を選んだのね。結構」


 獣人達の支配者にでもなるんだろうか?その後人と争いを始めようが私は構わん。この狐っ娘が指導者となり、私達と敵対したなら中々に梃子摺りそうだ。


「必ずのし上がりますよ……貴女様の片腕に」

「それは、また一番難しいのを選んだわね」

「一番難しいのなら、それが一番貴女様を満足させられる事なのでしょう」

「む、あの娘達を出し抜いて、か……確かに」


 ユキは多分片腕として固定されてる様なもんだから無理だが、もう片方なら……いや、無理だこれ。あいつら人外の中の人外だもん。


 しかし世界を混乱させる様な事をしてくれないのはちょっと残念。


「首輪は外さずとも構いません。貴女様の元で働く決意の証とでもお思い下さい」

「ふーん。そういやございますって言わなくなったわね。何か中途半端に使ってたし、やっぱ無理してたの?」

「……それは、言わないで下さい」

「はいはい。で?貴女の名前は?」

「キキョウと申します」

「緑のくせに名前は青い花なのか、ややこしい」

「では、御身に仇名す賊共を青炎で燃やし尽くして差し上げましょう」

「そ。なら貴女の活躍に期待するとしましょう」

「はい、宜しくお願いします。我が君」


 うへぇ……我が君ときたか。一般人の冒険者には似合わない響きだこと。

 だがその呼び方を止めろとは言わない。こいつに止めろとか言ったら嬉々として使ってきそうだし


 内緒話は終わり、とん……と狐っ娘の太ももから飛び降りる。と言っても高くはないけど。

 そして静観していた従業員の方を向き、キキョウと買う旨を伝えた。手続きがあるのか、しばらくお待ち下さいとの言葉を残して従業員と他の狐っ娘達が出て行く。


「キキョウ……頑張ってね」

「私は破格と言えるほど良き主人に巡り合えました。皆様も良い主人に買われる事を祈っていますよ」

「えぇ、良い顔ね。羨ましいわ」


 こっちをチラチラ見てもキキョウ以外は買わんぞ。さっさと戻れ負け犬ならぬ負け狐共。私が買わない事を察したのか残念そうに他の狐っ娘達は出て行った。

 にしてもキキョウは嘘ばっかぬかしてた。何が祈ってますだ……祈ってるのは違う事だろうに


 私もユキ達の元へ戻るとしよう……と、もう一つ聞く事があった。


「ねぇ、キキョウは緑色だから狐じゃなくて狸なの?」

「違います」


 やはりただのマオ理論だったか。

 まぁ涼やかな表情を崩し、憮然としたキキョウの顔を見れたので満足である。

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