幼女と奴隷
起きたら山と湖は入れ替わってました。
奇跡ぱわーマジ万能である。
ただし湖が思ったより大きかったようで山二つ分は消えたとのこと。まぁ誤差の範囲内だろ。
山に住んでた魔物や動物はとばっちりを食らって島へ行っただろうなぁ……
「奇跡ぱわーが無事発動したという事はお姉様も自分の国を持つ事に乗り気という事ですねぇ」
「そうなるんですかね?」
確かに本気で願った。釣りがしたかったから。
旅して滅多に帰らないであろう国とかどう乗り気になれと言うのだろう。
「にしても地形が大分変化してしまいましたね」
「まぁ大きな湖が出来て色々と喜んでいる生物がいるので良いことじゃないでしょうか」
喜んでいる筆頭は妖精達だろう。湖の上をはしゃぎながら飛び回っている。
水竜がザパっと顔を出すとキャーキャー言いながら逃げてるけど。
水辺に水を飲みに来た獣共もまさか水竜がいるとは思わなかったようで姿を見るや否や脱兎のごとく走り去っていった。
「どっかの川と繋げないと枯れたりしないでしょうね?」
「この大きな湖を枯渇するのも至難の業ですけど……これだけ山に囲まれていれば山に降った雨水が流れて来るんじゃないでしょうか」
「奇跡ぱわーのアフターケアで何とかなってるんじゃないですかぁ?」
余計な追加効果で湧き水なりどっかの川と繋がっているなりしてるかもしれないが、雨が降るなら別に枯渇の心配もあるまい。
問題は魔物だな、柵も何もないから普通に水飲みに来てやがる。
水竜がにゅっと顔を出すと飛び上がって逃げるのは見てて楽しいけど
「湖の半分だけ柵を設置して、柵の中はお姉様帝国領としましょう。全て囲ってしまうと魔物共が柵を壊して侵入するでしょうし」
「いつから帝国になった」
「いえ、帝国ってくらいえげつない国になるでしょうから」
「しないわよ。というか早く釣りさせなさいよ」
「起きて早々釣りですか。約束でしたし構いませんけど」
流石にここまでやってやったのだからあっさりと承諾された。
いつぞやの様に大きくなった符の上に乗り、湖の中央付近まで飛んでいく。
早速釣りをしようかと思ったが、サヨが釣るのは一人だけにした方がいいという謎の進言により釣るのは私のみとなった。マオは私の椅子兼支え係りを担当するらしい。
……支えって何だ、その言葉からすでに嫌な予感しかしない。
「……大きい魚が釣れるって事で納得しときましょう」
「まぁその認識であってるかと。はい、餌の生肉です」
「何を釣らせる気だ」
餌が何故か私の顔ほどありそうなブロックの生肉。この脂から察するに豚か何かの肉だろう。
「水竜が棲むような湖は大きな餌となる魚がいるのが普通ですよ。普通の魚などそれこそ普通の川にしか居ません」
「ふーん。大きいなら一匹釣るだけでしばらく持つわね」
前と同じくユキから借りた鞭にマオのワイヤーを付け、餌は虫ではなく巨大な肉の塊……肉の方が値段高かったりしないだろうな
準備が完了するとそのまま真下にドボンと落としてかかるのを待つ。
「ふぇ?」
「気にしないで下さい。多分こうしてないと二人とも引き擦り込まれます」
「私の知ってる釣りと違う」
父から聞いた釣りとはまるで違う。まさか海よりも湖の方が危険なのかと
竿もどきを垂らしてる私を抱えるマオを更に後ろから抱えるように持っているのがサヨだ。マオ一人ではパワーが足らんとな
しばらく待つ……という事も無く早速鞭がしなりだし……たと思ったら一気に引っ張られた。
鞭が持ってかれると思ったが、咄嗟の判断なのかマオが鞭を持ってかれまいと握ってくれたのが助かった。
しかし何だこの馬鹿力……これはかなりの大物とみて間違いないっ!
「一気に浮上して引き上げますよ!」
「分かったわ!」
サヨが符を上昇させていくと湖面に獲物の影が浮かび上がる……どう見てもデカい。影の先が見えないので正式な大きさが分からないくらいにデカい。
「ふははははっ!これは食べごたえがありそうねっ!」
「お、大きすぎませんかっ!?」
確かに馬鹿デカいが、世の中このくらい大きな魚が居てもおかしくないだろ。
結構上昇した所でやっと湖面が盛り上がってきた。漸く獲物の姿を見れそうだ。そのまま一気に上昇して釣り上げる。
ザッパアアァァァとついに獲物を釣り上げる事が出来た。
「クゥゥゥゥゥーーーーーーーッッ!!」
「お前かよ!」
「何?遊んで欲しかった?」
「クゥ」
「はいじゃねぇよ」
「なに普通に会話してるんですか」
別に言葉が分かってる訳ではない。何となくそう言ってる気がするだけだ。
「私達は晩御飯のおかずを確保するべく戦ってるの、あなたに構ってる暇無いわけ」
「クゥ」
分かってるのか分かってないのか、良く分からん返事をすると水竜は尻尾を湖面でバタバタしだした。犬かお前は
「お、何か降ってきますね」
降ってくると聞いて上を見ると、確かに何か落ちてきた。
サヨが落ちてきた物体を難なくキャッチすると、それはビチビチ動いている。どう見ても魚だった。大きさは80cmくらいだろうか……サヨが大きいのしか居ないと言ってた割に普通の魚である。多少は大きいだろうがどう見てもブロック肉で釣れるほど大きな魚ではない、この嘘つきめ
「ほほぅ……どうやら水竜が魚を捕ってくれた様ですね」
「ああ、尻尾をバタつかせたのは魚を投げる為だったんですねぇ」
そうこう言ってる間に水竜はどんどん魚を放り投げてくる。何か止めろと言わないとずっと投げてきそうなのでもういいと告げる。
「良かったですね。無事お目当ての魚が釣れましたよ」
「私の知ってる釣りと違う」
「さっきも聞きました」
「別にいいじゃないですか、目的は釣りではなく魚を食べる事ですし」
……あー、うん。それもそうだ。
でも何だろう、この負けた感は……
そして水竜は遊んで欲しそうにこちらを見ている。ドラゴンのくせに人懐っこい奴だな。
「まぁいいわ、水竜のおかげで助かった、と言っておきましょう。陸に戻ったらマオに遊んでもらいなさい」
「クゥ!」
「え……」
一人顔が青くなってるけど問題ない。別に殺されはしないだろう……かなり疲れるだろうけど。
ユキ達の所に戻り、魚を亜空間に閉まってもらう。何の魚か知らないが、食べられないって事はないだろう。
何か疲れたので私は馬車に戻って寝る事にした。不貞寝ではない、昼寝だ。
馬車に戻る前にチラっと湖の方を見ると、ちょうどマオが水竜によって湖の中に投げ飛ばされる所だった。
☆☆☆☆☆☆
「奴隷を見に行く?」
「えぇ、一度見に行って使える者がいるか探してみようかと」
「まだ住む家すらないのに」
「国が出来てから指導しても旅に出るまで教え終わるのに時間がかかりそうなので、良い人材が居たなら国が出来上がる前に指導しておこうかと」
国ってよりは小さな村か町って感じだけど。
奴隷はともかく、この湖の魚は美味い。水が綺麗だからか、魚特有の生臭さがあまり無いのも良い。普段から水竜相手に逃げ回ってるせいか身の締まったいい魚だ。
ただの焼き魚のくせしてやりおるわ。
「魚料理に熱中してる所申し訳ありませんが」
「分かってるわよ、奴隷でしょ?あんまり期待出来ないわ」
「主殿は奴隷の事をどう思っているのじゃ?」
「人生の負け犬。人に非ず物である。ただの道具に過ぎず」
「典型的な傲慢貴族の様な考えですね。反感を買うかもしれませんので街中でその発言はお控え下さい」
「はいはい」
と言われても奴隷に限らずその辺の人間はほとんどゴミとかそんな感じなんだけど。
「奴隷商館だっけ?臭そうだしあんまり行きたいトコじゃないわね」
「それは場所によりますね。私達が行くのは奴隷でも扱いの良いフィフス王国にある奴隷商館です」
「へー」
「ワンス王国のずっと東になります。更に東に行くと私が符術を習った国があります」
「サヨが修行した国か、ちょっと気になるわね。旅を再開したら行ってみましょう」
「それは私としましても願ったり叶ったりです」
師匠にでも会うのだろうか?
サヨも行きたい様だし次の目的地はそこでもいいな。
「他に何か報告ある?」
「では私から。お母さん達が私やメルフィさん達を除け者にして釣りを楽しんでる時にフォース王国を見てきたのですが、どうやらニーナさんの置き土産である冒険者のゾンビ集団に未だ梃子摺ってる様子でした。避難民が戻るのに更に時間がかかりそうです」
「最初の愚痴はスルーするとして、祭りが終わってもまだ依頼達成出来ないって事ね。面倒くさい」
「はい。という事でここは考えを変えまして、依頼者を捜索して依頼品の蜂蜜を私達で買い取れないかと考えました」
「どうせ納品先も蜂蜜どころじゃないですしね……店か家か分かりませんが、壊されていたら修繕の出費のが先になるでしょうし、案外大丈夫かもしれませんね」
「買取するのは構わないけど、依頼達成になるの?」
「書類に達成という証の署名さえ頂ければ……」
ならそれで良いんじゃないだろうか。すでにルリが蜂蜜を量産出来るが、いつまでも依頼達成出来ないとか待ってらんない。
「祭りまであと数日、明日は奴隷を見に行くとして明後日以降は避難先に赴いて依頼人を捜索しましょう」
「依頼は任せたわ。私は捜索とかしたくない」
「そう言うだろうと思ってましたから大丈夫です。私と姉さんで見つけます」
うむ、頑張ってくれたまえ。いやー、出来る娘達がいると楽でいいわー
私は自分のやりたい事だけやればいい、とりあえず目の前にある魚料理を楽しむとしよう。
★★★★★★★★★★
「いつも通り転移で楽して来ました」
「いつもじゃないでしょ。私は普段馬車でのんびり進む派よ」
「入国手続きをまたスルーするとは……」
「時間制限がある時は仕方ないですよ。バレなきゃいいんです。で、ここが目的地であるフィフス王国の王都にある奴隷商館になります」
目の前には中々立派な外装をした大きな建物がある。高級な宿屋と言われてもおかしくないが、看板にはシルキー奴隷商館と書いてあるからそうなんだろう。
「この国は奴隷を他国に比べて尊重してますので、良くある痩せ細ったガリガリな奴隷よりも普通の体格の奴隷の方が多めです」
「私としてはそんな役に立ちそうにない奴隷を売るというのがまず考えられませんが」
「サード帝国ではそんなのばかりですよ、ろくに食事を与えず痩せ細り、大体が何かしら病気持ちです」
そんな役に立ちそうにない奴隷だが、気に食わない国に送りつけて病気を蔓延させるという手段で使われる事もあるらしい。なんという有害。
「何はともあれ中に入りましょう。数が多いので時間が惜しいです」
「そんなに負け犬共が居るのね。いいわ、その面を拝んでやりましょう」
「ですから街中では……」
誰も聞いちゃいないわ。その辺ちゃんと用心してるのだ私は
自分に不利になりそうな発言や行動はちゃんと考えてやってるのだ
で、奴隷商館の中に入ったら汚らわしい支配人が居た、という事も無くだだっ広いスペースに出た。
まぁ店なんだからエントランスやロビーを広くするのは分かるが、奴隷商館なんぞに客が殺到するとかあるのだろうか
「目玉商品……奴隷ですけど、誰もが欲しがる様な奴隷が入荷した際はこのロビーが客で埋まる事もあるかと」
「どうせ見目麗しいエルフとかでしょ。中身がハズレじゃ意味ないわ」
「外見は外見で武器になりますけどね」
それは自分達を自画自賛してるのだろうか?
にしても客が来たってのに出迎え無しか、サービス精神が足らん店だ。
と思ってたら一人店員、商人と言うべきか?まぁ従業員であろう女が一人早足で近付いてきた。
「いらっしゃいませ。シルキー奴隷商館へようこそおいで下さいました」
「首輪がありますね。あなたも奴隷ですか?」
「はい」
奴隷に接客させるとな。人材不足……ではないな、奴隷を使えば人件費削減できるとかそう言った理由だろう。
その従業員は頭の上に耳があるので獣人と思われる。何の獣人かは不明だが。
「奴隷を一人、多くて二人ほど購入したいと思ってます。まぁ気に入った者が居れば、ですが」
「それはそれは……きっとお客様のお眼鏡に適う者がいると思います」
「あなたも売り物?」
「はい」
売り物なのか……まぁ要らんな。私が欲しいのは接客する奴隷じゃない。
早速奴隷達が置かれている部屋の方へ案内してくれるらしい。ここまでこの店のオーナーとやらは出てこなかった。貴族でもない一般人なんぞ奴隷で十分って事か。
「この先の部屋が奴隷……商品が置かれている部屋になります。奴隷の希望などありますか?」
「元王様か女王。とにかく国政に詳しい者ね、宰相でもいいわ」
「さ、流石にそのような奴隷はおりませぬが」
だろうな、知ってた。
「女性の奴隷を片っ端からお願いします」
「かしこまりました」
なぜに女限定なのか……
どうもしばらく馬車の中で共に過ごす事になるので男は却下なのだと。別に奴隷なんだから良いんじゃないかと思うが
「ダメです」
だそうだ。こいつらは何を心配してんだろうか。奴隷なんぞと恋愛に発展するとでも思っているのか?
奴隷の従業員に接客用の応接間みたいな場所に案内され、奴隷を連れてきますとの事なので大人しく待つ。
従業員が出て行く際にサヨが種族別にまとめてお願いしますと言っていた。
「種族別って事は……人間以外にもいるのね」
「というか人間じゃない者がほとんどですよ……ま、人間至上主義というのが良く分かるのが奴隷ですかね」
「なるほど……わん娘やにゃん娘が居るのか。まさに負け犬」
「奴隷じゃない獣人には絶対聞かれない様にお願いします」
はいはい、とぞんざいな返事を返してからしばらく黙って待っていると、扉が開いて従業員が戻ってきた。
その後ろから頭に耳を生やしたどう見ても獣人だろう奴隷達が入ってきた。
予想と違ってボロ布一枚、という事はなく普通に一般人が着る様な服を着ている。身体も健康そうでパッと見奴隷には見えない……だが首輪をしているのでやはり奴隷である。
「お待たせ致しました。彼女達は見ての通り犬の獣人……種族名で言うと」
「わん娘族でいいわ。ふむ……犬耳が生えてる以外は人間ね」
「人間と違い、犬の様に鼻も良く、噛む力も強い種族です。そして一度忠誠を誓えば裏切らないという忠義に厚い種族でもあります」
ふーん……忠誠度が高いのは良いけど、今欲しいのはそういうのじゃないな……
わん娘はどうやら茶色い髪の奴が多いみたいだ。こちらを見る目はどいつも怯えが見られる。勇猛な種族って訳じゃないみたいだな
「要らん。次お願い」
「かしこまりました」
特に売り込むという事はなくあっさりと引き下がってわん娘達ともども出て行った。
犬畜生どもは心なしかホッとしてた気がする……あいつら一生ここで過ごしたいとか思ってないだろうな
「犬はお好きだったのでは?」
「牙も持たない犬とか興味無いわ。ありゃ本当に負け犬ね」
「まぁ……暮らしてきた環境のせいでもあるとは思いますが」
「大体国政が出来る奴って言ってるのに何で犬なのよ」
「最初に微妙なのを見せておいて、後から本命を連れてきてより良く見せる為では?」
あー、居る居る。そういう面倒な商売人。そしてまたしばらく出された紅茶を飲みながら待つ……何かもう飽きてきた。
先程と同じくらいの時間を待っていると、扉が開いて従業員とわん娘とは違う種族の獣人が入ってきた。
耳からは判断しにくいが……種族よりそいつらの着ている服が
「……着物?」
「この衣装の事をご存知とは流石でございます。彼女達は狐の獣人……天狐族という種族になります」
「狐耳だったのね。判断しにくい耳だこと」
「着物と言ってもマオさんのと違って柄が無いですね。まぁ奴隷が着るものですからシンプルなのかもしれませんけど」
「彼女達は魔法とは違う方法で術を使用する事が出来ます。他にも動きが素早く、何より他の獣人と違い頭の良さが一番の魅力です」
犬の次に頭の良い狐ときたか。つまりこいつらは政治にも使えると
確かにわん娘達と違って利発そうに見える……けどまぁ、どいつもこいつも覇気が無いこと。
こちらは犬と違って金色……黄金色だろうか?夕暮れ色の髪をした者がほとんどだ。
だからか、一人だけメルフィよりも暗い緑色……暗緑色の髪をした狐っ娘がやたら目立つ。そいつだけ着物も緑なのでより目立つ。
「緑……たぬきです」
「はい?」
……なぜ緑だと狸なのか、マオの言うことはスルーするとして
あの緑狐……他の狐っ娘共と何か違うな。ずーっと下を向いているので目は合わない、それは他の奴等にも言える事だが……あいつは怯えから下を向いているって訳じゃない。
ふとジッと見てる事に気付いたのか、件の狐っ娘が顔を上げ、目があった。
縦に長い瞳孔、狐の目は黄色とかそんなのと思ったが、そいつの目は私と同じく紅かった。
しばらく……と言っても実際は短い時間だと思うが見詰め合う……どいつもこいつも覇気が無い、というのは間違いだった様だ。
奴隷なんて底辺の奴等の中にもこいつの様に見所のある者が居るもんだなぁ……もう少し観察して面白そうな奴なら買うとしようか。多分こいつ以上の人材はここには居ないだろうし




