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幼女と建国

「自重なんてなかった」

「見れば分かります」


 新武器の性能を試そうと運悪く飛んでいた憎き天敵であるニワトリ目掛けてワイヤーを発射するとあっさり突き刺さり指を振るってその胴体を切断させた。

 ぶっちゃけドラゴンでも余裕でやれるだろう。


「お母さんもこの武器があれば安心ではないですか?」

「不要よ。強力な武器とか持ったら戦わなきゃいけない使命感を持ちそうだし」

「なるほど。私達が頑張ればいいだけですね」


 戦わない幼女。むしろ幼女なんだから戦わない方が普通である。よって見てるだけで問題ない。


「魔物と戦うくらいなら奇跡人と戦う方が楽よ」

「普通は逆だと思いますが、お母さんの得意な口撃が有効な分知恵のある者の方がいいのでしょうね」

「ふ……まだ皆が居なかった昔、口だけで生きてきたのは伊達ではないわ」

「褒められたものではないのじゃ」


 だが私とていつまでも口だけで冒険するつもりはない。

 ニワトリ爆散一号が完成さえすれば奇跡ぱわーに頼らずともあのニワトリ野郎を始末出来るだろう。


「ついにニワトリに高笑いしながら勝利する時が近付いたか……」

「まだ根に持っていらしたのですね」

「さっき殺したではないか」

「ダメよ。ニワトリ爆散一号で倒してこそ私の完全勝利なのよ」

「あんな雑魚の魔物にそんな大層な武器は要らぬと思うのじゃ」


 これだから奇跡人並に理不尽な存在なペットは困る。

 奴等をただのニワトリと侮ってはいけない。

 飛ぶんだ、奴等は。ニワトリのくせに。ただの幼女にとってはそれだけで侮れない相手なのだ。


「空を飛ぶってだけで脅威なのよ」

「まぁ確かにそうじゃの」

「でもまずは憎き魔王ニワトリの前に中ボスの水竜からね」

「逆じゃろ」


 という事で今回は水竜の髭を求めて討伐する事にした。

 まぁ依頼は出てないと思うが素材の買取してるなら売った方が良い。


「そういえばマオ達ってこの前ちゃんとお使い出来たの?」

「「え?」」

「マオが素材の耳をぶん回してたのは知ってるけど」

「……あ、メルフィさんにいきなり引っ張られて落としちゃってました」


 つまり失敗してたと。まぁ安そうな魔物だったから別にいいけど

 とはいえ失敗は失敗なので二人には軽く説教しておいた。


 ギルドに到着し、直されたばかりの扉を今度は蹴破らずに入ると騒いでた冒険者達がこちらを見たあとサッと目を逸らして黙ってしまった。

 どうやら関わりたくないらしく目を合わせようとしない。


「あの皆殺し事件が広まったのでしょうね」

「いちゃもんつけると決闘という名で処刑されるとでも言われてるのでは?」

「心外な」


 でもここまで有名になればお祭りで絡まれる事は無いだろう。

 なら目論見通りなので良し。結果が全てなのだ。


 誰も寄って来ないので悠々と掲示板の依頼を見ていたが、水竜どころかドラゴン系の依頼は一つも無い。弱小国なのでドラゴン討伐出来る者が居ないからかも


「まぁ水竜の討伐依頼とかある訳ないか」

「小国ですから。ワンス王国で依頼を受けてみては?」


 ふむ、大きな都市なら依頼があるかもしれないという事か。

 無かったら無かったでついでに出来る依頼を受ければ良い。


 結局昨日行ったばかりのワンス王国へ向かう事にした。





「これはこれはペド・フィーリア様!ようこそいらっしゃいましたぁ!」

「きめぇ」

「ふふ、うふふふ……本日はどんな御用で?」


 どうせなら五丁目で受けようって事で久しぶりにノエルの居るギルドに来たが……何か人が変わってた。


「一体何なのよキモい」

「ふっふっふ、皆様のご活躍聞いてますよぉ?何でもあのドラゴンをバッタバッタと狩っているとか。しかも飛竜っ!そして竜の巣を落としたんじゃないかと言う討伐数っ!五丁目の英雄を生んだギルドとして国からの援助もウハウハですよっ!」

「あっそう……良かったわね」

「ええっ!……欲を言えばランクを上げて頂けると」

「嫌」

「ですよねっ!まぁ大丈夫ですよぉ……この調子で五丁目ギルドの評判を上げてくれればぁ」


 何だろう……もの凄くムカつくぞこのノエル。

 水竜を討伐したらドラゴン系を狩るのはやめよう、うん。


「あ、今評判上げるのやめようと思いませんでした?ごめんなさいっ!調子に乗ってましたぁ!!」

「金の事になると勘がいいのね。てか本題言っていい?水竜の討伐依頼とかないの?」

「水竜ですか?……ないですねぇ。海とか大きな湖とか限られた場所にしか居ないのですし、こちらから手を出さなきゃ被害は無いのであんまり脅威とは見なされてませんので」


 やっぱ無いのか、にしても海か……広すぎて何処にいるか分からんな。

 てことは湖の方を探した方がいいな。

 そして魚を捕まえて食べよう。最近魚とか食べてないし。


「あ、ペド様達のパーティ宛に言伝とか指名依頼とか色々来てますよ」

「指名とかあんの?面倒くさい」

「優秀な冒険者には有りますよ、誇っていいです。もちろん断る事も可能です。言伝の方ですがフィフス王国のギルドの方から引き抜きのお誘いが来てます。きっと飛竜の大量討伐が耳に入ったのでしょうね、自分達の国の冒険者がショボいと言ってる様なものですよ」

「断る」

「ですよね。フィーリア一家は五丁目のギルド以外所属する気はないと返事しておきます」


 まさに私情。

 言った所でどうせそう返事するに決まってるから黙っておく。

 ただし頑張らないフィーリア一家であると修正させておく……でもドラゴン討伐とか頑張ってんなー


「次にトゥース王国の王室からドラゴンの素材調達の依頼があります」

「断る。あれ以上求めるとお隣のサード帝国に目を付けられるわよ、って言っといて」

「分かりました。次もトゥース王国からですが、ミラクルという一般人の方からです。


『巷で噂の有名人さんに遊びに来て欲しい、ついでに私もドラゴンの装備とか欲しいなー』


 だそうです」

「それは依頼なの?」

「一応……依頼料はなけなしのお小遣い4000ポッケだそうです」

「やっす」

「向こうのギルドが良くこんな依頼を通したと思いますよねー」


 相変わらず姫のくせに金が無い奴である。

 あんなでも姫だからギルドとして受理せざるを得なかったのかも

 そしてたったそれだけでドラゴン系の依頼をするとは奴も度胸のある奴だ。あのメイド達は何をやっているんだ。


「むー、まぁいいか。ミラクルの依頼を受けましょう」

「えっ!?受けるんですかっ!?てっきり鼻で笑って拒否すると思って世間を勉強してから依頼を出せってすでにお断りしてましたよ」

「おい。その娘、一応姫なんだけど」

「……え?お姫様が4000ポッケなんてはした金で依頼するわけないじゃないですかーやだー」

「本当よ。お飾りだろうけど姫よ。あの娘を馬鹿にすると幻獣が怒って攻めてくるから注意ね」

「…………まぁペド様達が依頼を受けてくれるので機嫌を損ねる事はないかも」


 この楽観視である。ノエルもまた五丁目の住民という事だ。何とかなるの精神で育ったのだな。

 でも安心。怒るどころかメイド達に世間知らずさを説教されてるハズだ。今頃一国の姫が4000程度でドラゴンの依頼をするとか恥ずかしいとか言われてそう


「じゃあ行きましょう。水竜がいる湖ってどこ?」

「何処でしょうね?大きな湖を適当に探してみますか?」

「知らないのか」

「あ、そうだ言い忘れてました。最近この辺に何故かBランクのもっきゅんが現れるそうなので注意して下さい。フォース王国が戦争中なので追いやられてこちらに来たのではないか、というのがギルドの見解ですが……何でわざわざ五丁目まで逃げてきたのかは分かりません」

「でも大丈夫でしょ?」

「いやまぁ、女性には被害はないですが、ブラックウルフを狩りに行った駆け出し冒険者の男性達が手酷くやられてまして……証言によれば頭に女性の下着を被るという謎の進化を遂げていたそうです」

「それは冒険者が悪い」


 馬鹿な……あの愛くるしいぶらっくうるふ様を狩る事が出来るとは……五丁目の出身のくせに何て悪魔だ。けしからん、もっきゅんを寄越しといて正解だった。


「まぁ何にせよ注意して下さい。まだ温厚という事でBランクなのですが、あれが凶暴となるとAランクと言って良い強さなので」

「そんな好評価を受ける生き物だったのね……良く考えたら何か知恵もあったし」


 なるほど、フォース王国で一匹も死ななかったのも頷ける。野生のもっきゅんはともかく、奴等は訓練されたもっきゅんなのでもはやAランクは超えているだろう。


「そういえば今日はギルドが静かね」

「何か小国でお祭りがあると言って多数の方は大分前に出発して行きましたよ。おかげで最近静かで良いです」

「アラマ国のこと?歩いて行く気か奴等は」

「ええ、お祭りという事で商人も少数とは言え出向きますからね。そちらの護衛で」

「あ、依頼か」


 五丁目の奴等の事だからたんに遊びに行くと思ってた。

 だが遊びのついでに依頼を受けたとしか思えん。きっと貧乏だから依頼料で遊ぶに違いない。


「そう言えばもう一つ言い忘れてました。ペド様の推薦で来られた二方はかなり優秀ですね!皆様ぐらい将来有望ですよっ!……お店を開くので冒険者はお金が貯まるまでとの事でしたが」

「ふふん。あの二人が居るだけで五丁目もそう易々と落とされない町になったでしょう」

「ですねぇ……やっぱり強い方が町に居るとなると安心感が違います。正直クズ共達だけでは不安で一杯でした」

「ま、あれでも五丁目のピンチには役に立つわよ」


 時間稼ぎぐらいにはな。


「あと、セティさんそろそろ臨月入ったんじゃないですか?こないだ見かけた時結構お腹出てましたよ」

「太ってましたに聞こえる」

「美容に拘る方なので太ってはいないすよ。もうすぐペド様もお姉さんですねぇ」

「お姉さんねぇ……」


 産まれなきゃ実感わかないなぁ。

 出産前には帰るか、多分年末までに帰れば立会いには間にあうだろう。

 てか来月はもう12月じゃないか、お早いものだ。 


「ま、今は水竜を優先しましょうか」

「はい?」

「別に。大きな湖を片っ端から探せば居るでしょう」

「ふふん!ついにワシが役に立つ時が来たのじゃっ!ワシに任せれば泳ぐトカゲが居る湖なんぞすぐ分かるぞ!」

「ドリンクバーが自信満々なんだけど?」

「水の精霊が教えてくれるから。ルリに聞かなくとも私が教える」

「なん……じゃと……」



 哀れなドリンクバーはいじけてしまったが、任せると調子に乗りそうだからメルフィに任せよう


「ではメルフィさんが言う場所まで行ってみましょうか」



☆☆☆☆☆☆



 転移で来たので正確な場所は不明だが確かに目の前には広い湖があった。

 対岸が見えないのでかなり広い湖なのは分かる。海と言われても疑わない広さだ。


「よし、早速釣りましょう」

「違います」

「分かってるわよ……この広さの湖でどうやって探すの?」

「んぁ?探さずともワシが呼べば来るじゃろ。水竜なんじゃし」

「ルリが役に立つ。珍しい」

「水辺に佇む貴婦人……どうっ?」

「アリスさんがもう少し成長してたら良い感じでした」


 私らバラバラだな。海とか広い湖とか全く行かないからはしゃぎたい気持ちも分かる。

 一人だけ服装を水着に変えてバカンスしてる幽霊がいるけど、海に行ってた場合海水の塩とか大丈夫だったのかな。


 ルリは水竜を呼ぶために水面の近くに行き、しゃがむと水面をパシャパシャし始めた。

 何かイルカを呼ぶときにそんな事をするとか父が言ってた気がする。

 あんなので本当に水竜が来るのだろうか?いや、同時進行で精霊魔法を使って呼んでるとも考えられる。


「お、何か寄ってきましたね」

「水竜って見た事無いんですよね、ちょっと気になります」


 何かが来たらしいので水面を注視していると、やがて水面が盛り上がり、青い色をした巨大な物体が姿を現した。

 想像してたドラゴンとは違って全体的に丸みを帯びており、一応鶏冠みたいなのは両耳にある。凶悪な筈の口も何か……何か可愛らしい!他のドラゴンみたいにワニみたいになってなく丸い。魚を丸呑みするからか歯も鋭くない。目的の髭はちゃんと両頬に一本ずつ生えている。

 つぶらな瞳が実にキュートだ。これは討伐出来ませんわー


「クゥゥゥ」

「よし、飼おう」

「無理です」

「か、可愛い……けど、この子本当に倒すんですか?」

「髭……髭だけ」

「竜の髭はソナーになってるらしいですね。髭を切ると魚が見つけにくくなり餌を食べるのに苦労するかもです」


 髭すらダメだと言うのかっ!!

 私の魔王退治は見送りか……おのれ水竜、ドラゴンのくせに可愛いとか卑怯な手を使いおる。

 水竜がダメとなると別の素材を探すか別の武器にするかのどちらかになる。

 ただあそこまで作って別のをとなると面倒なので素材を変える方が良いな。クモの魔物ならいい弦が作れそうだが。


「別に髭を頂戴した後に治療して元に戻せばよかろう」

「それだ」


 今日のルリは輝いていた。

 そりゃそうだ。治せばいいじゃん、というか竜の生命力なら治さずとも自力で再生出来ると思う。


 今回は戦いは無さそうなのでマオではなくユキの鞭で髭を切る事にする。アホの娘はまだ武器に慣れてないので水竜を無駄に傷付ける事が有りそうだからだ。

 水竜はこれから髭を切られるってのに全く警戒せずにずいーっと顔を近付けているが、これから何をされるのか分かっているのだろうか?


「何でこんなに無警戒なの?」

「ルリさんが居るからでは?水の大精霊ですし、水竜にとって敬うべき存在でしょうし」

「その理屈でいくと地竜は土の精霊を敬っているのか」

「いえ全く。水竜は水の恩恵が無いと生きられませんが、地竜達は必ず岩場が無いとダメって訳ではありません。普通に森の中でも大丈夫です」

「水が必要なのは全生物一緒だと思うけどね」

「それはそうじゃが、水竜はある程度清らかな水でないと生きられないのじゃ。この広い湖も放っておけばいずれ穢れてしまうが、水の精霊がいれば浄化してくれるからの」


 確かに湖は綺麗で澄んでいる。かなり深い所は底が見えないと思うが、目に見える範囲では青く澄んで水中が肉眼でも見える。


「世界三大名水には及ばないけど良い湖ね」

「ちゃっかり自分を持ち上げる主殿じゃの。じゃが確かにワシの住む湖には大きさ以外は勝てぬの、うははは」

「海に住む水竜も綺麗な海じゃなきゃダメなんですか?」

「そりゃのう……人間が近くに国を作ってる場所にはまずおらんな」

「汚すもんねー」


 だが国の近くに住んでるとか討伐されそうだし居ない方が良い。

 ユキが鞭を持って髭を斬ろうしても無警戒な所を見るとあっさりやられてしまいそうだし。


「では悪いですけど髭を頂きますね」

「?」


 良く分かって無さげな水竜の髭をスパっとあっさり斬ると、拾ってこちらに持ってきてくれる。

 受け取って感触を確かめてみると確かに固いが伸びが良い。限界まで伸ばして矢を飛ばせば高威力が期待出来るだろう。弓とか詳しくないから知らんけど。


「お、水竜が怒ってるよ?プルプルしてるっ」

「髭は生命線と言っていいですからねぇ……まぁ怒りますよ」


 なるほど、確かに水竜を見てみると怒りからか身体を震わせている。

 攻撃されれば勿論迎撃するが、あっちに罪は無いので殺すまではしない。というか可愛いから殺す気はない。


 各自武器を構えて攻撃に備えているが、まだ相手は攻撃してこない。

 仮にもドラゴンなので急にブレスで攻撃してくる事も考えて油断はしないでおく。


 ……少し待ったが一向に襲ってくる気配が無いので用心しながら近寄ってみるとボタっと大量の水が落ちてきた。

 攻撃かと思ったが、それにしては威力が無いなぁと水竜を伺ってみると……


 水竜がマジ泣きしてた。


「泣き顔もまた可愛い……けど早めに治してあげて」

「この泣きっぷりですと自力では再生しないのかもしれませんね」

「こちらの都合で頂いたので奮発してユニクスの血で再生しましょう」

「薬草感覚で使ってるけど、高いんだよ?それ」

「知ってる」

「そうですね、在庫も少なくなりましたので今後は考えて使いましょう」

「サヨがバカ達から殴って貰ってくればいいのよ」

「それもそうですね」


 号泣してる水竜に近付いて貰ってお高い回復アイテムを惜しみなくぶっかけていく。

 効果は知ってるので当然の回復力で斬られた髭がみるみる内に生えてきた。同時に水竜も落ち着いた様で泣き止んでいく。


「水竜の涙も何かに使えないですかねぇ」

「サヨ姉は何でも収集する癖がある」

「ちゃんと使えそうなのだけ集めてますよ」

「水竜の涙、と呼称するだけで好事家が買取してくれそうですね」

「そう言うのを世に出すと水竜が狩られる原因になりかねますが」

「なら売るのはダメよ」

「でも狩られる時は狩られますよ。ここを開拓しようと思う輩が現れる可能性も有りますし」


 まぁここは水が豊富だし力ある者なら開拓に着手しても不思議ではないけど……


「水竜が棲み付く湖は水資源としてはかなり上等だというのは常識です。過去には水竜が生活する湖を目印にして開拓する国もあった、というか結構ありました」

「元々水竜は湖だけにおる魔物じゃったがの、人間達に追いやられた……ま、そういう理由で海にまで行かざるを得なかったという訳じゃな」

「ドラゴンとしては地竜ぐらい弱いですからねぇ……それでもドラゴンなので普通は脅威ですが」


 という事はいずれこの湖を目的に人間がやってくる可能性もあるわけだ。

 ここが今まで無事なのは湖の周りの森にいる魔物が多いおかげだろうとの事。しかし人間の中にも化物は居るのでそう言った奴が数を集めて攻めてきたら危ない様だ。


「つまり完全に大丈夫という事は無いと」

「手段はありますけど」


 あるのか……

 しかし、このニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべているサヨの顔を見ると聞かない方が良い気がする。

 絶対私にとって面倒な事を言ってくるに違いない。


「別に難しい事は言いませんよ。他の人間が住み付く、いえ進行してくる前にお姉様がここに街……国を作ればいいのです」

「却下」

「何も正式な国を作れとは言ってません。いずれ島を手に入れて住むのでしょう?土台を先にここに作っておいて島を入手したら土地ごと持って行けばいいのです」

「この広い湖を持ってくと申したか。って島も買わずに済むならお金貯めなくていいじゃない」

「確かに広いですが、この程度の湖が収まる島ぐらい有りますよ。島に関しては海からさほど離れてない島は恐らくどこかの国がすでに保有してるでしょうから買取る必要がありますね」


 つまり離れてる島はタダって事か。多分危険な魔物とやらが近くに居る島ならタダで入手出来る。見つけるのが難しそうだけど


「そんな勝手に国を作ってよいのか?後で揉め事なぞ主殿は御免じゃと思うが」

「小国を作るのは自由です。大国の外は何処の国にも属してないただの土地ですので誰の許しも要りませんよ、私だって亜人の国を無許可で作りましたし」


 そういやそうだ。亜人が国を作ったと知ってるのに特に問題は起こってない。

 大国の外は魔物の強さが段違いになるため無理して攻めようとも思わないのだろう。放っておけば自滅する事も有り得るし。


 ただし山を削ったり森を全て切り開くのは危険だ。魔物が居なくなれば安全にはなるが、それだと大国のアホ共が土地を狙って押し寄せて来るだろう。

 つまり周辺が魔物だらけでも安全に暮らせる様にするには結界が必要不可欠になる……出来るじゃん。

 サヨの野郎は私達なら余裕で出来るのが分かってるからこそ言ってきたのだ。汚い、さすが年増汚い。


「良いと思いますがね、別にお姉様が政治をしなくとも代理を置けばいいのです。私達はそのまま気楽な旅を続けましょう」

「簡単に言うけど住民はどうすんのよ」

「ふ……私が一声かければペド教信者が必要な数だけ余裕で集まります」

「いらん」


 というか信者を増やすな。一体どれくらい増えたんだ。


「そういう宗教国家にするとナイン皇国がやかましいので反対です」

「なら奴隷でも買いましょう。私達なら余裕で大人買い出来ますよ、それに奴隷なら種族様々居ますし古代の更に古代、まだ種族間の溝も無かった時代の再現が可能です」


 やけに推してくるな……何か怪しいぞこのサヨ。

 別に私としても反対という訳では無いが……国を作るまでが絶対に面倒くせー。何処かを乗っ取った方がきっと楽。でもそれも面倒だからやんない。


「サヨ姉が何を考えてるか不明」

「ふむ、私が急にこんな事を言い出したか気になると」

「そうですね……確かに急というか、怪しいです。お母さんの面倒くさがりを知っての発言とは思えません」


 ユキのストレートな物言いに流石に苦笑いのサヨだが、やっぱり何か思惑があったのか静かに語りだした。


「元々考えていたのですよ、お姉様が島を入手した後の事を」

「言ってみなさいな」

「はい。ではお聞きしますが、島を入手し、かつての自然を再現した後、私達が居なくなった後の島はどうするおつもりでしたか?」

「そのまま放置。後の事なんか知らないわ」

「まぁ……でしょうね。お姉様はそう言うと思ってました。でも、私はそれで終わらせるつもりは有りません。未来永劫遺せるものなら遺します。その為には管理する者が必要、大昔の植物が繁殖しているのを知られて侵略される可能性を考えたら防衛の為にも多数の兵士、もしくは少数精鋭の兵士が必要」

「だから国なんですね」

「そうです。死後とはいえ私達の生きた証を蹂躙されるなど我慢出来ません」


 生きた証ねぇ……そういう訳か。苦労して再生させた自然を蹂躙されたら確かにムカつくけど、死んだ後ならなぁ……あ、墓荒らしされたら許せんわ。


「未来の世界を生きる者達に、たまに墓前で未来の様子を聞かされるのも良いと思いませんか?」

「……よく覚えてるわね」

「そういうお姉様こそ。私は……忘れる筈がありません」


 こんな名前を未来永劫残すとか嫌なんだけどな。

 サヨは遺す為に住民を集める気でいるが、私はその住民達の未来の子供達に島を滅ぼされる気がしてならない。


「私は拒否するわ」

「……分かりました」


 けどまぁ――


「私は絶対面倒だから心底嫌だけど、貴女達が望むなら別に構わないわ。ただし、私は何もやらない、ただのお飾り領主、王?でいるから」

「私は勿論賛成です、言いだしっぺですから」

「わ、わたしも良いと思いますっ」

「ワシも構わんぞ?湖の管理なら任せよ」

「ん。楽しそう」

「良いんじゃないかなっ!」

「ヤッチマイナ」


 やる気派が多数、と。残りは一人、ユキだが……


「姉さん、その未来の者達によってお母さんが造る楽園が汚される事も有り得ます」

「ええ」

「……はぁ、では自然を愛する種族であるエルフを登用出来たなら私も賛成します」

「ふふ、分かりました」

「デレるの早かったわね?」

「まぁ……お母さんのご先祖様が血筋なり奇跡人なり遺しているのに、お母さんは何も遺さず忘れ去られるのは悔しいですから」


 そういう事にしといてやろう。

 でも小さな島国とはいえ私が王?うわー……似合わねぇ。何もしない幼女に誰が忠誠を誓うんだよ、この娘達を除いて。


 おお、そう言えばミラという打って付けの人材が居るじゃないか。奴なら何だかんだ能天気に統治してくれそうだ。

 そしてエルフと言えば黒い娘が居たな……あの娘は次に会った時に家族に足るか判断するけど、別れ際の様子なら信用出来る娘に成長してるだろう。


 何だ、人材に関しては案外何とかなるかもしんないわ。

 む、何だかんだ乗り気になってる私が居る……ムカつくわ

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