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幼女と竜の子

 前を歩くデカい図体だけのチキン野郎の後を追わんと勇ましく歩き出したが、たった5歩で抱っこ状態に戻った。


 言い訳をすると地竜が歩く度に地響きがするのだが、この幼女の身体はそれだけでよろめいてしまう。それを見たユキが颯爽と抱っこしたのだ、決して私が抱っこをねだった訳ではない。


 緑が消え、言葉通り岩山しか見えない景色になった時、地竜はこちらを振り返り口を開いた。



『あそこにある洞穴に娘を寝かせてます』


 顔を向けて見れば、この地竜が余裕で入れそうなほど大きい洞穴の入り口が…


「いよいよペット候補に対面ね。急ぎましょう」

「はい」

『ペット?』


 場所さえ判ればこいつに用はない。首を傾げる地竜を放って中へ入る。


 暗くて視界が悪く、明かりをどうするか考えてたらユキが魔法で丸いボールみたいな形の発光体を出してくれた。



「魔法の存在をすっかり忘れてたわ」

「使う機会が無かったですし」

「そうね。ユキの戦闘は全て暴力だもの」

「ご主人様特製の鞭の方が楽に戦えるのですよ」


 あんまり鞭でビシビシやってると何かに目覚めたりする輩が出そうだ。

 歩いて数分、割と浅い場所に子供の竜は丸まって寝ていた。成体と違ってまだ柔らかそうな白い皮膚。体長は一メートル程と小さい。


「もっとぐったりして苦しんでるかと思ったけど、毒を食らってる素振りが見えないわ。子供でも流石は竜ってとこね」

「そうですね。畜生の子とは思えない我慢強さです」


 つがいの竜も居ると思ったが、子供の竜しか姿が見えない。夫のチキンぶりに愛想をつかしたのか?


「妻にも逃げられるとか救いようがない」

『違いますよっ!別の山へ薬草を探しに行ったのです』


 母親は一応子供を救うために行動をしてはいるようだ。


「じゃ、早く白露花の蜜を飲ませてあげましょ」

「いえ…もう手遅れです。この子には白露花程度の薬草では効果が期待出来ないでしょう……こう見えて死が目前に迫っている程弱っているのです」


 何と…そこまでとは全く思っていなかった。この子は今どれほどの苦しみを我慢してるのか…


「私の魔法なら完治が可能ですが、治しましょうか?」

「待って。私がやる…降ろしなさい」


 ユキに降ろしてもらい、子供の竜の元へ歩く。自分に近づく存在に気付いたのか、閉じてた目蓋を開け、力の無い眼で私を見てくる。


「…お互いクズな親を持ったものね」

「…」

「元気になったらクズは捨てて、まだマシな母親と一緒に二人だけで生きたらどう?」

「…キュウゥッ!」

「…まるでクズを庇ってるみたいな感じね。我が身可愛さにあなたを見殺しにしようとしたのに」

「キュアゥッ……グ、ガアァァッ!!!」


 喋るのも辛いだろうに私に向け精一杯の咆哮を上げる。今のこの子は動けない…私に勝つ事は出来ない。それでも、親を馬鹿にされた怒りを私にぶつけるのは、この子にとってはクズでも大事な親なのだろう。


 私も母親をクズ呼ばわりしたり、散々嫌がらせしてきたが、別に嫌いではない。むしろ母に害を為す存在には迷わず力を使うだろう。あんなクズでも母親の顔をした事があるのだ――


 確か4歳くらいの頃だったか…急な高熱で倒れた私を見つけた母は、直ぐ様私を抱きかかえ、着の身着のまま家を飛び出し病院へ向かった。

 ぼんやりする意識の中で見た母の顔は真剣そのものだった。普段見ないその表情に、もしかしたら…私はこのまま死ぬのかと幼い私は思った。

 私の視線に気付いた母は走りながらも私に微笑む、たったそれだけで大丈夫なんだと感じ、不思議と高熱の辛さが和らいだ気がした。気を失いそうになり振り落とされまいと母にしがみつき、私を抱く手に更に力が入ったのを感じた事で安心して意識を失った。


 思えばこれが『抱っこちゃん』人生の原点だったのかもしれない…。当時、まだ自分に中に眠る奇跡ぱわーの存在を知らなかった私は、ずっと…こうやって守って欲しいと、知らずに願っていたのではと思う。幼女体型な理由としては名前の呪いなんかより断然良い。


 クズクズ呼んでるが、母に語りかける時、ちゃんと母さんやお母さんと呼んでいる理由はそれだ。それなりの愛情と敬意は持っている


「魔物にも家族愛があるのね。あなたもこの先、親に失望する事があるかもしれないけど、嫌いにはならないであげなさい」

「…」


 いよいよ喋るのも辛くなったのか、返事はない


「魔物は強けりゃ偉い何て言う縦社会だっけ」

「はい」


 だったら地竜だとこの先苦労するだろうなぁ…魔物の中ではそれなりだろうが、飛べない時点で竜種としては底辺だろう。

 せめて強そうな名前だけでも付けてあげるか。私のセンスが試される…!






「この子はキングヒドラと名付けましょう」

「…この子は女の子ですよ?」


 ダメ出しくらった。カッコイイからいいのだ。竜の見た目とか雄も雌も変わらないし


「さて、光栄に思いなさいキングヒドラ。私の手によって命を助けられるなんて幸運なんだから」

「……」


 うん、死にそうだったんだっけ。ホントの手遅れになる前に助けるため、奇跡すてっきをキングヒドラに向ける。


「キングヒドラっ!どんな相手に襲われようが返り討ちに出来るくらい強くなりなさい!格上の竜種に襲われようが牙を剥く心の強さを持ちなさい!誇り高い存在であれ!!」


 ひょっとしたらこの子にはもう声が届いてないかもしれない。それならそれでいい。この子の生き方はこの子が決める


「元気になれっ!キングヒドラぁっ!奇跡ぱわあああぁぁぁぁーっ!!!!」


 竜の子は眩い光に包まれている。きっと大丈夫だろう……そんな事より疲労感がヤバい。マイちゃんの時以上に長い気絶期間になるかも……そう思いながら意識を手放す


「…この子はとんでもない竜になるかも…いえ、なってしまいますね」


…直前にユキの不穏な言葉が聞こえた――




★★★★★★★★★★




……意識が戻り、何かザラザラした生暖かい感触が頬に当たっているのを感じ、目を開け感触の原因に目を向ける。

 案の定、助けたキングヒドラがペロペロしていた。ユキの姿を探せばまた地竜をゲシゲシ蹴っている。影の薄かったマイちゃんも高速で体当たりをかまし、地竜を吹っ飛ばす


 マイちゃんつえー……


「50cmが20mに勝ったか…」

「アゥ?」


 キングヒドラの頭を撫でつつ暴力行為を続ける二人を呼ぶ。



「お目覚めになられましたか、私も一安心です」

パタパタ

「どれくらい気絶してた?」

「およそ4日ほど…いつお目覚めになるか心配で落ち着かなかったので、地竜を蹴る事で気を紛らわせておりました」

「ずっと蹴ってたの?死ぬわよあいつ」

「定期的に回復魔法をかけてましたので」


 ユキ…それは生き地獄って言うんだ……


「白露花の蜜がございますのでお飲みになりますか?」

「…なぜ?いたって健康なんだけど」

「白露花の蜜は大変美味です。毒消しの他に紅茶に入れたりする使い方もあります。マイさんも大変お気に召されたようですよ」

パタパタッ!

「おー!それは飲みたい!」

「では、すぐに用意致しますね」

「キャゥッ!」

「お?キングヒドラも気に入ったの?」

「キュゥッ!」

「美味しそうに飲んでましたよ……はい、どうぞ」

「ありがと。どれどれ……」


 カップの中には白い蜜が入っていた。白露花は花ではなく蜜の色で名付けられたのだろう。とりあえず一口…


「美味しい……」

「それは良かったです」


 甘い…蜂蜜とはまた違う、もっとすっきりした上品な甘さだ。もちろん花だけあって香りも良い。


「今まで知らなかったとは損した気分」

「高値ですから。流通しても嗜好品として貴族が買うくらいです」

「ユキが採ってきてくれれば良かったのよ」

「贅沢な暮らしより生活資金を優先したのですよ」

「是非ともクズに言って欲しいセリフね」



 今度こそ帰るかな。気絶していたおかげでもう山に登って5日以上も経っている。まだ下りがあるのだから急ぐに越した事はない。というか早く風呂に入りたいっ!!


「…帰ろっか。ユキ、マイちゃん」

「かしこまりました」

パタパタ


 白露花はどの程度あればいいのか、一月分の生活資金くらいは欲しい。


『この度はまことにありがとうございました!』

「キュウ…」


地竜父娘が挨拶をしてくる


「キングヒドラ、私が言った事を聞いてても、聞いてなくても頑張りなさい」

「キュウゥゥゥ…」


 擦り寄ってくる。一メートルでも私には十分デカい。どうか潰さないで…。というかすっかりなつかれたな、私は人外に妙に好かれる。


「母を大事になさい。あと、あなたの父は蹴られるのが好きみたいだから思いっきり蹴ってあげなさい」

「キュアッ!」

『やめて?!』


 くくく…貴様への罰だ地竜。今後娘に蹴られながら生活するがいい。


 私はもはやお馴染みになったユキに抱っこされるポジション、マイちゃんは今回は私の頭の上にとまる。

 これだけで下山の準備は終わった。後は忘れず白露花の回収をするだけ


「…また会いましょう、キングヒドラ」

「キュウ!」


 私を見つめる金色の眼には寂しさが見える。死にかけの時は私と同じ紅だった気がするがスルー。父地竜の眼は普通に紅という事もスルー。



 洞窟を出て、入り口で見送る地竜父娘に手を振りながら、私達は帰路についた

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