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幼女、お使いを頼む

「ちい姉グッモーニッ!」

「おはようアリス。てっきり成仏したと思ってたわ」

「いつ私の話題が出るか待ってたけど全く気にされないから出てきたよっ!」


 ちっくしょー!酒もってこい、と飲めないくせに喚いているが当然誰にも相手にされない。皆アリスの扱いは手馴れてきてるのだ


「アリスさんはお祭りで何をしたいですか?」

「お?お祭りあるの?祭りと言えば喧嘩という名の殺し合いでしょ」

「集団による乱闘が醍醐味なのよねー」

「そこの物騒な二名はともかく、やはり食べ物じゃないですか?」


 屋台がたくさんあるんだっけ。昔行った時は不味そうな気配しかしない屋台ばっかだったから結局あんまり食べなかったんだよなー


「そういうマオちゃんは何がしたいの?」

「んー、わたしはお祭りとか行った事無いので何があるのか……」


 本を読んで単語だけ知ってたのか。大体楽しいイメージで書かれているから行きたくなったのだろう


「わたしが本で読んだのは大体主人公とヒロインが楽しくデートしてる場面しかなかったです。なので何が面白いのかは分からないですが、楽しいって事は分かります」

「デート!分かるねっ!イチャイチャしてるのにムカついて喧嘩売るんだよ!」

「とりあえず暴力から離れて下さい」

「メルフィさんはお祭りと言えば何ですか?」

「精霊がはしゃいで煩い」


 ただの苦情だった。何か分かる……妖精もやかましい存在だしな。精霊が見えるってのも不便なんだな、見えなくて良かった


「お祭りって人混みが多いからマオちゃんは痴漢にお尻触られない様に注意しなきゃねっ!」

「えっ!?そうなんですか?」

「そうだよ、人が多くて身動き出来ないマオちゃんを狙ってお尻を触り、更には服の中に魔の手が……!」

「い、行かない方が良い気がしてきました……」

「ご安心下さいマオさん。不埒な輩に触れられる前に私と姉さんが手首を切断しますので」


 中々素敵な提案だが、そもそも悪意を持った奴が触れようとすると感電死するみたいな結界は無いのか?

 あったら便利なのでその事を提案してみると


「そんな人の心情を探った後で発動する様な高度な結界は知りませんね」

「言われてみると難しいわ」

「任せる」

「おお、珍しくメルフィが頼もしい」

「結界じゃないけど、痴漢行為を働こうとした愚か者に精霊達が自動的に排除する様にお願いしとけばいい」

「精霊任せか……結局ユキ達に任せるか精霊に任せるかの違いね」

「姉さんの家族に害なす者なら張り切って滅してくれる」


 殺すのか。それは構わないが、私達の近くで殺されたら面倒になるから出来れば離れた位置で殺して欲しい。


「精霊魔法と言えば……何で私や姉さんは使えないのでしょうね」

「今更すぎる話ね」

「いえ、私はお母さんから全魔法を使える存在として生を受けました。しかし精霊魔法だけは使えないので何でかと」

「何言ってんの?ユキが使えないんだから精霊魔法は魔法じゃないのよ」


 何言ってんの?と言ったらこっちが何言ってんの?という表情を向けられる。普通に考えれば気付くだろう……常識的に考えて

 頭の良い奴は固すぎて発想が悪いな


「精霊魔法が魔法ではないと……いえ確かに魔法でないのなら私に使えないのも納得ですが」

「ならいいじゃない。大体精霊魔法なんて名付けたのってどうせ過去の異世界人でしょ。奴等の国の精霊魔法とこの世界の精霊魔法が一緒とは限らないわ。あれよ、どうせエルフが使う神秘の力は精霊魔法と決まってるみたいな感じで名付けたんでしょうね。私の力を奇跡魔法とか名付けた所で魔法にはなりゃしないわ」

「では、正式には何なのでしょう?」

「その辺はメルフィかルリにでも聞いて」


 元エルフに大精霊なんだから分かるはず。


「パス」

「少しくらいは説明してくれメルフィ殿……そうじゃの、ワシが生まれた時はすでに精霊魔法という名前じゃったから知らん」

「ダメじゃん」


 二人が役立たずな為、私が知ってる限りの情報で推測してやろう。

 マオ達が勉強の時に使ってるボードに考えた事を書いていく


 精霊魔法は魔法より少量の魔力で発動する省エネ魔法だっけか。やれる事は万能で魔法では不可な事も可能。

 精霊魔法が使えるのはエルフ、自然の加護だっけか、それを持っている者に限る。人間にも加護持ちはいるが、使えるのは多分メルフィだけだろう。

 使用条件は精霊が見える者か、声が聞こえる者に限る可能性がある。


「精霊が見えなきゃ使えないのかも」

「精霊に好かれるだけじゃダメなのですね」

「かもねー。あと省エネの理由は精霊達に魔力を通じて命令して、魔法自体は精霊達が発動するからと推測したわ。つまり精霊魔法とは名ばかりの精霊に対してお願いしているだけの他人任せの力に過ぎない。よって魔法とは言えず、ユキには使えないという事じゃないの?」

「ん。確かに私は精霊達にあーしてこーして言うだけ。無意識の内に魔力に命令の意思を乗せていたのかも」

「ふむ……魔力に言葉を乗せる、と。何か難しそうですが、出来る様になれば私たちでも精霊魔法が使えるかもしれませんね」


 その辺は精霊が見える者に限るかもしれないが、もしかしたら出来るかもな。

 私の場合は相手の精霊魔法を封じる事は出来るが、自分で何かする事は出来ない。

 しかし私だって姿も見えなきゃ声も聞こえないのに言う事聞いてくれたのだから魔力さえ渡せば精霊魔法が使えそうとは思う


「精霊魔法はよー分からん。条件が不明すぎるわ。私が精霊魔法使えなくなれって言った時はどうだったの?」

「むぅ、精霊達が何を言っても言う事聞いてくれなかった」

「じゃあ……精霊、ルリの頭に火をつけろ」

「何を頼んどる!?」

「良いじゃない。何も起きてないし……今のはどうだった?」

「ルリの頭の上で火をつけろーってはしゃいでただけ」


 はしゃぐな。

 精霊は私たちの言葉は分かっているが、やっぱり言うだけじゃ実行には移してくれない。


「閃いた。精霊はお馬鹿説」

「確かに馬鹿」

「そんなハッキリと……今度はどういう事でしょう」

「精霊は言葉は分かるけど意味が分かってないって事」

「しかしお母さんが使うなと言えば使えなくなりましたよ」

「その命令は流石に分かるでしょう。手を貸さなきゃいいだけだもの。私が言っているのは魔法の真似事の事よ」


 精霊は火をつけろと言われても火をつけるという行為が分からないのだと思う

 言葉では分かってもどういう事象が言われた事なのか分からんのだ


「良い例を紹介しましょう。この前メルフィがマイちゃんを変装させた時クモにしちゃったじゃない?あの時メルフィは蝶がクモに捕食される、と考えていたからマイちゃんはクモになった」

「言ってましたね」

「つまりその辺は魔法と一緒で、精霊に魔力で言葉を伝えるってのは間違いでイメージを伝えていたのだと思う」

「おおっ!それっぽいです!」

「うむ、言われてみればそんな感じで使っておるのじゃ」

「つまりあのジャージはメルフィさんの趣味……!」

「む、あの服は動きやすいし汚れてもいい便利な格好。馬鹿に出来ない服」


 確かに……あれは農作業にはもってこいな服だった。次に舞王に会った時はプレゼントする事にしよう。


「結局魔力で言葉を伝えるのもイメージを伝えるのも難しいですね」

「精霊も属性毎に分かれておるからのう……見えてれば火属性の精霊に向かって火をつけるイメージを飛ばせると思うのじゃが」

「やはり見えてなければ難しいのですね。全方位に向けて魔力を飛ばせば可能なのかもしれませんが、それなら魔法を使った方がマシですし」

「そんな無理して使わなくてもいいじゃないですか」


 分かってないなサヨ、前にユキがサヨに符術を習った時は不純な動機だった。つまり精霊魔法も不純な動機で使いたいに違いない……具体的には姿を変える精霊魔法が使いたいのだろう。

 属性は不明だが、ユキが使える様になると不味いので変身魔法の属性については伏せる様に言っておく


「そんなつまんない話よりお祭りの話し・よ・う・ぜ!」

「そういえば祭りの話から大分逸れてたわね。アリスウザい。痴漢を精霊魔法で撃退するって話だったっけ」

「なぜ途中でアリスちゃんに暴言を吐いた」

「良く気付いたわね、偉い偉い。ご褒美にスカートを捲ってあげましょう」

「今日は紐パンだよ」


 こんな少女がなんてアダルティ……アリスには似合わないな、20年は早い。大人しく縞パンでも穿いてろ。


「話を戻しますが、精霊が何とかしてくれるのなら今回はメルフィさん達にお任せしましょう」

「で、その肝心のお祭りって何時あるのよ」

「まだ10日ほど先ですね」

「結構先の話ね」

「では空いた時間でコリャマイッタワーにでも行きますか?」

「行かない」


 私は10日ぐらいぐーたらで過ごすのは余裕だけど、皆にもぐーたらで過ごさせるのは勿体無い。

 ふむ……まだ蜂蜜の依頼は完了していないけど、適当に依頼を受けて金稼ぎでもしてきてもらうか


「私はのんびりしておくから、皆は適当に金稼ぎしといて」

「それは構いませんが」

「お祭り前までに稼いだお金は私に預けず自分達の臨時収入にしていいわよ」

「おお、お姉ちゃんが太っ腹ですっ」


 自分達で稼いだ金を自分達で使うのに何が太っ腹なんだろう……祭りでこの娘達がいくら使う気なのか分からないけど、まぁ十万もあれば楽しめる事だろう



★★★★★★★★★★



「これがお母さんの分で200万ポッケになります」

「馬鹿じゃねーの?」


 たった3日の出稼ぎから帰ってきて渡されたのが今の金額だ。


 何を買わせる気だ。どこかの店でありったけ持って来いとか言えと?

 私だけが大金持たされてるのかと思ったが、皆等しく持参しているらしい。


「どんな依頼受けたのよ。むしろ何を狩ってきた」

「少し遠出をして空を飛ぶトカゲを何匹か狩っただけです。討伐依頼金の他、素材が高級品らしくトゥース王国ではあまり出回りが無いので他国に比べて買い取り金額が高かったのでそちらで売却しました。ボロい商売ですね」

「あんな弱いのに不思議な事です」


 どう考えても飛竜だ。あのトカゲってそんな金になるのか……乱獲すると価値が下がりそうだから少しずつ狩っていけば良い収入になりそう


「でもそんなに有るなら私からのお小遣いってゴミに等しいわね」

「いえ、お小遣いの方を優先して使いますよ。このお金は泡銭みたいなものです。お小遣いで足りなかった時は使いますけど、余った分はお母さんの貯金に回します」

「持っとけばいいのに」

「私達にはお小遣いの金額で丁度良いのですよ」


 お金持っている方が安心する気がするけど、そう言うなら祭りの後で頂くとしよう。


「ところで何で急に祭り何かに行こうと思ったの?」

「お祭りはお嫌いですか?」

「別に……でも予定に無かった小国なんかに行くんだから他に目的あるんじゃないかと思ってね」

「ふむ、分かりますか。目的は社会勉強ですね。小国は大国に比べて治安が悪いのです。それこそ本の中にいる様なガラの悪い冒険者もいるでしょう、マオさんの教育の一環としてその辺も見せておいた方がいいかと」

「なるほど……ゴミの様な人間はこういう奴等だと教えてあげるのね、分かったわ」


 社会勉強なら仕方ない。だが肝心な事を聞いていない。


「大事な事だから聞くけど、絡まれたら殺していいのよね?」

「難しいですねぇ……過剰防衛で連行されてしまうかもしれません。しかし、冒険者には決闘などと言う貴族と同じルールが有りますので対戦の結果、不運な事に相手が死んでしまった場合は罪は無いそうです」

「不運な事に?」

「不運な事に、です。ちなみに何故無罪放免になるかと言えば勝者側の方がギルドにとっては強い手駒として有益になりますのであえて見逃すと言ったところですね」


 その辺緩すぎな気もするが、所詮冒険者だからな。死んでも代わりなら腐るほど居るだろう。


「誰でもなれる事で賊に身を落とす者が減るんだから悪い事でもないのだけど、やっぱ客観的に見たら冒険者って扱い悪いわね」

「ですね。ちなみにパーティが全滅した場合はギルドに預けられているお金は7割はギルド側に徴収されて、遺族に渡されるのはたったの3割です。国から支払われる資金以外はその辺で運営資金を賄っているので決闘騒ぎで相手パーティが死んでもギルドの懐は潤うという事です」

「ふむ。負けた側が生きてても駒が減らず、死んでも金が手に入ると……良い商売してるわ」

「まぁ私達の場合は亜空間に貯金してますので死のうがギルドにお金が渡る事はありません。死ぬ直前にご実家の方に送金致します」


 流石に私達は特殊すぎるが。高ランクパーティなら似たようなもんだろうな。


 ただし、その辺を分かっている冒険者はパーティ全員で決闘する事はないそうだ。一人でも生き残ってればギルドに渡さずに済むからな。その生き残りが死んだ冒険者の遺族に金を渡すんだと……


 というか決闘騒ぎを起こすのは腕っ節ばかりで頭の方は残念な奴等ばかりで、一人残すなんて考えが無いパーティが多いらしい。分かるわー


「てかそんな事はどうでもいいのよ。殺していいなら問題ないわ」

「殺す事前提とは流石です。まぁ小国の冒険者なんて賊が冒険者と名乗ってる犯罪者予備軍が多い感じなので問題無いでしょう」


 うむ。治安が悪いという評判は伊達ではない様で結構。

 あと7日もあるんだ、どうせなら祭りを普通に楽しむ為に社会勉強とやらは先に済ませておくのも良いかも


「予定を変えましょう。祭りの日は普通に皆に楽しんでもらう事にして、祭りの前日までに私達に喧嘩を売るとどうなるかって恐怖を植え付けておきましょう」

「それも……良いですね。祭りの日は目一杯楽しむ事にしましょう。他国からの冒険者や一般客も来るでしょうが、問題を起こす者は少ないでしょうし」


 現在、すでにアラマ国とやらの外壁のすぐ側に待機している状態なので行こうと思えばすぐに入れる。

 早速マオ達を呼んで犯罪者予備軍の巣に突撃させるとしよう



☆☆☆☆☆☆



「なぜ私が行かなきゃならない」

「メルフィほど餌になる美少女は居ないもの。乳もデカいし」

「大丈夫ですよ。私達は離れて見てますし、いざとなったら助けに行きますから」

「……私に近付いた奴を殺す許可を」

「あかん」

「いいですか?殺していいのは決闘を受けた後です。絡まれた場合は上手く誘導して下さい。その場で殺すと捕まりますのでくれぐれも注意を」


 メルフィは嫌々ながらも絶対に行きたくないって訳ではないらしい。

 マオの護衛兼囮としてメルフィの部屋にて交渉していたが、案外すんなりと承認してくれた。表情は渋々と語ってるけど。


 別にメルフィじゃなくて背が小さいサヨでも同じく嘗められそうで良かったのだが、肝心のサヨが部屋で気を習得する為に風呂に篭って行水とやらしているので断られたのだ。あんなので習得出来るのかは不明だが。

 ルリはサヨの手伝いで頭に水を滝の様に落とす作業を無理やりさせられているので同じくダメだそうだ。


 さて、メルフィは大丈夫なので後は主役のマオにお使いを頼むだけだな






「ついに貴女がお使いに行く時が来てしまったの」

「お、おぉぉぉ……」

「まぁ一人じゃなくてメルフィも一緒だけど」

「マオさん達にはこの耳兎の毛皮をギルドに行って換金してきてもらいます」


 耳兎とはこの辺に出てくる魔物では弱い部類に入る名前通り耳が長い兎だ。体調が小柄な女性くらいと割と大きい。しかしそれ以上に耳が長く、大きいもので3mはあるらしい。

 兎らしく鋭い前歯で噛み付いてくるのが主な攻撃手段なのだと

 ウサギのリュック持ちとしてはあまり狩りたくない対象なのだが、可愛くないので討伐する事を許可した。顔が化け物みたいに目玉が飛び出してキモいんだもん


 なぜそんな雑魚を換金させに行くかと言えば弱い部類の冒険者であると周囲に思い込ませる為だ。これで弱い少女の冒険者という事で絡んでくる奴等が現れる確率が上がる事だろう。


「今夜は寝かさないぜうっへっへ」

「はい?」

「いえ、何かそんな言葉を近いうちに聞きそうだったから」

「はぁ……」


 本人はこれから小国のギルドがならず者の巣窟みたいなのと知らずに突撃するのだ。見てる方は面白いが当人は果たしてどんな反応するだろうか……


 お使いと聞いてやる気が漲っている内にさっさと出発してもらおう、という事で早速メルフィも呼んで毛皮を持たせる。あくまでマオの為の社会勉強なのでメルフィには余計な口出しはしない様に頼んである。


「ギルドの場所は分かりませんが、入り口近くに建ててあると思いますのですぐ分かるかと」

「わかりましたっ」

「さあ行くのよ!貴女の成長を見せて御覧なさい!」

「任せて下さいっ!」


 自信満々に出発したマオとメルフィ一行。あんだけ自信あったくせにいつの間にかリンを所持している。

 当然肩を見るとそこにリンは居ない。ホントいつの間に拉致したのか……マオの手癖は侮れないな


「集音の魔法でマオさん周辺の声が届く様にしておきます」

「その方が面白そうね」


 見つからない様に離れた位置でコソコソしながらマオ達の会話を聞く


「行きますよメルフィさん!街の入り口はすぐそこですっ」

「ん。張り切ってるのは分かったから行動でも張り切って欲しい」


 今のマオは右手にリンを装備して左手はメルフィの右手を握っている状態だ。

 両手を塞ぐとは冒険者として馬鹿としか言い様がないが……まぁ後でユキに説教させるとしよう。


 やる気だけはあるが、実際はへっぴり腰のマオをメルフィが引っ張っているだけに過ぎない。

 やはり知らない人間がうじゃうじゃ居る町に行くのはまだ抵抗がある様だな、マオ一人に行かせようものなら入国前に泣きながら戻ってきたと予想がつく。


「まるで成長していない」

「今までは私達が居るので安心感がありましたからね」

「怯えるマオちゃんのお尻を眺めるのも乙なもんだよねー。見てよ、あんなに突き出しちゃってっ!」

「余計な奴が来ちゃったわ」


 取り憑いてると自称しているだけあっていつの間にかアリスが背後に現れた。

 人の頭の上に顔を乗せてお尻お尻と連呼して鬱陶しい。


「社会勉強と言っても別にお使いじゃなくて皆で行けば良かったんじゃない?」

「それだとマオが私達任せにするじゃない。それ以前に私がならず者に馬鹿にされたらユキがキレそう」

「ユキちゃん過保護だもんねー」

「否定はしません。が、皆さんだってお母さんを馬鹿にされたら怒るじゃないですか」

「そうだねー、お祭り前に国が滅んだら困るし、仕方ないか」

「本当にやってしまいそうなのがあなた達のおかしな所よ」


 さてさて、マオ達の方は今門番達に冒険者カードを見せている所だ。

 余所者は立ち入り不可、という事は無い様で普通に通過していた。ただし、門番がやらしい顔をしていた。


「マオちゃんとメルフィちゃんをやらしい目で見るとは良い度胸だよ、やっちゃおう」

「やめなさい。そんなの何処行っても見る景色じゃない」


 門番達の視線はもれなくメルフィの乳に向かっていた。ローブからでも分かる大きさに嫉妬、はしない。

 何処の男も乳に夢を見ているみたいだ。


「お母さん、マオさん達に問題が発生したようです」

「早っ!まだ入国したばっかじゃない」


 魔法によってこちらに聞こえてくる声を拾うと、どうやらマオかメルフィにぶつかって大事な壷が割れただの、どう落とし前つけてくれるんだだのと言った言い掛かりが聞きとれる。


「大事な壷を普通に持ち歩くとか馬鹿としか言えない」

「メ、メルフィさんっ!?」

「おうおう、ぶつかっといてその態度はどうなんだ?」

「ぶつかってない。臭すぎてぶつかりたくないから避ける」

「ひいぃぃぃぃぃっ!?」


 このメルフィ、煽りおる。


 にしてもマオがヘボい。メルフィ達の相手は確認出来る範囲では4人だ。雑魚がたった4人いるだけなのに情けなさすぎる。


「マオ、こいつらはどう見ても雑魚。怯えなくて大丈夫」

「うぅ……お姉ちゃんに前に悪戯されたのがトラウマでむさ苦しい男の人は苦手なんですよぉ……」


 ……あぁ、寝込みを襲った時の事か。


「お母さん」

「正直すまんかった。ここは発想を変えてマオの苦手意識を克服して軽く殺せるぐらいまで精神を強化しましょう」

「殺すのは無理でしょうが、その辺の男なんて十分撃退出来ると覚えてもらうのはいいかもしれません」


 あちらの話はふざけた態度をとるマオ達に世間の厳しさを教えると称して婦女暴行をする方向でまとまったみたいだ。

 望むところと戦闘態勢に入るメルフィだが、決闘ではなく普通に戦闘しようとしている。何という物忘れ、このまま殺す様では捕まりはしないがお尋ね者になるかもしれないじゃないか。


「仕方ありません。あいつらは私達で何とかするとして、マオさん達には予定通りギルドへ向かってもらいましょう」

「それでいいわ」


 アリスは幽霊なので一応私の中で待機。急いで門まで行き、ちゃちゃっと入国する。

 当然ユキをジロジロ見てきたが、ユキは気にもせず無表情で進む。


 入国してすぐに絡まれただけあってすぐに二人に追いつく。そしてすでに一触即発な感じのメルフィ達に待ったをかけた。


「メルフィ、待ちなさい」

「?」

「疑問顔すんな。やるなら決闘で殺すつもりは無かったけど相手が予想以上に弱くて加減出来なかった、みたいな感じにしなさいと言ったでしょう」

「……聞いてない」

「ユキが言ってたでしょうに。この場は私達が処理するから貴女達は予定通りギルドに行きなさい」

「あぁ、お姉ちゃんがピンチのヒロインの前に現れる幼女の様に」


 幼女のヒロインってレズじゃないか?そんな本あったかと思うがまず見た事ない。恐らくマオの脳内で創作された物語なのだろう。もれなく主役が私になってる気がする。


「ちゃんとお使いを達成してくる様に」

「わかりましたっ」

「ん。マオは返事だけ一人前。ここは任せる」

「今度はちゃんと問題にならない様に殺って下さいね。あと、ギルドでの交渉はマオさん主導でお願いします」


 ギルドが何処かは分からないが、とりあえず大きい建物がある方にマオ達はのんびり歩き始めた。

 当然イチャモンをつけてた禿げ化が進んでる男が行かせまいとするが、ユキが鞭で足を引っ掛けて転倒させる。


 メルフィ達に絡んでいたのは安っぽい鎧を着ているので間違いなく冒険者だろう。

 4人の特徴は禿げ、禿げ、禿げ、禿げ……


「皆ハゲじゃない」

「何だとガキっ!?髪の毛が見えねぇのかっ!」

「山頂からご来光がっ!」

「頭部が光ってます。ハゲですね」


 ハゲたおっさん達に囲まれるのは何ともむさ苦しい。メルフィの気持ちも分かる。こんなのに触られたくない。


「お前らさっきの女達の仲間だろ」

「おい、他国でも貴族相手に問題起こしたら不味いぞ」

「安心しろ、門番を見ろ。こいつらは冒険者だって合図が出てる」

「なるほどな……貴族のフリしてれば手を出されないとでも思っているタイプか」


 ふむ、門番もグルか。

 門番を守るのは兵士だと思うが、兵士までアレではこの国は確かに治安が悪い様だ。この様子では祭りがあっても他国からの観光客なんか来ないだろう。


 にしても貴族のフリして身を守っているなどと言う勘違いは許し難い。


「冒険者ってんなら話は早い。あいつらの代わりに壷の落とし前つけてもらおうか」

「壷?その辺の土を焼いて固めただけのゴミの事ですか?」

「うるせぇっ!」


 ユキの言葉にこの反応、図星か。見た目が良い女性にはこんな感じで脅してきたのだろうな。実に程度が低い。本当にか弱い女性にしか通用しない手だろうな。




「まあ待ちなさい。ここは冒険者らしく決闘でケリをつけましょう」

「決闘だぁ?」

「そ。私達が勝ったら大人しく去ること。私達が負けた場合はさっきの娘達を含め、このメイドを好きにしていいわよ」

「へへ、随分自信ありげな要求だな。まるで自分達が負けると思ってないようだ。どうだお前ら、この決闘受けてみるか?」

「もちろん受けるぜ」


 こちらに自信有り気といいながら自分達の方が自信あるみたいじゃないか。何かやってくるに違いないが、所詮ならず者が考える事だ。こちらが危なくなる事はあるまい。


 しかし馬鹿だ。何も考えずに受けた気がするが、多分その通りだろう。こいつらの頭の中では勝ち負けではなく決闘が終わった後のお楽しみしか無いだと思う。


「あっちに暴れるには持って来いな広場がある。そこでやるぞ」

「ええ」


 ハゲ4人組の後ろを歩くが、後頭部は更に後光が差している。まさか目くらまし作戦とかしたりするのだろうか


 しっかし奴等の後ろを歩いていると臭いがこっちにきてたまらん。マジ臭い。風呂入れボケ。

 賊ではなく普通に街中に住んでるくせにこの臭さ、ろくな国じゃないわ。


 数分歩くと目の前に確かに広い場所が見えてきた。普段は冒険者達が訓練でもしてるのか模擬戦をしてたり素振りをしてたりする者が見える。

 こんな底辺でも訓練はするんだなぁ、と少々関心した。実力は低いけど


 ハゲ達はずかずかと中央まで行くと私達に向き直る。周りの冒険者はやっぱり賊みたいな感じのならず者ばっかだな。


「ここで始めるぞ。こっちが決闘で勝ったらここには居ない二人を含めお前達を好きに出来る。負けたら……何だったか」

「大人しく私達の前から消え失せる、よ」

「それだ。おいっ!!その条件でいいなっ?久しぶりの上玉だっ!さっさとやっちまうぞっ!」


 セリフがまんま賊だ。


 リーダーらしきハゲがデカい声で開始の合図を言うと、周りにいた冒険者達もニヤニヤ笑いながら武器を構えて囲んできた。


 ハゲは勝ち誇った様な顔をしているが……なるほど、随分自信があるかと思えば数で攻めるって事か。

 大国の軍隊に匹敵するならともかく、ここに居るのは精々30人程度。ゴミだ。


「ねぇユキ、この中に殺さなくても良い様な奴っている?」

「いいえ、私の目には一度と言わず犯罪を犯した者ばかりに見えます」

「私もよ」


 様子見なのか、下っ端と思われるお粗末な装備をした奴等が数人向かってきた。


 ユキも鞭を取り出して相手を迎え撃つべく前に出る。が――


 鞭を放つと同時に整地されていない地面に躓いて向かってきた奴等の首を刎ねてしまった。


「何という不運。ユキが躓いちゃったせいで相手が3人も死んじゃったわ」

「はい。手加減しようと思ったのですが、躓いて慌てたせいで出来ませんでした」

「ユキはドジだから仕方ないわー。でも私を抱っこしたままで転ぶのは勘弁ね」


 白々しい芝居をする私達だが、冒険者共は目の前の光景に呆然とするばかりで聞いてない様だった。

 そんなボケっとしてると不運な事に死んでしまうんじゃないかー?

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