幼女、幽霊達と別れる
「兄は安らかな眠りにつきました。遺言は何故お前の方がハーレムを築いているんだ、でした」
「そっちの方もろくなもんじゃなかったみたいね」
「まぁ……しかし、最後は意識を取り戻して兄として死んだので良かったのだと思います」
入り口の方に向かってから埋葬のついでにこの部屋を破壊していく。あの生き残りの研究員が居た部屋以外はこれで完全に破壊された
飾られたヨーコのおっぱいが見れなかったのは残念だが、致し方ない
「どうするヨーコ?この場で元の世界に戻してあげましょうか?」
「いえ……私は、この世界に留まろうと思います。兄も死にましたし私も幽霊になっちゃいましたから戻っても仕方ないですよ……それに、こっちには妹が出来ましたし」
妹とはクソ女の事である。まぁ帰らないってんなら余計な気絶をしなくて済むからこちらとしては助かるが……幽霊のくせにどう過ごすつもりなんだろう
「残ってどうするのです?ヨーコさんは幽霊ですし、ニーナさんは変なのですし」
「変なの言うなっ!」
「そもそも二人はお尋ね者になる可能性が大ですよ?」
ふむふむ、と考えたあと、ヨーコは髪の色を黒からどこにでも居そうな金に変える。容姿は変わっていないのだが、髪の色が変わるだけで随分と別人になるもんだ
「まぁ変装した所で幽霊だから目立つしバレそうだけどね」
「盲点でした」
「ベレッタの身体を借りたり出来ないの?」
「その発想はありませんでした。ニーナちゃん、試してみていい?」
「いいけど……いや良くないけどー……うー」
「成功してもずっと借りる訳じゃないよ?人前に出る時だけ」
それなら……とクソ女は許可を出した。そして早速と言った様子でベレッタの中に入るヨーコ
ベレッタはゾンビなので魂とやらはすでに無いはず。なら逆に魂しかないヨーコなら入れるかもしれないと思っての発言だが、やたら行動力のあるヨーコは躊躇う事無く試している
「……入れー入れー、ん?成功しました?」
「ベレッタが喋ってるとか新鮮!懐かしいっ!」
「ふふふ、違いますよニーナちゃん。今の私はベレッタさんとサクラヨウコの融合体っ!ヨゴレッタと呼んで下さい」
「なんか嫌」
「ベレッタはそんなアホっぽいキャラじゃないと思うわ」
何にせよヨーコはこれで隠すしかない。クソ女の方はお得意の方法で姿を変えれば大丈夫だろう
しかしこの世界に残って何をするつもりなんだろ?今後も私達に同行したいと言っても断固拒否するけど
「ヨーコ達はここを出たあとどうすんの?」
「はい、研究所に攻める前に考えてたんですけど、ちょっとやってみたい事があったんですっ」
もしかしたら兄を見つけても自分だけはこの世界に残るつもりだったのかも
まぁ幽霊だしなー……ヨーコの世界での幽霊の扱いは分からないけど、あんまり友好的に接する事はないだろうな
帰った瞬間お化け扱いなら帰らなくていいかと思ったのかも
「で?何をするの?」
「ふふん、この前カレーを皆さんで食べた時に思ったのです。異世界、私のいた世界の料理ならこの世界で商売できるとっ!……出来たらいいなーって」
「そうですねぇ……確かにカレーは美味でした。しかし材料の入手は難しいですよ?」
「大丈夫ですっ!私の国にはカレー以外にも美味しいものがありますっ!からあげ、ハンバーグ、とんかつも良いですね!嫌いな人は滅多に居なかったのできっと大丈夫です」
自信満々なヨーコだが、どれもこれも聞いた事がある。そう……すでにこの世界ではありふれた料理にすぎないのだ。でも何かやる気出してるから黙っておこう
「店を開くならワンス王国の五丁目がオススメよ。あそこなら幽霊だろうがゾンビだろうがバレても問題ないわ」
「へー、分かりました。食材求めて旅をした後にそこでお店を開こうと思います」
うむ、この二人が五丁目に居るなら防衛力がかなり高くなるだろう。五丁目の冒険者の雑魚っぷりは半端内からこの二人が来るだけでかなりの戦力アップになること間違いなしだ
そうだ、今後も化物くさい強さを持った奴は五丁目に送ろう。散々馬鹿にされていたあの町はワンス王国一の化物揃いの町と化す
「ではそろそろ転移で出ますよ。念のため山の方、馬車を置いてある場所に転移します」
「紳士達はどうすんの?」
「大丈夫です。あれは訓練された紳士達です。風魔法で撤退命令を飛ばせば帰還するでしょう」
「魔物にしておくには惜しいわね。奴等も五丁目付近の森に住まわせて護衛させましょう」
「それも良いですね。お母さんの生まれ故郷となると喜んで守ってくれる事でしょう」
まず外に張った侵入を阻止していた結界を消す。その後皆集まって転移した。
馬車の周りには結界を張っていたので当然無事だ。
ぺけぴーの部屋に入るとやはりダラけていたが、私達の姿を見ると必死にスクワットを始めた。後で罰すると告げると悲しそうに鳴いた
外に出ていつもの遠見の魔法で王都の様子を伺うと、ユキが風魔法で伝令を飛ばしたのだろうが王都で暴れていた黄色い物体が散り散りになって逃げ出しているのが見えた
まっすぐこっちに向かってくるかと思ったが、どうやらバラバラに逃げてこちらの存在を認識させない様に誤魔化す為にやっている事なんだと。訓練されすぎ
にしてもフォース王国の王都はいつの間にやら人間対魔物の戦争と化したのか
鳥型の魔物はうじゃうじゃ飛んでるし、熊に虎に狼に猿と、よく分からん魔物まで攻め込んできている。
城には魔法使いもいるとは思うのだが魔法が放たれている気配はない。予想では総出で結界の修復、もしくは簡単な結界を張っているのだと思われる
「ここにドラゴンでも現れてたら面白いとこだったけど」
「一匹くらいなら兵士達でも十分対処されますよ。もっきゅん達が帰ってくるまで時間がかかりますが、どうされますか?」
「寝る」
「そうですね、今日は皆さん疲れたでしょうから休憩しましょうか」
「いえ、私達は早速旅立とうと思います」
あらまぁ、研究所から戻ってきたばかりだと言うのに頑張ること
「お二方は身分証をお持ちで無いと思いますので冒険者登録するのをオススメします。偽名でも大丈夫らしいですよ」
「だったら五丁目に送ってあげれば?ノエルなら私達の知り合いで優秀な娘って言えば喜んで登録してくれるわよ」
「そうですね……確かに身分証は必要です。分かりました、ではその五丁目までお願いします」
「人間じゃなくてもいいの?」
「悪魔が冒険者になれるんだから大丈夫でしょ」
ただし五丁目に限る。他の町や他国だったらその場で冒険者連中が襲ってくるだろう。
死んだ悪魔が言っていた御伽話の様な光景って五丁目なら余裕で再現される気がするわ。
「では皆さん、また会う事もあると思いますが……大変お世話になりましたっ!……アリスさんが居ないのは少々残念ですが」
「出てこないから多分寝てると思うわ。私から言っておく」
「ありがとうございます」
「一応お世話になったと言っておくよ、でもチビはクソ女言うのをやめろ」
「はいはい、いってらっしゃいニーナ」
「ぐっ……ちょ、調子狂うな」
文句言ったり照れたり忙しい奴。
少しは休んでいけばいいと思うが、やる事が終わって今度は自由に生きる、片方は死んでるけど、これからは好きに生きるって事で少々興奮しているみたいだな
「五丁目に居るならいつでも会えそうだけど、またね」
「はい。また、です」
「じゃあね」
「では、ギルドの前まで送りますよ」
頭を下げるヨーコと照れて目線を逸らしながら手を振るニーナを見送る。
あーあ、急にやること無くなったわ。次はどこ行こうかなー……とりあえず2週間は休みだな。
「さて、私は例の剣を馬車に設置しますので」
「あー、忘れてたわ。お願いね」
「お任せ下さい」
「私はほとんど何もしてないから疲れてない。だから掃除でもしとく」
「それならワシも何もしとらんな……でもする事ないのじゃ」
私はとりあえず部屋で寝ようかな。
リンはどうしようか……人形用の部屋とか無いしなぁ。とりあえず私の部屋に置いとけばいいか、夜中に起きたら動く人形が居るというホラーな光景になるけど
リビングに居る皆におやすみー、と告げて部屋に戻った。
着替えるのも面倒なのでマイちゃんとリンにその辺で待機させてからベッドに飛び込んだ
あー、我が家っていいわー。馬車だけど
★★★★★★★★★★
皆さんがそれぞれ自由に過ごしている時、結界の外に知った気配があったので出て行くと紳士達こともっきゅん達がいた
相変わらず頭に下着を装着してる変態紳士仕様だったが、怪我をしているもっきゅんは居れど、数が減っていないので死んだもっきゅんは居ない様だ。
頑張ってもらった事だし、怪我の回復くらいはサービスしておこう。
「流石お母さん。本当に一匹も死なせず生還させるとは……下着恐るべしです」
「もきゅ」
「今回頑張っていただいたお礼にその装備は進呈致します。そして、早速ですがあなた達に次の任務を与えます」
任務と聞くと、キビキビした動きで整列して指示を待つ体勢を取る。確かに魔物っぽくない動きだ
「あなた達にはお母さんの故郷である五丁目の警備をお願いします。町に魔物が入り込むなど有事の際は優先してお母さんの母であるセティ様を守ること。髪の色も同じですし、顔もお母さんに似ているので一目で分かると思います」
「もきゅっ」
「普段は町の近くにある森に住んで頂きます。天敵はいないので大丈夫でしょう。ただし、ブラックウルフはお母さんのお気に入りなので倒してはいけません。むしろ守る様に」
指示をし、もっきゅん達を見回すと目が合うと同時に頷く。実に優秀な魔物達だ。いや、もはや魔物というよりフィーリア家の頼もしき護衛だ。
「では、あなた達を五丁目付近の森まで送ります。準備はいいですね?」
「「「「もきゅっ」」」」
「宜しい。では頼みましたよ、くれぐれも冒険者達に見つからない様に。転移!」
黄色い護衛達は何故か敬礼した格好で転移されていった。
ちょうど暇だし、後でもっきゅんの生態について調べてみようか……何とも人間くさすぎる。
「フィーリア一家が軍隊になってる思いませんか?」
「何を今更……私達だけでもすでに過剰戦力じゃないですか」
確かに。私と姉さんだけでほぼ対応出来るのが現状だ。
今もなお王都を襲っている魔物程度なら私と姉さんなら大して時間かからず殲滅出来る。
「ところで誤ってその剣を暴発させるのはやめて下さいよ」
「大丈夫です。その時は皆で死にましょう」
「姉さん以外は生かしてみせます」
「ふふん、爆発した場合空間を維持してる符も吹き飛ぶでしょう。馬車内の空間が元に戻ればその瞬間皆グチャ……ですよ」
嫌な事を言う姉である。死ぬなら一人で死んで欲しい。
軽口を言っているが、肝心の作業の方は思ったより進んでいない様で難しい顔をしている。
「意外と梃子摺ってますね」
「むぅ……何か上手く供給されない、というか今までと同じでは全く符に補充されませんね。何ででしょう?」
「早くその重っ苦しい空気を放つ剣を何とかして欲しいのじゃ」
「ホントです」
「何も手伝わないくせに文句言わないで下さい」
困ったときのお母さん、と言った所だが残念ながら今はご就寝中だ。アドバイス無しでやるしかない。
ここは私も文句言う側に回って姉を苛めたいところだが、ついカッとなって剣を振り回されたら困るので面倒だけど手伝うことにしよう。
「微力ながら私も姉さんのお手伝いをしましょう。お母さんが目が覚めたらすぐに伝えられる様に寝顔を見ながら待機しておきます」
「自分で言ったのだからせめて微力になりなさい。全く手伝う気がないじゃないですか」
「ときに姉さん。フォース王国より北東に数十キロいった所に小国があるのをご存知でしょうか?アラマ国という名前なのですが、もうすぐ建国7周年の記念祭がある筈なのでそこに移動しようと思うのですが」
「会話する気ないでしょう?ねぇ、ないでしょう?」
「お祭り行きたいですっ」
「騒がしいのは好きじゃないがのぅ」
乗り気な娘と乗り気でない娘と別れてしまった。まあ最終的にお母さんが行くと言えば行く事になるのだけど。
流石に未だ山の中に潜伏状態なのは避けたい。万が一にも目撃者が出てくると後々困る事になりそうだし……アラマ国に行く行かないはともかく、ここからは転移で移動しておくとしよう
「とりあえず山からは脱出しようと思います。聞いてますか?何故か不貞腐れてる姉さん」
「……」
「ふおおおおおっ!?ダメじゃサヨ殿っ!それを振ってはいかんのじゃっ!?はやまるでないっ!」
「そうですっ!田舎のおふくろさんが泣いてますっ!」
「死んでますよっ!!」
たった数人なのに騒がしい。
楽しそうな所を邪魔するのも何なので私は街道に転移した後ゆったりとぺけぴーを走らせながら御者でもしておこう。
★★★★★★★★★★
「という事でお姉様に相談してみました」
「寝起きの幼女に難しい事を聞くなよ」
目を覚ましてリビングに行ったら即相談されたが後回しだ。
いやぐっすり寝た寝た。
起きたら枕元に立つ人形を思わず殴ろうとするハプニングもあったが、未遂に終わったので問題ない。
起きたら馬車が移動しているみたいなので何処に行ってるのかと聞くと少し先にある小国に向かっているとの事。
二週間ぐらい何もしたくないのだが、目的が祭りとの事なのでまぁいいか。楽しみなのか、浮かれてる者が一人居るし。
「お祭りを楽しんだ後はフォース王国の付近で待機します。フォース王国内が落ち着いて避難民が戻ってきたら依頼主に蜂蜜を渡した後に旅を再開する、となりますが宜しいでしょうか?」
「蜂蜜……?あー、良く覚えてたわね」
「忘れたまま依頼失敗となりますとお母さんの顔に泥を塗る事になりますからね。当然覚えてます」
「へー」
「ここは褒める場面ですが?」
「調子に乗りそうだから言わない」
さて、脳が大分起きてきた事だし、サヨの相談ごとでも考えるか
「何だっけ?しぶといマオならその剣を振ってもいいんじゃないかって話?」
「む、有りですね」
「無いですよっ!?」
「その辺の検証は後にして、とりあえずこの剣から符への魔力供給が上手くいかないって話です」
サヨがずいっと剣を差し出してくるが、相変わらず重っ苦しい空気を放つ。仕舞っとけよ
そもそも魔法を使えない私に尋ねる時点で間違いだと思うが……そうだなぁ
「あんたらがこの剣みたいに魔力を放つとどうなんの?」
「魔力を放つ?体内から溢れさせるという事ですか?」
「そうそう」
「ワシがやってみるのじゃ」
剣を仕舞った後で魔力を放出させているらしいルリ。
むむむと唸っているのでやってはいるらしいが、私は何も感じない。あの剣が放つ魔力量が異常って事だろうか
「仮にも大精霊というだけの事はありますね。あの剣に劣らない魔力放出量です」
「じゃろ?仮にもは余計じゃが」
え?あの剣並みに放出してんの?何にも感じませんけどー
やっぱちょびっとしか魔力が無い一般人には相手の魔力なんか感知出来ないんじゃなかろうか……
「あの剣が放ってるのって魔力じゃないんじゃない?ルリが魔力を出してるって言っても何も感じないし」
「魔力ではない……?いや、あの感じは魔力と一緒、仮に違うなら似てる?……むぅ、どういう事でしょう」
「似たようなものなら生命力とかじゃないのー」
「……!!」
それだっ!……みたいな顔を向けられても困る。生命力溢れる剣とか訳分からんわ。
しかし魔力に似てるモノでその辺思いつかない辺りサヨも案外頭が固い。
「生命力……とはちょっと言い方が違いますが、気と呼ばれるモノを操る拳闘士を昔見た事あります。てっきり他所では魔力の事を気と呼んでただけと思いましたが、別物かもしれませんね」
「ふーん。魔力じゃないなら補充には使えないのか」
「残念ながら気を扱う達人たちは皆暑苦しい者達ばかりだったので真面目に習ってないのです。時間ある時に魔力に変換する方法を研究しますよ」
「うむ、頑張りたまえ」
研究するのがそんなに楽しいのかサヨの目は輝いている。その他の者達は祭りの話で盛り上がっているのでサヨはぼっちだ。何か不憫だな……
しかし祭り……祭りねぇ……最後に行ったのは何時だったか、あんまり興味ないけど皆が持て余してるお小遣いの数少ない出番になるしいいか。




