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幼女と人形

 いきなり現れたババアはキョロキョロと辺りを見回すとマリオネットに目をやり近づいていく


「シリアナ!勝手にどっか行くんじゃないよっ!」

「いや、良く今の姿の私がシリアナと分かりましたね。同じ顔がもう一人居ますのに」

「何年一緒に居ると思ってるんだい……その杖と服装を見れば何となく分かる」

「何年も一緒に居るのに格好でしか判断出来ないんですか」

「いんや?私にはシリアナレーダーがあるからね、何となく居場所が分かる。ちゃんとここにも来ただろう?」

「……気色悪い」


 うむ、気色悪い

 あのババアもペロ帝国の者だと認識出来るな。能力がキモい


「指揮官がこんな所まで来て何やってるんですか」

「あんたが言うな……すでに撤退してるさ、ここまでやったけどこの戦は失敗だね」

「またですか?ホント貴女が考える作戦というのは全て失敗しますね、呪われてますよ」

「う、うっさいっ!どっかの馬鹿が王都の結界を壊しやがったんだよっ!」

「……誰でしょうね」


 とか言いつつこっちをガン見すんじゃねぇ。まぁ喋るつもりは無いようだが

 しかし結界を破壊したからって戦放棄する理由になるのか?


「その辺に疎いから解説お願い」

「ちっ……気付かないフリしてたのに話しかけやがって」

「ウチのサヨとルリに情けなく震えてたしトラウマにでもなった?」

「お前が嫌なんだよっ!……全く、政治に疎い嬢ちゃんに教えてやるよ。まぁ簡単に言うとこのまま私達がこの国を落とした所で結界を破壊して魔物をけしかけ、疲弊した所を攻め落とした卑怯者の国として名が残る事になる」

「国を丸ごと頂戴するならそのくらい甘んじて受ければいいのよ。私なら卑怯者大歓迎ね」

「馬鹿言え、そんな国に避難してる民が戻るわけないだろう。仮に居場所がこの国しかない民が戻ってきても私達に忠誠を誓うわけがない、民に愛されずして理想の国が出来るはずもない」

「ついでに他国から攻め入られる口実にもなりますね」


 へー、ババアのくせにそこそこ良いこと言うな、結界を壊すのってそこまで問題になるのか


 で、ババアの奴がこちらを怪しげな目で見ているが……まさか私達がやったとか思ってないだろうな?こんな冒険者がそんな大それた事をするわけないだろう?


 やりましたけどね


「あんた、まさかと思うけどトゥース王国に続いてここでも邪魔しちゃいないな?」

「何であんたらの戦争なんかに口出しすんのよ、私達が用事があったのはここだけ。むしろそこのケツアナが私達の邪魔しにきたんじゃない」

「やめて下さい。その汚い名前」

「ふぅん、怪しいけどね。まぁ偵察しに言った部下の話ではやった奴は男二人だったらしいしこの場は信じてやるさ」

「あぁん?人を勝手に疑ったくせに謝罪の一つも無いの?おまけにあんたの妹とやらは喧嘩ふっかけてきたってのに……これが国のお偉いさんだってんだから大した国ですこと」

「ぐ……こ、の……わ、悪かったよ」


 心底嫌そうな謝罪だが、まぁ私は寛大だから許してやるとしよう


「バレたら一冒険者パーティに対して戦争ふっかけてきそうですね」

「バレなきゃいいのよ」


 マリオネットが喋らない限りは問題無い。今後フォース王国から手配書が触れ回るだろうが、存在しない謎のジャージマンの二人が罪を被ってくれる


 さて、ババア達の戦事情は分かった。だがこちらの用件はまだ終わっていない


「やっぱり謝罪の代わりにそこのケツアナの命を頂戴するわ。貴女は見逃してあげるからさっさと帰ればいい、指揮官なんでしょ?」

「やるわけないだろっ!」

「いえ……あの方の言うとおりです。貴女はさっさと帰りなさい。そもそも兵士達を放置し、たった一人を探しに来てる時点で指揮官失格です」

「うぐっ……そ、それは言わないでおくれ……ってシリアナもだろうっ!?じゃなくてだなっ!シリアナを残して帰れるかっ!」


 うるせぇババアだ。ここを何処だと思ってるんだ、仮にも敵地だぞ?

 二人して指揮官指揮官言い合ってる内に実験体連中に殺されなきゃいいが


 もっとも、向こうは向こうでヨーコ達を相手に忙しいようだけど

 しかし変だ、クソ女が小僧相手に致命的ダメージを与えられないのは分かるが、ヨーコがたった一人の男の実験体相手に苦戦してるのもおかしい。

 どうにも防御に回っている様に思う、表情もどこか焦っているし……あっちはあっちで気になるな


 ホットケーキもあっちに居るけど跳ねてるだけで当然役に立ってない。

 そう言えば悪魔が未だ死んだフリしてるからあっちに投げとこう、せいぜい精神壊れるまで盾にされてくれ


「ユキ、そこの悪魔をヨーコ達の方に投げといて」

「はい」


 投げといてと言ったのにユキは蹴飛ばして向こうにやった。はしたないと注意しとこう

 蹴飛ばされた悪魔だが、悲鳴が聞こえたのでやはり死んだフリだった様子。寝てれば楽出来ると思うなよ


「ここでグダグダ言った所で貴女の事ですからいつまでも愚痴愚痴言うでしょう、なので宣言します」

「な、なんだい?あぁ!いや、やっぱり聞きたくないっ!?」

「貴女との、いえ……貴女達との縁を切ります。もはや貴女達への興味は無くなりました。今からは他人です、さっさと放浪民族に戻って下さい」

「断るっ!」

「聞きません」

「何でさっ!私達は家族だろうっ!?」

「私は退屈しのぎの為に一時的に手を貸していただけです。初めに言ったでしょう?忘れたとは言わせません。そもそも勝手に人を妹の地位に上げたのは貴女達でしょうが」

「うっ……し、しかし……兵士達のほとんどはシリアナの私兵みたいなものだし……ここでシリアナに去られてしまったら兵士達まで去ってしまう」


 情けないババアだな。いや、情けない国だ。さっさと滅びればいいのに


「たかが私が居ない程度で崩壊する様ならその程度だったって事です。貴女達にとって夢は夢に過ぎなかったと諦めなさい」

「そ、そんな……というかシリアナはこれからどうするんだい!」

「それは……わ、私を欲しい等と仰った二代目様に付いていきますが」


 言ってない言ってない。二回目だぞ、アイツ耳がおかしいんじゃないか


「いや、あのな?あのガキはシリアナの命が欲しいって言ったんだけど……」

「えぇ、ですから私の命尽きるまで二代目様にお供しますよ?貴女達と違って仕え甲斐がありますね。それと、次に二代目様をガキなどと呼ぼうものならタダでは済ましません」

「……お前洗脳しやがったなっ!」

「してねぇよ」


 あー、鬱陶しい。そうだ、転移で飛ばしてしまおう。うん、それがいい

 後は私達の知らない所でボテ腹と一緒にくたばってくれ


「サヨ、先にその煩いのを転移で飛ばしてちょうだい」

「そうですね。というかやる気が段々薄れてるのですが」

「頑張れ」


 説得を続けるババアと聞く耳持たないマリオネット。この調子じゃいつまで経っても決着がつきそうにない


 サヨはこっそり転移で飛ばす為にババアの後ろ側に回り込む


「というかもうシリアナなどと呼ばないで頂きたい、私はマリネです」

「私のあげた名前が嫌だって言うのかっ!?」

「嫌ですよ。貴女の名前も嫌です。むしろ貴女達の国自体が嫌です」

「そ、そんな……このままじゃ本当に私のシリアナが居なくなってしまう……い、嫌だ!!だって……だって……」


 どうやらサヨはいつでも準備万端らしい。

 奴が雄たけびあげる前にやってくれ


「私はまだっ!シリアナをペロペロしていな――」

「転移」


 …………


 うん。最後まで聞かなくて良かったと思う。ババアもまた、ペロ帝国の猛者だったという事か……

 さらばババア――


「ちなみに何処に転移させたの?」

「戦争を停止させるなら停戦協定を結ばなければならない筈です。なのでサービスで城に飛ばしました」

「鬼ですか貴女は」

「死んだら死んだであの女には捕虜にする価値も無かったという事ですよ。それよりも」

「分かってます」


哀れなババアはあっさりとマリオネットの頭から忘れ去られたらしい。所詮家族などと思っていたのは一方通行だった様で。ウチとは違うのだよウチとは


 やる気満々なのはいいけど、なるべく早く終わって欲しい。私の身体がベッドで心休まる休息を欲しているのだ。ジッとしているのは得意だが、少しも動かないとなると抱っこ体勢では結構ツライ


「サヨちゃんよぉ……まずは小手調べとか言うの要らないから。ここからが本気ですってのも要らない。そういうのは本の中だけで良いのよ、やるならサクッと」

「……お姉様だって最初様子見してたのに」

「え?なんだって?」

「いいえ別に?分かりましたよ、一分でやればいいんでしょう?」

「うむ」


 何を不貞腐れているのだろう。

 不機嫌さを隠さずに戦闘体勢をとるサヨ、方やマリオネットの方は余裕綽々で構えもせず相対している


 そしてババアはコイツは私に任せろといった感じでマリオネットを手で制し前に出てくる


「ふざけんなババア!帰ってくんなっ!」

「ババア言うなと言っただろうがガキィっ!」

「うるさいっ!少女達の中に熟女が混ざるとか有り得ないっ!平均年齢あげんじゃないわよっ!」

「な、な、なんだとこらあああぁぁぁぁぁっ!!!!」


 平均年齢ならむしろ下がるかと、恐らくサヨやルリに聞こえない様にと小声でユキが呟いた。その辺はどうでもいいわ

 そういえば発動は遅いが転移出来るアイテムを持っていやがったか……アイテムを奪ってから放り出すべきだった


「ユキ、マイちゃん投げつけろ」

「親友を投げるのは心苦しいのですが……ふむ、マイさんも乗り気ですね。では遠慮なく」


 喋ってないのに何故乗り気だと分かったか不明だが、二人は仲良しなのですでに以心伝心の大親友にまで発展してても疑問ではない。どっちもおかしな存在だし


 ユキは流れる様な、それでいて私に全く負荷をかけない見事なフォームでマイちゃんをババアの顔面へと投球した

 ババアの顔面に吸い込まれる様に着地したマイちゃんは顔面から離れず足だけカサカサしている。正直あれは恐ろしい……顔面から余裕ではみ出すクモが顔をカサカサするのである。


「ひぎゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

「こ、これは恐ろしい……二代目様は創造主に匹敵するえげつなさをお持ちの様子。いえ、私が受けた仕打ちで分かってはいた事ですが」


 ひとしきり叫んだあと、ふらっとババアは倒れこんだ。失神したっぽいな、無理も無い。やっといてなんだがアレは中々に危険だ

 マイちゃんはババアの周りを勝利のカサカサでぐるぐる回っている。


「ねぇメルフィ、そろそろマイちゃんを元に戻す事をオススメするのだけど?」

「楽しそうなのに?」

「ダメよ、やっぱりアレは精神的によろしくないわ」


 カサカサしてるマイちゃんは一度発光した後パタパタと元の蝶の姿でぐるぐると回っていた。自分が元の姿に戻ったのに気付いたのか、回るのを止めて定位置である私の頭に乗った


「タノシカッタ」

「そう……見てる分には楽しくなかったわ」


 邪魔な位置で失神してるババアをマリオネットは隅まで放り投げて仕切り直しとなった

 あれで起きないとは……追い討ちになったのかもしれん。しばらくは静かなままだろう


 余計な会話をしてる内にまた邪魔が入ると思ったのか、今度はお互い無言で構え、同時に飛び掛った


 サヨはいつの間にか薙刀……だったか、武器を取り出しておりマリオネットに斬りかかるがそれを杖でガードされる。言われた通り最初から全力でやる気みたいだ


 一度例の結界が発動しているのか調べたのであろう符を一枚取り出してそれを投げた

 不自然に逸れたのを見て同じ結界があると判断出来る。私は無理やり破壊したけど、サヨはどうするつもりなんだろう?


「姉さんはあの結界をどう無効化するんでしょうね」

「さぁね。まぁどうにかするでしょう」

「どうにか出来る、と確信しておいでで……」

「当然でしょ」


 会ったばかりのサヨなら微妙なところだが、今のサヨはユキと戦った経験がある。たまに二人で模擬戦もしてる様だし、相手の意表をつく戦いも覚えているだろう


 サヨは遠距離からの攻撃は避け、接近戦で挑んでいる。普段と逆の戦い方なので何か考えがあると思っていい。

 サヨが放つ攻撃をマリオネットは何故か杖で防ぐ、結界あるんなら無視してもいいのに。あれか、目の前に迫る刃に身体がつい反応しちゃうって奴か……分かる、人間殺されそうな一撃には思わず防御しちゃうものだ


 余裕の笑みでサヨの攻撃を弾き、更には反撃をしているマリオネットだけど、内心は結構驚愕してそうだな。もっと弱いと思っていたに違いない、しかも未だに近距離からしか攻撃しちゃいないし


 あれか、マリオネットの奴が近距離が得意と分かってて敢えて接近戦で戦っているのか


 数度、打ち合いをした後――


 サヨはこちらを、多分ユキの方を一瞬だけ見て笑う。早くも何か思いついた様だ。すでに一分は経っているが、まぁ及第点だ


 何かを狙っているのか、一転して防御に回りマリオネットの攻撃を防ぎ続ける

 そしてマリオネットがある一撃……サヨに対して杖を突きの型で攻撃した時、やっとこさ狙っていたタイミングがきたのかサヨが動いた


 突きによる攻撃を防御せず、そのまま腹部へと受けながら左手でマリオネットの右手を掴む

 すると何か割れる音がした。奴の結界が破壊されたのだろう


 そのまま驚きの表情を浮かべたマリオネットにいつの間に短くしたのか、短刀の様に変化している薙刀を刺す

 当然マリオネットも刺される前にサヨの右手を掴むが


「……ぁっ」

「目の前で武器の長さを変えましたのに……当然元のサイズに出来るのもわかるでしょう?馬鹿ですか貴女は」

「な……んで」

「知ってますか?亜空間の魔法というのは中々に使い勝手が良いのです」

「く、ふふ……こんな、あっさりと……」


 マリオネットの腹部にはサヨの薙刀が突き破る形で刺さっている。

 対してサヨはといえば無傷。いつぞや、ユキがサヨに対してやってのけた様に腹部周辺に亜空間魔法を発動させたらしい。丸パクリじゃないか

 やっぱ亜空間を防御に使うのはかなり有効なんだろうな、相手側としては完全にやったと思って油断する事だろう


 サヨが薙刀を引き抜くと、マリオネットはその場に倒れ伏した。


「お見事です、姉さん。例の結界はどうやったのでしょう?」

「あぁ……どうもこちらからの攻撃は防がれても相手からの攻撃は届く様なのでそれを利用しました。杖ではなく、相手の身体がこちらに触れる攻撃を待ち、突きが来たので亜空間に手首まで入った所を左腕に空間を操る符を貼って結界を消去。こんな所です」

「なるほど……姉さんも空間魔法は使えますからね」

「えぇ、お姉様が事前に相手の能力を教えてくれていたので対処は楽でした。お姉様のお陰ですね」


 私が教えずとも自分で打破してたのと思うけどね……まだやる事は残ってるし、勝利に浸るのは後にしよう


 二度も死に掛けるという不運なマリオネットの元に近付き、死に様を眺める……


「ふ、ふふ……負け、ましたね」

「……どうする?あの時の賭け、やってみる?」

「…………いいえ、その杖で殺されようと、きっと……助けてはくれないでしょう」

「へー」

「貴女は、変わった力を、使うのですね……」

「確かに珍しいでしょうね。普通の人なら面倒すぎて使わないでしょう……慣れると便利なのですがね」

「……貴女、は何でも出来る、でしたか……いつだったか、創造主が私に言った言葉、です」


 何でも出来るのか……その気になれば精霊魔法とかも覚えるのだろうか?

 符術を使うにも才能は必要なのだろう、サヨは全てにおいて才能があるので今こうして同じ奇跡人相手に戦えるほど使いこなせるのだろうな……ユキは未だに上手く出来ないみたいだし。このまま強くなればそれこそ最強になりそうだなこの娘


「貴女は、自分が……恵まれていると、もっと理解した方がいい、創造主に愛され、二代目様にも愛され……ほんとう、幸せ者です」

「創造主が……?……いえ、もはや過去の事ですね」

「私は……あの方の人形以上には、なれませんでした……貴女と違って。ただの、嫉妬心だけで、これまで生きてきたのです」

「でしょうね……初対面であの反応なら想像つきます」

「悪かった、と、思います……でも、少しは私の気持ちも……汲んでください……貴女に牙を剥いたこと、創造主は許してくれないでしょう、ね……」


 そろそろ死にそうだな……

 先代が人形扱いしていた娘を殺す、か……果たしてあの世で怒っているのか……自分が産んだ娘達が殺し合いする事になると分かっていたのやら、いや、あの先代の事だから死後の事とかどうでもいいに違いない


「二代目様……懐かしい、ひと時でした……貴女様に、感謝を」

「自分を殺す相手に感謝ね……貴女達の奇跡ぱわーの使い手崇拝っぷりには反吐が出るわね」

「ふふ……最後まで、あの方、いえ……貴女様、らしい……」

「私に会わなきゃ、死なずに済んだのにね」

「……これで、よいのです。長く、生きすぎました。やっと、姉の様な存在を、憎むことから解放されるのです」

「……サヨ」


 奇跡すてっきを再びサヨに投げ渡す。身体がズキっとしたが、これくらい我慢する


「宜しいので?」

「最期の贈り物よ、私は杖を触っていない。どの道発動する事はないわ」

「分かりました」

「光栄……です、ね」

「道が違えば、貴女と私は横に並んで歩む姉妹だったのでしょうね……今更ですけどね」


 サヨの言葉に何も答えず、マリオネットは目を閉じた


 そして……サヨが振り下ろしたすてっきが深々と胸に突き刺さる


 当然何も発動しない、マリオネットも痛みを我慢し何も言わない。ただし顔は歪んでいる


 物言わぬ骸となるまで見届けると……マリオネットの身体が輝きだした

 別に奇跡ぱわーが発動した訳ではない。あの娘の身体が粒子になり分解され始めたのだ


 これが奇跡人の死か……何も残らず、消え去ってしまうのか……


 この娘にはババアが居るから、偽名とはいえ名前と記憶が残るだけマシかもしれない


「こんな、存在だったのね」

「……元々奇跡の力によって産み出されたのが私達です。死ねばその身に宿った力が失われます。存在も消えるのが必然でしょう……例外があるとすればユニクス達、神獣だけです」


 サヨはもはや不要となった奇跡すてっきをマリオネットから引き抜き、私に渡してくれた

 この子も業深き存在だな……たった二代目なのだが、私の代で終わらせた方が良いのかもしれない


 やがてマリオネットの身体が全て消えうせた……のだが


 あの娘が死に絶え、全て消えたと思われた場所には一つの人形が転がっていた。サヨそっくりな……いや、マリオネットに似ている人形だ。大きくは無い、大体20cmくらいか


「あの娘は、本当に人形だったのね」

「……形ある物が残っただけマシですね」

「本当にサヨが憎かったと思う?」

「それは本当でしょう……ただ、あの娘はあっさりやられましたね。手加減していたのか、はたまた死にたかったのか。私達には創造主に頂いた命を自ら散らすという概念はありませんから……かと言って知りもしない相手に命を取られる事も良しとしない、あの娘はやっと会えたんでしょう。自分を生から解放してくれる方に」

「なに?私なら殺されてもいいっての?」

「そうですね、もしくは私やユキさんの様に同じ存在なら……」

「奇跡人を殺して解放して回るとか嫌よ、ちょーめんどくさい」

「創造主が何人産み出したか知りませんが、そうそう会いませんよ」


 そうそう会いませんとか言うと、ホイホイ出てくる気がするんだけど?やめてそういう事言うの


 にしても、もはやサヨの代わりに私に付いて行くというのも本気だったか分からんな。ひょっとしたら、護衛役のサヨの力を試してただけって事もあるかも


 ユキに落ちてた人形を拾って貰ってしげしげと眺めてみた。確かにあの娘ソックリだが……ぬいぐるみではないな、材質も布じゃなくなんかプニプニしてるし、妙にリアルだし……何か呪われそう


 どうしようか?未だに失神してるババアにでもやるか


 人形をプニプニしてると妙な事が起きた――


「動いとるっ!?」

「おや、可愛らしい」


 驚いてる私の手に掴まれながら急にジタバタしだした人形……

 普通ならホラーだが、元が元なだけに動いても不思議じゃないと思えてきた


 掴まれていたが、私の手を自力で脱出すると腕を伝って上ってきた。特に悪意は感じないので放っておいてみると、肩まで上がった所で止まり、ほっぺにスリスリしてくる


 やだ……この娘ちょー可愛いっ

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