幼女の皆に引かれる倒し方
「おかしい……二代目様にはこんな力は無かったはず……という事はこれは」
「言っておくけど私は何も力は使ってないわ」
「……そんな筈は、有り得ません」
「何をもって有り得ないのか知らないけど、これは私の新しい力」
勝手に目覚めた力設定にしてるけど実際のところ他人から貰った力感が半端ない
誰の手助けかは後で考えるとして、折角の力だ。ここで利用しない手は無い
「強いて言うなら、これは空耳ぱわーよ」
「こんな時でもボケは忘れないお母さんは素敵です」
「え?ボケなんですか?てっきりお姉ちゃんの事だから真面目に変な名前付けたのかと思いました」
「意味不明すぎてボケかも分からぬ。これはかなり高度な難題じゃ」
「センス無い」
おのれ外野共め、身内からの口撃の方がダメージ大きいとは予想出来なかった。特にメルフィのバッサリな一言は心にくる……!
「ふふ……少々驚きましたが、まぁ創造主のご子孫ですしね。これくらい予想しておくべきでした」
「怯えてたくせになに余裕こいてんの?」
「……ここからですよ、何人も私に害する事を許さず」
トン、と杖を地に当てて呪文らしき言葉を発した。
魔法が発動した形跡はない。それどころか何ら変化すらない
手身近にあった椅子を投げつけてみると当たる前に何かに阻まれて見当違いの方向へ飛んでいった。結界の様なものを張ったって事か
「危ないですね、ですがもはや私に傷を付ける事は出来ません」
「アホくさ」
きっとこの力でヨーコの力も弾き返していたのだろう。そう考えるとかなり高性能なバリアだと思う
だが今の台詞は完全に負けキャラの台詞じゃなかろうか
「私はこの場の誰よりも強いらしいわ」
「そうでしょうね、それは認めます。ですが一番強い者が勝つというものではないでしょう?」
奴の周りに白い玉の様なものがいくつか浮かび上がった。魔法……っぽいけど、どうだろうか?
その辺については戦いながら考察するとしよう
杖をこちらに向けると同時に玉達が襲ってくる。
「変なの、かなりの速度の筈なのに普通に見えるし普通に避けれるわ」
ギリギリまでみて玉を間近で見てみるが、やっぱり分からん。試しに一つ叩き落としてみる
結果は固い物体だった。と思ったが地に叩きつけられた時は霧の様に霧散した。
「魔法っぽくはあるわね」
「いえ、魔法ではありません。んー、何と言えばいいでしょうか……強いてあげれば操術ですね」
「知らん」
「でしょうね。これを使える者が私以外に居るかは分かりません。知らなくて当然でしょう……これは文字通り操るだけの術です。ただし、対象は関係無く操る事が出来ますが」
なるほどね、前に会った時にゾンビを操った方法はこれか。今姿を変えてるのは?体細胞でも操ってるのか?それとも姿を操るってだけで容姿まで変えられるのか……この辺は気にしなくていい
さっきのも霧、というか水か水蒸気を圧縮しまくったもだのと思う。もはや氷にしか見えなかったけど
では先程の結界を張った様な術はどうなんだろう
「殴って確かめる!」
「おや」
「おおっ!?」
アイツに当たる寸前で自然に逸れた。自然だけど不自然という意味不明な現象にちと混乱する
よっ……と床に着地すると同時に考えてみる
まぁ操る術という事から推測するに
「攻撃が当たらない様に操る結界を張ったって事か。なるほど、こりゃヨーコ達の攻撃が強力でも当たらないでしょうね。ただ防御する結界じゃなくて逸らす結界だもの」
「その通りです。いや、流石というか頭の宜しい事で」
いや、流石先代の娘というか……操る術ってだけでここまで出来るとは賞賛に値する。操術一つだけでどれほどの事が出来るか……
だが万能ではない筈。私なら相手の心臓なり血液なり止るように操って終わらせる
「止まっていると私にやられてしまいますよ?ほらほら」
「うっさいわねっ!」
考え中だってのに今度は炎を隙間無く撃ってくる、これまた避けられない分は殴って打ち落とす
攻撃手段が魔法みたいなのばっかだな
……まさかと思うが、アイツは見た事ある物しか操れないのでは?いや、見た事ある魔法か
ゾンビを操る魔法だってあるし姿を変える精霊魔法だってある、しかし見ただけで操れるもんだろうか
それにアイツを守る結界……攻撃を逸らす、逸らす……風か?
「……風魔法程度でヨーコ達の力を避けるのなんか無理だってーのっ!」
「おっと、こわいですね。二代目様は顔ばかり狙ってきますので」
うん、風じゃなかった。
風じゃないなら何か?空間でしょ
ご大層な呪文を唱えていたけど要はアイツの周囲を空間で歪めてるだけだろう。収納にも便利、防御にも便利、空間魔法欲しいなぁ
「では、次はこちらから」
また炎の玉が飛んでくる……と思ったら水もあと一つ不可視だが風と思われる刃も同時に飛んでくる気配を感じた
なのでまた殴って無効化した
今度はあちらも物理で来たのか床が剥がれて岩っぽいのが飛んできた。やはり殴って無効化した
その次は質より量できたのか今までで一番の数の各属性の魔法が飛んできたが、両手なら全て殴って無効化出来そうだったのでやってみる。結果は殴って無効化成功
流石に今のを見て小手先の魔法なんか効かないとやっと悟ったのか、今度は多少は強力そうな大きな炎の渦をこちらに飛ばしてくる。これは流石に拳じゃ無理っぽい
という事で奇跡すてっきで真っ向から叩くと渦ごと消失した
「……何なんですか?」
「大体の事は物理で何とかなる」
「なりませんよっ!」
なってるじゃん
さて、コイツは全然本気を出す気が無いみたいなので……とっとと殺るか
「じゃあ、くらえボケえええぇぇぇぇっ!!」
「っ!?いや、今のわだっ!?」
カス、もといシリアナに向かって奇跡すてっきを振るうとビシリ、と空間が壊れる音がした。そしてそのまま私の一撃は奴に叩き込まれた
無敵バリアのおかげで油断したのか思いっきり無防備な腹に奇跡すてっきのキツイ一撃をまともに食らって吹っ飛んだ。結構な距離を吹っ飛びそのまま大の字で倒れる。すぐさま起き上がろうとしてるが流石にダメージが大きかった様で中々起き上がれないでいる。ざまぁ
え?バリア?物理で何とかなる
「うぐぃ……がふっ」
「たかが空間バリア程度殴って破壊する事なんか楽勝よ」
「あひっ……ぶ、物理で、何とかなるハズは」
「自然現象で空間が歪むならともかく、所詮貴女が生み出した空間でしょ?散々飛んでくるものを殴って無効化したんだから当然バリアも殴って壊せるわよ」
「と、お母さんは申してますが?」
「何その理屈」
「お姉ちゃんなら有り得ます」
「ですよねー」
「外野は黙ってろ」
シリアナの方はと言うと、案外丈夫なのかすでに立てるまで回復したらしくヨロヨロと立ち上がっている。
ヨーコが苦戦した相手にこの余裕、確かに空耳さんの言う通り誰よりも強くなってるな
「ぅ、は……た、たった一撃でこの有様、ですか。ふ、ふふふ……」
「余裕ぶっかましてるからそうなるのよ」
「別に余裕を……いや、そうですね……二代目様相手に殺す気で行かず遊び心で戦おうなど。仰る通り私が傲慢でした」
シリアナの身体が淡い光に包まれる。回復している、と思ったがどうやら違ったようだ
徐々に身体が縮み、サヨと瓜二つだったあの姿に戻っていく。神官服も同じく縮むというご都合設定も忘れてはいない
シリアナがやる気になってあの姿に戻ったという事はやはりあれが本来の姿。ちっこくなって強くなるかは知らんが、目を見る限りもはや手加減はしないと物語っている
そして何の掛け声もなくこちらに向かって攻撃を仕掛けてきた。
フォース王国の兵士相手に武力で無双していたから近距離戦が本来のスタイルと思ったがやっぱそうか
本来なら全く見えぬままやられていただろうが今なら奴の速度も対処出来る
奇跡すてっきで奴の杖を防ぎ、向かってきた勢いのまま振るわれる蹴りを掴む、と思ったけど手が小さすぎて掴めないので弾く
今度は弾かれた勢いを利用して回し蹴りをしてきたが弾かずしゃがんで避けた
お返しに足払いをするがジャンプして下がり避けられた。そしてまた距離をとった位置で対峙する。
今の流れ……ギャラリーから見たらきっとカッコいい!
「今のどうよマオ!?」
「見えませんでした」
「ガッデムッ!!」
くそっ……聞く相手を間違えたかっ!
てか見えないとかダメだろ、勉強ばかり優先させた結果がこれだよ。明日からサヨとユキによる地獄の訓練でもさせよう
こちらの漫才なんぞ知った事ではないとばかりに休む間もなく攻撃してくる。
杖だってのに流れる動作で、まるで剣みたいに振るってくるなコイツ。対する私は普段武器とか使わないし本能だけで我武者羅に防ぐのみ
いかん、杖を使うだけではカッコ悪い。奴の杖を何とかして弾き飛ばさねば
「うぉっ!?」
ツルッと床に足を取られてバランスを崩す
何か液体の様なものを踏んだ気が……こんにゃろ、足場に水を操って滑りやすくしやがったなっ!
バランスを崩した私にチャンスとばかりに追撃を、する事は無く奇跡すてっきを持つ右手を掴んで杖をわき腹目掛けて振るってきた
反撃を恐れて右手を封じてきたか、だが惜しい――
「奇跡すてっきっ!!」
「……っ!?」
右手にあった奇跡すてっきを左手に呼んでその一撃は受け止める
馬鹿めが、奇跡すてっきの便利機能を知らなかったのか?
動揺した隙に掴まれてる手ごと右手でシリアナの腹にぐーぱんを叩き込んだ。ちなみにさっき奇跡すてっきで殴った場所と同じ箇所である
流石に今の私の一撃は効くようで苦痛で顔を歪ませこちらを見据えてくる
「か、おの次はお腹、ですか」
「流石にサヨと同じ顔を殴るのは躊躇するもの」
まぁ嘘だけど。いやいや、やはり中身が別人とはいえほんの少しは躊躇うかな、うん。
あ、別の方法なら大丈夫じゃないか?
「お姉様……」
「そこでたった今考えたわ。殴れないなら顔が原型をとどめないくらい叩き付ければいいと」
「……え?」
外野の一人が感動しかけた後すぐ困惑した
顔を見なけりゃいいんだ、何だ簡単。
「貴様がサヨにゴミと言った回数だけ床に顔面を叩きつける。めんどくさいからキリよく百回よ」
「……百回も言われた記憶はありませんが」
「ふ……アイツが心の中で言った回数分も予測して決めたわ」
ふ、ふふ……と笑う声が聞こえた。ただ気色悪い事にだんだんと「ふひっ」とおぞましい笑いになっていきている
もちろん笑った本人は目の前にいるシリアナ、あぁ待て、今の姿は本来の姿だからカスでいいや。
濁った目、口元は笑ってるのに目は死んでるという中々に難しい芸当でえへえへとイカれた様に笑う
「きめぇ……サヨの顔しててもキモい。サヨの顔キモいっ!」
「ぐふぅっ……!!」
「大変です。姉さんがとばっちりを受けました」
「たった一言でこの威力……これが噂の言霊」
「違うじゃろ」
未だにえへえへアハハと不気味に笑うカスを辛抱強く笑い終えるのを待つ
数分もの間笑っていたが漸く落ち着いた様で、笑いすぎて涙が出たのだろうそれを袖で拭うとイカれる前の表情に戻ってこちらを見る
「……取り乱しました。面白いことを仰るもので」
「記憶に無いわ」
「ほら、私がゴミに対してゴミと言った回数などと……百回?そんなものでは有りませんよ、来る日も来る日も、毎日思い出すたびに、それこそ夢の中でも罵詈雑言を吐いておりましたよ」
「やがてそれが愛に変わるのね」
「なりません」
「ならんのか。じゃあ顔面潰していい?」
「何がじゃあなのか意味が分かりません。私としてもゴミと一緒の顔など潰してしまいたいですが、流石に痛いのは勘弁願いたいので全力で抵抗させて頂きます」
全力ねぇ……抵抗するという台詞から推測するに勝てるとは思ってない様子。それはきっと正しい
ただ逃げる気は無いのか?ここまで来たって事は当然転移してきたハズ
「逃げないの?」
「……逃げませんよ」
「ふーん」
なら死ね
今までと違って、遊び無しの全力で飛び込みすてっきを振るう
当然杖でガードされる。しかし今度は奴の杖を手から弾き飛ばして驚愕の表情をしている顔目掛けて回し蹴りをおみまいしてやった。
流石私、無敵すぎる
勢い良く倒れたカスは今まで受けたダメージも蓄積したのか起き上がろうとも起き上がれない
「ざっこ。貴女雑魚いわ。ゴミの称号は貴女にこそ相応しいんじゃない?」
「ぃぎ……こ、れは」
「本当なら初撃でこの様だったって事よ。手加減してたの、ごめんね?」
「ふ、くふっ……」
痛すぎておかしくなったのか再び笑いだした
この私が二度も笑い終えるのを待ってる訳ない。うつ伏せに倒れているカスの髪を引っ掴んで
「有言実行。それこそゴミの様な顔にしてあげるわ」
「……ぁ」
ゴッ……と床に思いっきり顔を叩き混むと骨のぶつかる様な音がした。同時に何かが砕けた感触を何となく感じた。
鼻の骨でも折れたのか?
「あ、あ゛があ゛あ゛あぁぁぁぁっ!?」
「うるさい」
「ぶぎっ!?」
ゴス、ゴスと床が割れようがお構いなしに叩き付ける
ぎゃあぎゃあ喚きながら何とか逃れようと髪を掴んでる手を握ってくるが、その程度で私の勢いは止められない。
「は……ふははははっ!何だこれ楽しい!黙るまでやってやるわ!」
「ぃだ……あ゛あ゛……」
「そりゃ痛いでしょうよ!……あ、歯が欠けた。ねぇねぇ前歯?前歯欠けた?あっはははははっ!!」
返事は無い。返事も出来ないくらい叩き続けてるのだから当然だ
やがて返事が無くなる。気絶した訳じゃない、不用意に喋るとまた口内にダメージを受けると思ったのだろう。分かるなぁ、口の中の怪我って妙に痛いんだよ、口内炎とか
「そろそろ顔が崩れてきた?まだかなぁ……まだかな、まだかな。おら、答えなさいよ」
「っ、ん゛ぅ゛ぶっぅ……」
「床が崩れて土塗れの顔になったわね。やわっこいのは嫌でしょう?新しい床の方でやりましょう」
「ひっ……」
今まで叩き付けた場所には血がべったりだ。きったね
ズルズルと少し引きずってから新しい床で顔面叩き割りを続行する
ゴスゴスと鈍い音と私の声、たまにコイツの口から漏れる言葉だけが無駄に広くなった研究所内に響く
「ほらほら、元気無くなってきたわよ?全力で抵抗するんじゃなかったの?あはははははっ!」
「……ぁ゛」
「……回復してからまた叩き付けるのも良し」
「び!?ぃ、ぁ゛……」
良く聞き取れなかったが嫌らしい
嫌と聞くとやりたくなるのがペドちゃんなのだが、一応はサヨの妹の位置に当たるだろう娘だ、大目に見てやるとするか
「だったら元気に悲鳴をあげんかいっ!オラァっ!」
「……ぃ」
「ダメだコイツ。ゴス、ロリ、ゴス、ロリ」
謎のリズムで叩くが飽きてくるな
かろうじて声が漏れているので生きてはいるようだ。あ、そういえば
「ねぇ?今何回叩きつけてるっけ?」
「「「「「…………」」」」」
数を数えるのを忘れていたので、愛しの家族達に聞いてみれば……妹とペットは震えながら抱き合っており、他の皆は引きつった笑みでこちらを見ていた
何か好感度が急降下した気がするがまぁいい
ついでに遠くの方からヨーコ達と研究員達も戦うのを忘れて私をドン引きしながら見ている。失礼な奴等だ
「……ほれ」
「ひぃっ!?」
試しにヨーコ達の方にカスの顔を持ち上げて見せたら悲鳴をあげた
ふむ、中々に愉快な顔面になったようだな
「ふんっ!」
サヨが堪らずカスの顔面に向かって何かビンの様な物を投げる。止めを刺す気か
見事にヒットしてビンが砕けると、何か透明な液体がカスの顔いっぱいにかかった
「透明?ひょっとして……ユニクスの血?」
「そうです」
「どういうつもり?私はまだ悲惨な顔を見ていない……じゃなくて、敵に情けをなんて」
「自分と同じ顔が悲惨な事になってるのを見る方の身にもなって下さい」
「ごめんなさい」
ズイっとカスの顔を自分に見える様に持ってくる。だらしなく口を半開きにしているカスだが、流石はユニクスの血というか、すでに顔面は治りかけで欠けた歯すら治っている。
「私だけ見れないとかつまらん。もっかいやるか」
「……っ!?い、いやっ!?は、くぅ……は、放してくださいっ!」
「あれー?あれあれー?ビビッてるんですかぁ?」
怯えている姿を見るのは楽しいのぉ
しかしまた顔面を床に叩いて好感度を下げるのもなぁ……
「こうしましょう。叩きつけられるのが嫌なら貴女の名前を教えなさい」
「……嫌です」
「じゃあやるわ。どうせ無駄に頑丈で死なないみたいだしさっきより強めで」
「ま、待って下さい!?い、言います、言いますよっ!」
最初からそう言えば良いのに。こう無駄に抵抗する奴が多くて困る、雑魚キャラのお約束だな
「……ぅ」
「はよ言え」
「マ、マリネです……」
心底言いたくなさげで口にするその名前。嘘ではないが、本当でもない。自分で作った渾名だろう
「私に嘘は通用しない」
「え?……ま゛っ!?」
罰として奇跡すてっきを顔面にぶち込んでやった
また鼻の骨が折れたような感触がしたなー、と無駄に耐久性のある奇跡すてっきを見る
案の定壊れてはいないが、何か血がついて嫌そうにしてる様な……ちょうど悪魔が転がっていたので服で血を拭いてからマリネと名乗ったカスに近づいて行った




