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幼女、研究所にて再会する

「しまった……私とした事が迂闊だった……!」

「へー、どうしました?」

「何その冷めた返事。いやね、ヨーコに先行されたら飾られたおっぱいが見れないって思って」

「そんな事だろうと思ってました」

「姉さん……最近お母さんに対する態度に難有りです」

「そうですか?家族なのですから文句の一つや二つ言っても良いと思いますが」

「ふむ……なるほど、確かに」


 他国の主要施設に忍び込んどいてこのほのぼのっぷりである

 私達はどこに行こうが変わらない。お、何か良い事言った気がする


 あの小娘以降は死体以外には遭う事も無くサクサク進んでいる。ちなみに小娘だが、マオが殺さなかった相手とはいえ見逃す訳にもいかないのでマオが見えない位置まで移動してからサヨがサクっと止めを刺してきた。

 結局殺すんだからマオが殺しても良かったかもしれないが、あの殺し方はやはりいただけない




「そろそろ一番奥に着くぞ」

「この階が地下22階にあたるので結構な広さを持ってますね」

「良く造ったものです」

「壁一面真っ白なのは手抜きと思うけど」


 一番奥って事はボス部屋がお約束だが、ここはダンジョンではなく研究所。偉いだけの普通の人間がいるだけだろう、しかし護衛としてクソ女クラスの実験体連中が居るとは思う

 それでもヨーコ達の、というかヨーコの敵では無いだろう。あの娘達が仮に苦戦するとしたら別の異世界人を使った実験体くらいなもんだと思うが、可能性は低い。


 とか言ってると出てくる気がするけど、果たしてどうなってるのやら……


「……接近してくる者がいます。ご注意を、と言ってもこれは」


 今度はサボってなかった様でこちらに向かってくる何者かの存在をいち早く教えてくれた

 注意を促したあと何かを言いかけたが、サヨが言い切る前に私達の前に壁を曲がって走り出てきた者がいた


「なんだ、ベレッタじゃない」

「これはもしや敵前逃亡だったり」

「そろそろニーナさんの幼すぎる精神に耐えられなくなったのかもしれません」

「ゾンビーナ明日への脱出……ふっ」

「メルフィ殿……」


 のんきに会話してる私達の元へスタスタと歩いてくると、私の左腕を引っつかんで奥へと引っ張っていこうとする。


「いたたた!痛いってば、てか痛ぇよ!ユキが不動なせいで左腕だけ伸びてんのよ!千切れるわっ!」

「身体を伸ばして身長を伸ばす方法というのを聞いた事があります」

「左腕だけ伸ばしてどうする!」

「まぁ普通に考えて助けを求めてると解釈して宜しいかと。という事でお姉様の腕がピンチなのでさっさと付いて行きなさい愚妹」

「はい。しかしあの二人が助けを求めるほど苦戦する相手などここに居たでしょうか?」


 おのれ馬鹿娘……まさか私に対して嫌がらせ出来るほど反抗期を迎えていたとは……!

 だが今はユキよりも必死に……必死なんだろうか?まぁゾンビだから顔に出ないだけとは思うが必死に私を引っ張るベレッタに言っておかねばならない事がある


「あのねベレッタ、忘れてるのかも知れないけど私達はヨーコ達の戦いには手を貸さないから。見守るだけって言ったじゃない」

「……」


 ピタ、とその場に止まってこちらに振り向く

 死んだ目をしてるので何を考えてるか分からんけど、何となく黙って付いて来いと言ってる気がする

 どうせ掴んだ腕を放す気配が無いから付いて行くしかない


 ベレッタの案内の元、数分走っていくと今までに比べて一番大きな扉が見えてきた。どうもあそこに連れて来た様だが


「……この先から何とも会いたくない相手の気配がします」

「なにそれこわい。で?ヨーコ達は?」

「生きてはいるようです。部屋の中の反応は8つ。3つはヨーコさん達でしょうね、死にかけているのが一人居るようですが恐らくあの悪魔です。しかし弱っているのはヨーコさん達だけみたいですので残りは敵と考えていいでしょう」


 相手は5人……なのか?まぁ見てみてれば分かるか

 大人しいゾンビと思っていたベレッタだが、扉の前まで来ると思いっきり蹴破った


 扉が強引に開かれると同時にヨーコが私達の方へ飛んできた


「よいしょ!」


 咄嗟にマオが受け止めたが、ヨーコはかなり苦悶の表情を浮かべている。幽霊にダメージを与えるとは一体どんな奴が


「あら、奇遇ですね二代目様。と言ってもここにいらっしゃる事は存じてましたが」

「何だお前か」

「えぇ私です。王都が楽しそうな事になってましたのでつい来てしまいました」

「味方をほっぽりだして来たのね、協調性の無い奴」

「いえいえ、ここは敵国の城よりも警戒すべき施設。私が早めに潰せば賞賛はされど非難はされないでしょう。ほら、たった一人で乗り込んで来た私に偉い偉いしてもいいですよ?まぁあの者達が勝とうが負けようがどうでもいいですけどね」


 足元にあるゴミ、もとい悪魔と思われる物体を踏みつけながらケラケラ笑う偽者

 まぁ今の姿はサヨのソックリさんでは無いのでシリアナと呼ぼう。ヨーコ達の邪魔するなら排除しようと思っていたけど物忘れに定評のある私はこいつの存在をすっかり忘れていたわ


「何でわざわざ一人で乗り込んできたんですか?」

「ゴミの分際で私に喋りかけないでもらいたいですね。ですが幽霊のくせに妙な力を使う面白いモノも見れて気分が良いので答えてあげてもいいでしょう。寛大な私に感謝しなさいゴミクズ」

「……ぶ、ぶち殺していいですか?」

「折角貴女の質問に答えてくれるんだし聞いたら?」


 しかしサヨをゴミ呼ばわりした回数はカウントしておく。後で言った分だけ痛めつけてやるわ


「単純に飽きただけです。人間同士の醜い争いがどれほど楽しいかと思えば……駒が死ぬ度に繰り広げられる安っぽい芝居をうんざりする程見せられるだけ、結局私以外は役立たずじゃないですか」

「そんな所に手を貸す方が悪い」

「仰る通りですね。まぁたかが遊びの一つだったので気にしてません。しかし王都は面白い事になってました。結界を失い魔物達に襲われるフォース王国の兵士の焦りようときたら……ふふ、王都に二代目様達の気配があったのですぐ気付きました。戦時中に結界を破壊するなどという非常識な行動をしたのは貴女様だと」

「普通は破壊しないの?」

「まぁ戦時中にまず破壊された事は無いですね。破壊した所で攻める側も守る側も魔物に襲われるのでただ敵が増えるだけです。しかし戦争していなければ敵国の戦力削減として間者が忍び込んで破壊する事はあると思います」


 ふーん、じゃあ第三者が結界を壊したとバレそうだ。まぁ壊したのはジャージを着た男になっているので私達とは思われまい。


「精霊魔法で姿を変えての犯行などまず思いつかないハズなので私達と勘付く者は居ないでしょう。そもそも私達は有名でも無いですし動機もありません」

「けど、ウチに精霊魔法が使える者が居ると分かったら多少は怪しまれるかもね」

「白を切れば良いのです。そういうのお得意ですよね?」


 ふ、伊達に口だけで生きていると言われていない。余裕だ


「まぁいいわ、つまり貴女は私達に会いに来たって事ね」

「はい、つまらない人間達の代わり映えしない戦の繰り返しと常識破りの結界破壊と人でありながら魔物を手懐けけしかける二代目様、どちらが面白そうか」

「仮にも皇女の一人でしょ?養子だろうけど、部下を見捨ててよく来れたもんだわ」

「養子?なんとおぞましい事を仰るのでしょう……私の母は創造主様のみ、あの様な豚の娘などと言われると少々不快です。それに、もはやあの者達には飽きました。私が居ないだけで負ける様なら惨めに死ねば良いのです」


 ベギリ、と悪魔の頭が粉砕された。本当に不快だった様だ。とばっちりで殺されるとは残念な奴だ


「にしても面倒な奴が来てしまったものね。今からでも帰れば?皆一斉に帰れコールするわよ」

「……あの時申しませんでした?その内遊んで下さいと」

「めんど、いや、そうね……遊んであげるのも良いわね、うん。先延ばしにしたらあと何回貴女の口からイライラする言葉が吐かれるか分からないもの」

「はて?身に覚えがありませんが」


 ゴミ、とコイツは果たして何度言ったか、もはや覚えていないが一度でも私の家族に対して口にした事を後悔させてやる


 置いてけぼりを食らってるヨーコとクソ女、そしてこの部屋に居たであろうだらしなく怯えている研究員とそんなカスを守る体勢で囲む実験体と思わしき男と女と小僧……小僧?


「……おいクソ女、ホットケーキが居た森で会った小僧が居るけど」

「クローンでも作ってたんでしょ?私はアイツよりそこの謎の女の方がヤバイと思うけど」

「そいつは私達のお客さんよ。あんた達は予定通り研究員達を始末しなさい。どうせアイツが一番偉い奴で一番の悪党なんでしょ?」

「そう、です……」


 ヨロヨロとマオの手から離れて語るヨーコ。思ったよりダメージが大きいようだ。クソ女がピンピンしてる事から察するにここまで楽々来た実力者であるヨーコがここまで苦戦するとは……奇跡人は異世界人よりも強し。


「ああ、その者達はそこで縮こまっている雑魚がお目当てなのですね、でしたらどうぞご自由に?私の目的はあくまで二代目様達だけです。てっきり二代目様が来ていると思って急いで向かってみれば居たのは雑魚と多少は面白い幽霊、とんだ勘違いでしたね」

「だそうよ?ヨーコ達はヨーコ達の目的を果たしなさい」

「……しかし、あの人には全く力が通用しませんでした。いくら貴女達でもあの人を相手にするのは難しいです……全員でかからないと」


 へー、あの卑怯と言えるヨーコの力が効かないのか


 でも関係ない


「私、これでも結構ムカついてるの、だから大丈夫よ」

「……」

「行こう、ヨーコお姉ちゃん。こう言ってるくらいだからチビ達には勝算があるんでしょ?仮にも一度私を手痛い目に合わせた奴等だし」

「素直に負けた相手と言いなさい」

「はぁ……なら、あの人はお任せします。私を元の世界に戻すって約束があるんですから負けないで下さいよ」


 約束、ね。負けるつもりなんかサラサラ無いけど釘を刺されちゃ尚更勝たないといけない


「別に二代目様を殺すつもりなど有りませんけど……二代目様だけは、ですがね。さて、このままでは狭くて思う存分遊べないでしょう?なので……」


 シリアナは例の格好いい奇跡すてっきを一振りする。たったそれだけで研究室としては広かった部屋だが戦う場として狭かった室内が数倍ほど広くなった

 サヨが苦労して馬車の中を広げたってのにコイツはあっさりと空間を広げやがった。皆もコイツのやってのけた所業に少々動揺している


「このくらいあればいいでしょう。では、邪魔が入らない様に私達はあちらで戦うとしましょう」


 さて……どうするか。サヨは先程のを見て実力に差があると分かっているだろうがやる気満々だ。

 初めてコイツに出会った時皆に言ったが二人が戦ったら勝つのはきっとサヨだろう……しかし果たして五体満足で終われるだろうか?


 いざとなれば全員で袋叩きにすればいいが……


 相手はサヨと同じく先代の娘、だったら私がやるべきではなかろうか。いや、何がだったらって感じだけど


「……この辺で宜しいでしょう。では、どなたから来ますか?いっその事全員でも構いませんよ?」

「貴女如き、私だけで十分です」

「ゴミが一匹だけ?馬鹿にしすぎではないですか?こんなゴミに嘗められるなど屈辱以外の何者でもありません」

「せいぜい見下していなさい」


 ……ふむ


「ゴミゴミうるさい」

「おや」

「相手は私に決まっているでしょ。一瞬で地べたに這い蹲るのがお好み?それともジワジワと恐怖を植え付けられる方が良い?」

「おぉ、怖い怖い……しかし、如何に二代目様といえお一人で私を倒すのは無理でしょう……貴女様には創造主と違い圧倒的な力があるとは思えない」


 その通りだ

 私にあるのは奇跡ぱわーのみ。だから何だと。だったら持ってる力でやるだけ


「承諾しかねます」

「大丈夫よ」

「姉さんと戦った後を忘れたのですか?……また酷い苦痛を味わう事になります」

「あら、私が勝つとは思っているのね。ありがと」

「お母さん……」


 よいしょ、とユキの手を離れ地に立つ。幼女視点で見るといっそう部屋が広く見えるなぁ

 さて、どうしようか。一撃、即死を願えばあっさりと死ぬだろう、しかし私の代償も酷いハズ。ならば以前と同じく身体を強化して戦うか……あれも筋肉痛がヤバイんだよなぁ。使用中は奇跡ぱわーも使えないから本当に格闘だけで倒さなければならない


「お姉様、あの」

「悪いけどアイツは私が貰うわ。降りたら本気出すのが私なんでしょ?だったら敵の前に降りちゃった以上本気ださないとねー」

「……別に降りても本気出さない時があるじゃないですか」


 確かに。降りたらたまには本気出すに変えてもらおう


「私、貴女が思っている以上にサヨって娘の事を気に入ってるみたい」

「は?な、何ですかいきなり!?」

「妹をゴミ呼ばわりされてムカついてるって言ってるの」


 ああ、腹立たしい。この娘達をなじっていいのは私だけだ。たかが先代が生み出した奇跡人の分際で好き勝手言ってくれたものだ

 一目見た時から何となく不愉快な奴だった。口を開いた時からもっと不愉快だ


 そりゃあ後の事を考えたら奇跡ぱわーなんか使いたくない。気絶だけで済まない代償なんて払いたくないわ

 だけど、たまには格好つけてもいいんじゃないか?

 終わったらまたぐーたら生活すればいい。


 右手に奇跡すてっきを呼び出す。

 何が楽しいのかクスクス笑っているあの面にぶち込んでやる


「ゴミか……」


 そういえば私もそんな事言われた事があるなぁ……言われた本人は気にしなかったけど、身内の方が気にするもんなんだな


「楽しみです。二代目様がどこまで創造主に近付いてるのか」

「アホか、先代は先代。私は私よ」


 先代の代用品とでも思っているのか馬鹿野郎め


「ふふ、分かりました。では、お喋りはここまでにします……ああ、後一つだけ」

「遺言なら聞くわよ」

「いいえ、違います。そこの、恥知らずのゴミに一言、二代目様との遊びが終わったら……お前は殺します。存在そのものが汚らわしい。いえ憎たらしい……捨てられた後に死して腐っていれば良かったのですよ」

「ここまで行くと呆れますね、ガキですか貴女は」


 どうにもサヨにだけ当たりが強い。何を恨んでるのでコイツは


 ま、アイツの恨みとかどうでもいい。次に何か言ったら――


「……ふ、言ってなさい。創造主に何も与えられなかった無能の失敗作」

「……」


 ぶん殴るっ!




 いや待て、流石についカッとなってやれそうな相手ではない。私の武器は奇跡ぱわーだけじゃない。数々の嫌がらせを成功させてきたズル賢さもある

 でも何でかな、アイツは真正面から叩き潰してやりたい気もする。

 ……じゃあやるしかないじゃん。サヨの時みたいに後で酷い目にあうくらい仕方ないわ



『大丈夫。何もしなくても今、この時だけ、お姉ちゃんはこの場で一番強いから』



 何か空耳が聞こえた。心を読んで返事されたような見事な空耳だ

 でもどこかで聞いた事ある声だったような……


 て、あれ?まだ奇跡ぱわーを使ってないのに妙に身体が軽い、というか強化されているというか

 今ならあの女ぐらい簡単にやれる気がする。気がするけど本当に大丈夫なのか?


 ……どうせやるんだし、空耳ぱわーを信じてやってみるか――


 その煩い口を閉じろカスっ!


「は?……ぅがっ!?」




 ぶん殴った。

 よく分からんがその場を飛んで一瞬で間合いをつめて奴の顔をぶん殴れた

 出来ると思ったけど本当に出来るとは思わなかった


 殴った本人が一番びっくりです


「……フィーリア家に伝わる奥義の一つ、黙って不意討ち」


 とりあえず格好つけておいた


「お姉ちゃんが覚醒した……」

「流石はお母さん。安心の存在がチートですね。……やってる事はいつも通りの卑怯ですけど」

「あの力を使ったのか?そんな素振りは見えなかったが」

「口に出さずに使ったのでしょうね」

「姉さんかっこいい」


 外野も吃驚するこの謎の幼女力。この際気にしない、散々人の家族を馬鹿にしてくれたこのカスに気の済むまで痛みを与えてやる……


「ぁ……っ」

「痛い?でもこれだけで終わると思ってないわよね?」


 予想以上にダメージを食らったようで未だ顔を押さえて痛がるカス。実に良い


「ほれ、回復してみ?あ、別に余裕かましてる訳じゃないわよ?痛めつけては回復させるを気の済むまでやるだけ」


 少し悩んだが、痛いものは痛いのか結局は回復する方を選んだ。

 回復を終えると私の側をバッと離れ、こちらを警戒する。流石にヤバイ相手と分かったか

 私に対して何か言おうと口を開く


 ――だが


「ごっ、ぅふ……っ」

「顔の次は腹」


 『油断しました』きっとそう言おうとしたのだろうが言わせる前に私のぐーぱんがカスの身体を浮かせるほど腹にめり込む

 お喋りする余裕が自分にあると思ったか馬鹿め


「ほれ、回復してみ?」


 奴の前に立って再び同じ台詞を吐く。

 カスの表情に若干の怯えが見える事を確認して、自分の顔に嫌らしい笑みが浮かんできたのを感じた

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