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幼女、妹に引く

「伝説の剣があるわ」

「いえ、そういうのは城に保管すると決まっています」

「凄そうに見えるけど」


 刀身以外はどうやら普通の剣と変わらない、いや上等な剣では有りそうだけど意味有り気な宝石がくっついているとかは無い。ただ刀身が光っているだけ

 伝説云々はともかく、こんだけ異様な剣ならどう考えても強力な部類に入るだろう


 しかしウチには剣を使う奴が居なかった

 今更だけどこうも魔法使い寄りなパーティも無いだろう。冒険者のパーティは私達以外は必ずと言っていいほど剣を扱う前衛が居る。というかそれが普通だ

 逆に魔法使いをパーティに入れているのはほんの一握りのパーティだけ……では私達は?

 私以外は魔法使えるんじゃね?いや、アリスはどうか知らんけどそもそもとり憑かれてるだけでパーティには入ってないから数には入らない


 マイちゃんも使えそうだしぺけぴーも使える。しかし攻撃スタイルは殴る蹴るの暴行ばかり、凄いんだがダメなんだか良く分からんパーティという評価を貰ってそう


「誰も剣使わないし持ってっても仕方ないわね」

「使う者がいても使えないみたいですよ」

「何で?」


 サヨが一冊の本……というには薄い数枚の紙を繋げた物を広げて見せてきた。台座に付いていた引き出しの中にあったらしい

 間違いなくこの剣の取り扱い説明書か何かだと思う


「この剣について書かれているなら手短に説明お願い」

「とりあえずその剣を振ると周囲もろとも爆散します」

「そりゃ使えないわ」

「いえ、戦争中何も知らない勇者気取りのアホに持たせて敵陣のど真ん中で爆死させた事もあったようです。なんと半径一キロは荒地と化すほどの威力があるとか、使い方次第では立派な兵器ですね」

「へー」


 どれどれと折角だから自分で説明書というか記録を読んでみた

 ざっと見た所、どうしようもない程強い力を持った何者かを過去の英雄の誰々がやっとの思いで剣に封印したんだと

 何で封印かと言われると殺す事が出来なかったそうだ。その他に書かれている内容は封印された奴は魔王並の化け物だの国を滅ぼされかけただのコイツはヤバイ奴ですと言いたげな事ばかり。サヨが言った通り戦時中にもはや負け戦でどうにでもなれって感じでこの剣を使ったらああなったようだ。逆転勝利を収めた後に慌てて再度保管したと


「流石にこんな魔力の持ち主の封印を解くのはオススメしません」

「どうかな、まぁ役に立ちそうだし持ってはいくわ」

「……役に立つどころか狙われそうですが」

「そこは貴女達が何とかしなさい。この溢れてくる魔力を馬車に使えない?精霊の代わりに」

「あー、なるほど。この剣から魔力を供給すると……長年放出しっぱなしみたいですから枯れる事も無いでしょう、うん。やってみます」

「お願い。ユキ、ちょっとこの剣に触らせて」

「……一応言っておきますが、変な事はしないで下さいよ?」


 はいはい、とおざなりな返事をしたが両脇に手を入れて支えながら剣に触れられる距離まで近付かせてもらった

 そっと剣に触れるが持つ部分、柄に触っても問題ない。今までも持った事ある奴が居るから当たり前だけど……ならばと刀身に触れてみる


 すると刀身が眩く光って部屋中が光に包まれた――


 ――何て事は無く、妙に温かくぬるりとした感触がしただけだった


「私達が所持してる間に封印が解けた、何て面倒な事にならなければ良いのですが」

「ま、解けたら解けたできっと大丈夫でしょ」

「お姉ちゃんが何とかしてくれるんですか?」

「いえ……長年一人ぼっちで身動きも出来ないってのに大人しく封印されているんだもの、そんな悪い奴でもないでしょう」

「へー、そうなんですか」


 アホの子は分かってないが、勘の良いメンバーは気付いた。この剣の中の奴はその気になれば自力で出てくる事が出来るのだと。相変わらず察しが良い娘達だこと

 素材は知らないがただ上等なだけの剣では完全に封印する事は出来なかったのだろう、今までこの剣を見てきた奴の中にも魔力が漏れている時点で不完全な封印だと気付いた奴も居そうなものだが、化け物とやらが全く出てこないのだから完全に成功したと勘違いしてもおかしくない


「ま、外に出たくなったら勝手に出て行きなさい。それまでは私達の役に立ってもらうわよ。主に魔力供給源として」


 最後に一撫でしてからユキに頼んで亜空間に仕舞ってもらった。


 ついでに台座にはまともなお宝が手に入ったので不要となった賢者タイムの書を変わりに置いておいた。



★★★★★★★★★★



 無事にお宝も入手出来たので今度はヨーコの戦いを観戦しに向かう。

 ドアが二つあった部屋まで戻り、今度は普通のドアから進む。明らかに隠し通路ですって感じの狭い通路だったが、また行き止まりの壁を破壊するとホットケーキが見覚えのある道だと言ってきた。どうやら普通の通路に戻ってこれたみたいだな


「あの……一番奥にある小汚そうな部屋にまだ生き残りが居ます」

「あの二人が討ち損じたの?」

「見逃したの間違いでは?」


 三つに別れた通路の一番左、何ともボロっちぃ扉があり倉庫なんじゃなかろうかと思う場所に生き残りが居るらしい

 どうしようか、ヨーコ達が見逃したのなら別に殺さなくても良さそうな奴等なんだろう。しかしこの際なので研究員を全て殺ってしまおうと考えたばかりだし


「研究員を全滅させようと言ったのは私です。最終決定するのはお母さんなので生かすのならそれはそれで構いません」

「そうねぇ……姿を見られたのなら問答無用で殺るところだけど……」


 扉には白い紙が引っ付いている


『民の税を民の為に使わずして何とする。我らの知識は人非道な実験の為に非ず

 生活向上課』


 張り付いた貼紙にはこう書かれていた


「良くまぁ、こんな堂々と身内批判が出来るもんね」

「その分かなりお粗末な扱いをされているのが分かりますがね」

「それなりの成果が有るからこそ今でも存在してるのでしょうねー」


 その場で緊急家族会議を開き、1分後に放置しても問題無しという結論に至った。審議方法は多数決による決定である


「いやぁ、まだ国の事を想う研究員がいて俺はもう……うぐぐ」

「ほんの一握りみたいだけどね」

「それでもだ。まだこの国は腐りきっちゃいない!」


 しかし生かす以上この研究所を破壊する事は出来ない。あの部屋を除く全てを修復不能にするくらい壊すしかなくなった。まぁいい、派手な破壊シーンは見れなくなったが他の部屋を破壊して回るのはヨーコ達の仕事だし


「残った通路の一つはすでに破壊済み。という事は残りが先に進む道と……ホットケーキの案内とか要らなかったわね」

「……なんてこった、全くもってその通りじゃねぇか……じゃなくてだな!今はまだ役に立ってないが俺だって戦いにきたんだ!」

「実験体にボコボコに訓練されるホットケーキなんか最初から戦力外よ」

「何だとっ!?これまたその通りじゃねぇかっ!今気付いた!」

「頭の悪い元研究員じゃのう……いや、馬鹿と天才は何とやらと言うしな」

「うっせぃ。役立たずなのは分かるが、怒りの鉄槌を奴等にお見舞いしなきゃ気が済まん!」


 今更帰れとは言わんが、敵に遭ったらすぐ死にそうなんだよなぁ……別にいいか、どうせ分裂した生き残りは元の森に帰ってるし


 進んでいくと別れ道はもちろんあるが、やはり部屋と一緒に通路も滅茶苦茶に壊されている

 折角だから一部屋くらい見てみたかったが、この分だと無事な部屋は無いな


「あ」

「お?」


 無駄に広いが順調に進んでいる、と思っていたが右側の通路から歩いてきた例の患者服来たちんまい小娘にバッタリ出くわしてしまった。

 索敵係りのサヨは何やってんだと


「サボってたので気付きませんでした」

「素直で宜しい」

「え?いいんですか?」


 ぐだぐだ言い訳されるよりはマシ

 しかし目の前の黄色い髪したボブカットの小娘、実験体にしては弱そうで頭も悪そうなガキはどうしようか。襲ってくるわけでもなくジーっと見てくるだけだし


「……研究所の人では無さそうです。かと言って乗り込んで来た賊にも見えません。メイドさんが居るから王家か貴族のお客さんでしょうか?」

「実はそうよ」

「しかしそんな通達は受けていません」

「なら賊でしょ」

「では排除……いえ、自ら賊と名乗る人がいるでしょうか?んーーーー……」


 非常に困ってると顔に書いてある小娘。怪しい輩なら撃退してもいいのだろうが、私達はどう見ても一般人、もしくはメイド服着てる奴がいるってだけでお偉いさんに見えているみたいだ

 悩んでいる隙にやっちまった方がいいか……大して強くなさそうだしここは


「たまにはマオに任せてみようかな」

「相手はあれでも実験体の一人では?」

「大丈夫です、わたしだってやれます」


 おお、凄い自信だ。いや待て、過去を思い出せ私。残念な思考の持ち主であるマオだし今回もハッタリだけは一丁前なんて事も有り得る


 未だどうしたものかと考えてる小娘にズカズカと近づくマオ、流石に近くまで来ると気付いた様で警戒し、いつでも反撃出来る様に構える……が、普通に歩いてくるマオに再び困惑したようだ


「……判断出来ない以上仕方ありません。それ以上近付くのなら攻撃させて頂きます」

「あの、襟の所にゴミがついてますよ?」

「はい……?」

「だから、ゴミが……取ってあげます」

「うぇ?……はい、ありがとうごずっ!?」


 何があったかと言うと、お礼の言葉を言ってる最中にマオが小娘の首を掴んで壁に叩き付けた。更にギリギリと首を絞め続ける優しい悪魔の称号を独占していたハズの妹。

 何が凄いって全く普段通りで近付いて普段通りに殺そうとしている事だ。

 睨んでもいない、無表情って訳でもなくいつも通りの眠そうな顔、見ていてほっこりする表情でひたすら首を絞める。小娘にはそんなに力が無いのかマオの腕を離す事が出来ない様で顔色の方が宜しくない域にまで達している


 これあかんやつや……こんな人畜無害そうな娘に近寄られたら私だって油断する。いや、敵地だったら流石に油断はしないけど


 やがて力尽きたのか小娘の腕がだらんと下がった。死んだのか意識が無くなっただけなのかは不明だが……マオはふぅ、と一息すると小娘をドサっと捨てる

 おかしい……私はこんな優しかった悪魔と過去形にしてしまう教育を果たしてしていただろうか……


「倒しました!」

「そ、そうね。物凄く目を疑いたくなる見事な手際だったわ……うん、多分」

「それって褒めてますか?」

「はい、殺気の一つも無くすんなりと敵の懐に入る所業、マオさんも中々に成長されました」

「えへへ……」


 馬鹿な……あんな姑息な手を使った……いや私達らしい戦いかも、ではなくあんなマオに似つかわしくない戦いを、ていうか戦いって呼べる代物じゃねぇよ。

 ともかく、マオらしくない戦い方は誰が教えたんだこの野郎って事だ


「そこのマオもどき、そんな戦い方、というか姑息な手段は誰に教えてもらったの?」

「何ですかもどきって……今の戦い方はわたしが考えたものですっ!……と言ってもヨーコさんに教えてもらった油断を誘う方法をちょっと改良しただけですが。でも上手くいってよかったです」

「へー……つまりヨーコが元凶か。恩を仇で返すとはね……くくく、そうね、確かに彼女もパッと見た感じは無害そうな顔をしているわ……なるほど、そういう事……」

「こ、怖いですよお姉ちゃん」

「なんで?怒ってないわ……けど、そうね。ヨーコにはどんな事を教わったの?」


 ジリジリと後ずさる妹

 別にマオには怒ってないのは本当の事。だがあの幽霊だけは許さん


「えーっと……わたしは性格的に誰かを傷付ける事に向いていないので首絞めればいいのでは?それなら傷付ける事は無いし、とアドバイスを頂きました。」

「傷は付かなくても死ぬけどね。にしてもその発想はどうかと思う」

「どうもわたしは弱くて害の無さそうな娘に見えるらしいので、それを利用して近付けば大体勝てると。もちろん場合によりますけど。実戦は初めてでしたが確かに上手くいきました」

「ヨーコって案外非常識人かもしれないわ」

「ちなみにあの青い悪魔さんでギリギリ死なない程度に首を絞める練習をしたのであの子は生きてるハズです」


 悪魔の不憫さはどうでもいいや。流石に簡単に殺せるまでには成長してなかったか……良かった、まだ優しかった悪魔の称号にはなっていない

 さっきのマオを見たらあの世で待ってる鬼達もドン引きしたい違いない。


「さっきのやり方は貴女に合っている様だけど似合ってはいないからやめなさい」

「えー……?」

「確かにマオ殿っぽくなかったのじゃ」

「ドン引き」

「な、何ですか!ルリさんにメルフィさんまで!」


 ユキとサヨ以外は今のマオに引いている。頭がお花畑の家族がいきなりあんな行動に出たら誰だって引くわ


「はぅー……せっかく考えたのに」

「言っておくけど、いくら悪魔で練習したって死ぬ奴は死ぬわよ」

「う……ごめんなさい……わたしが馬鹿でした」

「いいのよ、やり方が悪かっただけで殺す事に問題は無いから」

「はいっ!……んー?あれー?」

「やったわね、殺人未遂くらい楽勝に出来る様になって。しかも初対面の相手でも。ていうか死んでたりして、殺人おめでとう」

「……おー?……ち、ちがうんですっ!そういう訳では……う、うわああぁぁぁんっ」


 それでもわたしはやってない!と、自己弁護しながら残念な娘は先程やってしまった小娘のもとへ駆け寄り身体を揺さぶる。死んでないか確かめる為に必死に起こそうとしてるのだと思うが脈を測るという選択肢はないらしい

 中々起きないのを焦って顔をバシバシとビンタしているが、あれが止めにならない事を祈ろう


「マオさんは影響を受けやすいみたいなので下手な事は言えませんね」

「私は楽に殺れるならさっきの方法でも良いと思いますが……まぁ確かに根性だけで戦うマオさんの方が好ましいと思いますね。勝ち負けはともかく」

「そういう事、とにかくヨーコの洗脳が解ける様に教育し直しましょう」

「あの様子なら何も変わってないと思いますが」


 確かに……敵だってのに殺してないだろうかと焦るマオは変わらぬままだ

 最近は私達に口答えしなくなったので殺す行為については割り切っていると思うが……自分でやるのと私達がやるのとではまた別なのだろう


「……ん、っ」

「よかったっ!生きてましたっ!!……ふんっ!」

「んぐぶっ!?」


 何が起こったかと言えば小娘が生きているのを確認したマオが腹を思いっきり殴って再び地に沈めた

 生きてるのを確認したは良いが、起きて反撃されても困る、ならばまたやってしまえばいいのかな。という結論になったとみえる


 生きてて良かった、と満面の笑みで戻ってくる

 首を絞めて意識を失わせ、ビンタで起こし、起きたら腹を殴ってまた意識を刈り取るという拷問行為を終えた妹を私達は無言で見つめた


 なんか私の中でアリスが一人で大笑いしている光景が見えた

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