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幼女、お宝を探す

 ユキが追手の一人を鞭でしばき倒した。と言っても流石は実験体、すぐさま起き上がり再び突進する。一方のサヨも一対一なら余裕って感じで殴り倒していた。

 二人と合流してからユキとサヨでそれぞれ迎撃したのだが、どうやら本当に大した事無かった様で苦戦はしていない。サヨ一人でも大丈夫そうなのだが、きっと3人がかりな上に魔法も使えず、更にメルフィを守りながらでは流石に分が悪かったのだと思う


「どうやらクソ女が規格外なだけだったようだな」

「いや、主殿がぐーたらしている間もあの二人はニーナ殿とヨーコ殿を相手に訓練しておったからの、その成果もあるんじゃろ」

「符術が使えないから武器が出せないのは仕方ないけど、素手で戦うとかヨサコイってば野蛮だな」

「買ってあげてはどうじゃ?」

「薙刀が有るから要らないって。買うとしたら同じく素手で戦う野生児のオッキかな」


 確か舞に使う小道具の扇、だっけか?あれを武器として使用すればいいと思うが、強度が足りん。どっか別のドワーフの村を見かけたら注文してみるか


 と言ってる内に二人ともそれぞれの相手の意識を刈り取ったみたいだ。案外弱いと思っていた奇跡人だが、こうしてみるとやっぱ卑怯な強さだな

 意識が無くなったお陰か結界が消えた様で二人はそれぞれ倒れてる実験体に向けて魔法を放ち燃やす。うむ、後から復活しない様にきっちり処理するのは良い事だ。何の罪も無い人間が実験体にされてたら可哀想で殺せない……なんて概念は私と同じく二人とも持ち合わせていない


 ところで高い建物……医療施設だろうか?とにかく高い建物の上から二人を狙っているかの様な人影が見えるのだが二人は気付いているのだろうか?まぁ私が気付くぐらいだから気付いていると思うが……

 しかし予想に反して全く気付いてない様子でこちらに戻ってくる。後ろ向きで隙だらけという不意討ちに持ってこいな格好になった所で人影がやたら早い速度で二人に迫ってきた


 あの二人が気付かないという事は気配を消すのに特化した実験体だろう


 私が敵を指差したことで振り返り、漸く二人が気付く頃には魔法によるものと思われる炎が迫っていた

 完全に当たるわこれ、と思っていたが物影から飛び出してきた物体が二人を守るように立ちはだかり代わりに被弾する

 二人はまず攻撃してきた奴に向かい、ユキは鞭で首を刎ね、サヨは腹を思いっきりぶち抜く。

 観戦していた私達は二人を身を挺して守った物体、もっきゅんの元へと向かった




「これは……もうダメでしょうか」

「まさかもっきゅんに助けられるとは……別に死ぬほどの攻撃でも無かったのですが」

「馬鹿者、魔法を受ければお前達が無事でも服は燃える。私達の今の姿は男、しかし中身は乙女だ。いかに身内とはいえ男の全裸を見るのは精神的に辛い。それを防いでくれた紳士に感謝しろ」

「……助けられた理由がそれですと微妙ですが、無傷で済んだのが彼のお陰なのも事実」


 一応ユキとルリが過剰といえる回復魔法をかけてはいるが効果は著しい……傷自体は塞がっていくが、もっきゅんが復活する兆しは全く無い

 もう死んでるんじゃないかと思うが、仮にも家族を守ってくれた恩人、このまま死なせはしない


「伊達に奇跡の少女、いや少年の異名を持っていない。この私に不可能はない」

「異名についてはともかく、使うのですか?ただの魔物相手に?」

「何も奇跡ぱわーだけが奇跡を起こせる訳ではない。イクゥ、予備のモノを出してくれ」

「いや、主殿……ワシらがここまでやって回復しないのでは主殿の力以外は何をしてももうダメだと思うが」


 そうだな……普通はそうだ。だがもっきゅんにはたかが魔法一発で瀕死になってしまう原因があった。敵が放った魔法が炎だったのが災いした


「……被っていたぱんつが燃えて無くなった。それがもっきゅんが瀕死になってしまった悲劇の原因」

「なんと……!主殿がこんなに頭がおかしくなる程もっきゅん達を大事に思っていたとは気付かなかったのじゃ!」


 とりあえず蹴っておいた。横でぴぎゃあぴぎゃあと久しぶりに号泣してる大精霊を無視してユキから受け取って安らかな眠りにつきかけてるもっきゅんに被せる。言ってはいないがもっきゅん達の大きさ的に被っているぱんつは少々……いやかなりお太りになられた女性用の下着だ。これを聞いたら別の意味でもっきゅん達は安らかな眠りにつくかもしれない


 しばらく待っているともっきゅんの腕がぴくりと動いた……どうやら奇跡は起こったらしい


「よし、息を吹き返した」

「うそぉっ!?」

「流石はゼウス様、お見事です」

「ふむ、確かにもう大丈夫そうです」

「良かったです!」

「ん」

「馬鹿な……ワシ以外に疑問を持っている者がいないじゃと!?」


 一人わなわなと非現実的な出来事受け入れる事が出来ないといった様子のペット。非現実的な存在のくせに何を言ってるんだこいつは


「タマリン、一人だけ自分常識人ですみたいな態度とっているが現実を見ろ」

「う、うむ」

「これを切欠にぱんつを被る事で死なずに済む奴等が世界中で増えるかもしれない」

「それは嫌じゃ」


 私も嫌だ。世界中に広がった事でぱんつを被った英雄が登場する物語が現れるかもしれない……


 そろそろ飽きたから真面目に話を進めよう


「そろそろ兵士達が追いついてくるかもしれない、早めに研究所に向かおう」

「そうですね」

「このもっきゅんは大丈夫そうなので捨て置きましょう」

「それでいい、復活したのなら後は勝手に頑張ってもらう。では行くぞ」

「……恩人ではなかったのか?」


 ちらりともっきゅんを見れば上半身だけだが起き上がれるまで回復している。更にこちらを見ていってらっしゃいと言わんばかりに手を振ってるんだから大丈夫って事だろう


「兵士達がここに来るより援軍のもっきゅん達が駆けつける方が早いでしょう。心配でしたら念のため薬草でも置いていきましょう」

「そうだな……他にも手傷をおったもっきゅんも居るだろうからいくつか渡しておこう」

「おやまぁ……結局はお優しいことで」

「やかましい、じゃあ行くぞ」


 再びホットケーキの案内の元、研究所に向かって走り出す

 走っている途中でユキの横をカサカサと平行する蜘蛛のマイちゃんが嫌過ぎるのでユキの背中に張り付いてもらった。いかに親友とはいえ蜘蛛という事で流石のユキも嫌がるかと思ったがそうでもなかった。我が娘の耐性は色々と高いようで


 たまに出会う兵士達をしばきながら走っていると、ホットケーキから到着した事を告げられた

 研究所っていうくらいだから大きい建物を想像していたが、どう見ても小さい。一般家屋に比べれば大きいがギルドの建物の半分くらいしかない


「ちっさいんだけど、本当にここか?」

「間違いねぇ、建物はこんなだが地下はかなり広いぞ」


 ふむ……地下か。これはお宝が眠っている予感。扱いに困って封印しちゃった何て物が隠されているかもしれない


「実に良い、研究所に眠るお宝を頂戴するぞ」

「それでやる気になったのですか」

「ただの泥棒じゃないですか……」

「まぁ良いのではないか?仮に危険なものが眠っていた場合、こんな国にあるより主殿が持っていた方が良かろう」

「うむ。それにこんな長いこと滞在させられたんだ、それに見合うお宝でも持って帰らないと割に合わん」


 それもそうかと皆が納得したところで早速研究所に入る。入り口は兵士達が見張りをしているなんて事は無く普通に鍵がかけられたドアがあるだけだった。ただしこのドアはかなり頑丈なようで壊して突入出来ない様になっている――


「ふんっ!」


 と思ったけどそんな事無かった。ドアをサヨは普通に蹴破った。頑丈な分重量もかなりあるようで辺りに物凄い音が鳴り響いた。もしかしたら今ので敵に気付かれたかもしれないが……すでにヨーコ達が突入してるハズなのでそっちで手一杯だろう


「はて?ドアは閉まっていたのにヨーコ達はどうやって侵入したのだ?」

「窓ガラスが割れている場所があったのでそこからでしょう」

「頑丈なドアの意味とは一体……」

「窓もですが壁だってドアよりは脆いです。きっと破壊されない様に結界でも張ってあったのでしょう」


 それなら納得。先行したヨーコ達が例の力で結界を破壊したんだろう

 中に入るとそこは廃墟だった。というのは言いすぎだがかなり荒らされていた。派手に暴れているなぁ……まぁここまでやったのはクソ女だと思うが


「足場が悪いけど楽に入れていいな、んじゃあ地下に向かおう」

「はい。そこで提案があるのですが、中に居る研究員に逃げられない様に結界を張っておこうと思います」

「ふむ、皆殺しという事か。私はヨーコ達を見届けるだけで済ませたいのだが……別に生き残りが居ようと構わん」

「いえ、この際なので研究所も研究員も消えて頂きましょう。可能性は低いですがあの力を持った者がワンス王国に向かう危険性もあります」

「なるほどな」

「そして皆殺しにする以上今の姿を維持する必要もありません」

「うむ、確かに元の姿に戻ってもいい。分かった、研究所とかどうでもいいけど元の姿に戻りたいって事だな、遠まわしに言うな」

「いえ、姿は別に気にしません。呼び名が嫌なのです」


 言い切られた。あのユキが、忠誠心が振り切ったユキがこの私に口答えするって事はよほど嫌なのか……後ろでは賛同したアホ共がウンウンと頷いている気配を感じる


「言いすぎました。ほんのちょっと嫌です」

「どっちにしろ嫌かよ、分かった。じゃあメルフィ、解いて頂戴」


 ちょいちょいと肩を叩かれる感覚がした。叩かれた方を見るとユキの肩越しから足を伸ばして肩を叩いたのであろうマイちゃんがいた。キモすぎて危うく奇跡すてっきを投げつけるとこだったわ

 何の用かと問えばマイちゃんはしばらくクモライフを楽しみたいとの事だった。却下したいトコだが本人がそのままでいたいのならまぁ無碍にはしまい。という事でマイちゃんを除くフィーリア一家の変装は短時間で終わってしまった




「やはりお母さんには幼女特有のふにふに感が似合います」

「あっそ」

「口調もやはり今の方が良いと思います」

「……別に機嫌を損ねたって訳じゃないからヨイショはいらないわよ」


 褒め言葉には全く聞こえないけどな。現在、地下への階段を下っている所なのだが、口答えした負い目でもあるのかやたらと褒めちぎってくる。それは別にユキに限った事ではない


 元に戻った事でホットケーキは漸く私達だったと気付いた。置いてきた事と勝手に転移させた事に文句を言われたが何を言われても聞き流す私の態度に諦めた様子。今はマオの手を離れて先頭にたって案内を任せている

 ヨーコ達にやられたらしい兵士や研究員、患者服を着た多分実験体の死体がたまにあるが、もう慣れたのかマオですら何も言わずにスルーした


「あの二人を先行させて正解だったわ。楽で良い」

「ですね、相手の実験体はニーナさんに比べて大した事ないのも大きいでしょうけど」

「本命は一番奥で待ってるんでしょ」


 階段を降りたらホットケーキが向かう通路に着いていき、再び現れる階段を降りる。これを何度か繰り返して進んでいく。言うのは簡単だが通路が別れている箇所がいくつもあったので案内無しではかなり時間がかかっただろう。まるでダンジョンだな


 生きてる敵も居なけりゃ面白そうな物も無い。何ともつまらん研究所だと思ったが進んでいる先にある何の変哲も無い壁に面白探知能力が反応した。

 壁の前で停止する様に告げ、隠し扉なのか確認するが、特に動く気配は無い。


「私の勘によればこの壁の向こうに隠し通路があるわ」

「私達にはただの壁にしか見えませんが……」

「気のせいだろ、俺は隠し通路があるなんざ聞いた事ねぇぞ」


 とりあえず向こう側に通路があるなら空洞って事で周りの壁と叩く音が違うはず……ユキが少々力を込めて叩いて見るとやはり音が違った

 マジかよ、と言いたげに見てくるホットケーキにはドヤ顔しておいた


「この先に空間があるのは分かりました、ですが開く方法が分かりませんね。回転して開く訳でもないですし」

「何か仕掛けがあるのかもしれません」


 ますますダンジョンくさい

 隠し通路への道を開く為に隠された仕掛けを探し、隠し通路を進むと更に仕掛けがあったりするのがお約束


 それは面倒だから物理でいこう。大体物理で何とかなる


「という訳で壁を破壊してちょうだい」

「簡単に言われますが、下手すると研究所が崩落するかもしれませんよ」

「問題ない」

「有るじゃろ」

「なら殴るんじゃなくて斬ればいいじゃない」


 その手があったかとユキは鞭を斬撃仕様に変えてから斬りつけ、コンと蹴ると壁の一部が倒れ人が通れるサイズの穴が空いた。やだ、格好良い

 壁の先は暗くて良く見えないがやはり通路だったようだ。

 魔法で灯りをともすと周りの壁や床が大分風化しておりかなりの年月に渡り放置されていたのが分かる


 一本道みたいなのでしばらく道なりに進む。しかし行き止まりになったので例によって壁を壊すと少し広い部屋に出た。

 部屋は魔道具でも使っているのか明るくなっており、通ってきた通路に比べて手入れされているのか綺麗な壁だ


「ふむ……先程の壁は仕掛けがあるのではなく使われなくなったので壁で塞いだみたいですね」

「そういう事ね」


 部屋にはドアが二つ、何か飾ってある台座がありそれ以外は何も無い

 とりあえず台座に近づいて置いてある物を見ると薄っぺらい本だった


「表紙には女性の裸が書かれています。どう見てもいかがわしい本ですがこれがお母さんの言っていた面白いモノでしょうか?」

「違う、と思いたいわね。でもこれ……この絵の精巧さはこの前平行世界から呼んだるぅ、じゃなくてルーの箱の絵並ね」

「なになに……ついにあの大物女優の生着替えを盗み撮り……何の事でしょうか」

「読まなくていいわ、台座の側面にこの本の名前が書いてあるみたい」



『賢者タイムの書』



 何故だろう……物凄く惜しい気がする。具体的には3文字ほど余計な字が無ければ凄い書物になってた気がする。誠に遺憾だ

 素手で触るのは躊躇される代物なので手袋をはめたユキがパラパラとページをめくる『うわぁ……』出てきた言葉は皆一緒だがドン引きする者と顔を赤くして照れる者に別れた。中身は女性が全裸で謎のポーズをしている様だった

 しかしどう考えても賢者の要素が見当たらないのだが……


「ま……一応こんな台座に置かれているならお宝でしょう、持って行くわよ」

「持っていくのは構いませんが亜空間に封印します」

「見えなかったのじゃ……ワシにも後で見せてくれ」

「俺も……いや、何でもねぇ……」


 ルリは無視だがホットケーキには女性陣の冷たい視線で黙らせた


 次は二つのドアのうちどちらに行くか、一つは普通の木で出来たドア。もう一つは明らかに何か隠してますといった頑丈そうな鉄のドア

 そりゃ怪しい方に行きますわ。取っ手も鍵穴も無いドアだったのでこれまた仕掛けがあるのだろうが、ユキの蹴りによる物理攻撃で開けた。作った奴は物理で開けられると思って無さそうだ


 また一本道をズンズン進むとまたドアがあった。お約束であるドアを守る守護者的な存在は無い。試しにマオに殴って開けさせたら無事開ける事が出来た。マオですら開けられるとは頑丈さが足りん


「む」

「これは……魔力?」

「何とまぁ……これはまた凄いというか」


 今回は入った瞬間に異様な空間に気付いた。何か纏わりつくぬるっとして重くてどんよりしてる空気は魔力なんだと。特に感じたこと無かったが濃い魔力故に私でも感じられるそうだ

 私ですら不快なので魔法を使う他の皆はこの部屋に入るのも嫌なんじゃなかろうか。入らなきゃ何があるのか分からないから入るけどね


「んー、あそこ……にあるのがこの異常な空間の原因みたいですね」

「呪いのアイテムじゃない事を祈るわ」


 こんな研究所に保管というか隠されている異様なモノにワクワクしながら近付く

 距離が短くなるにつれて不快感が酷くなるが我慢する。そしていよいよ目の前に来ると、それは先程と同じく台座に置かれていた――


「剣……?」


 誰かが呟いたが、それは刀身が青白く光る両刃の剣だった

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