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幼女、幽霊と星を眺める

「何だこれうめー」

「確かに……これは、美味です」

「……からいです」

「お子ちゃまのマオには合わないみたいね」

「ご、ごめんなさい。ウチでは中辛ばかりだったから……」

「いえ、雑草に比べたら味は本当に美味しいです」

「そりゃそうよ」

「雑草?」


 起きて召喚したかれぇるぅ、の入ってた箱を見るとやはり小さい。中身より驚いたのは実物がそのまま描かれているんじゃないかと思うほど鮮明な絵。私もだが画伯であるユキもそっちの方に興味がいっていた

 流石は異世界、絵画技術も半端ないと言える。流石のユキもこのレベルの絵を描くのは無理だろう


「ぬぅぅ、確かに美味しい。これは一度きりというのは勿体無いわ」

「そうですね。まぁルーを少し残しているので良く調べれば使われているスパイスが分かると思います」

「つまりこっちでも作れる様になる訳か……もうこれ作って売るだけで儲かりそうね」

「ふむ……私達以外作れない料理、この味なら一食5000ポッケでも客が来るでしょう」

「いや実際売らないわよ?何で苦労して入手したものを他人に提供しなきゃいけないのよ」


 食は旅の娯楽の一つにしか過ぎない。金を稼ぐ手の一つとしては良いかもしれないが、強い魔物を狩った方が断然効率が良い


「フハハハ、その鼻腔をくすぐる料理を私に提供してもよいぞ?」

「雑草でも食ってろ」

「というか良い加減拘束を解きたまえ、流石に魔物の暴行を受けるのも飽きた」

「ならアリスに遊んでもらいなさい」

「む、あの幽霊か……有りだな」


 しかし言った直後に紳士達による暴行が激化したのはお約束


 それにしてもカレーとやらは中々に魅力的だ。スパイスの調合を変えたらまた違った味が出来ると思う。周りの皆も嬉々として食べているし定番料理の一つに加えてみようかな

 少し離れた所ではメロンにカレーをかけるという愚かな行為をした少女が噴出しているのが見える。何故メロンに合うと思ったのだろう……



★★★★★★★★★★



「作戦を決行しましょう。行って来いヨーコ」

「いやいやいや、まだペロ帝国の者達が来てませんって」

「寒いのよ馬鹿野郎」


 今が何月だって?11月だよ、こんな寒いのに山に居るとか我慢ならん

 国によって気候が違うとはいえフォース王国はほぼワンス王国と季節が同じ、つまりこの時期は寒い


「たかが小さな戦争のくせに長いのよ、もう開始からどれくらい経ったと思ってんじゃい」

「仕方ないじゃないですか……ペロ帝国のアホ達は一人兵士、いや同志が死ぬ度に弔ってるんですから」


 そうなのだ。あまりに遅いので何やってんだと思って一度サヨと様子を見に行ったら死した兵士を棺桶に入れながら号泣するペロ帝国の兵士達を見た。数日観察したがもう一時間毎に泣いてんじゃないかっていう有様だ。ちなみにアホ達が泣いている間はあの偽者が一人でフォース王国の兵士達を相手に無双していた


「いつまでかかるか分かったもんじゃない、そうよ!クソ女のゾンビ達が攻めればいいのよ」

「あー……それ私も考えたけどヨーコお姉ちゃんがダメだって」

「罪の無い住民が一部残っているみたいですから……」

「残っている住民は戦う意思があるのよ、その住民の覚悟を無駄にしないようについでに殺せばいい」

「良いこと言ってる様で言ってませんよ!」

「まぁまぁ……どうやらペロ帝国の援軍が徐々に増えてる様なので進軍速度も上がると思います。せっかくここまで待ったので王都が戦場となるまで待ちましょう」


 土地なしの分際で援軍あるのか……そういえば宗教みたいにペロ帝国の兵士は何処にでもいるんだっけか……各国に変態が潜んでいると考えると世界はなんて危険なんだ


「案外残ってる住民ってペロ帝国の者だったりして」

「「「「…………」」」」


 軽く発言したんだが皆して何だって?という顔をこちらに向けてくる


「案外残ってる住民ってペロ帝国の者だったりして」

「確かに大事な事なので二度仰っても大丈夫です」

「残っている住民は何故か男ばかり……ヨーコさんの言う通り義勇兵として戦うと思ってましたがなるほど……」

「戦うつもりならすでに兵として参加する者も居るはずですし」


 なんか知らんが私は良い発言をしたのだろうか……ウチの頭脳担当組が色々と作戦会議をしている

 リーダーであるこの私を放置とは良い度胸だ。マイちゃんアタック食らわすぞ


「今から説明しますのでマイさんアタックはお止め下さい」

「何故分かった……じゃなくて説明はよ」

「と言っても簡単な事なのでお母さんなら説明しなくても多分お察しになると思います。仮に残っている住民がペロ帝国の伏兵だとしたら?」

「なるほど、住民じゃないなら心置きなく丸ごと王都を荒野に出来るわね」

「そこまでは言ってませんがまぁいいです。しかし問題もあります」

「その場合数が不明な実験体達を私達だけで対処しなければなりません」


 わざわざペロ帝国が攻めてくるのを待つ理由の一つだな


「それに住民が兵士であるかを確かめる必要も有ります」

「……ふむ、なら調べましょう」

「何か思いつきましたか?」

「えぇ、じゃあ……ユキ、マオがお供しなさい」

「今からですか?……分かりました」


 と言っても残っている住民全てを調べるには少々時間がかかる。適当に数件調べて全員ペロ帝国の伏兵ならもう全部兵士と判断してもいいだろう。ただの一般人が混じってたとしても残ってる方が悪い






 という事でとあるお宅を適当に選んで来てみた

 もちろんサヨが事前に人が残っている家を選んでだ。コンコン、とノックをするとしばらくしてやや警戒した顔をしている男が顔を出した

 居留守を使う可能性もあったが、したらしたで怪しい事この上ない。


「……」


 一応出てきたが無言だった。玄関の前にはメイド服を来た女性と幼女、何故か一人だけ後ろ向きの少女という戦時中に現れる客としてはおかしい集団だからそりゃ言葉にも困るだろう

 とはいえ全員女という事もあるのか男の瞳が輝きだす


「な、何か?」

「……このお尻を見なさい。これをどう思う?」

「ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ」


 バタン


 大変お見苦しいので閉めた



☆☆☆☆☆☆



「やっぱり伏兵みたいね」


 数件調べはしたが、どいつもこいつも同じ反応だった。中にはかなりの高速ペロペロの持ち主もいた……あれは恐らく隊長クラスに違いない

 ……我ながら何考えているんだろう、と馬鹿らしくなる。まぁ確認方法が尻な時点で馬鹿らしいけど。それに引っかかるペロ帝国は大馬鹿だ


「私はこの世界はもうダメなんじゃないかと思います」

「なんでわたしのお尻で確認したんですかっ!?」

「でもホイホイ引っかかったから結果オーライよ」

「とりあえず一つ解決しました。後は実験体の数、これはまぁ調べるのは難しいでしょう」

「何でフォース王国は戦力を出し惜しみするかのぅ……ワシならさっさと強い奴を投入して戦を終わらせる方が良いと思うが」

「フォース王国はサード帝国に手の内をあまり知られたくない、馬鹿らしい理由ですがただそれだけかと」


 そのお陰で長引くし、住民も国外で避難し続けなければならない。あまり民の生活よりもサード帝国の方を重要視してると他国に行く者も居るだろう、というか今回の事で避難中に亡命した者も居そうだ


「実験体の一人や二人、いや何人出てこようがなぎ倒せばいいのよ……ヨーコが」

「え?」

「そうですね、結局オリジナルには勝てないでしょうし」

「……えー?」

「私はさっさと終わらせて旅を再開させたいのよ、見なさい!休んでばっかで堕落の道を突き進むぺけぴーの姿を」


 私が指差した先には横になってあくびをかましている駄馬がいる。最近でっぷりしてきてる気がするし、間違いなく筋力が落ちている。何とも昔の自分を見ているようだ


「……ぺけぴーを捨てて新しいユニクスを連れてくるのも手ね」

「捨てちゃだめ、食べる」

「ダメですよメルフィさん!?」

「……今なら筋肉も衰えてきてるし脂肪も増えてる。固すぎず、それでいて脂ものった美味しい肉が食べれるかも」

「くるっく!くるっく!」


 身の危険を感じたのか駄馬はその場でスクワットを始めた

 自分が普通の馬みたいに食べれる存在じゃないと気付いてない様子。堕落してたしここは黙っておこう


「それはともかくどうするの?ペロ帝国を待ってたんじゃ何時になるか分からないわ。それにこの間にも新たな犠牲者が実験されてる真っ最中かもしれないわよ」

「ぐ、卑怯、ですね……それを言われたら」

「私も協力するんだし大丈夫だよ!ここに居るのも飽きたしやっちゃおうよ!」

「……はぁ、分かりました」

「よし!いってらっしゃいっ!」


 …………


「流石にやや強引に予定変えたんですから手伝ってください」

「こんな可愛い少女に危険なことさせる気?」

「危険なのは貴女でしょ」

「何だとクソ女」

「まぁまぁ、流石に今すぐというのは止めて新しく作戦を考えましょう。流石に勢いだけで何とかなりそうな相手とは思えません」


 今更作戦と言ってもな……クソ女のゾンビ達が町で暴れて兵士、欲を言えば実験体を数体でもいいから誘き出す。その隙に研究所を攻める、そして破壊する。これだけだ

 ま、ユキ達のことだ……確実に成功する様に何かしら考えるつもりなのだろう。ここまで待ったのだから数日くらいなら我慢してやろう



☆☆☆☆☆☆



「何か珍しいものでも見える?」

「あ、フィーリアさん……空、というか星を見ていただけです」

「星ね……何か寒くなると澄んで綺麗に見える気がするわよね」


 少々夜更かしして読書をしているとき、ふと窓を見ると何やらヨーコが外でぽつんと空を見上げていた

 何か降ってきているとかそういう訳ではないが、とりあえず気になったので外に出て声をかけた訳だ


「こちらの世界は空気が綺麗なせいか良く見える気がします」

「そう、私は見比べ出来ないから残念だわ。今日も月が良く見えるわね、相変わらず手が届きそう」

「ふふ、私の世界ではその月に行った人が居るんですよ?」

「……月に?貴女、空の向こうがどうなってるか知ってるの?」

「少しですけど……空の向こうは宇宙って呼ばれています。そして地球の側、といっても距離は遠いですが似たような大きな星がいくつかあるんです。まぁ人が住んでるのは地球だけらしいですが」

「そうなの?」

「難しい事は分かりませんが、人が住めるのに適した環境なのは地球だけらしいんです。あ、地球というのは私の住んでた世界の名称ですね。住めない理由としては太陽の位置が関係してるとかしてないとか」


 ……何か引っかかる。別にヨーコの話におかしな所がある訳ではないのだが妙な違和感がある。何だろうか?


「あの星達を見て下さい。他の星に比べて大きく見えませんか?こう……線を書くと三角形になって、私達の世界、私達の国かな?うん、私の住んでた国では冬の大三角形と呼ばれてます」

「……は?」

「いえ、ほら……私は小さい時に呼ばれたからあんまり星座に詳しくありませんが、有名なのは知ってるんですよ、あれがオリオン座ですね。えっと、こー……線を書いて」

「……」

「あ……わ、分かりにくいですよね!?す、すいません……ど、どうしましょう?あ、紙に書けば」


 ……分かった。妙な感じの正体が。思わず思考停止してしまったぐらいの衝撃を受けてしまった

 ヨーコは気付いてないのだろうか?いや……気付いてないのだろうな


「紙って、有りますか?」

「ヨーコ……なぜ気付かないの?」

「へ?」

「……本当に分かってないのね、じゃあ言い方を変えましょう」


 私の様子がおかしいからか、ヨーコは若干不安そうな顔をしているが、別にヨーコがどうこうって訳じゃない。ただ明らかにおかしい


「ヨーコ、異世界から来た貴女が何故この星から同じ空が見えているの?」

「……ぇ?」

「さっき言ったわね?あなたの世界は空の向こう、宇宙を知っている。そして貴女の住む星以外に人が住める星は無いと」

「……」

「どうやら私は勘違いをしていた様ね。私は異世界ってのはこの空から見える星のどこかにあると思ってたけど……同じ様に太陽と月と星が見えて、同じ様な季節がある星は無い」

「……だったら」

「貴女の言いたい事は多分私と一緒、ここは貴女が住んでた星と同じ……つまり地球なんでしょう」


 となるとヨーコが何処から来たかって話だが、誰も知らない海の向こうって可能性は消えた。宇宙にいけるなら海の向こうくらい簡単に行けるだろう。だが異世界人は召喚以外では確認されていない

 考えられるのは……未来、もしくは過去から呼ばれた可能性だが。異世界とやらの精霊が死滅していると考えたら多分未来だろう


「平行世界だよ!」

「うおっ!?……ってアリスじゃない、急に出てこないで欲しいわ。で?平行世界?」

「仮にもちい姉に取り憑いている身だからね!話は聞かせてもらったよ、何か過去とか未来から来たんじゃないかって考えてそうだから答えを教えてあげたの」

「何で私の考える事が分かる奴が多いのよ」

「愛だねっ!でね、平行世界っていうのわー、まぁ過去で違う過程を辿った未来の一つって事だね。ヨーコの世界はここと同じ星だけど、精霊が生まれなかった世界なんじゃない?だから魔法も無い」


 ほほぅ……星は同じでも全く違う世界。分岐点で精霊がいない道を選んだ世界って事か。なるほど、アリスの言う事もあながり間違ってはいない……というか未来から来たって話より納得出来る


「しかし平行世界ってのが本当にあるのやら」

「あるよ」

「断言したわね」

「勘だけど」


 勘かよ

 でもそうなのかもな……人間は無数の未来を選べる。世界だって違う未来を選んだって不思議じゃない。平行世界か……ヨーコの世界にはきっと奇跡ぱわーなんて存在しない、となると今の家族にだって会えていない。そもそも人間しか居ない。奇跡ぱわーも多種族も存在していても、平行世界では出会っていない未来もある……そして私自身が存在しない事も


「となると……今皆といるのも奇跡なのかもね」

「だねっ!」

「異世界が……平行世界、ですか……そっか、なら私は……ちゃんと地球で死ねていたんですね」

「そう考えると少しは楽になった?」

「……うー」


 ダメだったらしい。まぁ星が同じでも世界は違うからなー……家族に知られる事無く死んだならそりゃ悔いが残るか


「予想外な所で良い話が聞けたわ、ありがとうヨーコ」

「はぁ、どういたしまして?」

「話のお礼に帰りたければ私が叶えてあげてもいいわ」

「……帰るって?」

「元の世界に」


 割と凄い話だろうけどあっさり言ってやった


 目を見開いてこちらを見る幽霊……たかが話の対価にしては破格だが、私には平行世界ってのが存在するというのが何だか重要な事と思えた。本当に何となくだけど

 すぐにお願いします、と言うかと思えばだんまりである。大体考えている事は分かるけどね


「……ありがとうございます。私が研究所を破壊し、兄を見つけたその時には……是非ともお願いしたいです」

「いいでしょう。今すぐ帰りたいなんてつまんない事言われなくて良かったわ」

「言いませんよ……他ならぬ自分の身体がこの世界の迷惑になるかもしれないまま帰るのは何だか癪ですから」

「上等。ならば貴女の破壊活動を高見の見物させてもらうわ」


 お互い不敵に笑いあう。この調子なら派手にやってくれるだろう

 さて、そろそろ眠いし部屋に戻ろう。元々睡眠が不要なヨーコはそのまましばらく星を観察すると言うので私とアリスだけで戻る


「うへへへ……今夜は寝かさないぜお譲ちゃん」

「黙れオヤジ」


 付いてくるって事は一緒に寝る気かコイツ……でもまぁいいか、平行世界の話を教えてくれた事に免じて許してやろう

 ベッドに寝ると案の定潜り込んできた。くっついてくるのが鬱陶しいので蹴飛ばして離してから私は眠りについた

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