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幼女と偽者

 シリアナという下品な名前した先代の遺産が投げ寄越した女、私達の標的だったネクロマンサーはほっといても少し待てば死ぬんじゃないかってくらい弱っている。死にかけなんだから当然だが

 女とは少々意外だったが、人間社会に紛れ込むには肌の色が目立つ男悪魔よりはうってつけか。ぜぇぜぇ息するのがやっとみたいで、倒れた場から全く動かないし喋りもしない


「ち……あんまり痛めつけられそうにないわ、これじゃメルフィの気が済まないわね」

「どさくさに紛れて私を外道の仲間入りさせないで欲しい」

「一度回復してからまた痛めつけるという手も」

「ふむ、その手の拷問は良くある事だしつまらないからいいわ」

「どっちが悪魔じゃ」

「わたしが悪魔です」

「自分からバラすなアホ」


 この場で聞かれてはダメな部類に入るのは偽者だけなので、アホの娘は必死に「わたし悪魔違うです!」とアピールしているが当の本人は完全に無視して私の方を見ている。聞いちゃいないんだから止めろ、見苦しいと一喝しておいた


「でも人違いならぬ悪魔違いをしていたら困るからゾンビを操っていたのがコイツだって確証は得たいわね」

「ああ、それならそこのゴミで間違いないですよ。私がゾンビを逆に利用しようと操っていたら、邪魔するなとそこのゴミが現れたので」


 答えは何が楽しいのか面白いものを見る様に笑いながら言う偽者から出てきた

 何て鼻につく奴だ。さっさとどっかに行けばいいのに


「ご丁寧にどうも。で、コイツはやっぱり悪魔?」

「悪魔じゃな」


 マオが悪魔だとあっさり見破ったルリが言うなら間違いないだろう

 悪魔と手を結んでいるのがバレると色々厄介になるというのに度胸のある事で……しかしこれでほぼ確証は持てた、こいつがメルフィの両親含めたフォース王国の住民の死体をアンデッド化した張本人で決定だろう

 じゃあ殺すかと思い、ここはメルフィの手で止めを刺す様に言おうとした瞬間、目の前を黄色い物体が飛んでいった。どう見てももっきゅんです


「なにごと?」

「いえ、例の者に不用意に近付いたもっきゅんが殴り飛ばされた様です」

「過度な女好きは身を滅ぼす良い教訓ね」

「もしや二代目様のお仲間でしたか?魔物でしたので思わず殴ってしまいました」


 別に仲間ではないが役に立ちそうなので数は減らしたくない。殴り飛ばされたもっきゅんは小刻みに震えてる所を見ると死んではいないようだ。


「今度から相手を選んで近付くことね」

「も……き……」


 何か息も絶え絶えだが死にそうって訳でもない。目は妙に爛々としてるし恍惚とした表情、むしろ喜んでいる様に見えるのは何故だろうか……


「あなた達にとって女の子に殴られるのはご褒美なのね」

「もきゅっ」

「良い返事すんな」

「知られざるもっきゅんの性癖を発見しましたね」


 何て意味の無い発見……ギルドに出向いて「もっきゅんは女の子に殴られるのはご褒美」と項目に追加してもらえと言うのか、ノエルじゃなきゃ冷やかしと思われて追い出されるな




「先程から殺すだ止めを刺すだの言いながら、魔物なんぞで遊んで殺さない様なので代わりに殺しておきますね」


 偽者の言葉が聞こえて待て、と言う前にどこから取り出したのか杖で悪魔の頭を粉砕したのが見えた。血溜まりができ、頭があった部分にはピンク色した物がはみ出ており、精神が弱いものならしばらく肉が食えないであろう光景があった


 何て事だ……痛めつけるのも止めを刺すのも持ってかれてしまったじゃないかっ!


「……お母さん」

「ええ、もっきゅんのせいよ」

「もきゅっ!?」

「いえ、そうではなく……あの者が持っている杖、長さこそあっちの方が長いですし色も違いますが」


 杖?

 ユキの説明を聞くより見たほうが早いので偽者が持っている杖をじっと観察してみる。

 赤い杖で先は丸い水晶っぽいものが付いており、その回りには凝った作りの天使の羽が付いている。……これはひょっとしなくても奇跡すてっきの格好いいバージョン!


「このクソ偽者め……標的を横取りした上に私より格好いい杖を持つとは許し難い!」

「この悪魔は元々私の獲物でしたけど?それに私の杖は所詮は偽者です……オリジナルを持つ二代目様の方が私は羨ましい……」


 ……なるほどなぁ、こいつが気に入らない理由が何となく分かった。最初から私を通して先代を見ているのだこの偽者は……ペド・フィーリアなんて存在はどうでもいいのだろう、コイツにとって私は過去を思い出し懐かしむためだけの道具だ


「そんな目で私を見るとは腹立たしい……」

「あら……嫌われてしまいましたか?……そこにいるゴミに比べれば私の方がお役に立ちますのに」


 ゴミと称されたのはサヨ

 気付いてないわけ無いか……自分と似たような存在に


「創造主に聞きました。あなた……捨てられたのでしょう?まぁそれはあなただけに限った事ではありませんがね。無様です……実に哀れです。創造主に不要とされたら今度は二代目様に尻尾を振りますか、結構なことです」

「……あなたは捨てられてないとでも?」

「もちろん。あなたと違って私は最期までお供をしましたよ……そう、最期まで」

「へぇ……それは良かったですね」

「えぇ、私はあなた達負け犬と違って色々と授かりました。力、知識、名前、この杖……」

「あなたの自慢話など聞いてられませんね」


 ……名前?あの先代が偽者に名前を与えた?

 うーむ……信じられん。私の中で先代は孤独ってかっこいいと思ってそうなくらい独りが好きそうな女だ。僕Aとか名付けたなら分かるが


 とか考えている場合ではない、どう見ても喧嘩売ってる様にしか見えない偽者の挑発にサヨが乗らない事を祈るが……あれであの娘も先代スキーだから嫉妬で襲いかかってもおかしくない


「……同じ顔を持つなど不快で仕方ないので殺してあげたい所なのですが、今は別の遊びをしているのでこの場は去りますよ」

「こちらの台詞です……自慢好きの偽者さん」

「ゴミのくせに調子に乗らない様に、今度は二代目様にゴミ箱送りにされない様に……ふふふ」


 どうやらあっちの方が勝手に去ってくれるみたいだ

 しかし私の妹にずいぶんと好き勝手言ってくれたな……戦いはしないが少しは反撃してやりたい


「では二代目様……その内遊んで下さいませ」

「先代を崇拝しているくせに何で名前を変えてシリアナなんて名乗ってるのか気になるわね」

「……それは私の勝手です」

「へー、ふーん……神の如く尊敬する者に与えられた名前……私なら変えれないわ。でもお前は変えれるのね」

「何が言いたいのです?」

「別に?ただ、名前を知りたいだけよ……さぞかし素敵な名前なんでしょうね」

「……御機嫌よう」


 杖を一振りすると、偽者の姿は掻き消えていた。結局名乗らなかったが、あの様子では口にし難い名前だったと想像できる。だが先代から貰った名前だから捨てる事も出来ない……だから偽名を使っているのだろうな


「今回は戦わずに済みましたが、次会ったらどうなるか……」

「会わなきゃいい、と言いたい所だけどまた会うでしょうね。まぁ次会ったら殺せばいいわ」

「面倒くさがりな主殿がやけに好戦的じゃな、少し前まで避けるとか言っておったのに」

「標的を横取りされた上に私の妹を馬鹿にするとは許せん、何より私を見る目が気に食わない。勝とうと思えば勝てる相手よ、ただし気絶は不可避ね」

「お姉様、アイツは私にやらせて頂きたいのですが」


 言うと思っていたが、実力としてはあっちの方が上と見える。先代が与えた力ってのがどんなのか知らんけど……

 サヨの顔を見ながら二人が戦った場合どうなるか少し考えて見る……何となくサヨが勝てそうではあるな、勘だけど


「まぁいいわ、先手は譲るけどくれぐれも不甲斐ない戦いはしないでね、次に会うのがいつか知らないけど」

「勿論です。ドッペルの怪談では本物が殺されるみたいですが、アイツと私では生き残るのは私です」

「口だけで終わらなきゃいいわね」


 会話が終わってすでに死体となってしまった悪魔の女を見やる

 亡骸の周りには悪魔とはいえ貴重な女性が無残な姿になったことを嘆くかの様にもっきゅん達が取り囲み悲しみに暮れている。きっとろくでもない理由で悲しんでいるに違いない

 今ここに来た者が居るならもっきゅんが殺したと勘違いしてもおかしくない光景だ


「姉さん」

「また何かあったぁ?」

「嫌そうな顔をしないで欲しい……サヨ姉の偽者がゾンビを逆に利用するって言ってたから何か仕掛けしてないかと精霊達に頼んで調べてもらったら……その、衝撃の事実が……ごくり」

「何故焦らす」

「演出。簡単に言えば爆発する様に体内に何か埋められてるみたい」


 何だ爆発か。町中でやる事といえば爆発か病原菌撒き散らすとかそんなもんだろう。しかし住民がすでに避難しているので爆発物を仕掛けることを選択したと見える

 目的は陽動、もしくは食料庫、王都辺りに向かわせた後城門を爆破で破壊するとかそんなもんか


「でもメルフィの両親が含まれていたら困るじゃない」

「そこはお姉ちゃんの出番じゃないですか?」

「私にフィーリアゾンビを探せと」

「それだと嫌な女のゾンビが復活する」

「うむ、全くじゃ。うむうむ」


 この二人は相変わらず先代の事が嫌いな様子。それほどの仕打ちを受けたって事だけど

 どうせ誰も居ない町だし、ここで休憩するつもりで宿を勝手に拝借したあとに気絶すればいいか……


「分かった、じゃあ宿屋を借りてから実行する」

「馬車でもいいのでは?」

「タダで宿を使えるんだしいいのよ」

「……まぁいいですかね。ではその様に、ちょうど良く護衛に使えそうな黄色い生き物が居ますので外の警護は任せましょう」

「もっきゅん」

「あんたら素直よね、ホントに魔物かと思うわ」

「魔物にも色々ありますよ、別に友好的な魔物が居てもおかしくありません。乗り物として調教する魔物も居るくらいですしね」


 飛竜とやらに乗る軍隊もあるらしいな、まぁ幻獣であるグリフォンに乗った私にはもはや興味ないけど

 宿屋は一般家屋に比べて大きいのですぐに見つけられる。一番近い宿屋に行き、誰も居ない事を念のため確認してから拝借する


 どうせならと一番高級そうな部屋を見つけ、そこで実行する事にした

 メルフィの両親を見つける方法だが、転移符を使って負担を減らしつつ面倒だからいっそこの場に呼び出してしまおう、という結論になった


「メルフィの両親を呼んだ後、私が気絶している内にまた埋葬しなさい。今度はちゃんと火葬した後に別の場所に埋葬するのよ」

「わかった」

「私が転移で安全そうな場所にお連れ致します」

「えぇ、そうしてあげて。じゃあメルフィと転移係りのユキと……穴掘りが得意なマオで行って来なさい」

「特技が穴掘り……かっこ悪いです……」


 座椅子と穴掘り、そして尻。うむ、見事に碌なものがない、それでこそマオだ。一応舞もあるが、未だ自分から披露しないという事はまだまだなのだろう


 じゃあやってしまうか……何と願えばいいんだろう。えーと、メルフィの両親である私の親戚達の身体をこの場に呼べと言えばいいか


「ゾンビになってるメルフィの両親の身体ここに来ーい」

「え、軽っ」


 ちゃんと心の中ではちゃんと願ったからいいのだ。今回は移動するんじゃなくて呼び出すのだが、転移符はちゃんと補助として役に立つだろうか?

 高級そうだけあって中々にふかふかなベッドに寝転がったまま気絶タイムに突入した



☆☆☆☆☆☆



 気絶から目覚めると夜だった。日付が変わって無ければ数時間の気絶か……転移符は効果無かったのかもしれないなぁ……奇跡ぱわーのさじ加減は良く分からん


「お目覚めになられましたか、お疲れ様です」

「サヨだけ?」

「あのお三方はご命令通り埋葬に行ってます。ルリさんはアリスさんに遊ばれてその辺を逃げ回っています」

「て事は成功したか……まぁ当然だけど。にしてもアリスはいつも元気ねぇ」


 そして元気なアリスとは逆に心なしか元気のないサヨ、大方あの偽者に言われた事を気にしてるんだこの馬鹿は


「なに?先代に色々与えられたアイツが羨ましい」

「いえ……先代に与えられずとも私はお姉様に色々頂きましたし、気にしてはいません」

「もっと上手く嘘はつくのね、貴女は少なからずアイツに嫉妬してるわ」

「そう……かもしれません」


 あー暗い暗い、外も暗いのに部屋の中まで暗い雰囲気になっちゃたまらんわ

 こと先代の事となると精神が弱っちくなるなぁこの娘は


「あの、やっぱり先代に創られた私達は……あの者以外失敗作で、捨てられたのかと」

「つまんない事言うわねぇ……サヨ以外は知らんけど、少なくとも貴女は先代に愛されていた部類でしょう」


 え?と間抜け面するボケの娘。いかに私の言う事とは言えまだ信じちゃいないご様子。だけどすでにサヨが先代にとってゴミの様な存在ではなかった事は証明されている


「何の根拠があって?とか思っているでしょう……教えてあげる。私が貴女を殺す為に奇跡すてっきを突き立てた時、この子は貴女を生かした。それが答えでしょ」

「……はぃ?」

「鈍い娘ねぇ……奇跡すてっきは誰よりも長く先代に付き添った杖よ。一番先代の事を知っているのはきっとこの子……仮に偽者が言った様に先代が貴女を創ったはいいけど失敗作のゴミでどうでもいい存在だった場合、奇跡すてっきが貴女を助ける訳が無い」

「……そこまで、言われてません」

「多少のツッコミは出来る様になったみたいね。ま、そういう事よ……この子が貴女を助けたいと思うくらいには、貴女は先代に愛されていたって事」


 今は私の相棒となっているすてっきを撫でる……力を使うのは先代だが、この相棒はその補佐をする。少なからず先代が何を想ってサヨ達を生み出したか知っているはず

 ユキが負傷した時に勝手に出てきた事といい、創造主が大事に想っている存在はこの子にとっても大事な存在であるに違いない


「少しは気が晴れたのならご飯でも作ってちょうだい。宿なんだから厨房はあるでしょ」

「……腕によりをかけて作らせて頂きます」

「メインは?」

「メロンです」


 だと思った、とどちらともなく笑いが生まれた。笑いあっていると、ふと横目でドアを少し開けニヤニヤしながらこちらを見てる幽霊とペットが見えた。後で制裁を加えてやろう

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