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幼女と相容れぬ娘

「ドッペルゲンガー、遭うと死ぬ」

「そう……サヨ、今まで世話になったわ」

「死にませんよ……まだ私は見てませんし。仮に遭遇した所で死ぬのはあちらさんです!」

「実際のトコ死ぬのはどっち?」

「さあ……?ドッペルゲンガーなんてただの迷信。まあ死ぬのは本物の方だと言われてる」


 メルフィの話が本当ならドッペルゲンガーに遭って生きてる人間は居ないって事だ。なら実際に遭ってどうなるか知ってる奴なんて存在しない……


 そもそもドッペルゲンガーなんて存在しない可能性の方が高い。迷信というかただの怪談話だし

 サヨの偽者は先代が生み出した奇跡人という説の方がやはり信用出来る

 何で今こんな話をしてるかと言えば当然暇だからだ。予定通りまず国外まで転移したあとゾンビ集団をかなり離れた位置から追尾しているのだが、速度が遅すぎて欠伸がでる




「そろそろ見つからないの?」

「いえ全く……あー、悪魔らしき者は見つかりませんが、おかしな物なら」

「おかしな物?」

「一定の間隔で妙な魔力が配置されてますね。どうやら地中に埋め込ませてるみたいです……もしかしたらそれで遠くからゾンビを操ってるのかもしれません」


 遠隔装置か……遠く離れた位置から操れるならこの辺にいるわけないな。ならゾンビ集団を追尾するんじゃなく戦闘が始まってる場所付近に行った方がいいのか?


「遠隔操作してるものを破壊するのはどう?」

「一つだけ破壊しても罠かと警戒して出てこないと思います。かといって片っ端から破壊しても何処に現れるかわかりませんし……」


 この口振りだと遠隔装置とやらは結構離れた間隔で埋められているようだ。どうしたもんか……


「全く……こんな役に立たない一般人のゾンビを何で使うかねー」

「そこですね。役に立たない上に戦場から離れた位置の田舎のアンデッドまで何に使うのか私にも分かりません」

「壁にはなると思うが、この遅さじゃ戦場に到着する頃にはかなり被害が出た後じゃろうな」

「なら別の事に使うんでしょ」

「ですよね、うーん……」

「アンデッドの事なら同じアンデッドのアリスに聞いたら?」

「し、失礼なっ!?私は可愛い可愛い幽霊ちゃん!!」

「死んでるんだから一緒よ」


 てか私達は別に戦争に参加してるわけじゃないのだから難しく考えなくてもいいだろ

 私にも当てはまる気もするが、サヨは気になる事に変に考え込むクセがある……アホの娘を見習え、全く興味持たずに蜂蜜に夢中だぞ


「マオ、一人蜂蜜に夢中みたいだけどほどほどにしなさいよ」

「お姉ちゃん達みたいにゾンビさん何か見てられないです」

「マオちゃん怖がりだから」

「ぐ、見てても面白くないだけですっ!」


 もうマオが怖がりだって皆知ってんだから強がってもしょうがないのに……


「何ですかその生暖かい目は……っ」

「いえ……マオは可愛いわねーって」

「な、何をいきなりゅ!?」


 んな事言ってたら外から割と大きな爆発らしきうるさい音が聞こえた。

 敵襲かと一瞬身構えたが、実力有る組が全く動く気配が無いのでどうやら違うらしい……何事かと御者をしているユキに聞いてみると


「進行方向にもゾンビがいたので邪魔だから吹き飛ばしました。決してお母さんとマオさんのイチャイチャを邪魔した訳ではありません」

「それは自分から暴露してる様なもんよ。一応コッソリ行動してるんだから少しは考えなさい」

「大体もしも吹き飛ばしたのがメルフィさんのご両親だったらどうするのですか……」

「大丈夫です。ちゃんと腐敗加減をみて大分前の死体と判断してから吹き飛ばしました」


 あっそ……

 もはや何も言うまい、今ので敵さんが現れるにしても標的が出てくる可能性が高いとか判断したんだろう


「ちい姉、ちい姉」

「今度はアリス?なによ」

「ここは国外で私達が移動してるのはかろうじて馬車が通れる山の獣道だよ?」

「そうね、私達の様に強化しないと馬車は通れないだろうけど」


 結界を張っているから気にしなくていいが、進む度に大小問わず木の枝がバシバシ当たっている。普通の馬車なら当然傷だらけか損傷してる


「何でこんなとこにまでゾンビが居るのかなっ」

「何でって……何で?」

「私に聞かないで下さい」

「こっちの方が近道なんじゃないですかぁ?」

「ふむ……アホの娘のクセにそこそこ良い回答したわね」


 確かにこのまま山を下って進めばフォース王国の西側付近に着きそうだ。地図を見なきゃ分からないが、面白い事にフォース王国は見事に端から端まで傾斜で表記されている

 私達が今いる東側から西側まで連なってる山は段々高低差が低くなっている。多少上りもあるが大体下りばかりだ


「水じゃな」

「どうしたのルリ、お漏らしでもした?」

「ワ、ワシは童子ではないのじゃっ!?」

「あー……なるほど、水というか川ですか」

「頭良いですってアピールする連中はとりあえず自分だけ納得してから説明に入るわよね?死ねばいいのに」

「え、ひど……コホン、では一応ルリさんから得たヒントで考えた私の推測を説明致します。

 簡単に言いますと、長期に渡る戦争となると補給がもちろん必要になります。フォース王国はともかく、ペロ帝国の方は土地すら持たないとの事なので物資はあまり無いかもしれません」

「つまりある程度は現地調達に頼るという事じゃな」

「……それでか、食料はともかく飲料水の確保の為に川を利用する」

「腐敗の酷いゾンビを川に放り込んで汚染させるつもりだったかもしれませんね。こっちが上流になりますし」


 いや、この辺に限らず先の先まで片っ端から川にゾンビを放り込んでいると思われる。何せ役に立たない一般人ゾンビだ、汚染以外使い道が思いつかない


「いやー、正解か分からないけど疑問が解けて良かったわね。じゃ、引き続きネクロマンサーの捜索宜しく」

「分かった所で何もしない、まさに外道」

「関係ない話だもの」

「ワシとしては水を汚すバカ者は許せんのじゃ」


 戦争が終われば元の川に戻すだろうから放っておけばいいのだ


「フォース王国側は川を汚染されても平気なんですか?」

「ん、地中深くの地下水を汲み上げてるハズだから多分平気」

「国内全てですか?」

「私の村はそう。大きな町は知らない」


 ふーん。ならそのペロ帝国も地下水脈にゾンビ放り込めば平等だな。どっちも汚染されて飲料水に困ってお互い様だ


「けど魔法で水出せば良くない?」

「魔法使いが何人いるか知りませんが、兵士全員分となると厳しいです。そんな大人数の飲料水作ってたら戦闘時に魔力が足りませんよ」

「そっか、あんたら基準で考えてたわ」


 さて、それじゃ王都付近まで速度を上げて移動する事にしよう

 どうせ一番安全な所から操ってるってパターンだ。守りが固い王都周辺のどこかな気がする


 一応隠れて山中を走っていたが、速度を上げる為に一旦道に出て進む事にした。もちろん気配を遮断する結界は張ってからだ



★★★★★★★★★★



 流石馬鹿みたいな広さを誇るフォース王国、走り続けてかれこれ十日は経とうと言うのにまだ中心部までほど遠い……こりゃ確かに遠隔じゃなきゃゾンビを操るのは面倒だわな

 当然ながら標的は未だ現れずだ。あのサヨの偽者にも会うことは無かった、あるある展開ならすでに出会ってバトルしてそうなのに拍子抜けである


「魔物も襲ってこないし……」

「何を贅沢な……良いことではありませんか」

「……言ってよいか?魔物が襲ってこないのではなく、何やらもきゅもきゅ言ってる生物が何故かワシらを守っておるのじゃが……」

「モッキュンとか言ったわね。女子には優しい紳士な魔物よ、感謝しなさい」


 どこからやってきたのかいつの間にやらモッキュンの群が馬車を囲む様に整列して道中現れる魔物を駆逐してくれている

 かと言ってこちらにはノータッチ、相変わらずの紳士っぷりだ。フォース王国周辺にも居たんだな


「こうも友好的ですと利用出来そうですね」

「えー?可哀想ですよ……こんなに可愛いのに」

「……可愛いか?」


 可愛いかはともかく、確かにいざって時に何かの役に立ちそうではある。何故か私達の言う事を聞いてくれるし――



「激しく殴り合うモッキュンが見たい」



 ――壮絶な殴り合いが始まった。しかも群全体による乱戦だ……勝ったからって何もないのに見た目に反して鬼気迫る表情でマジ殴りをしている

 どうやらモッキュンは仲間より女の方が優先度が高いらしい


「な、何てお願いしてるんですかっ!?」

「いや、どこまで聞いてくれるかなぁ……って」

「とりあえず殴り合いを止めさせましょうよっ!?」

「それなら私に任せて!」


 言い出したのは我が家の幽霊ことアリスだ。普段が普段なだけに皆胡散臭げな目をアリスに向ける……哀れな


「私、喧嘩するコって嫌いっ!」

「「「「もきゅっ!」」」」


 モッキュン達は一斉に殴り合いを止め、皆で肩をくんで仲良しアピールを始めた。

 アリスの言葉でもちゃんと言う事を聞くのは些か意外だった……どうやら女なら幽霊でもいいらしい。節操のない魔物だ


「殴り合いさせといて喧嘩する者は嫌いとな……主殿達は理不尽じゃのぅ」

「確かに、お詫びとしてルリを全裸にひん剥いてモッキュンの群に投げ込みましょう」

「しょせん魔物じゃ、扱いなぞ雑でよいな、うむ。主殿はいつも正しい」


 そそくさと安全なメルフィの背後に隠れようと移動しながらヨイショする幼女……この情けない幼女、大精霊である


「ん?」

「その反応はついに怪しい気配を察知したって事ね」

「いや、まぁ……そうですけど。もっとこう、どうしたの?とか」

「話が早い方がいいでしょうが。で?標的は?」

「ここから数十キロ離れた位置に人ではない気配があります……が」


 が……ときたか

 何か問題が発生したのだろうか……例えば悪魔が一体ではなく複数いるとか。負けるとは思わないが強さの基準を舞王クラスにして考えると危険極まりない


「その何者かですが、大分弱っています。もう一つ良く分からない気配があるのでソイツが手にかけたのかと……もうすぐ死ぬんじゃないですかね」

「私達に殺される前に死ぬとは聞き捨てならないわ、早く行きましょう。死にかけだと大して痛めつけられないでしょうけど止めはささなきゃ」

「分かりました。ただ、もはや風前の灯ですので転移で行きます」

「仕方ないわねぇ……」


 ただ、何で瀕死なのかは不明だ。何かこう……面倒な事になるんだろうなぁって雰囲気がする

 すでに面倒の正体は何となく気付いてる。あの偽者だ……断言は出来ないがまず間違いない。アイツが標的に手をかけているのだとしたらフォース王国の者ではなかったという事か


「どちらが勝負を仕掛けたか分からないけど、やっぱり悪魔程度じゃあの偽者には勝てないか」

「……お姉様が見たドッペルとやらがそこに居ると?」

「勘ではそう言ってる」

「ならばそうなのでしょう……でしたらどうします?厄介になりそうなら避けた方が良いと思いますが」

「そうね。それが賢い選択でしょうね。けどメルフィの最後の両親が関わっている以上避けはしないわ」


 あわよくば両親を探させようと思っていたが、まぁ無理だろう

 もしもの時は奇跡ぱわーで両親を見つければいい、私達が厄介な事に関わる理由はただ一つ、私の家族の身内に手を出した馬鹿者をぶん殴ってぶっ殺すのみ


「きっとサヨの偽者の方が気になると思うけど、標的は死にかけの方よ。分かったわね?」


 家族の顔を見渡すと皆こくりと頷いた。よしよし


「じゃあ行きましょう」


 私の合図を聞いてサヨは転移魔法を開始した。

 慣れたもんで何も問題ないと思われたが、すでに忘れていた外に居る紳士共が逃がさんとばかりに馬車に張り付いてきた。


 ……着いてくる気か



★★★★★★★★★★



 転移した先はフォース王国のどこかにあるであろう普通の町。

 標的のすぐ側に転移したので件の人物を近くに居るのをすぐ発見できた。とりあえず馬車を降りて様子を伺う。モッキュンが割りと邪魔だった


 そこに居たのはやはりサヨの偽者とネクロマンサーらしき女……悪魔というより人間っぽいが、女性悪魔は人間の容姿に近いと聞いたっけ?マオだって人間みたいだし悪魔と考えてよいだろう

 標的は偽者に首を掴まれ、いや絞められ?まぁどちらにせよ殺される寸前だ。出血量からしてすでに意識は無いかもしれんな


 皆は見たこと無かったからか、サヨの偽者を自身の目で見て驚きサヨと偽者を交互に見比べる。さっき標的は死にかけの方と言ったのにもう忘れたか

 だが当のサヨはなんら気にした風でもなく偽者を見ていた


「……どちら様でしょう?」

「貴女に用は無い。その死にかけを寄越しなさい」

「もしや、フォース王国の方でしょうか?」

「違うわ、いいから寄越しなさいな。どうせ殺すなら私達に殺させなさい」

「おや、この者に何か恨みがあるのですね。分かりました、お好きになさって下さい……二代目様」


 ……こんにゃろ、私の事がすでに分かっていやがるじゃないか

 だがあっさり標的をこちらに渡してくれたのは助かる……一応コイツが何者か先に聞いておくか


「私の事を知っているなら貴女の事も教えなさい」

「……あまり公言するなと言われてますが、まぁいいでしょう。どうせ遊びで手を貸してるだけですし……では改めまして二代目様、私は現在シリアナと名乗っている者です。以後お見知りおきを」


 ……シリアナ

 以前考えていたペロ帝国で一番厄介そうだと言っていたあのオバサンの妹……現在って事は元々はサヨ同様名無しか別の名を名乗っていたのだろう


 しかし……コイツ、サヨと同じ顔で同じ様な雰囲気なのに……

 何か懐かしむ様に私を見る目に敵意はない、私以外の家族に手を出す事も無い、放たれる言葉もどこか優しげ……ムカつく要素が何一つない


 だと言うのに何か気に食わない。ああ気に食わない……勘に頼らずとも一目見た時からある言葉が心の中に浮かんできた


 コイツは絶対に相容れぬ者だ、と

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