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幼女、墓参りをする

 という事でメルフィの生まれ故郷である村まで来た

 当然と言えば当然だが人の気配はない。ただし動物ならそこらをチョロチョロ動き回っている

 首輪を付けている動物も見かけるが、ひょっとしなくても置いていかれたペットのようだ


「ふむ、人も居ない家もなんかボロっちい。廃村と間違われても不思議じゃないわ」

「いくら姉さんでも流石に失礼」

「いやー!何か幽霊の私にはおあつらえ向きな村だねっ」

「どこの国にも格差ってものはあるのですねぇ」


 酷い言われようなこの村は本当に廃村みたいだからしょうがない

 家はただ木を繋ぎ合わせただけって感じの家ばかりだし、道は凸凹、草も生え放題……どこが道なのかも分からない始末。これなら鬼の里の方がまだマシな暮らしをしていたと思う


 家すらこんな状態なら食料だってままならなかったろうに……メルフィの両親は娘を太らせるほどの食料をどうやって確保したのか……


「よくこんな村で食料調達できたわね」

「ここは国の外れだけあって近くにすぐ山がある。そこから食料は調達出来た」

「山って……魔物だって居るでしょうに」

「魔物も食料」

「逞しいわね」


 まあ私達も魔物食ってるけどね、もちろん食べれるヤツだけだが。こんな何もない村だ、逞しくなくっちゃ生活出来なかったんだろうな


 メルフィに案内してもらいまずは実家を目指す。墓は共同墓地というのが在るそうでそこに両親も埋葬されたとの事。これはどこの町も似たようなもんだ

 そして大した時間もかからず実家とやらを発見した。何も無いので馬車のまま進んだので割と早くメルフィの実家に着いた。メルフィの実家も他と同様オンボロ……いや中々に趣のある家だった。うん


 この人数が入ると割とスペースが無さそうだが、入ることは入るのでメルフィが入った後に続いてお邪魔する。

 中に入るとタンスとお粗末なテーブル以外特に何も無かった。まぁ私も生活するだけならこの程度あれば十分だし笑う気はない。


「本当に雨風をしのぐだけの家って感じね」

「ん、期待してたならごめんさない」

「いいわよ、貴女の生活っぷりを見たかっただけだし」

「とりあえずメルフィさんは必要な荷物をまとめて下さい」

「わかった。……そんなに荷物とか無いけど」


 だろうな。タンスの中にあるもの以外持っていくものなんか無いだろう

 好奇心からタンスの一番下の引き出しを開けてみると……


「デカパン発見」

「あぁ……太ってる体型に変化してた時の下着でしょう。今は穿けそうに無いので要りませんね」

「マジマジと見るのは止めて欲しい」

「何じゃ……こんなもん身に付けておったのか?どれだけ太ってたのじゃ」

「頑張れば二人で穿けそうだねっ」


 穿いてどうする。これはユキの言う通り不要な物だな

 しかしこの分だと大きいサイズの服しか無さそうだ……なら持って行くものがあるとしたら……


「両親の遺品だけ持っていけばいいか」

「そうですね。で、その遺品とやらは何かありますか?」

「特には……二人が生前着てた服くらいしかない」

「形ある物が残ってればそれが遺品よ。ならその服を持っていきましょう」


 タンスから取り出したのはお世辞にも普通の服とは言えない継ぎ接ぎだらけのボロい服……ズボンとセットなのが父、スカートとセットなのが母の物か……

 タンスから出てきたのはこの二着だけ、両親がどれほどメルフィの為だけに生きていたのかが良く分かる


 だからこそ自分達が飢え死にするのもお構いなしでメルフィに食事を与え続けた事が分からない……死後、残されたメルフィの事を全く考えていなかったって事は無いと思うのだが



『……フィーリア家は代々短命。先代は何の代償もなく力を使えた。でも実は先代の代償を一族が払い続けてるとしたら……』



 ふと、いつか夢の中で自分が言っていた言葉を思い出した

 あれは夢だったのだが、生前の事なので当然顔も知らぬ祖母も例に違わず早く亡くなっている……祖父も亡くなっているがフィーリア家の者では無いのでこれは偶然だろう

 もしかしたら私の先祖達は皆早死にしてるのだろうか……夢の中の母はそう言っていたが。こんな事ならこの前会った時に聞いておけばよかった


 しかしこの話が合っているのならメルフィの両親は自分達がすぐ死ぬと知っていてあの様な行動に出たと考えてもおかしくはない。自分達の亡き後の娘を身を案じるか……良い話だなー

 メルフィが実は結構な実力を持っていると知ってればわざわざ醜く太らせようとは思わなかったのかもしれないが……もはや後の祭りだな


「可愛い娘を持つってのも大変なのね」

「え?可愛い娘って自分の事ですか?」

「そうそう。違うわよアホ」


 狭い家なので探索はすぐに終了した。というかタンス以外何処を探せと言うのだ。床下か?


「メルフィ、もうこの家に用がないなら墓参りに行くけど?」

「それでいい」

「なんじゃ、休憩無しか」

「馬車の中に居る内は常に休憩でしょうが」

「それもそうじゃな」


 さて、メルフィの実家はどうしようか?再び戻ってくるつもりならこのまま残しておくけど……


「メルフィ、旅が終わったあと家に戻る気はある?」

「……戻らない。私の家族はここに居る皆、なら死ぬまで皆に付き合うつもり。と言うかその為に形見の品を持っていくんじゃないの?」

「そうよ。でもひょっとしたら帰ろうと思ってるかもって」

「家には戻らない。けど……たまには墓参りに来る」


 それは良いことだ。というか当たり前の事だな、私だって墓参りくらいはしている。先祖が居たからこそ私達がいるのだ、敬って当然。だが先代だけは微妙


 墓地は村の北にあるそうなので続いてそちらに向かった

 移動しながら村を眺めていて気付いたが、この村は家が並んで建ってるのは見かけない……大体数十メートルほど離れてから建ててある。人付き合いが嫌いなんだろうかね


 相変わらず道が凸凹で、振動を少なくしてある筈の馬車もそれなりに揺れる。カップに注いだ紅茶が零れそうになるじゃないか……

 それを考えてかユキはゆったりとした速度で馬車を進めている。本を読もうとしたサヨは文字がブレて読みづらいっ!と一人キレていた。


「ここには攻めて来ないんですよね?だったら避難しなくても良かったんじゃないです?」

「御覧の通りここには兵士もおらず手薄です。挟撃を考えペロ帝国がこちらから攻めてこない可能性はゼロではありません」

「…………へー」

「絶対分かってませんね、マオさんにはまだまだ勉強が足りません」

「別に戦争の仕方とか覚えなくてもいいんですけど……」


 そんな会話を聞きながらぼんやりと外を眺めていると、こちらに近付こうとする動物がちらほら見られた。ぺけぴーが怖いのか側までは寄れないようだが……何か餌でももらえないかと思ってるのだろうか

 まぁ私達が餌をやらずとも野生化してたくましく生きるだろうし放置。てかここに留まらず飼い主を追っていけばよかったんだ




 速度が遅いので狭い村とはいえ墓地まで行くのに十分以上はかかった。というか数十分はかかっているかもしれない

 墓地には当然墓が並んでいるのだが、どれもこれも下に穴が空いている。やはり死体が自ら這い出てきた様だ。きっと他の村や町でもこんな有様だろう……ひょっとしたら死体を使う事で遺族の反感を買わないために避難させたのかもしれない


「じゃ、さっさと墓参りして行きましょう」

「ん、こっち……」


 案内された墓は他の墓と同じく簡単な作りをしており、四角く枠で囲まれた中央に木で作られた墓標が刺さっているだけだった。

 まあいい、作りはどうであれ墓は墓。早いトコ済ませるとしよう

 メルフィはフィーリア家のものと思われる名前がかかれた墓の前に行くと、しゃがんで手を合わせ、静かに語り始めた


「……少し久しぶり。姿が全然違うから分からないと思うけど、娘のメル、です。

 ほんのちょっと、あなた達に言わなければならない事がある。今まで黙っていたけど……私は、これまで何度も記憶を持ったまま転生を繰り返してました。私にはあなた達以外にも沢山両親がいた……何度も死に別れを経験する内に、いつしか家族を好きになる事を躊躇っていた。それはあなた達も同じ。

 ごめんなさい……二人は私をあんなにも愛してくれてたのに、私は二人を他人と思い込んで暮らしてた。好きになると、やっぱり別れが辛いから……けど、それは逃げていただけだった。


 私は……メル・フィーリアはあなた達の娘です。大事に育ててくれてありがとう、大好きでした……生きている内に言えなくてごめんなさい。


 あと、私に最後の家族が出来ました。二人にも、今までの家族にも負けない大事な家族です。やっと安らかな眠りにつけるのです……私に出来た姉さんがきっと叶えてくれる。すぐにとはいかないけど

 待っていて欲しい、二人にも、それ以前の家族にも、今まで言えなかった言葉を伝えるから……私が今言いたい事はこれだけです


 それじゃ、行って来ます」


 終わったか……メルフィが語っている間、皆黙って聞いていた……普段うるさいアリスも流石に静かに見守っていた。今のがメルフィの気持ちなのだろうな

 一応私も挨拶しとこうとメルフィが先程までいた場所で同じくしゃがんで言葉を紡ぐ


「……初めまして、少し話に出てきたペド・フィーリアよ。家名で分かると思うけど、親戚にあたるわ。あなた達の大事な一人娘、少し預からせて頂く。私の家族になった以上、あの娘には私の出来る範囲で幸せにする事を約束する……」


 短いが、これだけでいい……惜しむらくは両親の身体がここにない事か……


「戦争に首を突っ込む気はないけど、メルフィの両親の身体を持っていった馬鹿野郎には制裁を加えたいかも」

「宜しいのでは?要はゾンビを操っている輩だけコッソリ殺ればいいのです」

「確かにバレなきゃ問題ないですね。まあヨーコさん達の所に着くまでに時間は有りますし、戦に巻き込まれぬ様にどうするか考えますか」


 人外ズはノリノリである

 いつもなら面倒事になりますとか言って反論してくるが、こと家族が関わるとこのやる気。なんだかんだ似た者同士なんだな……私達。まあコイツ等はそう言える程の実力があるからこそ豪語するんだろうけどね


「宜しい。ならどうする?さっきのゾンビ集団の後でもつける?」

「それだとバレそうですが……怪しいと思われて報告されてはたまりませんのであくまで隠れながら探しましょう」

「隠れながらねぇ……なら馬車だと目立つわね。さっきのサヨの偽者にすでに私達の事がバレているとは思うけど」

「その人が操ってるんじゃないですか?」

「ワシもマオ殿の意見はもっともだと思うぞ」

「どうでしょうか?目撃者である私達を襲わなかったですし、フォース王国の者ではないのかもしれません」

「あー……確かに。フォース王国の者なら情報が外に漏れて各国の批難を浴びぬ様に証拠隠滅のために殺しにかかってきたでしょうね」


 んぁ?ペロ帝国がゾンビ操ってるとでも言うのか?

 ……ふざけた名前とは裏腹に非道な事に縁が無さそうなボテ腹がそんな事命令するとは思えんなぁ。実物を見たわけじゃないから断定は出来ないが

 まぁ部下の独断でやったって可能性もあるか……


「ま、フォース王国の者とかペロ帝国の者とか、はたまた第三者なのか知らないけどそんな事はどうでもいいのよ」

「そう……ただぶちのめすだけ」

「メルフィさんが燃えてるです……」

「そりゃ安らかに眠ってた両親の身体を勝手に操られたら怒りますよ」

「では、ゾンビの集団から離れた位置を結界で気配を消しながら移動しましょう。一度国外に出てから迂回するのもいいかと」


 それでいい。しかし広範囲でゾンビを使役する奴を見つけるのは至難の業だ

 そこはサヨに頼るしかないのだが……


「サヨ、全力で任せたわ」

「いえ任されても……うーん、とりあえず魔力が大きい者に絞って探してみますよ」

「あと、人以外でね。さっき悪魔の可能性が高いって話したばかりだし」

「了解です。本当にそうなら探しやすいのですがね……」

「考えるより行動っ!そういうの探しながら考えればいいじゃんっ!」


 暇なのかアリスが吠えた。まぁ確かにそうだな……こんな場所で立ち止まっていても仕方ない

 なら行こう、ゾンビの集団を追っていくだけの簡単なお仕事だ。きっとサヨならあっさり見つけてくれるハズ

 報復さえ終われば戦争の観戦とヨーコ達を見届ければこの国に用は無い。てか早く出たい


 あ……依頼の蜂蜜どうしよう。この様子じゃ依頼人も避難してるだろうし……

 そう考えると要らんことしてくれたペロ帝国にも沸々と怒りが込み上げてくるが、もしもの時はギルドにでも押し付けようなどと考えながらメルフィの両親を利用した犯人探しを始める事にした

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