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幼女、妹のドッペルゲンガーを見る

 森を出発してからはや数日、ちゃっちゃか進んでいるとすれ違う住民が大分減ってきた。数えてないから正確な人数は分からなかったが、そこまで大人数が避難してる訳では無さそうだ。

 もしくはこの先にある町か村に住んでいる住人が少ないかか、違う中継都市に避難してるかのどちらかと思う。たまに戦闘によるものと思われる跡も見つかった。一般人を守りながら戦うとか冒険者も大変だったろうに


「メルフィさんは以前両親は餓死と言っていましたが、本当にそうだったんですか?」

「そう。過労とかもあるだろうけど、やっぱり全然食事をしなかったのが原因」

「それなら無理やり食べさせればいいじゃん。馬鹿なの?」

「逆に両親の分まで無理やり食べさせられたのですよ。部外者は引っ込んでて下さい」

「ちぇ、つまんない奴等だね」


 そういえば前会ったばかりの時にそんな風に聞いたな。今思えばとんでもない話だと思うが……

 メルフィにとっては何度目になるか分からない両親……あの時両親が好きか聞いたら難しいと言っていたな。まぁ何度も死に別れを経験してりゃ好きにならない方が辛くはならないだろうし、気持ちは分かる


「いくら食べてもあんまり太らないのに太る為に食べ続ける……苦行ですねぇ」

「精霊魔法が無ければ危なかった」

「洗脳してでも両親に食べさせるべきだったと私は思うねっ」

「だからクソ女さんは黙ってて下さい」

「私はそんな名前じゃないっ!」

「なら何て名前なんですか」

「ぐっ……」


 この反応から察するに名前は無いようだな、研究所ではあの番号で呼ばれていたのだろう。だがベレッタと暮らしていた時は何と呼ばれていたのだ?


「ベレッタには何て呼ばれてたのよ?」

「ニーナ」

「なかなか良い名前じゃない」

「ベレッタが付けてくれたんだから当然!」


 27番だからニーナ、か?ベレッタも安直とはいえ良い呼び方を考えるもんだ。私ほどじゃないけどなっ


「話を戻すけど、今回がメルフィの最後の人生になるんだから今までの両親分合わせて感謝の気持ちを伝えることね」

「うん」


 にしても暇だ。外を眺めているとたまに見たこと無い魔物が居るのだが、今は急いでいるのでおちおち見物も出来やしない。四足歩行で鼻が長い魔物とかいたが、象とは違う。でかいトカゲって感じだ……足は速くないようで今の速度のぺけぴーにはまるで追いつけない

 道中でお馴染みの鳥型の魔物も出くわしたが安定の結界にぶつかって自滅した。この辺にいるのは鶏ではなく少し格好いい鷲みたいな魔物だった。体長も1メートルは軽く超えてたので割と強そう、だが美味そうではなかった


「どうする?暇だし、いよいよ間に合わないなら転移も考えるけど?」

「間に合わない、と思いますけど……私の予想としてはメルフィさんの村は大丈夫と思います。進行方向はメルフィさんの村へ合わせているのですが、未だにペロ帝国とやらの兵士は見かけませんし……恐らく別の方向から攻めるのでしょう」

「そういやそうね」


 メルフィの実家がある村はフォース王国の東側、それも端に近い。王都があるのは中央からやや西よりなので攻めるとしたら北か西からって事か


「実際のところ、戦が起こったらどっちが勝つと思う?」

「どちらも兵士の人数が不明なのですが、まぁフォース王国でしょう。ニーナさんの様な実験体が一人居るだけで大分有利になりますし」

「どうかしらねぇ……ペロ帝国は各国に兵士が潜んでいる様だし、内部から崩壊させてきたらどうなるか分からないわ」

「ふむ……まぁどちらが滅ぼうが私達には関係ないことです」

「私は初めて会った人間はお姉ちゃん達なので良く分からないのですが、何で戦争とかするんですか?」

「そりゃー、ムカつくからとか土地が欲しいとかそんなもんじゃない?……優しい性格してるマオにはわかんないでしょうよ」


 後は危険だから早めに潰しておこうって所か

 しかし今回の事でフォース王国の戦力が削がれるのはサード帝国にとっては朗報だな。チャンスとばかりにペロ帝国との戦が終わったあと攻め込んでもおかしくない

 だが大番狂わせでペロ帝国が勝つことも考えられる……私の勘が一番ヤバそうと言っていたシリアナの存在が不気味だからだ。流石にたった一人の活躍で勝つとは思っていないが




「ヨーコ、貴女はやっぱり戦乱中にどさくさに紛れて研究所を狙うの?」

「はい。手薄になっているのを見逃す手はないですから」

「そ、なら私達はどこで見ておこうかねぇ」

「山から遠見の魔法で見るのが無難ですね」


 まあそうなるだろうな……で、次に問題なのはヨーコ達とどこで別れるかなのだが、これはフォース王国に到着したら入国する前に別れる事にした

 バレるとは思わないが、念のためだ。二人には転移符を渡して先に王都に行ってもらう。そもそも戦時中なら他国の冒険者である私達も入国出来そうにないけど……はてさてどうしたもんか


 まあ着いてから考えるとしよう。今まで通りなる様になるわ




★★★★★★★★★★




「じゃあここでお別れするけど……まぁ頑張りなさい」

「もちろんです」

「あははははっ!私も居るんだから余裕だよ余裕ー」

「貴女はちゃんとベレッタを守りなさいよ」

「当然っ」


 結局ペロ帝国が攻め込むと言っていた日時までに到着する事は出来なかった。しかしこの辺りはサヨの予想通り戦争に巻き込まれていないのか静かなもんだ

 あと数キロほど進めば国境に到着するのでヨーコとクソ女はここでお別れ。と言っても二人はすぐに突撃するのではなく、ペロ帝国が王都に到着し戦いが始まったら忍び込む手筈となっている。なので私達がメルフィの両親の墓参りをした後でも十分間に合う筈だ

 ベレッタも二人と行動をするのだが戦力としてカウントしない。


「あなた達の武運を祈ってるわ」

「はい。必ず胸を処分してみせます」

「貴女のいた痕跡とかそこらに残ってそうなんだから研究所自体を潰しなさいよ」

「余裕があればそうしますよ」


 両国が戦ってる最中に第三者に急に攻められる……フォース王国があたふたする姿を見るのが楽しみだ

 一つ心配することがあるとすれば、二人がペロ帝国からも狙われないか、という事なのだが……奴等は変体だから女である二人に危害は加えないかもしれない


「では私達は行きます。送っていただきありがとうございました」

「まだ兄探しがあるんだからちゃんと帰ってきなさい」

「ふふ……そうでしたね。分かりました、必ず戻ってきます」


 ヨーコはそういって頭を下げる。そして転移符を使ってクソ女とベレッタと共に転移していった。クソ女は礼の一つもしなかったけど


 正直あの二人が大丈夫か予想はつかない。ヨーコは幽霊だけあって物理は効かなさそうだけど、クソ女とベレッタは違う。特にベレッタとか真っ先に狙われそうだ……なのでクソ女に念をいれたのだが、分かっているのやら


「そもそも本当に戦が起こっているかも怪しいわね」

「恐らくまずは国の外で迎撃しているのでしょう。この様子ではやはり西か北から攻めているようですね」

「それより私達はまず国に入ることを考えましょう」

「やっぱり普通に入るのは難しそう?」

「そりゃ身分証があるとはいえ敵かもしれない者は入れないでしょう」


 となると、私達も転移で密入国するしかないか……


「なら転移しましょう。馬車ごとだからどこかの街道がいいわね」

「分かりました。なるべく人の気配の無い所を選んで転移します」


 面子の様子を見渡すと、特に変わりの無いメンバーと戦争という言葉に緊張が見られる者が別れている

 まぁ緊張してるのはマオだけなんだけど……別に自分達が戦うわけではないのだが、やはり大勢の人間が死ぬ姿を見るのに思うところがあるのかね



☆☆☆☆☆☆



 転移すると、そこにはゾンビがやたらいた


「何でだよ。確かに人間じゃないけど、何もゾンビ軍団の近くに転移しなくてもいいじゃない」

「と言われましても……ここからメルフィさんの村に行くまで沢山ゾンビがいますのでどこに転移しても一緒ですよ」

「……どういう事?」

「さあ?ただまぁニーナさんにはネクロマンサーの血が使用されているらしいので、フォース王国に居るのならソイツが操っているのでは?」

「……言ってたわね」


 しかしネクロマンサーって人間のイメージがないな……メルフィだって元が悪魔だからこそ操れるわけだし……まさかフォース王国は悪魔と手を結んでたりするのか?


「人間でもゾンビ操れるの?」

「……とことん闇に堕ちれば可能かもしれませんが、まぁ無理でしょうね」

「つまり……?」

「フォース王国には悪魔もいるということじゃな」


 やっぱりか、完全に悪魔と決まった訳ではないが人外が居るのは確かだろう。いやまぁ実験体も人外なんだけどね


 ゾンビは特に襲ってくるわけでもなく、ただひたすら同じ方向にのろのろと向かって歩いていく

 方角は西、てことは援軍として向かっているのだろう……この速さで移動しても着いた頃には戦争終わってそうだけど……


「主殿、問題なのはネクロマンサーではないぞ?」

「言ってみなさい」

「ゾンビ達をよく見よ……ほとんど腐敗が酷い奴ばかりじゃ、中には骨だけの者もおる。おまけに皆して死装束、まるでこの辺り全ての町や村の墓に眠っとる奴を片っ端から起こしたみたいじゃな」


 この白い服は死装束か……どうやらフォース王国は火葬ではなく土葬らしい。普通はアンデッド化を防ぐ為にきっちり燃やしてから埋めるのだが、きっと今回みたいな事態が起こった時に駒にするために土葬にしてるのだ

 しかし……この辺り一帯という事はだ


「メルフィの両親も……」

「恐らく、アンデッドとして復活しているでしょう」


 そう、そうか……

 メルフィの表情に変化はない。気にしてないって事はないだろうけど……

 このゾロゾロと歩くゾンビの中からメルフィの両親を探すのは難しい……いかにサヨでもすでに死した人間の気配を判別するのは難しいはず


「姉さん」

「……なに」

「私の事は気にしなくていい。こうなったなら村に行く必要はない……」

「馬鹿いいなさい。例え骸はなくとも墓があるのなら行くわ……私は貴女を家族として迎え入れたの。だから何としても両親には報告する」

「……うん」


 まったく……こんな面倒なことしたネクロマンサーとやらはぶん殴らないと気がすまない

 ゾンビがいるって事はもしかしたら近くにいるのかもしれないな……


 窓から外を見ていないかなー、と探してみるが見つかる場所に居るわけないわな

 お、あそこにちっこい奴がいる……見た感じ10歳前後、同じく白い服を着て髪まで白い……光の反射具合からして銀色か。あんな若くして死ぬのは嫌だなぁ……何も楽しんで無さっ


 ちっこい奴が顔を横に向けるとその素顔が確認できた。他のゾンビと違って生気のある顔、表情はどこか微笑んでいるように見えた。だが、それよりも気にしなければならないのはソイツの顔……あの顔を私は良く知っている。というか毎日見ている、あれは……


 サヨ?


「サヨ、いるわよね?」

「そりゃさっきまで会話してましたから居ますよ?」

「よねぇ?」


 見間違いだろうか?とは思うが、私が家族であるサヨの顔を間違えるはずがない

 問題の少女はゾンビの群に紛れて見えなくなった


 うーむ……最近次から次へと気になることが出てくるから困る


「サヨに似た、というか同じ奴がゾンビの群に居たわ」

「お母さんの見間違い……では無さそうですね。どういう事でしょう?奇跡人でしょうか」

「私のそっくりさんですか……もしかしたら先代が創った奇跡人の生き残りで合ってるかもしれませんね」

「何にせよ敵の可能性が高いから今は避けましょう。じゃあ引き続きメルフィの村まで進んでちょうだい」


 あれが先代の遺した娘の一人なら厄介な強さに違いない。私達の方に向かって来なくて助かった

 先に王都へ向かったヨーコ達があの娘とかち合わないことを祈っておいてやろう




★★★★★★★★★★



 うふふ……先程見た馬車、ユニクスに引かせてましたね。何とも面白いことをする者がいたものです

 ユニクスが命令を聞く者など創造主以外ありえません……しかし現に見てしまった以上納得をせざるを得ませんね


「……もしかして、創造主が仰っていた面白い二代目が誕生してるのでしょうか」


 ああ、だったら会ってみたいですね

 でもそれはまだ先のこと、今はこの戦いを楽しむことにしましょう


 使える者は死者すら使う、人間というのは本当に理解し難い生き物ですね


「さて、どう楽しませてくれるのでしょうか」


 まずは一応主であるあの人に報告しますかね

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