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幼女、メイドの心中を知らず

 格好つけてみたけど、別に私が相手する必要ない。

 たかが猿だ…私が出向くまでもない。私の力を使う相手はラスボスこそ相応しい。



「という事でやっておしまいユキ」

「お任せください」



 ユキはそう答えて愛用してる奇跡ぱわー製の鞭を取り出す。猿どもは武器を取り出したユキに警戒…してないな。

 私達を取り囲み、猿顔でも分かる勝ち誇った笑みを浮かべている。何でもう勝った気でいる?



「意外と強かったり…」

「いえ、相手の力量も分からない様な下級の猿です。」



 でしょうね。とんでもなく強い魔物は人語を理解する程知能が高いと相場が決まっている。

 猿どもは下級呼ばわりされても表情が変わらない、という事は人語が分からない。つまり馬鹿


「ばーかばーか!」

「ゥギアァッ!」

「「「ウギァッ!ウギァッ!」」」



怒った



「言葉は分からずとも、雰囲気で馬鹿にされてると察した様ですね」

「そう…長年培って来た相手を心から馬鹿にする話術は猿にも通用するのね。経験が思わぬ弊害を生んだわ」



 のんきに会話してるが他の初級者達なら絶体絶命な場面だ。

 いよいよ猿たちが襲いかかろうと構えたが…


ヒュッ…


 音は聞こえたが攻撃は見えず。だが確かにユキは鞭を振ったのだろう…その証拠に正面の猿の頭部が消失して血が吹き出している。猿の足元を見れば先程まで勝ち誇っていた猿の首がある。


 明らかに鞭が届く距離では無いが、この鞭、実は伸縮自在の優れものだ。

 しかも鞭なのに斬ろうと思えば竜の鱗だろうがあっさり切り裂く抜群の切れ味。打撃タイプへの切り替えも任意というチート武器。そういう設定で創った。



 仲間がいつの間にかやられて猿達に若干怯えが見える。

 今逃げるなら許してやらない事もないが…そういえば猿としか呼んでないが何て魔物だ?



「こいつら何て魔物なの?」

「黒毛猿…見た目通りの名前です」

「ぶらっくうるふと同じね」

「そういえば、この黒毛猿はぶらっくうるふを襲う魔物……」

「猿ども皆まとめて弾け飛べ!奇跡ぱわあぁーーっ!!」


「「「グウェアッ!」」」


 パァンッ!!という破裂音と共に猿達は内部から爆発したかの様に吹っ飛んだ。



「……魔物の内の一つですね。…よいしょ」



 意識を失う直前、降ってくる猿の血と臓物から汚れない様にと、いつの間にか持ってた傘をさすユキをみた




★★★★★★★★★★




「魔物とはいえ、初めて惨たらしく大きい生き物を殺したのだけど、全く罪悪感がないわ。むしろ爽快。人としてどうなの?って感じ」

「それで宜しいかと。下手に罪悪感を持って魔物を殺すのを躊躇してたらやられる事もあります」


 そう考えると、この私の外道精神は対魔物に向いている。この先、高笑いしながら魔物を破裂しだしたらいよいよヤバい。


 私が気絶している間にユキが夕飯用の野草と魔物を狩っていた様だ。

 デブい兎と鳥型の何か。兎と聞いて顔をしかめたが、不細工な兎だから気にせず食べる事にする。



「食料が大丈夫なら次は場所ね」

「この辺りに洞窟はありません」

「無いなら仕方ないわ。寝れそうな場所を探しましょう」



 そして開けた場所を探しに再び歩き始めた。マイちゃんの姿が見えなかったが、私の頭の上に止まりアクセサリーとなっていた。大きすぎて不自然だが…







 夕方になった。いよいよ草むらの上で仕方なくキャンプをする事を考えなければならない。

 キャンプ用品?奇跡ぱわーで出す。


ジャリ……


 砂利の上を歩く様な音が聞こえた。下を見れば草むらから小石と砂の足場に変わっている。草も生えてはいるが、小さい雑草程度だ。



「開けた場所に出たわね」

「…そうですね。しかし、人の手が入ってない山中でこの不自然に開けた場所、恐らく魔物の縄張りですね」



 前に来た時は無かったですしねー、と気楽に言うユキ。縄張りを持つという事は、この山中においては中々の実力者だと思うのだが……



 ほどなくして縄張りの主が帰ってきたのか、ガサガサと何かが草むらの中を歩く音が聞こえた


 見えない存在に何が起きても対処出来る様に注意する。

 そして草むらから姿を見せたのは体長5メートルほどの白い虎。グルルと喉を鳴らせ、金の眼でこちらを見つめてくる。




「猿と違って強そうね」

「あれと比べてはいけません」

「そうね。威圧感が違うわ。名前はホワイトタイガーとか?」

「惜しいです。この魔物はホワイトキャットです」



 こんなデカい猫がいるか!いや、ひょっとしたら危険な魔物じゃなかったりするのか?



「強いの?」

「縄張りを持つぐらいなのでそれなりに強いですね。確か危険度Bです。」

「やっぱ猫じゃないわよ。猫の域を越えてるわ」

「初級者の中には名前につられて討伐に向かって返り討ちにあう者も居ます」

「ネーミング詐欺じゃない」



 そんな被害出てるなら改名しろ。何やってんだろうギルドは…初級者のくせに山に登る方もおかしい。


 とか考えてる内に白猫が寄ってくる。我に敵なしっ!って感じで。私達ぐらい余裕で倒せるとか思ってそうだ。



「グルニャー」

「猫だこれ!」



 デカい図体しといて普通の猫の鳴き声出しおった!?不覚にも可愛いと思ってしまった…



「一気に殺すには惜しい存在になったわ」

「…っと、言われましても、こうして、襲いかかって来ますので、倒してしまわないと…」



 にゃんこは猫と同じく前屈みから飛び掛かって攻撃してくる。しかし、猫より数倍は早い。大きい身体でなかなかやる…

 ユキはそれを全て避けつつ私の指示を待っている様だ。



「倒すと言われても…私の中ではホワイトキャットからにゃんこの名に昇格するほど愛着が沸いたのだけど」

「…仕方ありません。追い払いましょう。また襲われないよう、私達を見るだけで逃げ出すくらい恐怖心を植え付けて」

「やめたげてよー」



 とはいえ、どうにかしないといけないのも事実。もう日が沈みきるまであと僅か。



「しょうがない、追い払う方法で妥協するわ。ただし、私は目を瞑るから!」

「かしこまりました…っ」


 見えないが、多分ユキがにゃんこに攻撃を開始している。


ボキッ!っと骨が折れる音がし…


「ギュニャアァッ!」


ザシュッ!と何かを突き刺す音も聞こえ


「に゛ゃああああぁぁぁっっ!?」


バキッ…ベキャッ……っと何かを粉砕する音が…


「にゃあぅ…ぅにぁあ…ん……」



やめたげてよぉ……



 もう限界。聞いてらんないっ。耐えろにゃんこ…!いや、耐えるなにゃんこ!さっさと逃げればあなたは解放されるっ!


 いよいよ聞くに耐えなくなったので私は耳まで塞ぐ事にした。早く終わってくださいっ!と願いながら…


………


……






「うさぎうまー」

「鳥肉の方も焼けました」



 ユキによる黄昏の惨劇からはや数時間、辺りはすっかり真っ暗だ。


 今は私が奇跡ぱわーで出したキャンプセットの内の一つ、バーベキューセットで夕食中。

 山中とはいえ、それなりの標高の場所なのか、空を見れば無数の星がいつもより近くにある様に見える。


「晴れてよかったわ」

「そうですね。しかし、山の天気は変わりやすいのでご注意を」

「はいはい」


 何で外で食べるご飯って美味しいんだろう…気分の問題と言えばそれまでだが…

 ユキは串に刺さった肉と球根みたいな野草をわざわざ皿に移して上品に食べている。マイちゃんも美味しそうに兎肉を食べて………




「ストップバタフライ」

パタッ!?



蝶が肉を食う、衝撃の光景である。



「何当たり前の様に肉を食べてるの?どこに肉を運ぶ口があるの?ねえねえ?肉食の蝶はいないのよ?肉を食べた事によりあなたは蝶ではなくなってしまったの。じゃあ蝶じゃないあなたは何なの?ねえ?」


パタ……



 ガーン…!と、マイちゃんは項垂れてしまった。こっちの方がショックだ



「ご主人様、一応人を襲って食べる蝶も存在します」

「それは魔物よ」



 マイちゃんには魔物のカテゴリーに入って欲しくない。マイちゃんが何者かを決めるべく緊急会議が始まった。







結論:マイちゃん種・マイちゃん


 マイちゃんはどの種族でもない唯一の存在として誕生した。



「つまりマイちゃんが何者であろうとマイちゃんはマイちゃんって事よ」

「その通りです」

パタパタ



…それにしても眠くなってきた。今日は奇跡ぱわーを結構使ってお疲れなのだ。


「…先に寝るわ。ユキもマイちゃんもさっさと寝なさいねー…」

「お休みなさいませ、ご主人様」




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 …ご主人様はお眠りになられた。とても寝つきの良いお方なので、もう夢の中にいらっしゃるだろう。

 私はこのまま用事を済ませに行く事にしよう。

 ご主人様の傍を離れるのは真に心苦しいが…



 しかし…眠るご主人様のすぐ横には美しい羽根を持つ蝶…マイさんがいる。



「……少々、ご主人様の護衛を頼んで宜しいですか?」

パタパタ



 相変わらずの羽根での返事。蝶に護衛を頼むとか普通じゃない…ただの蝶ならば、だが…

 マイさんはきっと強い。地竜程度ならば余裕で勝てるだろう、奇跡ぱわーの恩恵はそれほどなのだ。



「少しの間、ご主人様をお願いします」


言って私は暗い山の中へ走った。






 およそ5kmほど走ったか、ここまでくれば何が起きようとご主人様に気づかれる事もないと思い立ち止まる。



 私が立ち止まって数分。昼間感じた物と同じ気配を数体分感じた。



「ご主人様の威光を知りながらも私達を狙うとは良い度胸です」


現れたのは黒毛猿8体。昼間の奴等の仲間だろう…あの場にいたのは4体、だが離れた場所にまだ複数の気配を感じた。それがこいつらだ


「ご主人様の力をその眼で見ながらも歯向かう愚かな猿ども」


あのまま逃げて大人しく引っ込んでおけばいいものを…


「ご主人様に敵意を向けた時点で貴様らの運命は決まった…」


ご主人様に許しを乞うべき立場の畜生風情が…


「楽には死なせない…痛み、苦しみ、絶望し、心折れた後に死ね。そして地獄で語れ、ご主人様の崇高さを」


逃がさぬよう、全ての足を斬る


「まずは痛み…」


鞭を打撃タイプにして一匹一匹順番に両手を粉砕する


「次は苦しみ…」


禁呪の一つである呪いをかける。まるで頭を握りつぶされ、心臓を鷲掴みにされ、呼吸もままならない状態なのだろう。


「さて、次はどうしましょう?」


猿どもの目には確かに恐怖と絶望、そして後悔の色がうかがえた。


………



……






 思ったより時間をかけてしまった。それほど猿どもが赦せなかったのだ。


「ただいま戻りました」


 まずはご主人様の確認から始める。穏やかに眠っていらっしゃる。隣にはマイさん…


 右を向いて山の中をよく見れば、暗闇でわかりづらいが、死んでると思われる巨大なコウモリ型の魔物の姿がある。

 どうやらマイさんはきちんと護衛をしてくれていた様だ。



「ご主人様を守って頂き、ありがとうございました」

パタパタ



 …マイさんはご主人様が昔飼われてたペットだったか。ここまでご主人様になついているなら何故蝶になってすぐに会いに来なかったのか…


「……愚問ですね」


 ご主人様の様に手を差し出してみる。果たしてマイさんは数多の命を奪ってきた私の手にも止まってくれるだろうか…


 ヒラヒラと翔び…マイさんは私の手に止まってくれた。星明かりの下で見るマイさんは昼間とは違う美しさがあった。


「マイさんがすぐにご主人様に会いにいかなかったのは…ご主人様に迷惑がかかるかも知れない、そう思ったから」

パタパタ


 あり得ないほど巨大な蝶が町にいけば魔物と騒ぐ人間は少なからず居るだろう…そんな状態でご主人様と会えば、そう考えたのだろう。


「出会いはあなたが先ですが、付き合いは私の方が長いのです。なので私には分かります。ご主人様はそんな事はきっと気にしないと」

パタパタ


 それにしてもご主人様はホントに気づいてらっしゃるのか…かつてのペットであるマイさんにまるで友の様に接している事に…いや、そうではない。すでに二人は友なのだ



友…か……



「私はご主人様のお世話係…それはこれからも永遠に変わりません。しかし、あなたはペットという立場からご主人様の友へとなる事が出来ました」


 別に世話係に不満などない、そう願われて生まれたのだ。ご主人様のお側に置いて頂ければそれでいい。命令をして頂ければいい。そして…



『ユキは凄いね』



たまに誉めて頂ければ…それだけで幸せなのだ…





そのはずなのに……





「…あなたは友としてご主人様と対等に付き合える……あなたはご主人様に友として語りかけて貰える……私にはっ…それが……酷く羨ましい………っ」

パタパタ…




 あぁ…今日の私はどうかしている。マイさんに当たり散らして何になる。でも、どうしようもなく心が落ち着かない。

 空に広がる星達の美しさを見れば、今の私の醜さを思い知らされる……


ヒラヒラ…と、マイさんが私の手から肩に乗り移る。羽根が濡れた私の頬に当たる…



…全く、この子は優しい蝶だ



「…ふふ、恥ずかしい所をお見せしてしまいました。あなたは優しいですね」


ペシペシと今度は羽根で頬を叩いてくる。照れてるのだろうか?



「マイさん…良ければ…私と、お友達になって頂けますか?」

「……ゥン」



 羽根ではなく、慣れない声で答えてくれた…。

 人と蝶が友達…多くの者からは理解されずに笑われるだろう。だけど、それでいい。



「共にご主人様をお守りし続けましょう…マイさん、私の初めてのお友達」

パタパタ!




 ありがとう…マイさん。そして友と巡り合わせて頂いた最愛のご主人様。


今日の事は生涯忘れない


気付けば先程までとは違い、私の心は晴れやかなものとなっていた。

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