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大人の為の子供相談室

大人の為の子供相談室 怪談

作者: 栖坂月

タケジー:はい、そんなワケで今回も始まりました『大人の為の子供相談室』第七回となります。

ミカリン:後半戦開始だねぇ。

タケジー:残暑が続いておりますけど、皆様はいかがお過ごしでしょうか。冷たいものばかり食べていませんか? 食欲がなくても、ご飯はしっかり食べないといけませんよ。

ミカリン:アイスっアイスっアイスっ!

タケジー:うん、ミカリンに模範は期待していないので、好きなもの食べてください。

ミカリン:何だよー、ツッコめよー(ブーブー)

タケジー:はいはい、それはそうとミカリンにとって暑さを凌ぐ方法と言えば、何です?

ミカリン:エアコンの効いた部屋でアイス食う。

タケジー:うん、そういうんじゃなくて。暑い中での話です。

ミカリン:暑い時はね、お外に出ないの。

タケジー:堂々と引き篭もり宣言しないで下さい。ひょっとしてアレですか。今回収録が遅れたのって、暑いから出たくないなんて理由じゃないでしょうね?

ミカリン:凄いっ。タケちゃんってエスパー?

タケジー:そんなワケないでしょ。話の流れを見れば一目瞭然です。というか、そんなんで仕事サボらないで下さいよ。

ミカリン:まぁいいじゃん。タクシーはエアコン効いてることに気付いてちゃんと来たんだから。んで、タケちゃんはどうなの? 暑い中で重労働しても倒れない秘策とかあったりするの?

タケジー:いや、別に重労働するの前提の話じゃないんですけど……まぁそうですね。あえて熱いお茶を飲むとか、辛いものを食べて汗をかくとか、そういうのは心掛けてますね。それとやっぱり、怖い話ですよ。

ミカリン:出たな、怪談厨め。

タケジー:厨とか付けないで下さい。

ミカリン:タケちゃんって怖い話好きだよねぇ。彼女もそれでゲットしたの?

タケジー:いや、意味がわかりません。

ミカリン:例えばホラ、これ以上怖い話を聞かされたくなかったら彼女になれー、とか?

タケジー:それ脅迫じゃないですか!

ミカリン:え、だってタケちゃんに彼女だよ? 普通に考えたらありえないよっ。

タケジー:失礼どころの話じゃないよ!

ミカリン:じゃあタケちゃん、彼女に怪談とか一切話したことないって言うの?

タケジー:いや、そりゃ話すこともあるけど……。

ミカリン:ホラやっぱり! そうやって彼女を縛り付けているんだ。SМなんだっ。いやらしい!

タケジー:いやいや、意味わかりませんって。

ミカリン:柱に縛り付けられて無理矢理怪談を聞かされる彼女。怯えた顔を見てニヤニヤと笑うタケちゃん……もうこれはアレよね。とりあえず警察に電話すべき案件よね。

タケジー:何ですか、そのイメージは。そもそもですね。怪談というのはもっと、落ち着いた雰囲気の中でこそ楽しむものであって、そんな風に無理矢理聞かせるなんて怪談の風上にもおけません。それこそ怪談に対する冒涜です。

ミカリン:えーと……。

タケジー:怪談の何たるかを、ミカリンにもとっくりと教えて差し上げます!

ミカリン:いやその、実のところ遠慮したいなぁ、なんて。

タケジー:何を言ってるんですか。この暑い時期に怪談と触れ合うのは、実に自然な行いです。古来より積み重ねられた伝統なのですよ。重みが違います。

ミカリン:怪談で涼しいとか、錯覚じゃないの?

タケジー:いーえ違います。私も子供の頃は錯覚だろうと思っていたクチですが、きちんとした根拠のある話なんです。

ミカリン:ふーん、で、どんな理由?

タケジー:それはズバリ、恐怖です。

ミカリン:怖いと涼しいってこと? というか、その理由を聞いてんだけど。

タケジー:まぁそう慌てないで下さい。怪談を聞くと恐怖から身の縮む思いをするでしょう? そういう緊張状態では毛細血管が収縮して血の巡りが悪くなります。すると、体表面の温度が下がるんです。だから涼しい、というワケです。

ミカリン:恐怖と緊張、ねぇ……。

タケジー:他にも冷や汗をかくことによる作用が重なりますし、脳内で恐怖を感じる部位と涼しさを感じる部位が近い為に涼しく感じるといった説もありまして、まだまだ新しい事実が発見されるかもしれないものだったりするのです。

ミカリン:それって要するに、まだハッキリとはわかってないってことなんじゃない?

タケジー:まぁそうなんですけど、少なくとも恐怖によって体感温度に違いが生ずるのは間違いないんですよ。

ミカリン:……というか、タケちゃんってホント怪談好きだねぇ。

タケジー:むしろ、あんなに楽しいものを知らずにいることの方が不思議ですけどね。ただ、こうやって詳しくなるのも良いことばかりではありませんでね。

ミカリン:というと?

タケジー:怪談話っていうのは結局のところ一定のパターンがありまして、思っているほど多彩ではないのですよ。古典はもちろんほぼ網羅してますし、有名な都市伝説もほとんど知っています。最近では正直、素人の体験談くらいでしかワクワクできないという顛末でして。

ミカリン:なるほど、詳しいが故の弊害ってヤツね。

タケジー:興味を持ったばかりの、何の話を聞いてもゾクゾクするようなあの感覚は、もう戻ってこないんでしょうね。

ミカリン:……よろしい。ではこのミカリン様が、悩めるタケジーにとっておきの怪談を披露してしんぜよう。

タケジー:ミカリンの、怪談? 猥談でなく?

ミカリン:その馬鹿にしたような目をヤメロ。この話はアレだぞ。南極どころか氷河期クラスだぞっ。

タケジー:うんまぁ、その時点ですでに馬鹿っぽいんですが、とりあえず期待せずに伺うとしましょう。

ミカリン:その上から目線が何かムカつくけど、まぁいい。聞いて凍りつくが良いわ。これはね、ある友人から聞いた話なんだけど――

タケジー:お、入りはオーソドックスですね。

ミカリン:黙って聞きなさい。ある高校生の女の子がね、泊りがけで海に行ったのよ。もちろん友人と一緒にね。んで初日の夕方、男の子の一人に呼び出されて砂浜の外れにある岩場へと向かったの。時刻はちょうど夕暮れ時で、海は真っ赤に染まってたそうよ。

タケジー:逢魔が時、舞台としてはバッチリですね。

ミカリン:女の子は海を眺めながら待つんだけど、呼び出した男の子はなかなか現れない。太陽が海にほとんど沈んで、もういい加減戻ろうかなと思った頃、ようやく足音が近付いてきたの。

タケジー:お、いよいよ来ましたね。

ミカリン:男の子は遅れたことを謝って、でもそこから世間話を始めるばかりでなかなか本題に入らなかった。お腹も空いてきたし、段々面倒臭くなってきた女の子が戻ろうと口にしたその時、男の子の顔付きが変わったの。

タケジー:……ど、どんな風にです?

ミカリン:女の子曰く、鬼のような形相だったそうよ。しかも、しかもよ。あろうことかその顔のまま、突然意味不明な呪文のようなものを唱え始めたの。

タケジー:呪文じゃないよっ、詩だよ!

ミカリン:もう完全に呪われたと思った女の子は泣き出しちゃうんだけど、男の子は大喜び。これで想いが通じたと思っちゃう辺り、生粋のピエロよね。

タケジー:やめてっ。もうやめて!

ミカリン:タケちゃん、告白にいきなり詩の朗読はないわー。

タケジー:ぎゃーーーーっ、誰だこの話を教えた奴はぁぁぁ!

ミカリン:でも涼しくなったでしょ。

タケジー:むしろ熱くなったわっ!


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