1 ダウンロード(2)
学校帰りの電車のなかでさっそく試してみることにした。
まずサイトからアプリをダウンロードし、登録が始まった。
登録は意外と簡単で性別、生年月日を入れていくつかの質問を入れればそれで終わりだった。最初は怪しいと思い利用規約を細かく見てみたが別に変なところもなく、料金もかからないようだった。何より前からよく噂に聞くほど多くの人が使っているのだ。それでも不満や変な噂が出ていないなら普通に使う分には問題ないのだろう。
10分ほどの登録を終えてさっそく開いてみると新井さんに見せてもらったのと同じ画面が出てきた。
画面には「Lucky Point(LP)」「Unlucky Point(UP)」と書かれていた。説明によるとLPはその人の幸運の量、つまり運の良さを表しており多ければ多いほど運がよくなる。逆にUPは不運の量で多いほど不運な目にあいやすい、ということらしい。これによればLPが多くUPの少ない人は幸運な人生をすごし、LPとUPともに多い人は波乱万丈な人生ということになる。
そのことを踏まえて自分の携帯に画面を見てやっぱりな、という諦めの気持ちが出てくる。
LP=384 UP=1565
LPとUPの平均がどちらも1000。それと比べるとLPが少なくUPがLPの約4倍。サイトに乗っている典型的な不運に会う例ともいえるような数値だった。
自分では期待していたつもりは無かったが、それでもため息が自然と出るのはどこかで期待していたのだろう。
そもそもあんな簡単な情報だけで人の運の量が測れるわけがない。
心のどこかで自分は一体何を期待していたのだろうか?
そんなこと考えていると一件のメッセージが表示された。どうやら「モイラ」の占いが届いたらしい。タイトルには「今日のあなたへのアドバイス」と書かれていた。
『UPの傾向から今日の運勢は最悪のようです。あなたの意志が試されます。朝からうまくいかないことが続き大失敗してしまうでしょう。午後の外出はできるだけ控え行動も注意しましょう。厄介事に巻き込まれてしまいます』
今朝のことを考えれば当たっていると言えるだろう。でもどうも抽象的でありきたりだ。誰にでも言える言葉であたっていると思わせるのはよくある占いの手口だ。それに最後の一文はなんだ。これから自転車修理に行く俺への嫌がらせなのか?
結局占いはどこまで行っても占いだ。こんなのに少しでも期待していた自分のことが馬鹿馬鹿しくなった。
目的の駅で降りて改札を出る。そこから少し離れて曲がりくねった細い道を歩いて15分。ようやくたどり着いた自転車屋で2時間の待ち時間を言い渡された。どうやら今日に限って自転車修理が多く来ていたらしい。家に帰って着替えてからまた来ようかとも思ったが、ここから歩いて家まで40~50分。徒歩で往復する労力を考えるとどこかで時間を潰したほうがいい。
とりあえず自転車を預けて2時間後にまた来ることを伝えて駅に戻ることにした。何もないこの辺で時間を潰すには少し無理があるし娯楽も店も沢山ある駅の周りなら時間を潰すにはちょうどよかった。
元来た道を歩き駅前まで戻る。平日とはいえ日が傾き始めると駅前の広場では相変わらず人が賑わっていた。公立の高校はどこも今日始業式だからなのか、制服を着ている学生がその大半を占めていた。
俺はその賑やかな駅前にある大きな円形の花壇に腰掛けボーッと考えていた。
いつも行っている本屋は定休日で開いてないし、財布の中身は修理代しか入ってないからゲーセンに行くこともできない。どっか別の店にいこうにもどうも興味が出ず、相変わらずの自分の運のなさに呆れていたところだった。
改装工事のビルを見て思う。
街も建物も他人も時間と共に変わっていくのに。どうして自分は変わらないのだろう。
なんでこんなにも自分は不運なのだろうか。
子供の頃から続く不運な日常に何度も疑問は抱いていた。どうして不運なのか?どうすれば解消されるのか?親にも心配され、いろんなものを調べたし試してみたりもした。
でも結局効果はなかった。
そんな理不尽に自分が出来ることなんてない。
だから諦めた。
そんなことわかりきっているのに俺はこのアプリに一体何を期待していたのか。
「やめてください」
どこからかそんな女性の声が聞こえてきた。声の方に目を向けると改装工事中のビルの前で女の子を男3人が囲ってもめていた。




