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「いやー、それにしても相変わらずだな、青海(あおみ)

 始業式が終わって解散後の賑やかな教室の教卓真ん前の席で昼食を食っていた。思い出したかのように少し呆れたように弁当をもぐもぐ食いながらさわやか男児は言う。

 4月4日水曜日。中途半端に長い春休みが終わって久しぶりに登校する日。

 学年とクラスが変わり本当の意味で新しい一年が始まる始業式だ。

 普通始業式と聞いて何を思うのだろうか?

 学年がひとつ上がってついていけるのかと不安になったり、新しい後輩ができると期待したり。

 新しいクラスになって友達と一緒になれたと喜んだり、離れ離れになって落胆したり。

 新しい担任の先生に安心したり不満を持ったりと、人それぞれではあるが誰もが期待や不安を以て一喜一憂しているのだろう。

 そんな中で自分はというと学年やクラスや担任などとは違うところで呆れていた。

 宮野の発言はそんな始業式の話題を話している時だった。

「なにが相変わらずなんだ?」

「もしかして私たちの三角関係?」

 新井さんはクネクネしながらいたずらっぽく話した。

「違う違う。いつそんな関係になったよ」

「二人が私を巡って争うなんて」

「はいはい、そんなことないかんね。俺が言ってるのは青海のこと」

「僕のこと?」

「そう」と言いながら俺のズボンを指差した。

そういえばクラスの何人かはまだこっち見て笑っていたな。

この学校の男子制服は学ランのため上着もズボンも黒いはずなのだが、今日の俺のズボンはどうみても緑色のジャージ。その名札には保健室と書かれていた。

 始業式でみんなが少し浮き足立つ4月4日水曜日。今日も俺は運がない。

 朝起きて目覚ましの電池が切れているのに気づき、あわてて自転車に乗るも駅に向かう道中でパンクし、前日に降った雨の水たまりを車にひっかけられて完全遅刻で登校。濡れたズボンは保健室でジャージを借りてなんとかなったもの、先生の連絡事項で静かな教室に突然そんな格好で入れば笑われて当然だった。

「毎度のことだけど、相変わらず運がないな」

「青海くん去年もこんな感じだったよね」

「中学の時もそうなんだよ」と宮野は補足。実際はもっと前からだが。

「もう慣れちゃったし、特に気にしてないよ」

 というより既に諦めてるが正しかった。

 おそらく一年の中で今までと比べて最も大きく多い変化が詰まった誰もが変化に戸惑う始業式の日、俺は相変わらず全く変わらない現状に呆れていた。

子供の頃から今までずっと続くこの不運な体質。普段の生活から何まで自分の運がよかったためしがない。何をするにしても運悪く失敗し、なにごとも思いどおりには行かない。幸い今のところ命に関わるほどの大きなことは起きてないし、それなら身構えたって仕方がない。

 何をしてもうまくいかないのなら何もしなければいい。

 なんにも期待しなければ、必要以上に傷つかない。

 消極的に過ごして何も欲しない。それが16年かけて培ったスタンスだ。

「いつものことだしね」

 今日の不運の連続も自分の中ではその程度だった。

「でもそれって辛くない?」

「さっきも言ったけどもう慣れちゃったからね。不運なのは直しようがないし」

「うーんでもなぁ」

 そういう彼女は不満げだった。すると何か思いついたのか携帯を取り出した。

「青海くんって占いとか信じる?」

「いやあんまり」

 不運な占いなら当たるが。

そんな皮肉を心の中でつぶやいていると「これ見て」と言って新井さんは自分の携帯を開いて差し出した。そこに映っていたのは緑を基調としたなにかのアプリのようだった。ラッキーポイントと書かれた所は1084と書かれていた。

「ラッキーポイント?なにこれ?」

「『モイラ』っていうフリーの占いアプリ。結構有名なんだけど」

「聞いたことはあるけど、なんでまた占いなんて」

「登録すると自分の運がどれくらいあるのかとかその日の運勢とかが送られてきて来るんだけど、それが結構当たるって噂なんだよね」

「つまり?」

「青海くんもダウンロードしてみてってこと。そうすれば今日みたいなことにならないんじゃない?」

正直今更な感じがしていた。運の量なんてわかったところでどうしようもないし、わかりきっていることだ。占いなんかで自分の不運が変わるのであればとっくの昔に改善されてたはずなんだから。

 第一そんなの普通に信じられない。

「まぁとりあえずURLはメールで送ったから、気が向いたら確認しといて。私たちこれから部活だからもう行くね。ほら行くよ純一」

「はいはい。それじゃまた明日な」

 そう言いながら宮野たちは教室から出て行った。

「占いねぇ……」

 自分の携帯のメールを眺めて考える。

 今更何かしてこの不運を何とかできるのだろうか?

 何をやってもうまくいかないのなら何も期待しないほうが楽だ。

 暗くなったディスプレイはメガネをかけたさえない顔を映していた。

 これでいいのだろうか?

「……試してみるか」

 どうせ最初から期待していないなら落胆も少ない。

 どんなふうに占いが届くのか興味もあったし、幸運ポイントというのも気になる。大した労力でもないのだから試してみる動機はそれで十分だった。



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