聖竜の剣士と料理番 カフェのメニューを決定しましょう。
ドラコメサの領城で働く料理人ユルことユリウス・エウスカは、雇い主の一人で本人は隠しているが日本人の前世を持つフィオラと共に色々な料理やスイーツを開発しており、それを使って温泉街でカフェやレストランを出す計画を出会った当初から立てていた。
ユルは、フィオラが6歳の夏から領城で働き始め、彼女の口から出てくる色々なアイディアを自分の料理の腕と感性をフル活用させて実現させてきた。
フィオラの10歳の誕生日までには酪農家と共に生クリームを作り出し、バタークリームより軽いホイップクリームをたっぷり塗ったイチゴのショートケーキをプレゼントすることができた。
その5日後の弟領主フォルトの誕生日には、レモン大好きな彼のために、レモンと卵のクリームをふんだんに使ったレモンのショートケーキを祝宴に出すことができた。
そんな頃だった。工業ギルドの建築部門の方から、カフェを開く予定の建物の修繕とリフォームが完成したと連絡が入った。
本当なら春くらいに開業しようという話になっていたが、家令から「聖竜様が来臨されたら、竜都を訪れる方々が増えるのでは?」と言われたこともあって、二月の初めに開業しようと商業・工業ギルドの人達とも話し合って決定した。
店はショーケースと販売ブースを境目にして貴族エリアと庶民エリアに分けることは決まっていた。
つまりメニューも、貴族向けと庶民向けに色々考えなければならない。
ドリンクは紅茶とハーブティがメインで、それは品質の良し悪しで金額を分けることができたのと、フィオラの提案で庶民向けにはティーポットだけでなくカップ一杯から提供できる方式を採用した。
「ついでにお菓子とお茶のセットを作って、ちょっとでも安くできたらいいかも」という案も出たので、庶民向けのメニューにはお菓子の横に単品料金とカップティーとのセット料金が書かれることとなった。
しかし問題はスイーツの方だった。
テイクアウトのメインにもなる焼き菓子や一口大のパイは庶民にも気軽に買える値段にできそうだが、ケーキ類がそうもいかなかった。
手間暇がかかる分、庶民向けに値段を抑えるのも難しく、出来れば何か安く提供できる生菓子ができないかと考えていた。
その時だった、フィオラにアイデアの神様が降りてきたのは。
「……シュークリーム」
「? キャベツのクリームがどうしたの?」
その返しにフィオラはたいそう驚いた顔をした。
何故かと言えばフィオラの言葉は適当に翻訳されるのか、日本語特有の言葉や言い回しをしても、適当にこちらの言葉に訳されていた。
だからシュークリームも適当に訳されると思っていたのに、シューは語源であるキャベツに訳され、クリームはそのままクレムとして通ったらしい。
確かにシュークリームというものがない以上、翻訳できなくてあたり前だと後々フィオラは悟ったそうだった。
閑話休題。
ユルはその時、疑問に思ったことは放置して、フィオラの話をゆっくり聞くことにした。
「そのキャベツのクリームって作り方も夢で見たの?」
「キャベツじゃなくて、丸い薄い皮の中にクリームがたっぷり詰まってるスイーツなの」
「丸くて薄い皮はどうやって作るの?」
「たしか水・バター・砂糖を鍋で煮て、そこに粉を入れて煮ながらもったりした感じに混ぜるの。で、鍋からおろして溶き卵をちょっとずつ入れてもっちりもっちり混ぜて、てろーんとした生地にするの。生地をヘラで持ち上げたときに三角形の形で生地が下に落ちる緩さにするのが重要だった……って夢の中で作ってる人が言ってたわ」
「それをどうするの?」
「暖かいうちに生地を絞り袋に入れて、天板にくるくるーって円盤状に絞り出して、水をかけるか卵を塗るかしてオーブンで焼くの」
「うんうん」
「それにクリームを突っ込めば出来上がり! ……でも分量や火加減は全然覚えてないの」
身振り手振りと効果音を交えて教えてくれた作り方は、なかなかに面白そうだとユルは興味をひかれた。
昔、適当にパンを作ろうとした時に、膨らんで中が空洞になったことがあったのを思い出した。だからオーブンは高温で間違いないだろうと思いながらフィオラが語った作り方をメモしていた。
それをもとに「こんな感じだろう」という骨組みをユルが考えて、緻密で知識が豊富な同級生で同僚の女性料理人ファビアの助言も貰いながら色々と試してみた。
色々と、と書くと簡単そうに聞こえるが、ユルはいい具合の生地ができるまで100以上の試作をしていた。
ファビアも手が空いている時は、違う配合、違う手順、違う温度の生地作りを試していた。
二人とも料理のこととなると誰にも負けない根性を働かせるので、この程度のことは何の苦にもならなかった。
そして開店まであと数日という頃に、安定して丸い皮ができるレシピを作り出すことができた。
「ところでこの丸い生地をどうすればいいのかしら?」
「フィオラ様は丸い皮って呼んでたけど、なんか中に好きなクリームを入れればいいんだって」
「そうなのね」
「卵のクリームは安価でできるよね?だから庶民用には、卵のクリームをたっぷり充填したものを出せばいいかなと。原価計算してみて高くなりそうなら、大きさを変えるって手もあるし」
「貴族用はどうするの?」
「それなんだけど、基本的にかぶりついて食べるものって言ってたからさあ……どうなんだろう?」
「んー、でも、ナイフとフォークをつければ勝手に切り分けて食べてくれるんじゃないかしら?」
「それもそっか。じゃあ半分生クリームにしてもいいよね」
「チョコレートをかけてもよさそうじゃない?」
「高級感でそうだよね!あ、だったら小さく作った物をいくつか盛って、そこにチョコソースをかけてもいいかも!」
「ぼったくれそうだわ」
「イイよね!」
そんな不穏な会話をしながらも、程よく稼げるシュー皮を作ることができた二人は、ハイタッチをして喜び合ったのだった。
とりあえずは庶民用には水だけで作った小ぶりの皮に卵のクリームだけを入れた物を、貴族用には牛乳も混ぜてふんわりコクのある生地に仕上げた皮に卵のクリームだけとそれ以外を入れた2種類を販売し、その売れ行きによって大きさやバリエーションを考えようということになった。
これにショートケーキとレモンケーキとバニョレス原産のフルーツを使ったフルーツパイと、はちみつを使って作ったパウンドケーキを王宮晩餐のスイーツ並みに果物や生クリームで飾ったものを、カフェのスイーツメニューとして載せることが決定した。
それプラスひき肉入りのパイとサンドイッチを軽食として出してみることにした。
最初の一ヶ月は人もメニューも試用期間となる。様子を見て何を残して、更に何を加えるかをゆっくり決めればいいということになった。
そしてクリームの話になるが、どうやって中にクリームを入れるかという話になった時にフィオラが「皮の上部を切ってスプーンでいれるか、専用の器具でシューって入れるの」と発言した。
その器具を「こんな感じ」とフィオラが絵で描いてくれた。
上にクリームを入れる太い筒があり、その下方はクリームが集まりやすいように円錐形になっている。そこの一番下から横に筒が飛び出し、その先には太い注射針のような物が付いていて、そこに皮を刺して中にクリームを抽入する。その為に筒の横にレバーがあって、それを下に動かすとクリームが出てくる構造だと熱弁していた。
「これでシューってクリームを入れるから、クコ・エル・シュークレム(シュークリーム・ケーキ)って名前でどう?」
ということで、新しいスイーツの名前もそこで決定した。
クリームの充填機についてはドラコメサ専属鍛冶師のイグ爺に製作してもらうことになり、シュー皮が出来上がったころに同じく試作品を作りあげてくれた。
イグ爺がそれを持ってキッチンに来た時にその場にいたのは、ユルとファビアの他に料理人の恋人であり姉弟の護衛でもあるリュドとガルシオだった。二人は、その日の姉弟の授業中は休憩時間になっていたので、4人でのんびりお茶をしている最中だった。
ものを見たリュドは、昔馴染みの気安さと好奇心から、イグ爺に構造がどうなっているのか細かい部分まで楽しそうに聞いていた。
「とりあえずレバーを上下すると上の筒の内蓋が少しずつ下がるようにしてみたんだがなあ……」
「実際の動作を見てもう少し考えるということか?」
「だなあ」
「なんだろう。なんか不安なんだが……」
「ワシもだ」
そんな会話を交わす二人を横目に、ユルとファビアは器具をきれいに洗い、風と火の魔法属性を持つガルシオに温風で乾かしてもらっていた。
そして作り置きのカスタードクリームを上の筒に詰め、言われた通りに内蓋をセットし、上蓋もしっかり閉めた。
そしてユルが皮を手に取り器具の針に刺した。
「ユル坊、満タンになったと思ったら、止めるんだぞ」
「はーい♪」
「ゆっくり……」
リュドがユルにゆっくりレバーを下ろすように伝えようとしたがそれは時遅く、ユルは力いっぱいレバーを上から下に動かした。
その直後だった。
パァンッ!
と、小気味いい音がキッチンに鳴り響いた。
それは丁度キッチンに戻ってきた他の料理人たちの耳にも届き、わらわらと集まってきた。
「あれ?」
「あれっ、じゃない!」
「満タンになったら止めろと言うたのに……」
充填機の注入口の先からはクリームが垂れ下がっており、さらにその先を見ればシュークレムが壁にへばりついていた。
「どんな勢いで飛ばしたら、こうなるんだ……」
リュドはそう言いながら壁からシュークレムをはがして、パンパンと叩くとそのまま口に放り込んだ。
「美味いな」
「でしょ!でもあんな風に飛ぶとは思わなかったし~」
「じゃあどうなると思ったんだ?」
「んー。皮の弱い部分からクリームがにょろ~って出てくる程度かなあってw」
「笑い事じゃないだろう」
普段はユルに対しては短い説教しかしないリュドも、これはさすがにダメだろうと5分ほど懇々と説教した。
その間にガルシオが汚れた壁や床の掃除をし、イグ爺はファビアや料理人たちとどうするのがよさそうか話し合っていた。
改善点としては「クリームを押し出すのを上からではなく、下にある横に伸びる筒が適任」「クリームの出方を緩くするためには、注入用の針の直径をもっと細くする」という2点が上がった。
そしてユルからも「最初に洗ったときに気づいたけど、パーツがもっとばらけた方が、隅々まで洗いやすいと思うよ」という意見が出た。
2日後、イグ爺が改良版をもって城のキッチンにやってきた時は姉弟もそこに居た。今日はスイーツの最終チェックだと言っていたので、それに間に合わせるように器具の改良を済ませたのだった。
パーツが細かいだけに今回は説明書もついており、ユルとファビアはそれを見ながら解体し、水場に洗いに行った、
それを見送ったフォルトが何気なく質問を口にした。
「あれが姉さまの言っていたシューってクリームを入れる装置ですか?」
その瞬間、リュドとガルシオが噴出し、イグ爺が笑い始めた。
「どうしたの?」
「……失礼しました、フィオラ様、フォルト様。実は先日、試作の時に事故がおきまして」
試作版の充填機の試用運転の時に起きた事故というか、ユルが起こした事件の詳細を、リュドは笑いをこらえながら二人に話した。
話し終えた頃に二人も戻ってきて、ガルシオに乾かすように依頼をしていた。
「まさか食べ物が……あんなに飛ぶなんて……驚きすぎて、すみません」
「爆発しなかったの!?」
「はっ?」
「だってあんな大きな機械でこの小さな皮にクリームを思いっきり詰めたら、パーンって爆発しちゃうんじゃないの?」
キッチンは、一瞬の沈黙の後に、大きな笑い声に包まれた。
「えっ、え?」
「爆発ってwww嬢ちゃんは過激だのwwwww」
「皮がパーンってってwwwww」
「なんで爆破するって思った、お嬢www」
「は・じ・け・る・か・わwww」
「やめて、お腹痛いwww」
「……」
フィオラは何でと首をひねり、フォルトは呆れた感じで溜息をついていた。
「ボクだって皮の薄い所からにょろにょろ出てくるくらいかなって思ったのに」
「フィオラ様の発想力は、やはり面白いですね。とにかく」
一呼吸おいて落ち着いたリュドが姉弟に説明をし始めた。
「押すときに出るクリームの量を抑えることと、注入口を細くすることと、手入れの関係でパーツを洗いやすいように分けることを改良点にして出来上がったのがこの試作品2号です」
「口を細くしたんですか?」
「その方が大事なスイーツを飛ばす事故が起きないだろうというのと、何より見た目の問題もありまして」
「ああ、そうね。皮に開いた穴が大きいと見た目が悪いわね」
「はい、それとどこに穴をあけるかというのもこれから考えませんとね」
「味は?」
「美味しいですよ」
「もう食べたの!?」
「前回皆で色々試してみました」
「その中でよさげなものを出すから、皆でどれをとりあえずのメニューに入れるか決めましょうね」
笑いが落ち着いた一同で冷めた皮と中に詰める物の準備を終えると、試作品で卵のクリームをゆっくりと注入した。
跳ぶことも爆ぜることも漏れることもなく、クリームはしっかりと皮の空洞に収められた。
それ以外にも先に生クリームやベーリーソースを入れておいたものや、チョコソースをかけたものも試作した。
その結果、クリームを入れるのは皮の横からに決まった。
かじりついて食べる庶民に配慮したもので、そこから食べ始めれば食べる時にクリームがこぼれ出ることがないという結論に達したからだった。
貴族たちはナイフで切って食べるだろうから、切り方の一つとして上部を横にカットし、そこにすくい出したクリームを乗せる方法を記載しようということにもなった。
更にトッピングとして高級品のチョコレートソースを選択できるようにして様子を見ようということになった。
こうしてメニューは完成し、ユルは無事にカフェの開店準備を終えることができたのだった。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
【おまけ ギルドの苦労とフィオラの後悔】
1月の初めの頃に、工業ギルドの建築部門から「カフェを開く予定の建物の修繕と、リフォームが完成した」と領城の方に連絡が入った。
それを聞いたフィオラは、聖竜来臨までに話し合いを済ませたいからと10日に打ち合わせの場を持つことを各所に通達した。
フィオラはエリサとユルと、金庫番と呼ばれる会計士のリナルドと、護衛としてシアとトリアの二人を引き連れてその場に赴いた。
カフェには女性の意見を多く取り入れたいからということで、意見を聞くためと称して護衛には女性騎士を指名した。
工業ギルドとは細かい内装品をどれにするか、店の看板の素材や書体はどうするかという話を、商業ギルドとは店の人材確保をどうするかという話を、商人達とは食器類やリネン系の話を行いつつ、まだ解決していない問題を話し合うことになった。
実はテーブルセットを工業ギルドと商人のどちらが用意するかがまだ決まっていなかった。
カフェの間取りは、建物中央の扉を入って正面にショーケースと販売物カウンターがあり、その背後に調理場と食材倉庫がある。その業務エリアを真ん中に、左右に同程度の広さのスペースが作ってあった。
向かって左側の窓のない方が保安上安全ということで「貴族専用エリア」になり、反対側の脇道に面した窓のある方を「庶民エリア」にすることになった。
庶民エリアを「庶民専用エリア」にしなかったのは、下位貴族やお忍びの人が入りやすいようにというのと、こちらのエリアを利用する以上マナーは庶民に合わせる様にという配慮からだった。
問題になっているテーブルセットは、庶民エリアの方は数がいるし、パテーションで何区画かに区切る予定の貴族エリアの方はある程度の格式のあるものが必要だった。
話し合いの結果、大量生産は工業ギルドの方に伝手があるからと工業ギルドが引き受けることになり、貴族エリアの方は「パテーションで区切るのなら、全部同じものではなく、いくつかのブランドを用意するといいのでは?」ということとなり、食器類・調度品と共に商業ギルドを通じ商人に任せることとなった。
そして商業ギルドの話を聞いた工業ギルド側が「もしも工房を揃えなくていいというのなら、多分十日ほどでこの数の机と椅子が用意できますがいかがでしょうか?」と提案してきた。
ならばと、フィオラがこんな感じの区分けでと机の配置図に線を引いて渡すと、ではそれでと請け負ってくれた。
それを受けて、
「じゃあ、先に準備できそうな庶民エリアからオープンさせようかな」
と、フィオラがうっかり呟いてしまった為に、商業ギルド側の責任者が「1週間で用意します」と鼻息荒く断言し、横に居た商人たちも激しく頷いていた。すると工業ギルドの方も負けじと「我々も一週間ですべてを揃えます」と声を張り上げてきた。
自分の所為でと慌てたフィオラが皆を止めようとしたが、それを遮ったのはユルだった。しかも「フィオラ様、グッジョブです」と彼女が教えた前世の言葉を添えて。
そして二人のギルドの担当者に対して、鬼のような言葉を投げかけた。
「じゃあ20日にオープンできそうだね♪」
今から一週間後に机と椅子が用意できたとしても、それ以外のものがそろうとは誰も言っていないのに。
その一言で二人のギルドの者だけでなく、商人もさすがに驚いた顔をして固まっていた。それを見て満足したのか、ユルは笑いながらもう一言添えた。
「でもそれだとなんかきりが悪いから、2月1日にオープンでどうかな?」
その言葉に一同はあからさまにほっとした。
25日くらいまでには全てを揃え、店員の実地研修を2日間で終わらせて、28日の昼過ぎにプレオープンとして関係者のみを招き、翌1日に全面オープンすることとなった。
そしてもう一つ、工業ギルドから確認が来た。
「ところでフィオラ様、店名は決まりましたか?」
「あ、うん。ユルと話し合ってやっと決まったの。これでお願いね」
そこに書かれていた名前を見て、フィオラとユル以外は絶句した。
「あの、フィオラ様、これで本当によろしいのですか?」
「ん? 大丈夫よ。あ、それで商業ギルドの方にもお願いがあるんだけど」
フォイオラはそう言いながら鞄の中からある絵本を取り出し、ページをめくるとある一枚の挿絵を指さした。
「この絵か、同じシチュエーションの絵を手に入れてほしいの。それを販売カウンターの後ろに飾りたくて」
「フィオラ様、まさか髪の色が赤毛で目の色が黄色に近いといいとか思っていませんか?」
「赤毛と言うよりは、赤茶色ですよね?大丈夫ですか?」
「……大丈夫よね、ユル」
「大丈夫、大丈夫~♪」
そう軽く答える主人と料理番が、どう考えても「共通の知り合いに寄せたキャラクター」での絵を求めていることに、護衛二人だけでなくギルドの職員や商人も気がづいた。
シアとトリアは「だから今日の護衛は私達だったんですね」とぶつぶつ言いながらも、領城に帰ってもその件については何も言わずにおいてくれた。
だがもちろん、プレオープンの日にフィオラとユルは同じ名を持つリュドからしっかりと叱られた。
「何故カフェの名前が、カフェ・リュドルクなんですか?」
「えー、絵本になってるくらいの伝説の英雄様の名前を頂いただけよ?」
「そーだよー。ドラコメサもバニョレスもなんか違うってなってなったから、この辺りでは名前を知らない人はいないくらいの英雄の名前を使っただけだよ」
「だったらどうしてあの絵が俺にそっくりなんだ?」
「それはフィオラ様のリクエストだよ」
「ユル、ひどい! ユルだってノリノリでリュドの特徴を伝えてたじゃない!」
「え~? そうだったっけ?」
「だろうな。そもそもリュドルクの名を出したのはお前だろう、ユル」
「え~?」
「フィオラ様からなら、多分先にフォルト様に相談されていて、フォルト様が止めると思うからな」
「そうですね。相談されていたら止めていましたよ」
「え、なんで?」
「……後々わかるのではないですか?」
フォルトの言葉に名付けた二人は頭の上にハテナを浮かべていたが、英雄と同じ名を持つ男は思い当たることがあったのか深く疲れたような溜息をついていた。
そして「カフェ・リュドルク」がオープンし、行列を作る程の有名店になるとともに、店のシンボルになっている絵も有名になった。
絵の下に絵本のタイトルである【英雄リュドルクの初めての手柄】の文字が金属プレートに書かれ、その横にはフィオラが示したイラストの横にあった最後のページの文章が書かれた板が張られていた。
【リュドルクは全ての魔獣を切り伏せると、
一番後ろに居た魔物と戦い、倒すことができた。
こうして彼はバニョレスの町の英雄となり、
この世界の英雄となる第一歩を踏み出したのだった】
その様子を表すように絵の中の人物は、黒い山の上で横たわっている有名な魔物のフラガンタ・レオノ(飛びライオン)に片足を乗せ、左腕で盾を持ち、右腕で大剣を天に掲げており、リュドによく似た騎士の絵 姿だった。
彼は何代目かの聖竜の戦士だとこの地域では有名だったので、背景には煙を吐くラトリア山が描かれていた。
だが観光客にしてみればこの絵に描かれた人物は、現代の聖竜の戦士=騎士リュドリュク・ドラコミリそのものに見えた。
リュドがプライベートで歩いているならまだしも、護衛をしている時も観光客から称賛の目を向けられ、時に手を振られ何なら握手まで求められるようになってしまった。
最初は(護衛対象に促されたのもあり)普通に応じていたリュドだったが、これでは業務に支障が出るし、何よりデートもままならない。さすがにフィオラに現状を訴えるという名の説教をした上で、街の入口で竜都での案内や注意事項を観光客に告げる担当の警備隊に「ドラコミリと出会っても無視すること。けっして接触しようとしないように」と警告してもらうこととなった。
PS.
「……後々にお目玉を食らうとは思わなかったわ」
「姉さまは、もう少し長期的視野を伸ばした方がいいと思います」
「そうするわ……」
お読みいただき、ありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。
リアクションの方もよろしくお願いします!
とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。
前作を書いている時に思いついたネタでしたが、本編に入れるタイミングを逃した話を、短編として書きました。
何か本編を書いている時はいらないかなって思った話だったので。
個人的には好きなネタですと言うか、実際に友人とこんな会話をしたなって懐かしくなった話なんです……某パパなシュークリーム屋さんの充填機の話w
私はクリームを入れる様子を見て「いれすぎたら隙間からニョロっと出たり、皮の弱い部分を突き破ったりしないのかな?」ってドキドキしていましたが、友人はユル同様「爆発するかも!」って思ったそうで……めっちゃ私の笑いのツボにはまったんですよねwww
ってことで、書く気力を戻すためのギャグ材料として書いてみました♪
ご笑納いただければ幸いです♪
※説教の長さに関してですが……普段なら30分か1時間説教する説教魔のリュドですが、ユルのあまりの説教の聞かなさに、普段は一言二言で済むようにしています。
今回は食べ物ってこともあって、ユルに対してにしては、長く説教をしていたと思ってください。
※「フィオラ10歳 聖竜来臨2」の直後のお話です https://ncode.syosetu.com/n4604ho/49/




