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第八節「竹光侍の本気」

 すると木の陰に隠れていた武士たちが姿を現す。

一人、二人ではない。

次々と現れ、その数は二十人近くに及んだ。

全員が帯刀している。

しかも立ち居振る舞いからして町道場の剣客ではない。

実戦慣れした武士たちだった。

 生き残った用心棒たちの顔色が変わる。

左馬之助も思わず舌打ちした。

「まだいたのか……!」

先頭に立つ武士が口を開く。

「なかなかの腕利きがいるようだが、ここで失敗するわけにはいかんのでな。悪く思うなよ」

そう言って刀を抜く。

他の武士たちも一斉に刀を抜いた。

賊たちとは比べ物にならぬ殺気が周囲を包む。

 その中で清十郎だけが落ち着いていた。

「そうか」

手にした刀を眺める。

刃には血がこびり付いている。

「そろそろ血糊で切れ味が悪くなってきたのでな」

そして最前列の武士へ視線を向けた。

「お主の脇差をもらう」

「何?」

武士が眉をひそめた瞬間だった。

袈裟斬りが放たれる。

だが清十郎は紙一重で身をかわした。

さらに懐へ飛び込む。

武士が反応するより早く腰の脇差を抜き取った。

「なっ!?」

清十郎はそのまま相手の背後へ回り込む。

一閃。

武士は声も上げられず倒れた。

戦いが再開された。

しかし今度の相手は賊ではない。

武士である。

しかも数が多い。

護衛たちは必死に応戦するものの次々と倒れていった。

やがて戦況はさらに悪化する。

残った用心棒は左馬之助を含めてもわずか四人。

一方、武士たちはまだ十二人も残っていた。

番頭の茂吉や奉公人たちは荷車の周囲で震えている。

このままでは皆殺しになる。

清十郎はそれを見て大きく息を吐いた。

そして声を張り上げる。

「お主ら!」

武士たちの動きが一瞬止まる。

「どうせ全員を殺すつもりなのであろう!」

武士たちは怪訝そうな顔をした。

「それならば今、某を殺さねばその願いは叶わんぞ!」

「何っ!?」

一斉に視線が集まる。

清十郎は刀を肩へ担ぐように構えた。

「今残っている全員でかかれば或いは望みがあるかもしれん」

そして静かに笑う。

「しかしそうでなければ、貴様ら如き某の敵ではない」

武士たちの表情が険しくなった。

だが誰も反論できない。

清十郎の足元には既に数え切れぬほどの死体が転がっていた。

「確かに只者ではないな」

「先にあの男を始末するぞ」

「囲め!」

武士たちが一斉に清十郎を取り囲む。

その瞬間だった。

「おおおおっ!」

左馬之助が背後から飛び出した。

油断していた武士を斬り伏せる。

しかし次の瞬間。

「甘い!」

別の武士が反撃した。

左馬之助は辛うじて致命傷を避ける。

だが腕を深々と斬られた。

「ぐっ!」

鮮血が飛び散る。

左馬之助は後退した。

武士の一人が笑う。

「お前の小細工は失敗に終わったようだな」

だが清十郎は首を横に振った。

「いや」

そして刀を下げる。

「そんなつもりは御座らん」

武士たちが怪訝な顔をする。

清十郎は穏やかな口調で言った。

「まとめてかかって参られい」

その言葉に武士たちは激昂した。

「舐めるな!」

「斬れ!」

十一人が一斉に襲い掛かる。

常識なら避けようのない攻撃だった。

しかし清十郎は違った。

最も近い武士へ自ら飛び込む。

間合いを潰した。

脇差を胸へ突き刺す。

引き抜く。

その勢いのまま隣の武士を斬る。

さらに身体を捻る。

三人目の刃をかわす。

すれ違いざまに腹を裂く。

囲みを抜ける頃には三人が倒れていた。

武士たちは愕然とする。

清十郎は手にしていた脇差を捨てた。

足元の死体から別の刀を拾う。

そして肩を回すように軽く刀を振った。

「さて」

武士たちの背筋が凍る。

「そろそろ本気を出そうか」

次の瞬間だった。

清十郎の姿が消えた。

いや、速すぎて見えなかった。

一人。

二人。

三人。

武士たちが次々と倒れる。

左馬之助ですら目で追えない。

気が付けば五人が地面に転がっていた。

残った三人は顔を青ざめさせる。

「化け物だ……」

「勝てるか、こんな奴に!」

「逃げろ!」

三人は背を向けた。

清十郎はため息を吐く。

「逃がしはせん」

手にしていた刀を投げた。

刀は一直線に飛ぶ。

最も遠くにいた武士の背中へ突き刺さった。

武士はそのまま前のめりに倒れる。

残る二人。

清十郎は一瞬で距離を詰めた。

一人の後頭部へ手刀を叩き込む。

武士は白目を剥いて崩れ落ちた。

その腰から刀を奪う。

最後の一人が振り返る。

だが既に遅い。

峰打ちが後頭部を打ち据えた。

武士は昏倒した。

静寂。

風だけが林を吹き抜ける。

生き残った者たちは誰も言葉を発せなかった。

やがて左馬之助が腕の傷を押さえながら近づいてくる。

「貴殿のお陰で助かった」

そして深々と頭を下げた。

「この通り、礼を言う」

清十郎は首を振る。

「これが仕事だから、礼を言う必要など御座らん」

左馬之助はしばらく清十郎を見つめた。

赤墨色の着流し。

痩せた身体。

そして腰には竹光。

どう見ても冴えない浪人だった。

しかし先ほど見た剣技は本物だった。

「貴殿、本当に竹光侍の橋本清十郎殿か?」

清十郎は平然と答える。

「左様」

左馬之助は呆れたように笑った。

「これが竹光侍の本当の力か……」

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