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決戦1943 マリアナ沖海戦  作者: 仲村千夏


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第四

 主力戦列の外側で続いていた高速戦艦隊同士の激突は、ついに一つの区切りを迎えていた。


 海には黒煙が幾筋も立ち上っている。


 燃え上がる艦体。


 損傷しながら離脱していく巨大戦艦。


 その光景は、まさに激戦の後だった。


 アメリカ側――。


 四隻のうち、アイオワ、ミズーリ。この二隻はすでに戦闘能力をほぼ失っていた。


 上部構造物は砲弾で吹き飛び、レーダー装置は完全に沈黙。


 砲塔も複数が損傷していた。


 航行は可能だが、戦闘継続は不可能。


 そして、ニュージャージー、ウィスコンシン。この二隻も多数の命中弾を受けていた。


 装甲は破られていないが、砲塔や艦橋、通信設備が損傷。


 いずれも中破状態だった。


 アメリカ艦隊司令部は決断した。


「高速戦艦部隊、戦線離脱」


 巨大戦艦四隻がゆっくりと進路を変える。


 煙を上げながら戦場を離れていく。


 一方、日本側も無傷ではない。


 出雲。第一砲塔、第二砲塔が破壊され、戦闘能力を喪失。


 摂津。中央部火災が拡大し、戦闘続行は困難。


 金剛。機関損傷により速力低下。


 この三隻はすでに戦列を離脱していた。


 だが――残った戦艦はまだ戦える。


 比叡、霧島は中破しながらも砲撃を続けていた。


 さらに、石見、因幡、榛名。


 この三隻は小破にとどまり、なお戦闘能力を保っていた。


 高速戦艦決戦は、互いに戦線離脱を伴う激戦となって終わった。


 その報告が連合艦隊旗艦大和に届いた。


 通信士官が報告書を読み上げる。


「高速戦艦隊より入電」


「敵高速戦艦、全艦戦線離脱」


 艦橋に緊張が走る。


 参謀が続ける。


「敵損害」


「アイオワ級二隻大破」


「二隻中破」


「戦線離脱」


 そして日本側。


「出雲、摂津、金剛、大破」


「戦線離脱」


「霧島、比叡、中破」


「石見、因幡、榛名、小破」


 報告が終わると、艦橋は静かになった。


 山本五十六は海図を見つめていた。


 そしてゆっくりと頷いた。


「……よし」


 参謀が顔を上げる。


 山本は穏やかに言った。


「よくやった」


 参謀が言う。


「高速戦艦隊は損害も大きいですが……」


 山本は首を振った。


「いや」


「十分だ」


 そして続けた。


「アイオワ級を四隻とも戦列から外した」


「それで十分だ」


 山本の目が海図の中央へ向く。


 そこには主力戦列が描かれていた。


 播磨型、大和型、薩摩型、長門型。


 対するアメリカ戦列。


 サウスダコタ級。


 ノースカロライナ級。


 旧式戦艦群。


 こちらもまだ多数が残っている。


 山本は静かに言った。


「これで戦いは本来の形になる」


 参謀が聞き返す。


「本来の形?」


 山本はゆっくりと微笑んだ。


「戦艦同士の戦いだ」


 その頃。


 戦列の最前線。


 巨大戦艦 播磨 の艦橋。


 第二戦隊司令官 栗田健男中将 は報告を受けていた。


 副官が言う。


「高速戦艦隊、戦線離脱」


「敵アイオワ級も離脱」


 栗田は静かに頷いた。


「そうか」


 そして水平線の彼方を見る。


 そこにはまだ巨大戦列が並んでいる。


 アメリカ戦艦群。


 サウスダコタ級。


 ノースカロライナ級。


 さらに旧式戦艦。


 まだ十隻以上の戦艦が残っていた。


 栗田はゆっくり言った。


「ならば」


「こちらの番だな」


 播磨の巨大砲塔が旋回する。


 その砲口が敵戦列へ向いた。


 栗田は短く命じた。


「全艦」


 副官が身を乗り出す。


 栗田の声は低く、しかし力強かった。


「全力砲撃」


「敵戦艦を叩け」


 その命令は瞬時に戦列へ伝わった。


 六隻の巨大戦艦が一斉に砲塔を向ける。


 さらに四十一cm砲戦艦群が続く。


 巨大戦列が再び火を吹いた。


 轟音。


 衝撃波。


 巨大砲弾が空を埋める。


 距離――二万八千メートル。


 ついに主力戦艦同士の砲撃戦は決着段階へ突入していた。


 海はすでに巨大な戦場となっていた。


 日本高速戦艦隊とアメリカ高速戦艦隊の戦いは終息し、双方の高速艦は戦列を離れつつある。


 戦場の中心に残されたのは――


 主力戦艦群。


 日本海軍が条約破棄後、十年以上をかけて整備した巨大戦艦群だった。


 連合艦隊旗艦。


 戦艦・大和。


 その艦橋で山本五十六は静かに海を見つめていた。


 副官が報告する。


「高速戦艦隊、完全離脱」


「敵アイオワ級も戦線離脱」


 山本は頷く。


「側面の脅威は消えたな」


 参謀が言う。


「はい」


「主力同士の戦いになります」


 山本の視線は遠くの水平線へ向いていた。


 そこにはまだ敵戦艦群が並んでいる。


 サウスダコタ級。


 ノースカロライナ級。


 さらに旧式戦艦群。


 だが日本側の戦列は圧倒的だった。


 その最前列に並ぶのは、


 怪物たち。


 戦艦 播磨。


 戦艦 越後。


 世界最大の46cm砲戦艦。


 巨大な三連装砲塔三基。


 九門の46cm砲。


 その砲口がゆっくりと敵戦列へ向いていた。


 播磨艦橋。


 栗田健男中将は双眼鏡を下ろした。


 距離――


 二万七千メートル。


 十分な距離だった。


 砲術長が言う。


「敵戦列確認」


「サウスダコタ級四隻」


「ノースカロライナ級二隻」


 栗田は短く命じた。


「播磨、越後」


「先頭艦を叩く」


 砲術長が復唱する。


「目標、敵先頭艦」


「砲撃準備!」


 巨大戦艦の砲塔が旋回する。


 砲身がわずかに上下した。


 その瞬間。


「撃て!」


 次の瞬間、


 世界最大の砲撃が放たれた。


 轟音。


 46cm砲九門が同時に火を吹く。


 巨大な衝撃波が海面を揺らす。


 砲弾重量。


 一・五トン。


 鋼鉄の塊が空を裂いて飛んでいく。


 播磨の砲撃から数秒後。


 越後の46cm砲が続く。


 さらにその後ろから、


 43cm砲戦艦群。


 大和

 武蔵

 信濃

 紀伊


 四隻が同時に砲撃を開始した。


 巨大砲弾の雨。


 合計


 三十三発。


 それが一斉に敵戦列へ降り注ぐ。


 海面に巨大水柱が立つ。


 次の瞬間。


 観測員が叫んだ。


「命中!」


 46cm砲弾が


 サウスダコタ級戦艦の艦首付近へ直撃した。


 爆発。


 巨大な炎が吹き上がる。


 さらにもう一発。


 今度は中央部。


 甲板を貫いた砲弾が内部で炸裂した。


 アメリカ艦橋。


 士官が叫ぶ。


「大口径命中!」


「46センチ砲!」


 提督の顔が歪む。


 日本戦艦の火力は予想以上だった。


 さらに次の瞬間。


 三発目。


 越後の砲弾が主砲塔付近に命中。


 巨大な爆炎。


 砲塔が煙に包まれる。


 その衝撃で艦全体が震えた。


 だがアメリカ艦隊も沈黙しない。


 サウスダコタ級が反撃する。


 40.6cm砲。


 一斉射撃。


 巨大砲弾が日本戦列へ向かう。


 だがその時にはすでに、


 日本戦艦群の第二射が放たれていた。


「第二斉射!」


 播磨の砲塔が再び火を吹く。


 九門の46cm砲。


 その砲弾が再び敵戦艦へ降り注ぐ。


 今度は三発同時命中だった。


 艦中央部。


 爆発。


 炎。


 煙。


 そして巨大戦艦が大きく傾いた。


 観測員が叫ぶ。


「敵戦艦炎上!」


 その頃。


 43cm砲戦艦群も猛威を振るっていた。


 大和。


 43cm砲が火を吹く。


 その砲弾がノースカロライナ級の甲板へ命中。


 爆炎が上がる。


 さらに武蔵。


 信濃。


 紀伊。


 四隻の砲撃が次々と命中していく。


 巨大戦艦群による集中砲撃。


 それはまさに


 怪物の群れ。


 海戦の常識を超えた火力だった。


 栗田はそれを静かに見ていた。


 副官が言う。


「敵戦列、乱れています!」


 水平線の向こう。


 アメリカ戦艦群の陣形が崩れ始めていた。


 先頭艦は炎上。


 後続艦は回避運動を始める。


 そこへさらに砲撃が降り注ぐ。


 播磨の第三斉射。


 越後の第三斉射。


 巨大砲弾が空を裂く。


 そしてついに――


 巨大爆発が起きた。


 敵戦艦中央部。


 炎が空へ吹き上がる。


 黒煙が空を覆う。


 観測員が叫んだ。


「敵戦艦大爆発!」


 海面に巨大な衝撃波が走る。


 サウスダコタ級の一隻が大きく傾いていた。


 日本主力戦艦隊の火力。


 それはもはや圧倒的だった。


 山本五十六は大和の艦橋でその光景を見ていた。


 参謀が言う。


「敵戦列崩壊の兆し」


 山本は静かに頷いた。


「当然だ」


 そして呟いた。


「怪物を二十隻も並べれば」


「こうなる」


 その瞬間。


 再び巨大砲撃が海を震わせた。


 マリアナ沖の海は今、


 史上最大の戦艦決戦の中心にあった。

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