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決戦1943 マリアナ沖海戦  作者: 仲村千夏


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3/7

第三

 マリアナへ向かう太平洋の海は、低い雲に覆われていた。


 その雲の下を、巨大な艦隊が静かに進んでいた。


 連合艦隊。


 日本海軍が誇る主力戦艦二十隻が、広大な海原を南東へ進んでいる。


 艦隊は二列単縦陣。


 二本の巨大な鉄の列が、平行して海を切り裂いていた。


 左列の先頭を進むのは、巨大戦艦――播磨。


 四万トンを遥かに超える巨体の艦首が波を割り、その後ろには同型艦 越後 が続く。


 二十隻の戦艦が、太平洋の中央を進んでいた。


 艦隊中央。


 戦艦大和の艦橋では、連合艦隊司令長官山本五十六 が静かに海を見ていた。


 灰色の雲が低く垂れ込み、海は鈍く光っている。


 机の上には太平洋の海図が広げられていた。


 海図には幾本もの線が引かれている。


 潜水艦哨戒線。


 航空偵察線。


 迎撃海域。


 それは日本海軍が長年準備してきた戦略――迎撃漸減作戦。


 太平洋を西へ進むアメリカ艦隊を段階的に削り取り、最後に主力戦艦部隊で撃滅する。


 その最終決戦の舞台が、マリアナ沖だった。


 参謀が報告を読み上げる。


「マーシャル諸島方面潜水艦隊、異常なし」


「敵艦隊未発見」


 山本は小さくうなずいた。


「そうか」


 マーシャル諸島周辺には、日本海軍潜水艦の警戒線が広く展開している。


 アメリカ艦隊が西へ進むなら、必ずそこを通る。


 そこを発見し、攻撃し、航空隊がさらに削る。


 その後に戦艦決戦。


 それが作戦だった。


 参謀が続ける。


「基地航空隊は索敵待機中です」


「天候は雲量多く、視界やや不良」


 山本は海図を見ながら言った。


「まあいい」


「敵は必ず来る」


 その声には余裕があった。


 参謀たちも緊張してはいない。


 長年研究された作戦である。


 そう簡単に崩れるものではない。


 その頃、艦隊の前方では別の空気が流れていた。


 播磨の艦橋には戦艦部隊指揮官栗田健男中将が立っていた。


 前方には巨大な艦隊が広がっている。


 播磨の前方砲塔がゆっくりと旋回していた。


 砲術訓練だった。


 士官の一人が言う。


「距離測距、三万二千」


 栗田は双眼鏡を下ろした。


 海の彼方には、味方艦隊が長い戦列を作っている。


 二十隻の戦艦。


 まさに決戦艦隊だった。


 栗田は低い声で言った。


「戦艦はな」


 士官が振り向く。


 栗田は静かに続けた。


「砲を撃つためにある」


 砲術長が笑った。


「その通りであります」


 栗田の視線は遠くの海に向いていた。


「米戦艦が来るなら、歓迎してやろう」


 その言葉には迷いがなかった。


 その頃――太平洋の中央では、別の艦隊が進んでいた。


 アメリカ太平洋艦隊。


 巨大な戦列が西へ向かっている。


 だがその進路は、日本海軍の予想とは違っていた。


 マーシャル諸島へ向かわない。


 潜水艦哨戒線の外側を通る。


 太平洋中央海域を、静かに西へ進んでいた。


 艦隊速度。


 十八ノット。


 戦艦部隊としては決して速くない。


 だが燃料消費を抑え、長距離航行を可能にする速度だった。


 空は曇っている。


 低い雲が広がり、視界は悪い。


 航空偵察には不利な天候だった。


 アメリカ艦隊はその雲の下を進んでいた。


 巨大戦艦群。


 巡洋艦。


 駆逐艦。


 それらが整然と隊列を作り、マリアナへ向かっている。


 潜水艦線を避けて。


 航空索敵圏の隙間を縫って。


 静かに。


 確実に。


 そして数時間後。


 連合艦隊上空。


 一機の水上偵察機が雲の切れ目を抜けた。


 零式水上偵察機。


 偵察員が海面を見下ろす。


 その瞬間だった。


 彼は目を見開いた。


 水平線の向こう。


 無数の艦影。


 巨大な戦列。


 戦艦。


 巡洋艦。


 駆逐艦。


 一瞬、言葉を失った。


 やがて震える声で無線機を掴んだ。


「敵艦隊発見!」


 通信士が繰り返す。


「敵戦艦多数!」


 電波はすぐに連合艦隊旗艦へ届いた。


 大和艦橋。


 通信兵が叫んだ。


「偵察機より入電!」


 参謀が紙を受け取る。


 読み上げた。


「敵主力艦隊発見」


「距離――四百二十キロ」


 艦橋が静まり返る。


 参謀の一人が言った。


「潜水艦線の西です」


 つまり――アメリカ艦隊は潜水艦線を避けて突破していた。


 参謀が低い声で言う。


「漸減線……」


「突破されています」


 沈黙。


 数秒の静けさ。


 山本は海図を見つめていた。


 やがて、ふっと笑った。


「なるほど」


 参謀たちが顔を上げる。


 山本は肩をすくめた。


「やってくれるじゃないか」


 そして静かに言った。


「まあいい」


「どうせ最後は同じだ」


 参謀が聞き返す。


「同じ、とは?」


 山本は窓の外の戦艦群を見た。


 二十隻の巨艦が、雲の下を進んでいる。


 その主砲はまだ沈黙していた。


 だが、いずれ火を吹く。


 山本はゆっくりと言った。


「最後は戦艦同士の勝負だ」


 そして命じた。


「栗田に伝えろ」


 参謀が姿勢を正す。


 山本の声は静かだった。


「敵主力発見」


「艦隊決戦用意」


 雲の下で、巨大戦艦の主砲がゆっくりと旋回を始めていた。


 戦艦が、戦艦の後ろに続く。


 水平線の彼方まで灰色の艦影が並んでいる。


 それはまさに鉄の艦隊だった。


 艦隊中央。


 旗艦 大和 の艦橋では、連合艦隊司令長官 山本五十六 が海図を見ていた。


 参謀が報告を読み上げる。


「敵主力艦隊、針路西北西」


「速度十八ノット」


 山本はゆっくりとうなずいた。


 敵はまっすぐこちらへ向かっている。


 つまり――


 逃げる気はない。


 参謀が続ける。


「敵戦艦多数確認」


「艦隊規模、我が方と同等と推定」


 山本は海図の上に指を置いた。


 マリアナ沖。


 まさにここである。


「いい場所だ」


 山本は小さく言った。


 参謀が聞き返す。


「司令長官?」


 山本は海図を指で叩いた。


「海は広い」


「航空基地からも遠い」


「逃げ場もない」


 そして静かに言った。


「戦艦決戦には、ちょうどいい」


 その頃、艦隊の先頭では別の緊張が流れていた。


 戦艦 播磨 の艦橋。


 第二戦隊司令官 栗田健男中将 が双眼鏡をのぞいていた。


 遠くに並ぶ味方戦艦。


 その巨大な戦列を見渡し、栗田は低く笑った。


「壮観だな」


 副官が言う。


「これほどの戦艦が揃うとは」


 栗田はうなずいた。


「世界でも二度とないだろう」


 その声には誇りがあった。


 播磨の前部主砲塔がゆっくりと動いた。


 砲術長が報告する。


「主砲旋回試験完了」


「射撃準備整いました」


 栗田は短く答えた。


「よろしい」


 そして遠くの水平線を見た。


 そこにはまだ何も見えない。


 だが確実に敵はいる。


 アメリカ戦艦隊。


 ノースカロライナ級。


 サウスダコタ級。


 そして新鋭の


 アイオワ級。


 栗田は低く言った。


「米戦艦も来ているだろうな」


 副官が答える。


「おそらく」


 栗田は静かに笑った。


「上等だ」


「戦艦は砲を撃つためにある」


 その言葉は前日と同じだった。


 その頃。


 太平洋の北東。


 アメリカ太平洋艦隊もまた、巨大な戦列を作っていた。


 先頭には高速戦艦。


 アイオワ級。


 長い艦首が海を切り裂きながら進んでいる。


 その後ろに


 ノースカロライナ級。


 さらに


 サウスダコタ級。


 後方には旧式戦艦群。


 十七隻の戦艦が、整然と単縦陣を作っていた。


 旗艦の艦橋では、アメリカの提督たちが海図を見ている。


「日本艦隊まで四百キロ」


 参謀が報告する。


 提督は静かにうなずいた。


「戦艦二十隻……」


「本当に出してきたか」


 その声には驚きが混じっていた。


 これほどの戦艦戦力は、アメリカでも前例がない。


 だが提督はすぐに言った。


「いいだろう」


「受けて立つ」


 巨大な二つの艦隊。


 その距離は、確実に縮まっていた。


 四百キロ。


 三百五十キロ。


 三百キロ。


 空母の航空戦ならすでに始まる距離だ。


 だがこの海戦は違う。


 主役は――


 戦艦。


 巨大主砲の射程まで接近しなければならない。


 やがて連合艦隊上空。


 偵察機が再び敵影を確認した。


「敵艦隊視認!」


「戦艦多数!」


 報告はすぐに大和へ届いた。


 参謀が言う。


「距離三百二十キロ」


 山本は静かに言った。


「よろしい」


 そして命じた。


「艦隊戦闘配置」


 その瞬間。


 二十隻の戦艦の艦内に警報が響いた。


「戦闘配置!」


 水兵たちが走る。


 砲塔の装填手が配置につく。


 測距儀が起動する。


 巨大砲塔がゆっくりと敵方向へ向いた。


 太平洋の中央。


 世界最大の戦艦艦隊同士が、いま互いに接近していた。


 距離はまだ遠い。


 だが確実に縮まっている。


 艦隊中央、旗艦大和の艦橋で山本が双眼鏡を下ろしていた。


 参謀が報告する。


「敵艦隊との距離、二百四十キロ」


「接近速度、約三十六ノット」


 二つの艦隊が互いに近づいているため、距離は急速に縮まっていた。


 山本は静かに言った。


「よし」


 そして命じる。


「戦列運動開始」


 参謀が繰り返した。


「戦列運動開始!」


 命令は信号旗と無線で艦隊全体へ伝えられる。


 巨大な戦艦群が、ゆっくりと動き始めた。


 左列先頭――播磨。


 その艦橋で栗田健男中将が双眼鏡を覗いていた。


 信号兵が報告する。


「連合艦隊より命令」


「戦列運動開始」


 栗田はうなずいた。


「来たな」


 そして艦長へ言う。


「取舵五度」


 播磨の巨大な舵がゆっくりと動く。


 艦体がわずかに左へ傾き、戦列がゆるやかに変形していく。


 播磨に続き、主力戦艦が順に進路を変え始めた。


 やがて二列単縦陣はゆっくりと広がり、主力戦艦列が長く伸びていく。


 それは戦闘単縦陣への移行だった。


 右列の高速戦艦部隊でも同じ動きが始まっていた。


 先頭の出雲が進路を変える。


 その後ろで出雲型戦艦が続く。


 さらに、金剛型戦艦が隊列を整える。


 高速戦艦部隊は主力戦列のやや外側へ広がり、別の戦列を形成し始めていた。


 それは計画された配置だった。


 主力戦艦が敵艦隊の先頭を押さえ、


 高速戦艦が側面から砲撃する。


 十字砲火。


 連合艦隊が長年研究してきた戦艦戦術である。


 播磨艦橋。


 栗田はゆっくりと頷いた。


「いい形だ」


 副官が言う。


「距離、二百キロ」


 まだ敵艦影は見えない。


 だが偵察機は上空から敵の動きを報告していた。


「敵艦隊、単縦陣」


「先頭、アイオワ級と推定」


 栗田の目が細くなる。


「アイオワか」


 新鋭高速戦艦。


 四〇・六センチ砲九門。


 三十三ノット。


 アメリカ海軍最強の戦艦だった。


 栗田は低く言った。


「面白い」


「先頭に出てくるか」


 副官が答える。


「高速戦艦同士の戦いになります」


 栗田は小さく笑った。


「望むところだ」


 その頃、太平洋の北東。


 アメリカ艦隊でも同じように戦列が整えられていた。


 先頭を進むのは


 アイオワ級戦艦。


 長い艦体が波を割り、その巨大な三連装砲塔がゆっくりと旋回している。


 その後ろには


 ノースカロライナ級。


 さらに


 サウスダコタ級。


 十隻の新鋭戦艦が主力戦列を形成していた。


 後方には旧式戦艦七隻。


 巨大な単縦陣が太平洋を進んでいる。


 旗艦艦橋。


 アメリカ艦隊司令官が双眼鏡を下ろした。


 参謀が報告する。


「日本艦隊、戦列展開を確認」


「戦艦多数」


 提督は静かに言った。


「やはり戦艦決戦だな」


 参謀がうなずく。


「日本海軍の伝統です」


 提督は海図を見ながら言った。


「よし」


「こちらも戦列を整えろ」


 命令が発せられる。


「戦闘単縦陣」


 アイオワ級戦艦の舵がわずかに動いた。


 巨大艦隊がゆっくりと一直線の戦列を作っていく。


 その光景は、まるで十九世紀の戦列艦隊のようだった。


 だが違う。


 主砲は四〇センチ級。


 射程三万メートル以上。


 人類史上最大の砲撃戦が始まろうとしていた。


 やがて時間が過ぎていく。


 距離はさらに縮まった。


 連合艦隊旗艦 大和。


 参謀が報告する。


「距離百五十キロ」


 山本はうなずいた。


「順調だな」


 参謀が言う。


「敵艦隊、こちらへ針路維持」


 つまり敵も逃げない。


 山本は小さく笑った。


「いい」


「逃げる気がないなら話は早い」


 そして命じた。


「主砲射撃準備」


 その命令は瞬く間に艦隊全体へ伝わる。


 戦艦二十隻。


 巨大砲塔の装填機構が動き始めた。


 数百キロの砲弾がクレーンで持ち上げられ、装填される。


 装薬が押し込まれる。


 閉鎖機が閉じる。


 砲塔内で鉄の音が響いた。


 その頃。


 アメリカ戦艦隊でも同じ準備が始まっていた。


 アイオワ級戦艦。


 巨大な三連装砲塔がゆっくりと旋回する。


 砲身が水平線の彼方を指す。


 距離はまだ遠い。


 だが確実に近づいている。


 マリアナ沖。


 二つの巨大戦艦艦隊。


 その距離はついに――八万メートル。


 あと半分。


 四万メートルに達した時、世界最大の砲撃戦が始まる。


 灰色の空の下、海は異様な静けさに包まれていた。


 だがその海面を、二つの巨大艦隊が進んでいた。


 距離――四万二千メートル。


 連合艦隊旗艦 大和 の艦橋。


 巨大な十五メートル測距儀がゆっくりと回転していた。


 測距員が叫ぶ。


「距離、四万二千!」


 砲術参謀が海図を見ながら言う。


「射程内まであと二千」


 山本五十六は静かに腕を組んだ。


 その表情は落ち着いていた。


 慌てる様子はない。


 参謀が尋ねる。


「司令長官、初撃距離は?」


 山本はゆっくり言った。


「四万」


 参謀がうなずく。


 これは事前に決めていた射撃規定だった。


 日本艦隊の主砲は超遠距離射撃を想定して訓練されている。


 特に播磨型、大和型、薩摩型、長門型。


 これらは三万〜三万五千メートル砲戦を主想定としつつ、四万メートル初撃を訓練していた。


 やがて測距員が再び叫ぶ。


「距離、四万一千!」


 艦橋の空気が変わる。


 砲術参謀が声を上げる。


「主砲射撃準備!」


 その瞬間。


 連合艦隊の二十隻の戦艦で、砲塔が一斉に動き始めた。


 巨大な砲身が水平線へ向けられる。


 総主砲数百五十門以上。


 その砲口が敵艦隊へ向けられていた。


 距離。


 四万メートル。


 測距員が叫んだ。


「距離、四万!」


 山本が静かに言った。


「撃て」


 信号兵が旗を振る。


 発光信号が走る。


 そして――海が裂けた。


 最初に火を吹いたのは播磨、越後。


 三連装三基。


 46cm砲九門。


 轟音が空気を引き裂いた。


 巨大な火炎が砲口から噴き出す。


 砲弾は一発


 約一・五トン。


 それが九発。


 空へ飛び出した。


 大和、武蔵、信濃、紀伊が続く。


 六隻の巨大戦艦がほぼ同時に砲撃する。


 それに薩摩型四隻、長門型二隻も砲撃を開始。


 高速戦艦八隻は射程外だが、最大仰角で砲撃した。


 その瞬間。


 海面に衝撃波が走った。


 二十隻同時斉射。


 轟音は雷鳴のように響き、空気が震える。


 巨大砲弾が弧を描き、空を飛んでいく。


 四万メートルの距離。


 砲弾の飛翔時間は


 約八十秒。


 空には無数の黒い点が見えた。


 まるで鉄の雨だった。


 その頃。


 アメリカ艦隊。


 先頭の アイオワ級戦艦。


 レーダー員が叫ぶ。


「日本艦隊砲撃!」


 提督が叫ぶ。


「来たか!」


 次の瞬間。


 水平線の彼方で巨大な閃光が連続した。


 日本戦艦二十隻。


 その主砲が一斉に火を吹いたのだ。


 参謀が言う。


「距離四万!」


 提督は即座に命じた。


「全艦砲撃開始!」


 アイオワ級戦艦。


 三連装砲塔が旋回する。


 40.6cm砲九門。


「撃て!」


 次の瞬間。


 アメリカ戦艦も火を吹いた。


 アイオワ級四隻。


 ノースカロライナ級二隻。


 サウスダコタ級四隻。


 さらに旧式戦艦。


 十七隻の主砲斉射。


 巨大な火炎が水平線に並んだ。


 砲撃音が空を震わせる。


 日本艦隊へ向けて、


 無数の砲弾が飛んだ。


 空には二つの砲弾群が交差していた。


 鉄の弾道が空を覆う。


 そして――八十秒後。


 最初の砲弾が海へ落ちた。


 巨大な水柱が上がる。


 高さ


 百メートル以上。


 まるで海が爆発したようだった。


 次々に砲弾が落ちる。


 巨大な水柱が無数に立つ。


 海面が白く染まる。


 播磨艦橋。


 砲術長が叫ぶ。


「弾着観測!」


 観測員が叫ぶ。


「短弾多数!」


「右百修正!」


 すぐに次の命令が出る。


「第二斉射!」


 播磨の主砲が再び火を吹く。


 今度は交互撃ち方。


 左右砲がまず撃つ。


 数秒後、中間砲が撃つ。


 弾着を観測しながら修正する日本式砲撃だった。


 その頃。


 アメリカ戦艦もレーダー射撃を開始していた。


 射撃レーダーが距離と方位を計算する。


「射撃解決!」


「斉射!」


 アイオワ級の主砲が再び火を吹く。


 四万メートルの距離。


 まだ命中弾はない。


 だが砲弾は確実に近づいていた。


 そして。


 三回目の斉射。


 ついに最初の命中が起きた。


 巨大な水柱の中。


 一発の砲弾がサウスダコタ級戦艦の艦首付近に命中した。


 観測員が叫ぶ。


「命中!」


 播磨艦橋で歓声が上がる。


 栗田が静かに言った。


「始まったな」


 その頃。


 アメリカ艦隊でも叫び声が上がっていた。


「命中弾!」


 日本戦艦の近くで巨大な爆発。


 砲弾が水線近くへ落ちた。


 破片が甲板を叩く。


 まだ致命傷ではない。


 だが砲撃は確実に当たり始めていた。


 距離。三万七千メートル。


 二つの艦隊はさらに接近する。


 砲撃の精度は急速に上がる。


 海面は巨大な水柱で覆われていた。


 空には砲煙が広がる。


 そして太平洋の中央で、人類史上最大の戦艦砲撃戦が本格的に始まった。


 巨大戦艦二十隻対十七隻。


 砲弾の雨が海を覆っていた。


 海はすでに、静かな青ではなかった。


 無数の砲弾が落下し、巨大な水柱が林立している。白い水煙と黒い砲煙が混ざり合い、水平線は霞んでいた。


 距離三万七千メートル。


 両艦隊はなお接近している。


 連合艦隊旗艦大和の艦橋。


 測距員が叫ぶ。


「距離三万七千!」


 砲術参謀が声を張り上げる。


「弾着良好! 次斉射修正完了!」


 山本五十六は静かにうなずいた。


「続けろ」


 播磨艦橋で栗田健男中将は双眼鏡を握りしめていた。


 前方では、アメリカ艦隊の戦列がはっきりと見え始めていた。


 黒い艦影。


 巨大な艦体。


 その先頭には――アイオワ級。


 栗田は小さく言った。


「速いな」


 副官が答える。


「三十ノット以上と推定」


 栗田は冷静だった。


「問題ない」


「距離は詰まる」


 その瞬間、播磨の主砲が再び火を吹いた。


 四十六cm砲九門斉射。


 轟音が艦橋を震わせる。


 一・五トンの砲弾が空へ跳び上がった。


 数十秒後。


 観測員が叫ぶ。


「弾着確認!」


 巨大水柱の中。


 一発の砲弾がサウスダコタ級戦艦の中央部近くに命中した。


 次の瞬間。


 巨大な爆炎。


 黒煙が上がる。


 副官が叫んだ。


「命中!」


 栗田は短く言った。


「続けろ」


 巨大戦艦群の砲撃が、次々とアメリカ艦隊へ落ちていく。


 さらに後方。


 薩摩型、長門型六隻の主砲が火を吹く。


 砲弾がサウスダコタ級へ集中していた。


 これは日本艦隊の戦術だった。


 三隻集中砲撃。


 一隻を確実に沈める。


 その頃。


 アメリカ艦隊でも緊張が高まっていた。


 アイオワ級戦艦の艦橋。


 レーダー員が叫ぶ。


「日本艦隊、集中砲撃!」


 提督が叫ぶ。


「回避運動!」


 巨大艦体が舵を切る。


 だが戦列は崩せない。


 戦列を崩せば砲撃力が落ちる。


 提督は命じた。


「距離を詰めろ」


 参謀が驚く。


「三万五千以内へ?」


 提督はうなずいた。


「日本の弾着修正を狂わせる」


「近距離で撃ち合う」


 それはアメリカ海軍の判断だった。


 レーダー射撃は距離が近いほど有利になる。


 巨大戦列は速度を上げた。


 アイオワ級が前へ出る。


 その動きを見て、日本側も動いた。


 大和艦橋。


 参謀が報告する。


「敵高速戦艦前進!」


 山本は即座に言った。


「高速戦艦部隊、迎撃」


 信号が送られる。


 その瞬間。


 右列の高速戦艦部隊が動いた。


 出雲型戦艦四隻。


 さらに金剛型四隻。


 八隻の高速戦艦が隊形を変えた。


 艦首を大きく回す。


 その針路は――アイオワ級戦艦群。


 出雲艦橋。


 戦隊司令官が叫ぶ。


「主砲照準、先頭艦!」


 三〇.五cm砲三連装四基。


 十二門。


 それが四隻。


 合計


 四十八門。


 さらに金剛型。


 三十二門。


 合計八十門の砲が


 アイオワ級へ集中した。


 そして――斉射。


 高速戦艦八隻の砲撃が空を裂いた。


 巨大砲弾群がアイオワ級へ飛ぶ。


 その頃。


 主力戦列では砲撃が激化していた。


 距離。


 三万五千メートル。


 ついに主砲戦の本格距離へ入った。


 巨大戦艦群の砲撃精度が急激に上がる。


 観測員が叫ぶ。


「命中弾増加!」


 巨大水柱の中。


 再び爆発。


 サウスダコタ級戦艦の砲塔付近に命中。


 砲塔が炎に包まれる。


 アメリカ艦隊でも反撃が始まる。


 アイオワ級の主砲が火を吹く。


 四〇.六cm砲弾が空を裂く。


 次の瞬間。


 巨大な爆発。


 尾張の艦首付近に命中。


 海水が噴き上がる。


 破片が甲板を叩く。


 だが尾張は航行を続けた。


 太平洋の中央。


 巨大戦艦三十七隻。


 砲弾の雨が降り注ぐ。


 距離はさらに縮まる。


 三万三千メートル。


 戦艦同士の砲撃は、いよいよ精度を増していた。


 連合艦隊戦列の中央。


 戦艦長門と陸奥が並び、その周囲を薩摩型が固めている。


 その主砲は今、アメリカ戦列の中央部へ集中していた。


 目標――サウスダコタ級戦艦。


 日本艦隊は三隻一組で一隻を叩く戦術を取っていた。


 播磨、越後、大和三隻が照準を合わせる。


 巨大な測距儀が回転する。


 播磨艦橋。


 砲術長が叫ぶ。


「距離三万三千!」


 栗田健男が低く言う。


「よし」


「撃て」


 次の瞬間――播磨の四十六cm砲九門が斉射。


 轟音が空気を震わせた。


 続いて越後、大和。


 三隻の巨大砲弾群が空へ跳び上がる。


 一発一・五トンの鋼鉄塊。


 それが二十七発。


 弧を描き、アメリカ艦隊へ向かう。


 七十秒後。


 巨大水柱の中で、異変が起きた。


 一発。


 二発。


 三発。


 砲弾がサウスダコタ級戦艦の中央部付近に命中した。


 次の瞬間。


 巨大な爆炎。


 艦体中央が黒煙に包まれる。


 アメリカ艦橋。


 観測員が叫ぶ。


「命中多数!」


 提督が双眼鏡を握りしめた。


 そしてその時だった。


 さらに一発。


 四十六cm砲弾が主砲塔基部付近に直撃。


 次の瞬間。


 巨大な閃光。


 そして――爆発。


 艦体中央から炎が噴き出した。


 数秒後。


 艦体の中央部が大きく膨れ上がる。


 火炎が噴き上がる。


 艦内弾薬庫に火が回ったのだ。


 巨大な爆発音が海を震わせた。


 戦艦の中央が吹き飛ぶ。


 煙と火炎が空へ噴き上がる。


 副官が叫ぶ。


「弾薬庫誘爆!」


 その戦艦は数分で大きく傾いた。


 そして――沈没。


 アメリカ戦列の中央に巨大な空白が生まれた。


 連合艦隊戦列。


 観測員が叫ぶ。


「敵戦艦轟沈!」


 播磨艦橋。


 副官が興奮して言う。


「やりました!」


 栗田は静かに言った。


「まだだ」


「次だ」


 だがその瞬間だった。


 今度は日本側に異変が起きた。


 アメリカ艦隊の砲撃。


 レーダー射撃を行うアイオワ級とサウスダコタ級の砲弾が、次々と落ちてきた。


 巨大な水柱が陸奥の周囲を囲む。


 その中で――。


 一発の四〇.六cm砲弾が陸奥の中央甲板付近に命中。


 爆発。


 艦橋が大きく揺れた。


 さらにもう一発。


 今度は、後部砲塔付近。


 装甲を貫いた砲弾が艦内で炸裂した。


 巨大な火炎。


 黒煙。


 艦橋で警報が鳴り響く。


「火災発生!」


「後部砲塔損傷!」


 さらに三発目。


 水線近くに命中。


 巨大な水柱が上がり、海水が艦内へ流れ込む。


 陸奥艦橋。


 艦長が叫んだ。


「浸水拡大!」


 機関長が報告する。


「機関部一部停止!」


 艦体がゆっくりと傾き始める。


 戦列後方。


 長門艦橋。


 長門の艦長が言った。


「陸奥がやられた」


 黒煙が上がる。


 後部砲塔は完全に沈黙していた。


 しかし陸奥はまだ沈まない。


 艦首はしっかり前を向いていた。


 砲術長が叫ぶ。


「前部砲塔使用可能!」


 艦長が即答する。


「撃て!」


 次の瞬間。


 陸奥の前部主砲が火を吹いた。


 四十一センチ砲。


 その砲撃は止まらない。


 大破しながらも砲撃を続ける。


 播磨艦橋。


 副官が言う。


「陸奥大破!」


 栗田は短く言った。


「戦列維持」


 そして静かに付け加えた。


「よくやっている」


 太平洋の中央。


 巨大戦艦三十六隻。


 一隻が沈み、


 一隻が大破した。


 だが砲撃は止まらない。


 距離――三万メートル。


 ーー


 主力戦列の中央でアメリカ戦艦が一隻轟沈し、日本側では 陸奥 が黒煙を上げながら戦列に残っていた。


 だが、もう一つの戦場では別の激突が始まろうとしていた。


 主力戦列の外側。


 右舷側へ大きく展開した日本の高速戦艦部隊が進路を変えつつあった。


 先頭――出雲。


 その後ろに出雲型戦艦三隻。


 さらに後方には金剛型戦艦四隻。


 合計八隻。


 この部隊は、敵高速戦艦を拘束するために投入された。


 出雲艦橋。


 戦隊司令官が双眼鏡を握りしめていた。


 水平線の向こう。


 長く細い艦影が見えている。


 アイオワ級戦艦。


 そのシルエットは独特だった。


 長い艦首。


 細身の高速船体。


 巨大な三連装砲塔三基。


 副官が言った。


「敵高速戦艦、四隻確認」


 司令官は小さく頷いた。


「来たな」


 アイオワ級は三十三ノットの高速を持つ。


 だが日本高速戦艦部隊も三十ノット級だった。


 逃げることはできない。


 出雲の測距員が叫ぶ。


「距離三万四千!」


 砲術長が声を上げる。


「主砲照準、先頭艦!」


 出雲の主砲塔がゆっくりと旋回する。


 三〇.五cm砲三連装四基。


 十二門。


 砲口が水平線を向いた。


 その後ろでも同じ動きが起きる。


 四隻で四十八門。


 さらに金剛型。


 三十六センチ砲八門×四隻。


 三十二門。


 合計八十門の主砲。


 その砲口がアイオワ級戦艦へ集中した。


 出雲艦橋。


 司令官が短く命じる。


「撃て」


 次の瞬間。


 海が爆発した。


 出雲の主砲が火を吹く。


 巨大な火炎。


 衝撃波。


 四隻の三〇.五cm砲が連続斉射する。


 さらに後方。


 金剛型四隻の主砲が轟いた。


 八十門の砲弾が空へ飛び上がる。


 その光景はまさに鉄の嵐だった。


 その頃。


 アメリカ艦隊。


 アイオワ級戦艦部隊。


 先頭艦のレーダー員が叫んだ。


「日本高速戦艦部隊!」


 艦橋で提督が言う。


「迎撃する」


 アイオワ級四隻。


 それぞれの主砲が旋回した。


 四〇.六cm砲九門。


 四隻で三十六門。


 提督が命じる。


「全艦砲撃」


 次の瞬間。


 アイオワ級の主砲が火を吹いた。


 巨大な爆炎。


 四隻の戦艦から砲弾が空へ飛ぶ。


 距離。


 三万三千メートル。


 砲弾の飛翔時間は約七十秒。


 そして――最初の弾着。


 巨大な水柱が出雲の周囲に立つ。


 続いて金剛型の周囲にも水柱が上がる。


 しかし。


 次の瞬間。


 日本側の砲弾が落下した。


 巨大水柱がアイオワ級の周囲を囲む。


 観測員が叫ぶ。


「夾叉!」


 出雲艦橋。


 砲術長が叫ぶ。


「次斉射修正!」


 砲塔が再び火を吹く。


 そして三回目の斉射。


 ついに命中が起きた。


 三〇.五cm砲弾がアイオワ級の艦尾付近に命中。


 爆発。


 巨大な火炎。


 艦尾から煙が上がる。


 だがアイオワ級は止まらない。


 厚い装甲が致命傷を防いだ。


 その直後だった。


 アメリカ側の砲弾が落ちる。


 一発が金剛の艦首付近に命中。


 巨大な爆発。


 甲板が吹き飛び、破片が飛び散る。


 艦橋が大きく揺れた。


 だが金剛は航行を続けた。


 さらに砲撃は激しくなる。


 高速戦艦八隻。


 アイオワ級四隻。


 互いに高速航行しながら砲撃する。


 砲弾が空を埋め尽くす。


 巨大水柱が海を覆う。


 その光景はまさに高速戦艦決戦。


 出雲艦橋。


 司令官が叫ぶ。


「距離三万!」


 ついに砲撃の最適距離に入る。


 次の斉射。


 巨大砲弾が再び空を裂く。


 そして――アイオワ級の艦橋近くで巨大な爆発が起きた。


 観測員が叫ぶ。


「命中!」


 だがその瞬間。


 今度は日本側。


 摂津の中央部に四〇.六cm砲弾が直撃。


 巨大な爆炎。


 黒煙が空へ上がる。


 艦体が震える。


 だが沈まない。


 双方とも決定打はまだない。


 だが距離はさらに縮んでいく。


 二万八千メートル。


 ここから先は――装甲を撃ち抜く距離。


 高速戦艦同士の砲撃戦は、ついに殺し合いの距離へ入った。


 主力戦列の外側、北東海域。


 ここでは日本高速戦艦隊とアメリカの高速戦艦――アイオワ級との激烈な砲戦が続いていた。


 距離――二万八千メートル。


 砲撃はすでに精密射撃の段階へ入っている。


 海面には巨大水柱が乱立し、空には黒煙が流れていた。


 出雲艦橋。


 戦隊司令官は双眼鏡を強く握りしめていた。


 前方。


 長く細い艦影。


 アイオワ級四隻。


 その主砲は依然としてこちらを狙っている。


 だが次の瞬間、思わぬ事態が起きた。


 観測員が叫ぶ。


「敵先頭艦に命中!」


 石見の三〇.五cm砲弾がアイオワ級の艦橋付近へ着弾した。


 巨大な爆炎。


 艦橋構造物が黒煙に包まれる。


 その直後だった。


 アメリカ艦隊のレーダー室で警報が鳴り響いた。


「射撃レーダー故障!」


 砲術士官が叫ぶ。


「電波異常!」


 命中弾の破片がレーダー装置を破壊していた。


 さらに悪いことに。


 損傷した機器が不規則な電波を発し、艦内通信に混線を起こしていた。


 参謀が叫ぶ。


「他艦のレーダーにも干渉!」


 提督の顔が険しくなる。


 アメリカ海軍の最大の優位。


 レーダー射撃。


 それが今、完全に機能を失った。


 提督は即座に命じた。


「光学照準に切り替えろ!」


 砲術士官が叫ぶ。


「光学測距開始!」


 だがその作業には時間がかかる。


 その一瞬の空白を、日本艦隊は逃さなかった。


 出雲艦橋。


 砲術長が叫ぶ。


「敵射撃減少!」


 司令官が即座に命じる。


「統制射撃!」


「先頭艦集中!」


 その瞬間、日本高速戦艦部隊の砲撃が一つにまとまった。


 出雲型戦艦四隻が同一目標へ砲撃を集中する。


 狙うのは――アイオワ。


 出雲の巨大測距儀が回転する。


 砲術長が叫ぶ。


「距離二万七千!」


「撃て!」


 次の瞬間。


 四隻の戦艦が一隻ずつ火を吹いた。


 巨大な砲炎。


 空を裂く砲弾。


 数十発の砲弾が弧を描いてアイオワ級へ向かう。


 そして――命中。


 まず一発。


 石見の三〇.五cm砲弾がアイオワの上部構造物に命中。


 爆発。


 レーダー塔が吹き飛ぶ。


 続いて二発。


 出雲の三〇.五cm砲弾が艦橋側面へ直撃。


 巨大な爆炎。


 艦橋が黒煙に包まれる。


 さらに三発。


 因幡の砲弾が煙突付近へ命中。


 火炎が吹き上がる。


 アイオワは完全に煙に包まれた。


 アメリカ艦橋。


 提督が叫ぶ。


「被害報告!」


 士官が叫ぶ。


「上部構造物大破!」


「射撃装置使用不能!」


 巨大戦艦アイオワはまだ沈まない。


 だが――射撃不能。


 戦列から離脱せざるを得なくなった。


 だが日本側も無傷ではない。


 その瞬間。


 巨大な爆発が起きた。


 出雲。


 四〇.六cm砲弾が二発連続で命中した。


 一発目。


 第一砲塔。


 砲塔装甲を貫いた砲弾が内部で炸裂する。


 巨大な爆炎。


 砲塔が沈黙した。


 さらに二発目。


 第二砲塔。


 同様に直撃。


 砲塔内部が炎に包まれる。


 出雲艦橋。


 艦長が叫ぶ。


「第一、第二砲塔使用不能!」


 戦隊司令官は即座に判断した。


「出雲、離脱!」


 巨大戦艦が進路を変える。


 戦線を離脱していく。


 さらにその直後。


 摂津。


 中央部に四〇.六cm砲弾が命中。


 巨大な爆炎。


 甲板から炎が噴き上がる。


 機関室近くで火災発生。


「火災拡大!」


「消火班急げ!」


 摂津は速度を落としながらも航行を続けた。


 沈没は免れたが、戦力としては大破だった。


 さらに――金剛。


 艦首に直撃弾後。浸水により機関損傷。速力低下。


 金剛艦長は判断した。


「戦列離脱!」


 巨大な戦艦が戦場から離れていく。


 日本高速戦艦部隊も大きな損害を受けていた。


 しかし。


 戦局はまだ終わらない。


 戦場中央。


 残った戦艦が動いた。


 石見、因幡、榛名の三隻。


 さらに中破しながら比叡、霧島。


 この五隻が戦列を維持していた。


 戦隊司令官が言った。


「側面へ回れ」


 五隻の戦艦が大きく舵を切る。


 その針路は――アイオワ級の側面。


 いわゆる、クロスファイア。


 側面砲撃だった。


 そして砲撃が再開される。


 石見の主砲。


 因幡の主砲。


 榛名の主砲。


 砲炎が空を裂いた。


 その頃。


 アメリカ艦隊。


 光学照準がようやく整った。


 砲術士官が叫ぶ。


「光学照準完成!」


 提督が命じる。


「射撃再開!」


 その瞬間。


 ニュージャージー。


 ウィスコンシン。


 二隻のアイオワ級が再び火を吹いた。


 四〇.六cm砲弾が空を裂く。


 巨大砲弾が日本戦艦へ向かう。


 だがその頃にはもう、


 日本艦隊の側面砲撃が始まっていた。


 距離――二万六千メートル。


 高速戦艦決戦は、ついに追撃戦へ移行しつつあった。

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