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第2話

「救い…」

馬鹿みたいに繰り返していた。彼女がはっとして見上げてくる。その目がしっかりと俺を映してから彼女は微笑み話を変えるように言葉を続ける。

「先生はこれからどうされるんですか?」

「先生はやめてくれ」

もう俺は先生ではない。何も書かない飲んだくれのことを小説家だなんて言わない。

彼女は困ったような悲しいようなそんな顔をしてから

「では、なんとお呼びすれば?」

俺は少し迷ってから

長瀬湊(ながせみなと)

素直に名前を言うことにした。もう顔やそれ以外にも様々なことを知られてる以上名前を知られるなんて些末な問題だと思った。

「では、長瀬さんで」

「君は?」

(ゆい)です」

「結…さんね」

明らかに年下だったのと警戒しているのもあって敬語を使わないでいたが流石に呼び捨ては躊躇われる。

「結でいいですよ」

付け足したようなさんだったからか彼女がそう言った。

「じゃあ…結。今からどうするんだ?もう暗いが」

帰れというメッセージを込めてそう言う。俺は暗くなってから酒を片手に意味もなく歩き回るのはいつもの事だが彼女は見るからに高校生で女性だ。まだ暗くなったばかりとはいえあまり歩き回るべきではないだろう。それにこんな見るからに浮浪者といった男のそばを歩くなんて論外だ。

「私は長瀬さんについていきますよ?先生のファンで、こうやって訪ねてきちゃう悪質な追っかけですから」

悪質な、なんて言いながら悪びれる様子はなく明るい声で言った。

想定してなかった返事に一瞬体が固まる。俺が酒瓶片手に女子高生と歩いてるところを見られれば大変だ。

「はぁ…じゃあ俺は帰るから。君も帰れ」

そう言ってすぐ近くの階段に向かう。

「あれ、帰ってしまうんですか?」

そう言って彼女はついてくる。お前といることが問題だから帰るというのに。

「君といるところを見られるのは色々とまずそうだからな」

彼女は一瞬きょとんとしたあと自らの服を確認してからくすりと笑って

「確かに兄弟というのも無理がありそうですね」

笑い事ではないが。言葉にはせず頭の中で呟く。

堤防を降りて、来た道を帰っても彼女はまだついてきている。耐えきれずに声をかける。

「…君といるのが問題だと言ったろう?」

「私の帰り道と同じなんですよ」

何を言っても無駄だろうと思い俺はため息だけ零してあとはもう何も言わなかった。

「それに海辺の小さな町ですから、こんな時間に外を歩く人なんていませんよ」

彼女に強く言わないのはそう言った理由もあった。こんな寂れた町に残ってるのは大抵が老人で老人は家に帰るのも寝るのも早い。暗くなってから歩くような人は誰もいない。

結の方をちらりと見るが隣を歩く彼女の表情はうかがえず何を考えているのか分からない。

結の話を聞いた瞬間は待ち望んでいたものが現れたと高揚したが、少し冷静になると結の目的が分からず怖くなる。

無理にでも結から色々と聞きだせばよかったと後悔しかけたが聞いてもきっと答えてはくれなかっただろう。

月は雲に覆われていて街灯なんてない道は夜目にも少し奥にある電柱までがなんとか見えるぐらいでそれから先は何も見えない。


ボロアパートの前で足を止める。柱や二階へと続く階段、その手すり色んなものがすっかり錆びて赤茶色だ。

「ここが長瀬さんのお宅ですか?」

「ああ」

ただ生きるだけでも金はかかる。働きもしないで惰性の日々を生きる俺の出費はできるだけないほうがよかった。それにもう死んでいくだけのこの町の中でも、一際死に体だったこのアパートに、死体も同然の俺は惹かれるものがあった。

「じゃあまた明日来ますから」

結はそう言って去ってしまった。

家に入り扉を閉めてから家を教えてしまったことに気づいたが結が知ろうと思えばきっとすぐに知られたことだろうと諦める。

明日来ると言っていたがどうしようか。いや、今日はもう疲れた。色々とありすぎたのだ。もうなにも考えたくなかった。

結と会ってから帰るまでただの荷物になっていたウイスキーを胃に流し込んだ。

そのままフラフラと敷きっぱなしの布団に倒れ込みそのまま思考が途切れた。

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