こうじ
ユイカの部屋に向かう途中は、いたって普通の会話だった。
別れ話は、絶対密室ってことなのだろう。
家におじゃますると、ユイカは
「今日は…だれもいないから…ね。その…安心して?」
とオレをじっとみてきた。
そんな、めっちゃとにかく慎重やんけ。
別れ話が、こんなにも人に聞かれたくないほどに厳重とは…。
「それじゃあ…その…はじめますか…?」
「あぁ。うん」
…
…
…
?
始まらない。
一向に始まらない別れ話…
えっとー…
やっぱりこれは、オレから切り出さないとですか…ね?
「あの…ユイカ…?」
「えっと…はいっ‼︎」
「あー、そんな緊張しなくても…」
「あ、うん…ごめん。」
「いや、謝らなくてもいいよ」
「あ、はいっ!」
「で、ユイカは…どうしたいの?」
こういえば、別れやすいかな?
どうしたいの?別れたいってさ…。
でも、ユイカは…
「わたしは…まず抱きしめてもらいたい…です」
って、恥ずかしそうにいうんです。
⁉︎
はあ⁉︎
そんなの…
最後に抱きしめてほしいとかさ…
そもそも抱きしめてほしいなんて言われたら、理性ぶっ飛んだよね?
そりゃ、抱きしめたよ。
「ユイカ、ユイカ」
って言いながらさ。
ほんとは、好きだよ。離したくないって言いたかったけどね…
ユイカを困らせるだけだからさ…名前を呼ぶのが精一杯でしたけどね。
オレに抱きしめられて、ユイカは
「瞬…大好きだよ」
って、やっぱり涙目になったんよ。
…
それは、その大好きは…
幼馴染として…なんだよね。
「ユイカ、ありがとうな」
「ううん、こちらそ」
…
そうか。
ユイカは、別れようって最後まで言わないつもりなのだろう。
でも、最後のお別れのハグでオレたちなりの別れの挨拶を交わした。
「じゃあ、オレ帰るわ」
「えっ?」
ユイカが、なぜ?みたいな顔をしている…?
「ん?なに?」
やっぱり、きちんと別れたいって言いたいのかな…。
「え、だって…続きが…」
やっぱりはっきりさせたいんだね。
わかりましたよ。
「わかったよ。ちゃんと聞くよ」
もう一度、オレはユイカの前に腰をおろした。
「えっ…恥ずかしいじゃん。わたしが欲しがりみたいじゃない…」
「えっ?」
欲しがり?
「いや、別にそういうつもりじゃ…」
「ならさ、そんなツンデレみたいにしなくてもいいじゃない‼︎帰るとかいきなりいうしさ…。もっとさ…もっとイチャイチャたくさんしたいって思っても…いいじゃない…好きなんだし…だれもいないのに…さ。あ、でも瞬は…そんなにわたしとイチャイチャしたくないんだ?そうなんだ?」
⁉︎
えっ⁉︎
えっ⁉︎
んっ⁉︎って、なったよ⁇
「は?なんだよそれ…ユイカが泣くから…泣くほどイヤなんだからって…抑えてオレは…」
「違うよ。逆だし…」
「えっ?逆…って…」
…
えっ⁉︎
えっ⁉︎
もしかして…ユイカって、オレのこと⁇
「ユイカ‼︎なんだよ…ユイカー…」
オレはユイカを抱きしめて、抱きしめて抱きしめて、キスをした。
たくさん、何度も何度も優しくキスをした。
こうじを好きだなんて、オレの勘違いやんけ。
ユイカは、完全にオレを求めている。
顔をみれば、わかることだった。
泣いたのは…嬉し涙だったのかよ。
紛らわしいツンデレユイカめ。
オレたちは、時間が許す限りイチャイチャし続けた。
「ユイカ、大好きだよ」
「わたしも大好き」
チュ〜♡
部屋が大好きで溢れた。
あー、オレってば…なんでこんな勘違いしたんだろ。
バカだなあ。
こんなにユイカは、オレが大好きなんじゃん。
って、大反省したよね。
だんだん日が暮れてきたけど、オレたちのイチャイチャは、とまらない。
このままずっとくっついていたいね♡ってなっていた。
家が隣だけど、それすら遠く感じる。
離れたくない。
早く同棲して、ずっとくっついていたいね♡ってなっていた。
…
ですが…やっぱり気になって仕方ないことがどうしてもあって、思い切って聞いてみることにした。
「ユイカってさ…こうじのこと好きって…小耳にオレ挟んじゃってさ…」
と、恐る恐る聞いてみた。
ユイカは、しばらく無言になり
「こうじって…もしかしてあのこうじ?お母さんが瞬のお母さんに言ったんだ?わたし食いしん坊みたいだね。こうじ菌のことでしょ?アレは、ほんと神商品だよね!お肉柔らかくなるし、甘みも出るでしょ?だから、大好き!唐揚げとかにもあるじゃない?めっちゃ美味しいよね!てか、お腹空いた?いきなりこうじとかって…瞬って、もしかして…料理にめざめた?」
「あー、うん!そうそう。こうじ…ね。あれは、すっごいな!」
「ね!」
「ユイカ…オレ…やっぱりユイカが彼女で最高だよ‼︎」
「わたしもだよ♡」
安心イチャイチャタイム続行です♡
聞いといてよかった…。
そうだと思ったよねー‼︎
でも、時間はどんどん過ぎます。
だから、またイチャイチャしようね♡ってことで、最後にまたイチャついて、家に帰ることにした。
幸せすぎんだろ。
もうさ、幸せ〜って脳内がポワポワなんよ。
勘違いでとにかくよかった。
今度は、唐揚げデートでもしようかな♡
なんなら、オレが頑張ってこうじ唐揚げ作ってご馳走してみてもいいな。
こうじのこと好きって疑ったお礼がてらさ。
帰ってこうじについて調べよっと。
ユイカ、美味しい唐揚げの勉強するから待っててね♡
おしまい。




