橘柚緒の劣等感解消~青野、バー共同経営提案と明珠ホテル招待
青野蒼斗は話を聞いて鼻を掻いた。柚緒姐の言う通りだった。彼女は離婚経験があり、娘もいるが、その魅力と美貌から言えば、自分のような小保安とは文句なく釣り合う。が青野蒼斗は神経大雑把な性格で、「誰と釣り合うか」なんて考えたことがなかった。劣等感も持たず、たとえ相手が皇室のお姫様でも「どんな大不了なことか」と思い、「自分が釣り合わない」と感じることはない。
逆に相手がウェイターでも、気に入れば「釣り合わない」と思うことはない。
彼は非常に率直で奔放に生きていた。
自分が橘柚緒に対してどう感じているかもよく分かっていた —— 橘柚緒が好きだが、その体を好む割合が多かった。本当に彼女の体を得たら、飽きてしまうかどうかは分からない。唯一確かなのは、「今すぐ結婚して家庭を作り、束縛されたくない」ということだ。バーに行って女と遊ぶことができなくなるのは、絶対に受け入れられない。
が橘柚緒は青野蒼斗の考えなど気にしていなかった。独りで話し続けた。
「君と一緒にいるのは不明智だと分かっていた。今の僕は、成熟した中年男性を探すべきだ —— 仕事も成功して、離婚経験があっても子供がいてもいい。僕を 17~18 歳のお姫様のように可愛がってくれる人だ。母も何度も紹介してきて、複数の社長が僕に一見惚れて、何度も追求してきた。がどうも「感じ」が足りなかった。彼らは全部功利的で現実的だった。「感じがない」と母に言うと、「今でも教訓を吸取らないの?」と責められた。「君の『感じ』は一度も正しくなかった」と。その時は反論する言葉も出なかった」
青野蒼斗は静かに聞いていた。橘柚緒の内心の葛藤、困惑、「妥協したくない、負けたくない」という思いが伝わってきた。
彼女は生活への希望を持ち、妥協しない勇者だ。だから拘置室で「君と一緒に亡命天涯してもいい」と言えたのだ。ロマンチックな侠女だった。
橘柚緒は続けて「君が小保安だから、平等に付き合えると思った。もう一度賭けてみたかった —— たとえ傷ついても。心の中で『今度は負けたら、運命を認める』と誓った。だから君が拘留されて、国外に亡命しなければならないかもしれないとしても、一緒に行くと決めた。が今、自分があまりに単純だったと分かった。君が白川社長や霧島さんのような美しい女性たちと一緒にいる時、そんなに自然に接するのを見て、君が決して小保安ではないことに気づいた。君は生まれつきの大物だから、彼女たちに対して劣等感を持たない。でも僕は……?」
橘柚緒が言う。「ただの離婚者で、何も持たない女だ。少しの美貌以外に、誇れることは一つもない。それに君はこんなに若いのに、僕は君に釣り合わない」
青野蒼斗は一瞬愣けた。その後やっと悟った —— 橘柚緒が自分を遠ざけた理由がこれだった。彼女が「自分が釣り合わない」と思っていたのだ。
この馬鹿な女。自分と一緒に亡命することまで肯んだのに、自由を取り戻したら「釣り合わない」と思うなんて。本当に馬鹿だ。
「柚緒姐……」青野蒼斗は励ましたくても、一时どんな言葉を使えばいいか分からなかった。
「青野蒼斗、君はずっと僕の体を欲しがっていたでしょ?今日は叶えてあげる」橘柚緒の目元が紅くなり、透明な涙が頬を伝った。「でも今夜が終わったら、もう会わないで。母の言う通り、頼れる男を探して結婚する」
話し終えると、主动的に青野蒼斗の唇にキスをし、彼の手を引いて自分の胸に当てた。
が青野蒼斗は愣けた。「もう会わない」という言葉が頭の中で繰り返された。
「もう会えない」と思うと、何かを失ったような渋さと慌てが心の中に広がった。
この時、青野蒼斗はまるでサソリに刺されたように跳び上がり、橘柚緒を押しのけてベッドから降りた。
橘柚緒は愕然とした。
青野蒼斗は深く息を吸い、橘柚緒を見つめた。目の中には欲望がなく、誠実な思いが満ちていた。
「柚緒姐、聞いてくれ。君は绝对に僕に釣り合わないなんてことはない。君が離婚して娘がいるかどうか、僕は気にしない。こんな世間一般の偏見は、僕には関係ない」青野蒼斗は続けた。「ただ僕はまだ家庭を作る準備ができていない。独りで自由に生き惯れているから。だから今、「君に幸せな未来を約束できる」と偽ることはできない。もし約束を守れなかったら、僕は佐伯劣と同じような男になってしまうだろう?」
少し間を置いて続けた。「でも僕は君に一つ問題があると思う。君は自分の未来や幸せを男性に託しすぎている。そんな必要はない。君自身で事業を興して、独立して自由に生きれる。君はロマンチックな女性だから、そうあるべきだ」
橘柚緒は考え込んだが、すぐに自嘲的に笑った。「自分の事業?どんなに簡単なことだと思うの?」
青野蒼斗は忽然にっこり笑った。「柚緒姐、僕が手伝うよ!そうだ、一緒にバーを開こうか?君が女将をして、僕が用心している。どう?」
橘柚緒は心が動いたが、すぐに言った。「そんなにお金はないの」
青野蒼斗が答える。「僕もないけど、パートナーを募集すればいい!明日、しず姐、白川霜雪、花泽桃凛、北条真绪を呼んでくる。それぞれ少しずつ出資してもらえば、北条真绪の人脈としず姐の関係、それに僕たちの力があれば、きっと大儲けできる!」
橘柚緒は青野蒼斗の話に胸が躍った。もし自分が本当に女将になれて、毎日収入があれば、独立して优雅に生きられ、こんな不安と困惑から逃れられる。
が橘柚緒はまだ心配があった。「でも僕たちは何も持っていないのに、それでいいの?」
青野蒼斗が言う。「柚緒姐、考えすぎだよ。彼女たちはこんな少額の金は気にしない。僕が呼ぶのは「投資」だ。儲かったら配当をあげるから、損をさせるわけじゃない。僕たちは力を出すんだ、そうだろ?」
橘柚緒もその通りだと思った。失意は全部「起業する」という興奮に取って代わられた。
すぐに橘柚緒は自分がランジェリーを着ていることに気づき、照れて顔が夕焼けのように赤くなった。慌てて毛布を掴んで体を包み、ちょうどいいと嗔った。「見ちゃダメ!」
青野蒼斗は橘柚緒がやっと元気になったのを見て安堵した。この男は実はビジネスや金に興味がなく、数億円でも全部譲ることができる。が今、一番大事なのは橘柚緒を幸せにすることだ。
どうしても橘柚緒が「お腹の出た社長」と一緒にいるのを許せなかった。橘柚緒が他の男に抱かれている姿を想像するだけで、殺したくなる衝動が湧いてくる。
だから青野蒼斗は本気で「橘柚緒に自分の事業を興させる」と決心した。そうすれば橘柚緒は妥協せず、自分も「彼女の体を見透かしたこと」に対して心が安らぐだろう。
が今、ベッドの中で照れている橘柚緒を見て、青野蒼斗はからかいたくなった。「柚緒姐、君の着替えは全部僕がしたんだよ。今さら隠しても意味ないじゃない?」
橘柚緒は突然「あっ」と叫んだ。そのことを思い出したからだ。照れて死にたくなったが、反論する言葉もなく、ただ「早く出て!」と言った。
青野蒼斗はふふっと笑った。「柚緒姐、これは僕のせいじゃないよ。君がトイレで眠っちゃったから、風邪をひかせないように手伝ったんだ。全部君のためだ」
「どうして僕がトイレで眠っていたことを知っているの?」この時、橘柚緒は毛布から顔を出して青野蒼斗に好奇で問った。
青野蒼斗は心が一瞬締まった。ちくしょう、漏らすとこだった!この男は頭の回転が速かったので、すぐに言った。「どうして知ってるか?君がトイレに入ってから時間が長すぎたからだ。僕の部屋から君のシャワーの音が聞こえるのを知ってるよ?ねえ柚緒姐、毎日君のシャワーの音を聞いて、君がシャワーを浴びている姿を想像するのは、人生で一番の楽しみだよ」
「出てっ!」橘柚緒はもう我慢できなくなり、照れて怒って罵った。
青野蒼斗はこんな橘柚緒をからかうのが大好きだった。彼女の今の姿が想像できる。が冗談も度が過ぎれば悪いので、青野蒼斗はへへっと笑って橘柚緒の部屋を出た。
この夜、青野蒼斗は非常に安らかに眠れた。
翌日の朝、彼は早起きした。洗面する時橘柚緒と会い、彼女は顔が少し赤かった。青野蒼斗はへへっと笑って問った。「柚緒姐、昨夜はよく眠れた?」
橘柚緒は顔が急に真っ赤になり、青野蒼斗に白眼を翻した。それから慌ててトイレに入り、洗面を始めて戸を閉めた。
二人が洗面を終えると、青野蒼斗は車で橘柚緒を出勤先まで送った。
今日の橘柚緒は反抗することもなく、非常に従順だった。機嫌も良く、血色も格外に良かった。顔は白い中に赤みがかり、17~18 歳の少女のようだった。
車が走り出すと、青野蒼斗が言った。「後でみんなに連絡して、正午に食事をしながらこの事を確定する。对了、柚緒姐、車は運転できる?」
橘柚緒が答える。「昔はできたけど、ずっと運転していないの。なんで聞くの?」
青野蒼斗はふふっと笑った。「儲かったら、君にフェラーリを買おうか?僕の心の中で、君は永遠にお姫様だ。お姫様はフェラーリに乗るべきだ」
橘柚緒は顔が少し赤くなり、目の中に喜びが閃いた。青野蒼斗の話が本当でも冗談でも、この言葉が心に甘さを届けてくれた。
橘柚緒を出勤先に送った後、青野蒼斗は花映社に行かず、五つ星ホテルに向かった。
このホテルの名前は「明珠ホテル」だった。
青野蒼斗は個室を予約した後、霧島静に電話をかけた。
「しず姐、正午に僕がおごる。明珠ホテルの北海道の個室だ。12 時からだよ!」青野蒼斗が言った。
霧島静は電話の向こうで笑った。「君このけちんぼうが平気でおごるなんて、どうしたの?こんな正式な場所まで?」
青野蒼斗はへへっと笑った。「来れば分かるよ」
霧島静が言う。「不会いざとなったら僕に金を払わせるんじゃない?」
青野蒼斗はもう言葉が出なかった。「ちくしょう、僕はそんな人だ?」
「そうだよ!」霧島静が笑って言った。その後電話を切った。
青野蒼斗は続けて北条真绪に電話をかけた。




