久保、青野に下跪を要求~談判决裂と血性の覚醒
武田拳心は武術を練る人間だから性格が率直で、単刀直入に来意を話した。
話し終えると、佐伯大剛、叶天、華老爺さんは皆この若者・久保影尊を見た。久保影尊の口角に薄い笑みが浮かびながら、「青野蒼斗なんて知らない」と言った。
この回答に、武田拳心ら三人の長辈はみな呆れてしまった —— 万万とは思わなかった久保影尊がこんな答えをするとは。
が久保影尊が「青野蒼斗を知らない」と言い切った以上、武田拳心たちも無力だった。無理やり久保影尊に「知っている」と認めさせるわけにはいかないから、話はここで完全に詰まってしまった。
華老爺さんは久保影尊からお茶をもらっていたので、今は多くのことを言うわけにはいかなかった。立ち上がって場の雰囲気を和らげようと、「各位師匠、どうぞ着席して。お酒を飲もう、飲もう」と口火を切った。
武田拳心は短気な性格だった。深呼吸をして突然目を見開き、鋭い声で久保影尊に迫った。「若造、若くして出世したから、俺たちの老廃物を眼中に置かないのか?最後に聞くが —— 青野蒼斗を死なせようとするのか?」
武田拳心の怒りに直面しても、久保影尊は表情を一つ変えず。「武田師匠は長辈ですから、僕は尊敬しています。でも師匠の話は、全然理解できません」
「よし、よし、よし!」武田拳心は言い切って、その場で立ち上がり帰ろうとした。
華老爺さんもこの時坐りきれなくなり、咳をしながら言った。「楊小総、話はゆっくりしゃべれば解るでしょう?この件は本当に話し合いの余地がないのか?」
久保影尊は華老爺さんが口を開いたのを見て、「老爺さんが命令されれば、僕は敢えて逆らうわけにはいかないです」と答えた。
華老爺さんはすぐにその言外の意味を悟った —— もし自分が無理やり怨みを解消させれば、久保影尊は自分に莫大な人情を返すことになる。が華老爺さんは武田拳心と深い付き合いがなく、青野蒼斗も知らない。世間の場で生きている人間として、無闇にこんな人情を受け取るわけにはいかない。
それで華老爺さんはすぐに引き下がった。「君たちのことは、老夫には分からないし口出しするわけにもいかない。ただ、皆さん心を静めて話し合い、あまり険悪にしないでほしい」
久保影尊もこれ以上阿呆を装うわけにはいかなくなり、武田拳心に向かって言った。「武田師匠、この件は師匠とは無関係ですが、師匠が今日出頭したことを尊重します。こうしましょう —— 華老爺さんと二位の長辈の面目を買って、一歩譲ります。師匠はあの青野さんに伝えてください。楊家マンションに来て僕に頭を下げて謝罪すれば、この件はこれで終わりにします。今後、少林寺在家門人は誰も彼に手を出さないことを保証します」
久保影尊は冗談を言っているわけではなかった。江湖では「面目」が命であり、武田拳心が出頭しただけで手を引けば、自分も少林寺の名前も丸裸になる。だが青野蒼斗が謝罪すれば、面目も取り戻せるし、「度量が大きい」とも評される —— 一挙両得だ。
「青野蒼斗にお茶を差し上げて謝罪させることはできますが、下跪まで?」武田拳心は低い声で言った。「それは難しいでしょう」
「これが僕の最後のラインです。応じないなら、話し合いの余地はない」久保影尊は淡々と言った。
武田拳心は久保影尊の決意を見抜き、一瞬考えた後に深く息を吸った。「分かりました。全力で説得してみます」
華老爺さんは双方が落ち着いたのを見て安堵し、再び「さあさあ、お酒を飲もう」と誘った。
午後には、橘柚緒が独りで青野蒼斗を訪ねてきた。彼女は白いワンピースを着て髪を下ろし、美しく淑やかだったが、青野蒼斗を見ると顔いっぱいに心配が浮かんだ。
橘柚緒はずっと自責していた —— 青野蒼斗に慰められても、この件の起因が自分にあると思っていた。だから会う間中、むしろ青野蒼斗が彼女を慰めていた。
青野蒼斗はにっこり笑って平気なふりをした。「柚緒姐、どのブランドの香水を使っているの?すごく香っていますよ」
橘柚緒は顔が少し赤くなったが、青野蒼斗が冗談を言う気持ちがあるのを見て少し安心した。「香水は使っていません」
「そんなはずがないですよ。いつも姐の体から香りがするのに」青野蒼斗は続けて言った。「もしかしたら生まれつきの体臭?」
橘柚緒の顔がさらに赤くなった。彼女は生まれつき体に香りがあり、武術を練習した後はさらに強くなる —— この香りは脇の下から発せられるプライベートな部位だから、青野蒼斗の話に照れてしまった。
「柚緒姐、これは僕の報いなのかな?」青野蒼斗はふざけ半分に言った。「神様が僕が馬鹿だから、姐を大切にしないので、こんな災難に遭わせたの?」
この男は橘柚緒に会うとついからかいたくなり、彼女の照れた姿を見ると抱きしめていじめたくなった。同時に思う —— 橘柚緒の前夫・佐伯劣はどうしてこんな良い女を大切にしなかったのか?
「そんな馬鹿なことを言わないで」橘柚緒は照れくさそうに言った。
青野蒼斗はふふっと笑って続けた。「柚緒姐、僕が出たら、前に終わらなかったことを続けられますか?」
橘柚緒は愣けた。「どんな終わらなかったこと?」
「いいえ、ないです、ないです」青野蒼斗はへへっと笑った。自分が口が悪いと思いながらも、拘留されて橘柚緒と距離ができたことで、つい無謀になってしまったのだ。
橘柚緒は突然、その晩のことを思い出した —— シャワーを浴びた後、青野蒼斗に献身しようとしたこと。黒田鉄蔵が邪魔しなかったら、今の関係はもっと照れ臭いものになっていた。そんな荒唐なことをした勇気がどこから来たのか、今でも不思議だし少し怖い。
が青野蒼斗がその事を冗談にするとは思わなかった。面皮の薄い彼女は立ち上がり、照れと怒りを混ぜた口調で「もう話し合う気がない」と言って帰ろうとした。
まさにこの時、警察署の通路から一群の人が入ってきた。花泽桃凛、白川霜雪、武田拳心、北条真緒、さらに霧島静だった。北条真緒は今、完全に青野蒼斗の味方になっているので、彼女たちに最大限の便宜を与えていた。
橘柚緒は急いで心を落ち着けて挨拶をし、众人も頷いて返礼した。その後、武田拳心は独りで取り調べ室で青野蒼斗と会った。
橘柚緒は外で花泽桃凛に心配そうに問った。「是不是事情有转机了?」
「外公が大阪市に行って、久保影尊に会いました」花泽桃凛は頷いた。
橘柚緒は大喜びした。「是不是你外公向久保影尊求情、久保影尊答应了不再追求青野蒼斗?」この間、青野蒼斗が刑務所に入るのをどんなに恐れていたか。
がその瞬間、取り調べ室の中からドンという大きな音がし、続いて青野蒼斗の獣のような怒りの叫び声が響いた。
「久保影尊この小僧が死ぬぞ!」青野蒼斗の声は怒りに震えていた。「下跪して謝罪?お前の祖母に跪くか?僕を怒らせたら、一蓮托生で全員を殺してやる!」
荒々しい怒りが女性たちの心を震撼させた。彼女たちが取り調べ室に行くと、戸が開かれて —— 青野蒼斗の両目が真っ赤になり、前の取り調べ台が一掌で粉々にされているのを見た。
惨憺たる光景だった。この瞬間、众人は青野蒼斗の「寧ろ折れても曲がらない」剛直さを感じた。普段はだらけた様子をしても、心の奥には絶対譲れない誇りがあったのだ。
事はこうなった以上、武田拳心も多くのことを言うわけにはいかなかった。心底では、むしろ青野蒼斗のこの血気を感心していた。
青野蒼斗が拘置室に戻された後、武田拳心は女性たちに打ち明けた。「今、久保影尊は青野蒼斗に下跪して謝罪することを要求しています。応じないと、绝对に手を引きません」
「でも青野蒼斗は绝对に謝罪しないでしょう?どうしたらいいんですか?」花泽桃凛は焦って言った。
武田拳心はため息をついた —— この時、彼にも良い方法はなかった。
「青野蒼斗を説得したいです」橘柚緒が突然北条真緒に話しかけた。「拘置室に入ってもいいですか?」これまで彼女と青野蒼斗はガラス越しで会うだけだった。
北条真緒は一瞬考えた後、許可した。彼女の心底では、青野蒼斗への敬服が深まっていた。「惹火了他就杀个干干净净」という言葉は乱暴だが、このような血気は今の男性には少ない。生活のプレッシャーで妻を風俗嬢にさせる男性もいる中、青野蒼斗のような男は珍しかった。
「こちらに来て」北条真緒は前で道を開いた。
橘柚緒は顔が赤くなりながら、さらに問った。「拘置室の監視カメラを切ってもいいですか?」




