久保の毒計に嵌る~青野拘留と救いの手
青野蒼斗は警察に反抗するわけにはいかなかった。なぜならここは国内で、法治を重んじる社会だからだ。
一旦反抗したら、自分の過去がきれいになくなり、白川霜雪をちゃんと守れなくなる。
すぐに、青野は警察車に乗せられた。
警察車の中で、北条真緒は助手席に座り、青野のそばには 2 人の警察官が付き添っていた。青野は一言も話さなかった。
「近藤狭香の死は事故なのか、それとも人に陥れられたのか」と考えていた。
本当に久保影尊が手を出したのか?
これが最も重要な点だった。
当時近藤狭香を殴打した時、青野は手加減はしたものの、度合いは強かったが、きっちりと分寸を守っていた。
なぜあの女は突然死んだの?
あまりに不思議だ。
「異常なことには必ず理由がある」
北条真緒の所属する警察署は南区警察署だった。
警察署に入ると、青野はすぐに小さな取り調べ室に連れて行かれた。この部屋には窓もなく、卓上ランプが刺すような白い光を放っていた。
北条真緒と 2 人の警察官は青野の向かい側に座った。
部屋の雰囲気は非常に抑圧的で、わざとこんな雰囲気を作っていた。
「名前は?」北条真緒が問った。
「知ってるでしょ?青野蒼斗」青野は鬱陶しそうに答えた。
そばの警察官がすぐに厳しい声で「聞かれたことを答えろ。余計なことは言うな。分かる?」
青野はふふっと笑って「分からなかったらどうする?」
警察官は一瞬呆れた —— こんな死にもの狂いのチンピラを相手にしたことがなかった。
青野はさらに挑発的に「俺を殴りたいんだろ?殴って。すぐに曝光するよ」
北条真緒が冷たく言う。「今後牢屋で余生を過ごすかどうか、考えた方がいい」
青野が言う。「牢屋は全然いい場所じゃない。余生を過ごすつもりはない」
北条真緒が言う。「君の意思ではどうにもならない」
青野はにっこり笑って「美女ちゃん、俺は绝対に牢屋で余生を過ごさないよ。なぜなら俺は殺人をしてないから。俺は度胸が小さくて、鶏を殺すのを見ても気绝するよ。こんな善良な民衆が、どうして殺人をするんだ?」
北条真緒たちは「度胸が小さい」と言う青野の話を聞いて、皆顔に妙な表情を浮かべた。正直に言って、北条真緒は多くの容疑者を相手にしたことがあるが、どんなに凶暴な容疑者でも取り調べ室に入れば羊のように従順になる。青野だけは、まるで「俺が一番偉い」というチンピラの態度を崩さなかった。
北条真緒は青野とくどくど話す気がなく、再び問った。「年齢?」
「24 歳」青野は今度はからかわなかった。
「民族?」
「性別?」
青野は顔色を変えて「男…… だと思うけど?」
北条真緒は録取をしていた —— これらは習慣的な質問だった。聞いた後にも妙な感じがして、すぐに「男」と書いた。
その後、北条真緒は青野に身分証明書など身上の証明書を提出させ、鍵つりも全部没収した。
これらを終えると、北条真緒が冷たく問った。「2 日前、つまり 6 月 18 日の午前 9 時、近藤狭香さんを非人道的に殴打しましたね?」
青野が言う。「殴ったけど、非人道的とは言えないだろ」
北条真緒が言う。「つまり認めるわけですね?」
青野が言う。「はい、殴ったことは認める。でも殺人したことは認めない」
北条真緒は録取を続けた。彼女の視線は冷たく、その後「近藤狭香さんは体調が一向に良かったのに、君に殴打された後から腎不全になり、今日の午前にやっと発症して死亡しました」と言った。
「彼女の腎不全は俺と無関係だ。俺は手加減の度合いをよく知っている」この瞬間、青野は心の中で完全に確信した —— この件は久保影尊と関係がある。
この久保影尊、本当に手口が毒辣だ。
「君が原因かどうかは、まだ調査が必要です」北条真緒が立ち上がって「今から君を一旦拘置所に収容します。証拠を集めて調査が終わったら、次の処置を決めます」と言って立ち上がり、退室する準備をした。
青野が突然「待って」と叫んだ。
北条真緒は振り返って「嗯?」
青野はにっこり笑って「美女ちゃん、君の様子を見ると、気品があるから家庭環境も普通じゃないんだろ?もっと良い発展ができるのに、なぜ基層で小隊長をしているの?」
「これは君には関係ないでしょ?」北条真緒は青野と話し続ける気がなかった。
青野が微微一笑んで「分かった。君はきっと正義心が強い人だね。悪を懲らし、善を奨励したい。警察官になるのが夢だったんだろ?」
北条真緒の眼中に驚きが浮かんだ —— まったく青野に言い当てられたのだ。彼女の父親は隣県の市委書記で、家は役人の家系だ。もしより良い発展をしたかったら、将来性のある役所で鍛えることもできた。が彼女はこれら全部好きではなかった。
彼女は正義感あふれる警察官になりたかった。
青野は人を見る目が非常に鋭かった。さらに「だから美女ちゃんは、俺のように女を殴る男を特別に嫌うんだろ?」
北条真緒の眼中に隠せない嫌悪感が浮かんで「そうだ!」
青野が言う。「でも君は、きっと善良な人を冤罪にしたりしないよね?」
北条真緒が言う。「もちろん」
青野はにっこり笑って「なら、近藤狭香がどんな人だったか、ちゃんと調べて欲しい」
北条真緒は青野を見て「君の意味は、近藤狭香が死ねる相応しい人だってこと?」少し間を置いて「たとえ彼女が死ねる相応しい人だったとしても、君に処刑する権利はない」
青野はふふっと笑って「興奮しないで。近藤狭香はもう死んでいるし、俺は死者の悪口を言うのは好きじゃない。調べて欲しいのは、俺が無茶苦茶になって彼女を殴ったわけじゃないことを証明したいから。それに、彼女が俺のせいで死んだのかどうか、すぐに明らかになると思う」
北条真緒は青野を深く見たが、他には何も言わなかった。その後、取り調べ室を退った。
青野はその後、直接拘置所に連れて行かれた。
一方、白川霜雪と花泽桃凛はすぐにこの事を知った。2 人は第一時間で南区警察署に向かい、青野に会うよう申し出たが、門前払いにされた。
仕方なく、白川は姨父に助けを求めた。彼女の姨父は役人で、今白川が頼みがあれば、当然応えるだろう。
そのため 30 分後、白川霜雪と花泽桃凛は念願叶って青野に会うことができた。
青野は手錠をかけられ、2 人の警察官に押送されて隔離室に来た。ガラス越しに 2 人の女性と会った。
2 人は青野のことを非常に心配していたが、特に花泽桃凛は焦っていた。
白川霜雪は比較的冷静で、低い声で「到底どうしたんだ?」と問った。
彼女と花泽は今もハンパない困惑だった —— ただ「青野が殺人をした」とだけ聞いていた。
青野は深呼吸をして「久保影尊が手を出した」と言った。
白川霜雪と花泽桃凛はたちまち顔が青ざめた。花泽が言う。「後ですぐ外公に連絡する」
青野は頷いた —— 他には何も言いたくなかった。言えば言うほど、2 人を心配させるだけだ。
白川が問う。「なぜ君が殺人犯だと言われるの?到底どういうことだ?」
青野はその日橘柚緒のために給料を取りに行ったことを話し、その後強調して「俺は绝对に近藤狭香に本気で手を出してない。俺は武術を習っているから、力の加減を完璧に把握している。でも彼らは近藤狭香の死因が腎不全だと言う —— これは明らかに高手が暗勁で傷つけたものだ」
「どうしたらいいんだ?」白川霜雪はこの話を聞いて、非常に心配した。
青野はにっこり笑って「心配しなくていい。雾岛静に会いたいんだ。彼女に連絡してくれ。彼女なら俺を助ける方法がある」
白川がすぐに「わかった」と答えた。
その後、2 人は青野と別れた。
もちろん、今回の会話の内容と画面は全部監視カメラに録画されていて、夜には北条真緒に見られることになる。
2 人は警察署を出ると、花泽桃凛はすぐに外公の武田拳心に電話をかけた。武田はこの事を聞いても驚いた。
「外公、青野蒼斗を救ってください!」花泽桃凛は目を紅くして言った。
武田拳心は電話の向こうで低い声で「俺たちも大阪に着いたばかりで、話も伝えた。でも久保影尊はたまたま外地にいるらしく、俺たちは彼が帰ってくるのを待っている」
花泽桃凛は愚かではなかった。「外公に会いたくないのはわざとでしょ?青野蒼斗を死に至らしめたいんだよね?」
武田拳心はため息をついた —— 久保影尊も一方の大物だ。彼が避けて会わないのだから、武田にもどうすることもできない。青野が死んだ後で会ったとしても、久保を責めることはできない。
考えてみれば、久保影尊の手口は本当に毒辣だ。
電話を切ると、花泽桃凛と白川霜雪はともに黙った。この社会の暗い側の残酷さを再び目の当たりにした —— これらの人は法律や社会、人の命を手の中で弄ぶことができる。
花泽桃凛が武田拳心に助けを求めても無駄だったので、すぐに白川霜雪と一緒に雾岛静を見に行った。
雾岛静の茶屋で、2 人は雾岛を見つけた。橘柚緒も当然いた —— 橘柚緒と雾岛は青野が警察署に捕まったことを聞いて、両方とも驚いた。特に橘柚绪は近藤狭香が死んだことを聞いて、顔が青ざめた。
この瞬間、彼女は雷に打たれたようだ。今回は青野が绝对に救いようがないと思った。
人が死んだんだ —— どんなに重大なことだ!
「しず姐、青野蒼斗は姐にしか救えないと言っていました」白川霜雪が低い声で「どうか助けてください。協力が必要なことがあれば、何でも言ってください」
雾岛静は苦笑いして「この件は明らかに久保影尊の布いた陣だ。久保影尊は青野蒼斗を死に至らしめる決心をしている。武田拳心長辈でさえ無力だから、俺にはどうすることもできない」白川たち 3 人はさらに落ち込んで悲しんだ。
雾岛静が続けて「俺には方法がなくても、青野蒼斗には方法がないというわけじゃない。彼が『俺に救える方法がある』と言ったのは、きっと俺に会いたいから、何か用事を頼みたいのだろう。じゃあ、まず青野に会いに行こう」
橘柚緒がすぐに「しずさん、俺も一緒に行きます」と言った。




