久保影尊の毒計～青野の看破と柚緒の新たな居場所
久保影尊は深呼吸をして言った。「君のことは全部知っている。勝手に行動して寺内堅心師侄を殺したことは、後で清算する」
黒田鉄蔵は恐れを隠せずに「師叔、間違いを認識しました。罰せられることは全部師叔の判断に従います」と答えた。
久保が言う。「最近は横須賀を離れるな」
黒田が問う。「でも賭けの約束は……？」
久保が言う。「賭けで君が横須賀を離れるって言っただろ？」
黒田は少し困惑しながらも「はい」と答えた。
久保が言う。「横須賀を離れなければ、もし青野蒼斗が君にトラブルを持ちかけて殴ったり傷つけたりしたら、それは彼が少林在家門人的尊厳を踏みにじることになる。俺たちはその理由で彼に手を出せる。同時に、君が賭けを破ったことで、罰として少林在家門人の団体から追放する」
「師叔、俺は……」黒田の心が凍りついた。久保の計略の毒辣さを理解した —— 江湖の人に文句を言わせず、青野を始末するという両方を満たす計画だが、その代わりに自分が犠牲になることだった。
久保が淡く冷たく言う。「後で楊グループに来い。一生困ることのない生活をさせる」
黒田は拒否できないことを知った —— さもなければ師叔の怒りに触れる。何より、この事件の責任の一部は自分が負わなければならない。
その場で黒田が言う。「はい、全部師叔の指示に従います」少し間を置いて「でももし青野蒼斗が俺に手を出さなかったら？あるいは直接殺してきたら？」
久保が言う。「朗朗乾坤（世の中は明るい）、生死状を結んでいないのに誰が殺人までする？」少し間を置いて「でも彼が手を出さなかったら困る。そうだ、君が主动的に挑発しろ。この件は長引かせられない。分かる？さもなければ少林在家門人的評判に悪影響がある」
黒田が言う。「はい、師叔」
電話を切ると、そばの藤堂美波が慌てて「どうしたの？」と問った。
黒田の眼中に光がきらめき、その後「楊師叔は青野蒼斗に大変怒っている。安心して、青野蒼斗は長くは生きられない。でも美波ちゃん、事が終わったら俺は横須賀を離れる。君はどうする？」と言った。
藤堂は顔色を変えた。ここ数年、彼女はまずサトウグループの佐藤慶介と関係を持ち、愛人として地位を上げた。ここ数年佐藤が彼女に興味を失うと、黒田についた。
佐藤はこの事に当然怒っていたが、黒田を敬遠して見て見ぬふりをしていた。黒田が「警備王」であることより、彼の背後にある少林在家門人的団体が恐ろしかった。横須賀の「竜王」でさえ黒田を怒らせないのはこの理由だ。
藤堂はこの 2 年間順調に出世したのは、黒田の庇護があったからだ。その欲がむき出しになって白川霜雪に手を出したが、今回は大けがをした。もし黒田が横須賀を離れれば、庇護を失った彼女は佐藤に許されないだろう。
「俺も一緒に行く」藤堂がすぐに言った。
黒田は少し感動して「よし」と答えた。
白川霜雪が退社すると、青野はシャリーで白川をヴィラまで送った。白川はこだわらずに車に乗り込んだ。が、柳風ヴィラ団地に着くと「月に 5000 円分のガソリン代を追加で支払うから」と言った。
青野が嬉しくて「それは助かる」と答えた。
白川がにっこり笑って「でも朝遅刻したら、全部なくなるよ」と言った。
青野はふふっと笑って「絶対遅刻しない」と答えた。
その後、青野は白川と別れ、橘柚緒を迎えに行った。
本来は橘柚緒を迎えに行かないことを思っていた —— 彼女との距離を置きたかったのだ。が、橘柚緒にバスに乗らせるのは忍びなくて、非常に矛盾した。
橘柚緒からも電話があり、雾岛静の茶屋で待っていると言った。「ゆっくり運転して、急がなくていい」と心配そうに言った。今の橘柚緒は優しくて賢い妻のように、何事にも青野のことを思っていた。
青野は心が鬼で人を殺すこともできるが、橘柚緒の優しさには抵抗できなかった。
雾岛の茶屋に着くと、雾岛もいることに気づいた。
雾岛が言う。「青野蒼斗、ちょっとお茶を飲んでから行け」
青野はにっこり笑って「今は夕食の時間だよ。お茶なんて飲むもんか！ごちそうして」と言った。
雾岛は白眼を翻して「俺がこの野郎に借りがあるのか？いつも便宜を図るだけ」と言った。
そばの橘柚緒は優しく青野を嗔って「みんなで食事に行きましょう。俺が奢る」と主动的に言った。
雾岛も笑って「冗談だよ。俺が奢る」と言った。
「そうだそうだ！」青野がすぐに言う。「しず姐は金が使い切れないから、俺たちが使ってあげるのは善行だよ」
雾岛が笑いながら罵った。「青野蒼斗、出ていけ！俺がどんなに悪い人だと思ってるの？」
青野はにこにこした。
とにかく、一同はすぐに向かいの良いレストランに入った。
青野は大きく肉を食べるのが好きだったので、ライオンヘッド、赤い肉を注文して、思い切り食べた。
橘柚緒は時折青野に料理を取り分け、水を注ぐなど、細やかに配慮していた。
この些細な温かみに、青野は感動していた。
途中で橘柚緒がトイレに行った。
雾岛がにっこり笑って「橘柚緒のことを結構気にかけてるみたいだね。彼女も君のことが好きだし、結婚する予定は？」と問った。
青野は頭が痛くなるように「俺が結婚に向いてると思う？」と反问した。
雾岛が笑って「本当のことを聞きたい？それとも嘘？」
青野が言う。「もちろん本当のことだ」
雾岛が言う。「本当のことを言うと、君は結婚に向いてない。君は生まれつき喧嘩好きで短気だ。結婚したら、橘柚緒に傷をつけるだけだ」
青野は鼻を掻いて「本当に率直だね」と言った。少し間を置いて「君の言う通りだ。結婚のことは一度も考えたことがない。独り暮らしが好きで、女と一夜を過ごしたらそれぞれ別れて、絆を残さないのが好きだ」
雾岛が言う。「君と俺は同じ類の人だ。俺たちは武道の更高い境界を求め、自分たちの彼岸を求めている」
青野が言う。「いいよ、こんな話はやめよう。一歩一歩進んでいけばいい」
雾岛もこの話を続けなかった。視線を変えて「黒田鉄蔵はまだ横須賀を離れていない。離れるつもりもないみたいだ。この件は明らかに少林在家門人的団体まで惊动した。黒田が残っているのは、上の人の指示だろう」
青野が言う。「黒田は勝手に残る勇気はない。もし上の人の指示だったら、少林在家門人的団体が俺に手を出し始めたということだ」
雾岛が言う。「そうだ。だから注意しなければならない。今のところ、この件は久保グループの久保影尊が引き継いだ可能性が高い。久保影尊は少林在家門人延輩の中で最も優れた弟子だ。下の多くの師弟は彼の指揮を受けている。この久保影尊は決して侮れない —— 久保グループの資産は今 50 億円以上あり、人脈も広い。でも更に重要なのは、彼の実力が非常に高いことだ。たぶん、彼は金丹の高手だ」
青野は顔色を変えて「こんなに恐ろしい？」と問った。
雾岛が言う。「これは俺の推測だ。詳しくは分からない。久保影尊の立場上、滅多に手を出さないだろう。彼は頭が良くて、手口も優れている」
青野は考えに耽った。
雾岛が続けて言う。「今久保影尊が直面している問題は二つだ。一つは、公然と君に手を出せないこと —— 道義に違反するから。二つは、君を生かしておけないこと —— 少林在家門人という金字招牌を踏みにじるから」
青野の頭の回転は速かった。「だからこの状況で、黒田鉄蔵が犠牲者になって膠着状態を打破する可能性が高い。黒田が俺を挑発して、俺に打ち負かされたら、久保影尊は黒田を少林から追放して、武術界の人に見せる。最後に久保影尊は『俺が少林を侮辱した』と言って俺に手を出す。これで両方の目的を達成できる」
雾岛の目が輝いて「確かにこの可能性が高い」と言った。
青野が言う。「それに、もし俺が単に黒田を傷つけたり追い払ったりしただけだったら、武術界の人に納得させることはできない。なぜなら黒田が主动的に挑発したのは明らかに黒田の間違いだ。が、もし黒田が死んだら？その時は誰でも黒田が俺に殺されたと思うだろう。久保影尊はその時、激怒して俺を殺すことができる。武術界の人も文句を言えない」
雾岛は暗暗に舌を巻いて「これは毒計だね」と言った。少し間を置いて「君は既に看破したから、どうやって解決する？」
青野は少しため息をついて「一歩一歩進んでいけばいい」と言った。
この時、橘柚緒が戻ってきた。二人はこれ以上話さなかった。
橘柚緒が来ると、雾岛が言う。「对了、今後橘柚緒のために運転手を配置するよ。いつも君が送迎する必要はない。それに、俺に空き家があるから、橘柚緒はそこに住んでいい。家賃はいらない」
橘柚緒は驚いて「これはどうしても……」と言った。
雾岛がにっこり笑って「大丈夫だ」
青野は雾岛が自分のために橘柚緒を保護しようとしていること、同時に自分と橘柚緒の恋愛問題を解決しようとしていることを知った。夜に橘柚緒のシャワーを盗み見るのは捨てがたかったが、本当のことが優先だ。その場で「ありがとう、しず姐」と言った。
雾岛が淡淡に笑って「どういたしまして」
橘柚緒は青野が決めたことを見て、これ以上反対しなかった。
その後、夕食が終わった。青野は橘柚緒を家に送った。
帰る途中で、橘柚緒は不安そうに「青野蒼斗、俺はそんな才能がないのに、しず姐の便宜を図るのは良いの？君と彼女は親しいことは知っているが、人情には限りがあるよ」少し間を置いて「実は普通の仕事をして、毎日君に送迎してもらい、安いアパートに住む方が心が落ち着くのだけど」
青野がにっこり笑って「柚緒姐、前にも言ったよ。君はとても優秀な人だ。一生懸命仕事をすれば大丈夫だ。俺としず姐は知り合ってまだ一週間も経ってない。確かに意気投合だが、その前提は彼女が俺が投資に値すると思っているからだ。それに、彼女は金がたくさんあるから、信頼できる人を見つけるのにこれだけの金を出すのは、彼女の方が得だ。これで決まりだよ？」
橘柚緒は深呼吸をして「わかった」と答えた。
