第2話 不規則ノイズの発生
村の中央広場――。
ティアレが到着したとき、そこには倒れた少女と、彼女に罵声を浴びせる数人の男たちがいた。
「こいつ、また精霊詩を詠んでいやがったんだ!」
「やっぱり呪われてる。魔族の目だ!」
男のひとりが、少女の顔を蹴ろうと足を振りかぶる。
その瞬間、ティアレの背のデバイスが光を放ち、警告音が鳴り響いた。
〈感情起因ノイズ検出。対象:ティアレ〉
〈観測機能に異常波形。再検証を要す〉
「やめてください」
ティアレの声は淡々としていた。けれど、広場の空気が一瞬で凍る。
彼女は村の人間ではない。見たこともない装備に、銀髪、無表情。
そして、赤紫の瞳が、不自然なほど静かに彼らを見ていた。
「これは、記録対象外の暴力です。正当性がありません」
「……なんだお前。兵隊か? 子どもが何の真似だ」
「私はノクシア。観測ユニット、ティアレ」
彼女は少女をかばうように前に出る。装備からは一切の武器が見えない。
だが、男たちは一歩退いた。
それは本能だった。人ではない“何か”を直感で感じ取ったから。
「この子は――魔族ではありません。記録します」
ティアレはゆっくりと、少女の肩に手を添えた。
目を見開いていた少女の唇が、かすかに震えた。
「……わたし……大丈夫……?」
ティアレは答えなかった。ただ、少しだけ視線を伏せて、少女の髪を整える。
「あなたの詩は、ノイズではありません」
そう言った声には、ほんのわずかに揺れがあった。