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第5話 命令:無効
部隊は去り、村に再び静寂が戻った。
アンジェは村の丘に立ち、風を感じていた。
「今日の命令は?」
レオンがそう尋ねる。
アンジェは答えず、空を見上げる。
通信端末はすでに沈黙していた。
――教団紫派の実験部隊は撤退を決めた。
この村の観察対象指定も、解除されたのだ。
「命令は――ない」
アンジェは、少しだけ笑った。
レオンがぽかんと口を開ける。
「じゃあ、これからどうするんだ? 何すればいいんだよ」
「不明。ただし、情報収集と仮説形成は継続可能」
「……なあ。今まで、お前を動かしてた“命令”ってやつさ」
「うん」
「もう、俺の言葉でもいいんじゃねぇか?」
レオンの目が真剣だった。
アンジェは少しだけ目を見開き――そして、ゆっくりと瞬きした。
「命令:受理。主語……レオン。内容、暫定的に有効」
その表情には、かつてなかった柔らかさが宿っていた。
銀の髪が揺れ、朝日が赤い瞳を照らす。
彼女の一日は、命令ではなく、自分の意思で始まる。
その朝が、生まれて初めてだった。