第4話 命令:応戦せよ
空が赤く染まった夕暮れ、村に警報が鳴った。
外縁部に設置された簡易探知機が、反応を示したのだ。
「何が来たんだ……?」
レオンが息を切らして丘へ駆け上がると、アンジェがすでに立っていた。
「接近中の集団、識別コード未登録。推定:盗賊、あるいは非正規兵。
命令内容:村の保護、および敵対対象への応戦を許可」
その声はいつものように冷静だった。だが、確かにどこか決意が宿っていた。
「戦えるのか……?」
「戦闘機能、起動済み。精霊詩構文《結界展開》――詠唱開始」
アンジェのレイピアが淡く発光する。
周囲の空気が震え、風が村を包むように渦巻いた。
「子どもたちは避難所へ! 年寄りは俺たちで誘導する! 急げ!」
レオンが叫ぶ。村人たちは混乱の中、必死に動いた。
そのとき、最初の矢が飛んできた。
――しかし、村の周囲にはすでに見えない壁が立っていた。
矢は空中で弾かれ、地面に落ちる。
「精霊魔法、第一層結界。物理攻撃、無効化完了。
次段階:排撃構文《雷撃展開》……」
詩のような呪文が、アンジェの口から紡がれていく。
雷光が奔り、闇に紛れた敵影を焼いた。
村に近づこうとした者たちは、次々に倒れ、やがて撤退していった。
しばらくして、全てが静かになった。
アンジェは結界を解き、レイピアを静かに納めた。
「防衛任務、完了」
彼女の背に、子どもたちが駆け寄る。
「お姉ちゃん、つよーい!」
その声に、アンジェはわずかに、口元をゆるめた。
レオンが遠くからそれを見ていた。
――命令ではなく、村の誰かの言葉に、初めて彼女が反応した瞬間だった。