第3話 命令:虚偽報告
夜、アンジェは村の外れに立っていた。
肩の大きく開いた戦闘服には、埃がついている。
昼間、村の子どもに土をかけられて笑われたせいだ。
「……通信開始。報告内容:外部接触なし、村落変化なし、戦闘兆候なし」
空に向かって淡々と告げる声。
本来なら、正確な行動記録を報告する義務があった。
けれど、アンジェはあえて虚偽の報告を選んだ。
そこにレオンが現れる。
「さっきの……“外部接触なし”ってのは、俺らのことか?」
「命令違反の可能性……検出。だが、優先事項:村落保全。
……報告内容は、現状維持を目的とした措置」
「……嘘をついたってことか?」
「虚偽、とは異なる。事実の一部を非開示とした。
選択肢の中で、最も……害が少ない対応」
レオンは呆れたように笑った。
「……よくもまぁ、そんな言い訳思いつくな」
アンジェは小さく頷いた。
「学習機能による模倣。村人の会話を参考にした。
君の“冗談”という行動にも、学習効果が認められる」
「それは……冗談じゃなかったかもな」
レオンはふと目をそらす。
星空の下で、銀髪が風にそよぐ音だけが響いた。
「報告、完了。命令の更新なし。
本個体は、引き続き同化行動を継続する」
アンジェはそう言って、ゆっくりと村へ戻っていった。
その背に、ほんのわずかに揺れる迷いを、レオンは確かに感じていた。